第10話 メグルと姉さんの誘い
「う、うう~ん…」
寝ている僕に誰かがじゃれてくる。
まだ眠いのに…。誰だろう。
僕は瞼を開く気になれず、押し付けられてくるモフモフをモフモフし返す。
これは?!分かる!分かるぞ!ここ数日間ブラッシングをしつつ、皆をもふりつくしたこのモフラーになら分かる!相手はセッタ姉さんだな!
瞼を開けばそこには予想通り、僕のおなかに顔を押し付ける姉さんがいた。
モフラーってなんだよ。と思いつつ、過去にも同じように動物を愛でていた自分がいたような気がした。
”記憶”の僕も動物好きだったという事か…。
それも動物としての好きよりも家族としての好きを感じる。
”記憶”の僕と共通点があると、その部分は変化しないような気がして、とても安心した気持ちになれた。
時折怖くなるのだ。あまりにも異なる”記憶”の僕が僕を侵食してしまうのではないか、僕が僕ではなくなってしまうのではないかと。
しかし、共通する部分であれば何があっても保たれるような気がして安心する。
ある日突然、セッタ姉さんたちが獣にしか見えなくなるのは…怖い。
それはそうと、セッタ姉さんはマロウさん以外にこのような事はしない。
一体どうしたのだろうか。
「どっ…」
どうしたんですか?と聞こうとしたら、尻尾を口に添えられた。
喋るなという事だろうか。
さらに深まる疑問の視線を姉さんに向けると、セッタ姉さんは僕のおなかにうずめていた顔を引き出し、そのまま口で軽く僕の服を引っ張った。
付いてきて欲しいのかな?
そう思ったが、マロウさんの抱擁が…とてもじゃないが抜けられる気がしない。
僕を抱え込んで幸せそうに眠っているマロウさん。
僕はそれを困った視線で見つめると、セッタ姉さんは呆れたような表情で尻尾を持ち上げ、マロウさんの顔の上に下した。
柔らかくて、モフモフした尻尾が、優しくマロウさんの顔を包み込む。
しかし、下敷きになれば、その質量はえげつない。
それが顔に沿ってフィットする訳だから…。
マロウさんの顔を完全に覆い隠したモフモフ。
それではマロウさんの息が…。
そう思った矢先、マロウさんの左腕が勢いよく振られる。
目に留まらぬ速さで振り下ろされたマロウさんの左腕は、洞窟を潰すのではないかと思うほどの衝撃をもたらした。
あまりの出来事に声も出なかったが、マロウさんは何事もなかったかのように寝ている。
「あ…」
いつの間にかほどかれていた拘束に、僕は這いずるようにしてマロウさんから離れる。
今の衝撃で腰が完全に抜けてしまったのだ。
マロウさんの睡眠は妨害しない。これだけは覚えておこう。
仕方ない、と言った風にセッタ姉さんは僕を咥えるとそのまま背中に乗せてくれた。
僕は恥ずかしくなり、極上のモフモフに顔をうずくめるが、今回も獣臭くて少し咽た。




