第一生:初めての異世界転生
異世界転生のラノベなんかだと、スライムとか、剣とか、割と人外に転生する。
が、種になってどうするというのか?
俺は、何故、種に転生したのだろうか?
もう少し別の何かがあっただろう…
自分で根を急速に出せるわけでも無いので、暇で仕方ない。
視界なんてものは当然無いから、真っ暗で、聴覚も、嗅覚も味覚も無い。
触覚に関しても、自分の体がどのような形かがわかるだけだ。
正直、本来なら気が狂っても当然だと思う。時間感覚もあやふやだしな。
で、いろいろ考えてるうちに、体が少し割れて、根が出てきた。
痛覚も無いから辛くはないが、なんとも不思議な気持ちだ…
大体、成長が早すぎやしないか?これが転生特典なら、喜んで受け取ろうじゃ無いか。
素早く成長するなら多少は暇じゃ無いかもしれないしな。
あと、意識することで根の生える方向、生え方をある程度操作できることがわかった。
そんなこんなで根を広げ、なんとなーく視覚が戻ってきた気がする今日この頃、である。
視覚というよりかは、周囲を感覚的にこう、感知っぽいことをしてる、らしい。
不思議な感じではあるが、まあ、芽を出せば周囲も見えそうだし、悪いことは無い。
問題は、結構近くにほかの植物の根があることだ。
ついに芽を出すことに成功した。
案外悪くない土壌、な気がしてたんだが、気のせいだったらしい。
かなり乾燥してて、周囲の植物も肌荒れしてそうだった。全体的に砂っぽい色合い。
感知…探知?しているときにも思ったが、俺はかなり小さかったらしい。
俺というか、俺の初期状態の種が小さかった。
まあ、初期の栄養源であるデンプンらしき養分は豊富だったので、そんなに苦労はしなかった。
水分は多少不安だが、この植物自体乾燥に強いんだろう。どうにかなる感がある。
芽も出て、周囲も見れて、遂に草生が始まった!
ような気がする。
雨が、降らなかった。
もう、水分も足りない。
周囲の先輩草達は皆枯れた。
根の力を失えば終わりだ。
乾燥で脆い地面と強風が死神に見える。
やっと葉を伸ばし始めたのに。
俺はもう、枯れてしまうのだろう。
死んで、しまうのだろう。
…何故、前世が人間だったことだけを記憶して、転生したのか。
…何故、こんなところに生まれ、死んでいくのか。
…何故、こんな、なにも無い草生を体験しなければならないのか。
……せめて。
………せめて、草として。
名前も知らない草としてでも、成功したかった。
前世の記憶にあるように逞しく育てれば理想だった。
死というのはなによりもあっけなく。
唐突で、心構えもできず。
抗えず、運命と思いたくなるほど無慈悲で。
意思とは真逆に進み、終わる。
そんなこともある。
ただ、俺はまだ希望を信じている。