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第01話 誓い

デモニオの王子、ネロ・ディ・デモニオは自国とルチェーニオの保有する、死の島バルタコルに降り立った。


「いつ来てもこの土地には慣れないな。地の臭いのする空気、リンクスの力で荒れ果てる大地に山。50年経ってやっと花や木々が育つとは、爺様とギルダの爺様はとんでもない置土産をしていったものだ。」


ネロの言葉に反応して、ネロの騎士(ナイト)シンカはネロの頬を軽く抓り口を開く。


「ネロ様、前皇帝陛下を王子自ら批判するとは口がすぎますぞ。ネロ様ももう17歳。いい加減口のきき方を覚えてもらわないと。」


シンカはニコッと笑顔で王子を叱る。


「シンカ。お前こそ、そろそろ俺の子守なんかやめて元の位に返り咲いたらいい。俺が生まれる前は父上の側近として無くてはならぬ男だったと聞くぞ。第一俺の子守なんかやっているから嫁の一人も取れぬではないか。それだけの経歴があり顔のいいお前なら誰でも喜んで嫁になると思うが?」


ネロは黒いミディアムヘアーをなびかせフンっと鼻で笑う。


漆黒のマントに銀の剣を飾り付け、我が道を行く王子にシンカは頭を掻きながら主君の一歩後ろ歩く。


シンカはどこから見ても好青年で背も高く、優しいお兄さんタイプで姫君から憧れの存在として見られていた。


特に茶髪のツンツン頭には皆の注目を集めていた。


「ネロ様。私はいつまでも貴方様にお仕えしますよ。しかし、私が貴方様の教育係と言う事もお忘れなく。あとフィアンセでしたら、もう居ますのでご心配なく。あとご自分の事を、俺と言うのもいいかげん止めてものですな。」


フィアンセという言葉に、目を丸くした王子は振り返りシンカの目をジッと見て言った。


「なんだと?貴様と四六時中一緒の俺が、生まれて一度も見た事のないのだぞ、いつその様な事をしていたのだ?・・・まあいい主として挨拶しない訳にもいかぬ。今度王宮に連れて参れ。あと俺は俺だ。この言い方は変えぬぞ。」


シンカは困った様子で言葉を「いや・・。」だの「その・・。」だの濁していた。


王子と言えどまだ17の青年は許嫁には目もくれず、近寄る姫君には数回懇談会をしては「タイプでは無い。」だの「可憐さに欠ける。」など言っては縁組を毎回の様に断っていた。


そんな王子は場の空気など読めるはずもなく、追及する。


「なんだ?言えぬのか?俺の聞いている質問に答えられぬというのか?」


主君の追及にますます困り果てるシンカ。


「ネロ。そこまでにしてあげな。シンカが困っているではないか。命を助けてもらうナイトを優しく見守るのも主君の務めだぞ。」


彼はそう言うと、乗ってきた白馬から降り、長い首をポンポン叩きながら馬を宥めた。


高貴な純白のマントに金髪を輝かせ、先のクネっと曲がった杖を背中に掛けた青年は現れた。


「ギルダ。久し振りだな。5歳から毎年ここで会ってるとはいえ、一度くらいデモニオに遊びに来たらいいのに。」


親しげに話すネロとギルダ。


この死の島バルタコルは彼らの祖父、漆黒の王と金色の王が戦い血を流し自らの命さえも落とした島。


今では二度と彼らの様な戦いをしない為にも、毎年1回各々の国から王の血筋を出し、バルタコルで友好を深めようと言う名目で城に泊まる儀式なのである。


そう。彼はルーチェニオの第1王子、ギルダ・ディ・ルーチェニオなのである。


5歳でルーチェニオから送り出されたギルダに対し、年の近い男と言う事でネロが送り出されたのだ。


一見とても友好関係にありそうな両国だが、ギルダには姉がいて、彼女が後の女王になる事が決まっているのである。


そこでデモニオは後に王となるネロを送り込んで、友好関係を強く思っているのはデモニオであると世界に知らしめる政治的戦略が絡んでいた。


それにはルーチェニオ王国も黙ってはいられなかった。


しかしネロとギルダはそこで意気投合してしまって、ルーチェニオはネロと友好関係にあるギルダを変える事も出来ず、他の国から王子を変えて友好関係に水を差したと言われない為にも、デモニオも大事な次期国王を変える事が出来ずに今に至る。


「行けたらとっくに行ってるさ。私の1番の友だしな。しかし平和などこの世には無い。全てはまやかしだ。両国共に互いを牽制している。私がデモニオに行ったら、まず捕虜扱いで政治の道具となるだろう。・・・。すまない。君の国を悪くは言いたくは無いのだが・・・。我が国も同じなのだがな。さあ城に行こう。食事の用意も先に滞在している者がしてくれている。」


ネロは少し俯いて目を閉じた後、ギルダを見て微笑んだ。


「だな。行こう。・・・って待った。騎士のシェールは?」


シェールとはギルダの騎士であり、幼い頃から毎年この儀式ではシンカと同じく2人の世話をしたり守ってたりするナイトである。


「ああ。シェールなら城にいるぞ。黙って出てきた。」


シンカは2人の話を黙って聞いていたが、この言葉に顔を青くし言葉も出ない。


「えーーーーー。黙ってって、シェールに黙って出てきたのか?シンカ大変だ。城がパニックになる。急ぐぞ。」


ギルダはニヒヒと笑い、シンカは血相をかいて2人の王子を連れて城へ走り出す・・・。


案の定城では人々がパニックになっていた。


「ギルダ様ーーーー。ギルダ様ーーーーー。どこにいらっしゃるのですか?」


と城のほぼ全ての人間が探し回り、皆仕事などしてはいなかった。


そこにはやたらと身長の大きく、筋肉が張り裂けるじゃないかと思うほどの大男が必死でギルダを探していた。


「心配症のシェールめ。置手紙をしておいたのに。しかも城から出てまだ20分も経って無いぞ。」


ギルダは恥ずかしそうにネロとシンカをチラチラ見ながら言った。


ネロとシンカはアハハと苦笑いをするしかなかった。


そうその大男がシェールなのである。


「シェール。私はここにいるぞ。大人しく待ってはられんのか?」


ギルダに気付きホッとした表情も束の間、彼は3人に向かって突進する。


猛スピードにも関わらずギルダの前でピタッと止まり少し潤んだ目で彼をみた。


「ギルダ様ご無事で何よりです。またネロ様とシンカ殿もお久しゅうございます。」


シェールは片膝をつき右手を左肩まで持っていき、筋肉男と心配症には似合わない挨拶をする。


「うん。久しいな。元気そうで何よりだ。」


「ネロ様とこうしてまた、ここに来れ貴方達に会えるというのは嬉しいものだな。」



ネロとシンカはギルダとシェールに会えた事を喜んでいた。


「さっ食事の用意が出来ています。中にお入りください。」


この地には、この惑星シリホルギニアには喜んでいる時間があまりにも少ない事を互いに知っているのに・・・。


彼らはひと時の再開を満喫していた。



__________________________________________________。



惑星シリホルギニアにも朝と夜は存在する。


その日の夜はそよ風が心地よく、いつもより夜が濃く、いつもより空から照らす光がまぶしかった。


ネロは自分の部屋を抜け出して、警備の兵に気付かれぬようにギルダの部屋を訪れてベランダで話をしていた。


「あーあー。今年もまたネロ様は部屋を抜け出されたんですな。」


警備の者も彼らには気付いていたが、毎年の事と言うことで気付かぬふりをしていた。


2人は1年間の溜まった話を楽しそうに話していた。


しかし突然ネロが切り出す。


「なあギルダ?平和ってなんだろう?」


差し込む光を見つめネロは悩んでいるようだった。


「わからないな。とりあえず戦争のない世界だろ?」


ギルダは複雑そうな顔で同じく空を眺めた。


「そっかー。戦争のない世界か・・・。そんな世界になるのかな?」


・・・・・・・。


「わからない。でも僕達がしなきゃならないと思う。」


・・・。


「だよな。それが俺たちの使命みたいなものだしな。みんなに争いのない世界で暮してもらいたいな。」


両国は今でも争いは絶えない。


「そうだな。まずは・・・。」


ミシッ


ギルダが話している時だった、どこからか物音が聞こえた。


「ギルダ危ない。」


その瞬間包丁くらいの長さの短剣がギルダに向かって飛んできた。とっさにネロはギルダにぶつかって行きそのまま倒れた。


その上を通過し壁に突き刺さる短剣。


「チッしくじったか。今度こそ殺してやるからな。待ってろ。」


何者かが彼らの聞こえない所でつぶやく。


近くにいた兵士が気付き大きな声を出す。


「侵入者だーーーー。ギルダ様を狙ったーーーー。捕まえろーーーーー。」


部屋にいたシンカとシェールは慌てて2人の元に駆けつけた。


「ギルダ様ご無事で?」


「ああ。ネロが守ってくれた。大丈夫だ。」


シェールは目の色を変え侵入者を追う。


「シンカここは任せましたよ。」


シンカは頷くと2人を安全なとこに避難させた。


「なあネロ。俺の国は今内乱が始まったんだ。国を守るため他国を制圧しようと言う過激派と、他の国との混乱を避け国の平和を望む保守派が3年に渡る話し合いでも話が付かずに・・・。


王家のほとんどが保守派を支持したものの、執権を務めていたバイエルが過激派支持にまわって王家と離別。独自の兵と過激派支持の国民を巻き込んでの内乱が始まったのさ。


今の侵入者も過激派の者だろう・・・。王子である私を暗殺しにきたのだろう。」


そうギルダは悔しそうに唇を噛み締め言う。


「そうか・・・。ルーチェニオで国が割れているのは前から知っていたが、内乱とは・・・。」


無言のシンカも同じく唇を仕舞い込み複雑な思いを噛みしめる。


ネロはギルダの手を取り語る。


「なあギルダ。僕達が作るんだ。僕達が国の未来を守るんだ。この世界に光をあてるんだ。だってそうだろ?僕達は王族なのだから・・・。平和を勝ち取るんだ。僕達の手で・・・。」


ギルダはネロの真っ直ぐな瞳に頷き1粒の涙を流した。


「約束だ。」


「ああ。約束する。」


2人は小指と小指を重ね互いの手に額を付けて、王族の古くからの誓い儀式である、破らないと言う意味の誓いをたてた。


それは彼らが望むと望まざるとに関わらず訪れる争いの前では、ちっぽけな物と互いに知りながら・・・。





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