幼女ことこのロリ魔王
今回はまったり回。
俺は高校二年の一般男子・新藤晴一。
魔王討伐の為に召喚され、聖霊の力を持ったエリスと共に魔王を倒した。
そしてその功績を認められ、
エリスと言う太もももとい彼女(?)を手に入れた。
んでその功績に胡坐をかいて俺はグータラ生活を満喫中だ。
そして目の前には俺と同じく怠惰を満喫中の国王が向い合せに座り、
贅沢を蓄えた腹をさする。
……このおっさん、まーた人の部屋に勝手に入ってきやがって。
エリスの椅子2代目壊れるから座らないで欲しいんですケド。
同じの見付けるの大変なんすよ?
「あのさー勇者ぁ」
「却下」
「えー早くなーい? ワシまだ何にも言ってないんじゃけどぉ?」
「まーたどっかの魔王倒してきてとか言うんだろ!?」
俺は即答で断る。
この流れは毎度の魔王倒してきてと言う面倒な流れだ。
「うん、だからお願いねー」
「俺まだ何も言ってないんだケド! しかも断ったんですケド!」
「どーせなし崩しに行く事になるんじゃし、気にしたら負けじゃよー」
「行かねぇったら行かねぇ」
前回はエリスに被害が及んだから動いた。
しかし今回はそんな問題も起きていない。
動く理由が無いのだ。
それにそう簡単にOKしていてはダメ。
仮に受けるにしても駆け引きをしなければならない。
実績があるのにどうも俺は軽々しく見られている節がある。
俺と言う人間を高く売らねば……安く見られる今迄からサヨナラするのだ。
とは言っても魔王討伐のほとんどの功績者はエリスであるが。
「実はのー性別を変える魔法の情報入手してのう~。
でもこれって極秘だから話せないんじゃよねぇー。
エリスの為になるかなーって持ってきたんじゃけどなぁー。
勇者なら快く引き受けてくれると思ってたんじゃけど残念じゃなぁー」
「国王様。この新藤晴一、自分は勇者としての本領を果たしたいと思います!
その魔王討伐、是非俺にお任せ下さい!」
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「で、口車に乗せられたと? どこの勇者バーゲンセールかしらぁ~」
「うっせーな悪かったな!」
結局俺は国王の頼み事を引き受け、魔王を討伐すべく南の地へ渡った。
今回の件はエリスも大喜びで賛同してくれたので間違ってないハズ。
だからエリエットに勇者バーゲンセールなどと言われようと構わんのだ。
結果オーライなのだ。うん。
「で、何でお前まで付いて来たんだ」
「ちょっと~、私の魔法で移動しておいて今更ぁ?
まぁ私は勇者様の行先に興味があるだけよ~」
「行先?」
「この南の地は有名な温泉街なんですよ!」
会話に混じるエリスはぴょこんとウサギの様に跳ねて嬉しそうに。
ああ、だから嗅ぎ覚えのある硫黄っぽい匂いがこの街に漂ってるのか。
「この街には湯治に使われる温泉は勿論の事、美容に良い温泉もいっぱいで!
あとはあとは、温泉以外にもこの街でしか堪能出来ない銭湯もありまして!
バラ風呂、薬草風呂、豆乳風呂、ハチミツ風呂と色々あって、
ここに来たらお肌年齢が10歳は若返るって評判なんですよ♪」
「へぇ~。色々あるのな。エリス随分詳しいな」
「えへへ。昔から行きたかったので色々調べちゃいました!
一緒に色々な温泉とかいっぱい回りましょうねハルヒトさん♪」
「ああ、そうだな」
「あと……
自分の為に国王様の無茶なお願いを聞いてくれて、ありがとうございます」
そう言ってエリスは気恥ずかしそうにいくらか視線を逸らした。
今回の目的は魔王を倒すだけでは無い。
どうやら南の魔王は性別を変える魔法の事を知ってるらしく、その情報の入手。
エリスは心と見た目は女の子その物ではあるが性別は男だ。
その性別も女の子にしてあげたい一心から俺はこの依頼を受けた。
そしてその望みはエリスも同じで故にそれも相まっておおはしゃぎしている。
これはいつもみたいに魔王をさっさと見つけ出して情報入手してー、
サクっと討伐をしたら残りはエリスと一緒に温泉巡りって感じですかね?
やばい楽しみになってきた。
「わかるわぁ~。やっぱり肌は女の命よねぇ♪」
「ですよね! 楽しみです♪」
そんな中、賛同する淫乱ピンクなエリエットを前に俺は思ってしまう。
貴女は女をどうこう語る前にその布面積極小のエロゲな普段着をどうにかしろ。
「……やだぁー。
温泉って聞いて勇者様の目が凄くイヤラシイんですけどぉー?
あわよくば私達の裸を見ようと……キャーっ!」
「安心しろ。
女の裸興味ないランキングがあったらダントツの一位がお前だ」
「ちょっとぉ? ……それは流石にイラって来たと言うかぁ。
良い機会だわ。この男に女と言う物を何たるか教え込んであげ―――」
「うわぁああああ! また浴場にモンスターが湧いたぞぉ!」
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「ラストぉ!」
「ギャンッ!」
騒ぎを聞き付け、浴場に向かった俺は一瞬で狼モンスターを全て斬り伏せた。
レベル700超えした俺にとっては大抵のモンスターは恐るるに足らずだ。
しかしコイツら随分弱かった気がするのだが……勘違いか?
「キャー! 勇者さまぁあああ!」
「おうふ!?」
そんな事を思うも束の間、俺の視界は肌一色に阻まれる。
何ですか、この柔らかい物体は。
「勇者様ぁあん! あたし怖かったのぉ!」
「ちょ……私も私も! 助けてくれてありがとー!」
「ああん! わたしモンスターに傷付けられたの癒してぇ~」
「アラぁ~ちょっと私も混ぜてぇ~♪」
感触を確かめる間もなく黄色い声と共に新たな抱擁が俺を包む。
おっとぉ?
お嬢さん方、一糸纏わぬそんな御姿でくっ付いちゃっていいんですか?
正直、布面積の少ないスカートひらひらな女子は御遠慮したい。
恥じらいの無い女性はどうかと思うのだ。
しかし、しかしだ。
こうやって感触と温もりと言う物を付与されると何と悲しい事か話が変わる。
羞恥心も無く生まれたままの姿で抱き付かれていると言うのに、素晴らしい。
エリスの太ももも極上の物だ。
だが、女性が持つ特有の柔らかさはまた違った楽園へ俺を誘う。
エリスの太ももは俺にとっての桃源郷だ。
とすればこの感触はさながら天国と言った所であろうか?
ふむ。
俺も勇者として色々と苦労をしている。
ならばこの様な待遇も然るべき物であり、拒むのも―――
「あらぁ~ん。勇者様ったらあんな事言っておきながらやっぱりぃ?」
そんな肌色の楽園に淫乱ピンクの声が割り込み、我に返れば何とまぁ。
肌色パラダイスの中にエリエットさんの姿が。
「なっ!? エリエットてめぇ何混ざって……!」
「なーによ。さっきまでは嬉しそうな顔してたクセにぃ~♪」
やっちまった!
よりにもよってエリエットが混じってる中で何と言う失態を……。
俺は囲う女性達を振り払い、残った感触を一心不乱に振り払う。
そして冷静になった先でジト目のエリスの姿が映る。
「勇者様、自分は今から温泉楽しんで来ようと思うので、
勇者様はそのまま存分に楽しんでて下さーい♪ じゃあ」
エリスは俺にイイワケをさせる隙も与えずマジンガンで言葉を告げる。
そしてトドメにニッコリ笑うと足早にその場を去った……。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
それから俺達は宿を取り、長期滞在の手続きを終える。
エリスと言えば気付くと名湯巡りへ向かったままだ。
はい。
避けられてますね。
で、その事へ拍車をかけるかの様に―――
「また女湯にモンスターが出たぞぉ!」
「無力な女性を狙い、女湯へ執拗に出没するとはとは何と極悪非道か!
この勇者・新藤晴一がお前達の好きにはさせないぞ! 覚悟しろ!」
「キャー勇者様ステキー!」
「勇者サマかっこいいー!」
「勇者様結婚してぇー!!」
「きゃぁー勇者様ったらそんなに求めないでぇ~!」
「おいいいいエロエットてめぇ何でまた混じってんだよふざけんな!」
現れるモンスターを倒すべく駆け付ければ肌色の歓迎を毎度受ける。
そして肝心の魔王の情報を得る事も出来ず、
モンスター退治と肌色パラダイスの中で時間が過ぎて行った。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
―――そして数日が経った。
「何故だ……どんどんエリスに避けられてる気がするんですケド」
「本気で言ってるなら一回死んだ方が良いわよぉ?」
「流石にそれは酷くないっすかね!?」
連日に増してエリスとの距離がマッハでピンチです。
最近じゃ朝と夜にしか会っていません。
貰った言葉も「行ってきます」と「帰りました」のみ。
仲睦まじかった2人の関係は倦怠期を迎えた夫婦の様に氷河期突入中です。
「ん~♪ このお鍋おいしい~!」
折角こうやって高いお部屋を取り、高級料理を頼んでいると言うのに……
何が悲しくてこんな淫乱ピンクと2人きりで料理つっつかなきゃならんのだ。
「大体ねー、毎度の事女の子達に囲まれて鼻を伸ばしてるから悪いのよー?
『慎ましさの無い女は嫌いだー』
とか豪語しておいてあんなにデレデレしてたら、ねぇ?」
「……はい。何も言い返せません私が悪う御座いました。
てか、そんなアナタも結構ノリノリで人をからかってきますよね?
そう思うなら混じっておっぱい押し付けてくるのやめて貰えませんか?」
「だってぇ~勇者様ったら面白いんですものぉ♪
ウブなダーリンの事を思い出しちゃってついつい……」
「お前最悪だな!?
男いんならそう言うのやめろよこのエロエットっ!!」
人が困ってるのをわかっててからかってくるのでタチ悪いったらありゃしない。
つーか今日も何なのだよその格好は。
いっそ裸の方が清々しいわと思える程のきわどい格好してんじゃないよ!
色々はみ出て見えそうになってんじゃねぇかよ!
「とりあえずモンスター討伐は私が引き受けてあげるからぁ、
エリスをどこかの温泉にでも誘ってみたらどうかしら?」
エロエットさんは自前のたわわな実りを強調しながらそんな言葉を。
とても嬉しい提案ではあるがもう少し早く言ってくださいよ。
そうすりゃこんなこじれなかっただろうに。
……って流石にそれは身勝手な話か。うん。
「貴方たちはそこまで深い関係なのにはっきりしないのが問題かしらねぇ~。
そろそろキチンと気持ちを伝えた方が良いと思うわよぉ」
そうアドバイスを残し、エロエットさんは部屋を出る。
確かにそうだな。
頑張って誘ってみるか……。
そして次の日、エリスに一緒に温泉行こうと誘ったら丁重に断られました。
泣きたい。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
後日、エリエットのすすめで街外れの天然温泉に来てみた。
街道をそれた林をくぐった先にあり、人が全く居らず何とも物静かだ。
広さはどっかの大型プール並みで動物達も温泉に入っている。
天然の温泉なだけに動物達も利用してるって訳か。
地元の人間ですらほとんど知らないと言われている秘湯だけあるな。
ゆっくりするにはうってつけだ。うん。
湯に浸かれば体の芯にある疲れをほぐしてくれる。
最近の気疲れも一緒に沁み出てじんわりと温泉の中に溶けて行く。
「―――これがエリスと一緒だったら言う事無かったんだけどなぁ」
と、またもや上手く躱された事を思い返しては湯の中へ溶く。
エリエットにデスヨネーとか笑われたがそう思うなら無茶言うなと。
「ゆっくりしたら考えよ、うん」
俺は景色を堪能しながら何も考えずにゆったり浸かる。
ゆるやかに時間が過ぎる中、動物達が湯に入り、出て、また来て入る。
湯は熱すぎず、ぬるすぎずと言う絶妙な温度の為に長湯している事すら忘れる。
あーきもちいい。
もーこのまま全部湯に溶けちゃえばラクだろうに。
「エリエットさんのおすすめってここかぁ……うわ、すごくひろい」
俺は湯に浸かってどれだけ時間経ったかわからない。
湯の中に溶けた意識は響いた声で揺り起こされ、俺はおもむろに顔を動かす。
白湯気で霞む視界に影が映り、感嘆の声が静かに広がる。
雪白色のその人は確かめる様に足からちゃぷりと湯の中へ進むと立ち止まる。
「ハルヒト……さん……?」
その声に湯に溶けていた俺の意識は一気に引き戻される。
そして慌てて上がろうとするエリスの腕を気付けば掴んでいた。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
こぽん。
時折、底より浮き上がる泡が物静かな中でその経過を報せる。
……気まずい。
引き留めた結果、エリスは残ってくれた。
が、何と声をかけて良いかもわからず沈黙が続く。
間隔を空けて互いに座ったのは良いが顔も見れない。
互いに気まずさ故に湯の中で思わず体育座りですよ。
てかこんな時どうすれば……
何を話せばいいのだどうすりゃ良いんだ誰か助けてお願いプリーズ!
「―――ぬ、先客か。まぁこの際、贅沢は言わんでおこう」
そんな中、声と共に小さな影が温泉へ入ってくる。
湯気であまりよく見えないが口振りからして老人辺りが来たのだろう。
人影は俺達を避ける様に湯気の奥へ姿を消し、
遅れて広がる波紋が距離を取って浸かった事を知らせる。
どうやら気を使ってくれたみたいだな。
「地元の人かな?」
「……でしょうか」
何とか会話をと思い、言葉を発するが早くも会話終了。
反応くれたのにどう返したら良いかわからんぞ!
ぬーう。
―――もう良いや。
遠回しとか上手くやろうとするのは性に合わん。
変に上手くやろうとするからいかんのだ。
そのままの自分で行こう。
「あのさ、その、怒ってるよな色々」
「……」
やっと出た言葉は無言で返される。
返答に迷ってると言うよりあえて黙ってる様な雰囲気だ。
偉い人は言った。
『無言は肯定である』と。
判ってはいたが改めてそれを目の前にするとまたキツイな。
しかし事実は事実で受け止めにゃならん。
暫く沈黙が続くとまたポコポコと泡が音を立てる。
そしてこぽんと一際大きな泡が弾けるとエリスは僅かばかり湯から顔を出す。
「……はい。怒って、マス」
「ごめん」
「一緒に色々温泉とか銭湯回りたかったのに行けなくて」
「……うん」
「じ、自分が居るのに他の子に言い寄られて、デレデレしてたり……」
抱えた物を吐き出し、エリスはお湯の中に口まで浸かるとブクブク泡を立てる。
その姿は怒っていると言うより拗ねている子供の姿を思わせ、
俺はそんな素振りを前に身を寄せて距離を詰め、そっと頭へ手を触れる。
「ごめん」
「……ハルヒトさんの、ばか」
エリスは子供染みた言葉を口にし、頬を膨らませながら大きな泡を吐き出す。
顔の色も相まって、茹で上がったカニがブクブク泡を吹いてる様に見える。
俺はそれをなだめる様にそのまま頭を撫でるがエリスは一切抵抗しない。
良かった。
嫌がられたらどうしようかと思ったよ。
しかし避けられてたのは数日間だったのに長い間避けられてたみたいに思える。
……そう言えばこんな風に髪をまとめ上げてんの近くで見るの初めてだな。
そんな事を考えながら撫で続けているとエリスの顔がおずおずとこちらを向く。
「……自分も、色々とごめんなさい」
弱々しいエリスの言葉はいつもの物で、見せる表情も先程より柔らかに。
しかし気恥ずかしいのか視線を僅かばかりズラし、
湯の中の両足を隠す様にだき込む。
エリスさん、それすると猫背になってうなじが露わになってエロいよ。
「俺もバカだから後先考えずにすぐに調子付いたりしちゃって……」
「知ってます。……そして凄くエッチな人です」
「ハイ、ソウデスネ……」
うん、その通りですよ。
今だってそうですよ。
まとめ上げたその水色の髪の上で煌めく小さな玉になりたいとか、
こうやって話をしながらもエリスの首を伝う雫になりたいとか、
湯から僅かに覗く鎖骨のラインに触れたいとか、
「……ハルヒト、さん?」
―――僅かに濡れた唇にイタズラしたいとか。
俺は話をしながらそんな事ばっかり考えてて、
そんな事を思いながら触れてる様なヤツなんだ。
「俺はエロいからいっつもエロい事ばっか考えてる」
「……今も、ですよね」
「うん、今も」
俺は頭を撫でていた右手をおもむろに頬へ持って行き、雫を拭う様に触れる。
するとエリスは甘える様に両手で触れる。
見せる仕草は甘える猫まんまだ。
その傾けた首をゆっくり雫が伝っては、華奢なラインを今一度強調する。
僅かに動く中でちゃぷりと響く湯の音は高鳴る鼓動を更に煽り、
それは熱になって抑える衝動をあらぶらせる。
首のラインや肩の形から本能が『その造型は男だ』とアラームを鳴らす。
しかし見せる仕草や僅かながらに柔らかさを持つ体は少女の様で、
それを前に俺の中のオオカミさんは抑えていた自制を食い破る。
「知ってます」
何もかも赦す様な一言と共に柔らかく微笑むとエリスは瞳を細め、
じっと見つめてくる。
湯にのぼせて染まったとは違う赤色を頬に乗せ、それは何かを催促するかの様。
「自分はハルヒトさんのエリスですから……だから……その」
その続きを口にしようとして耳まで染まり、詰まる。
だが言わんとした事をわかった俺はエリスの言葉を確かめるべく、
顔を寄せる。
エリスはそれに応える様に少し顔を上げ、唇は言葉を紡ぐのを止める。
―――そしてそのままゆっくり抱き寄せ、言葉以外で互いを確かめるべく……。
「あっじゃああああああああああっ!? なんじゃこりゃああああああっ!!」
した所で唐突の絶叫に邪魔された。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「あぢゅい! あぢゅいのじゃああっ! 誰か、誰か水をぉおおお!?」
騒ぐ声へ駆け寄れば温泉の横で金髪幼女がゴロゴロとのた打ち回っていた。
もしかして湯が熱くて火傷したのか?
しかしここの湯ってそんなに熱くないと思うのだが……。
「ピュアクア!」
エリスが水魔法を唱え、幼女の身体を冷やす。
てか幼女のこの口調、さっき湯に入ってきた人か。
てっきり年寄りだと思ってたわ。
「……た、助かったのじゃ。もうダメかと思ったのじゃ礼を言うぞ」
「いえ、でもどうして火傷なんて……お湯に入りすぎたの?」
「違うのじゃ。
どう言う訳か湯に聖霊の力が溶け込んでてのう―――」
「エリス! 離れろっ!」
心配を向けるエリスを咄嗟に下がらせ、
俺は盾となると同時に剣を呼び出し構える。
「なっ、おんしら勇者と聖女……!?」
迂闊だった。
街で大した手掛かりが得られず、
魔王はどこかに行ったのではないかと僅かに考えていただけに油断した。
まさかこんな形で遭遇するとは……
いや、よくよく考えれば魔王はこうなるチャンスを狙っていた可能性もある。
街の浴場へ執拗にモンスターを送っていたのが魔王だとするのならば、
あれ自体が罠だった可能性もあるのだ。
俺達の力量を推し量る為にワザとその様な手段を取り、
データを取っていたとする可能性が高い。
その証拠に見ろ。
俺達を勇者と分かった途端、
湯に入っていた動物やモンスター達が全て魔王を庇う様に集まっている。
「なんと……なんたることじゃ……」
コイツの目的はわからないがここまで巧妙な手口は今までの魔王とは違う。
恐らく、幼い見た目も油断をさせる為に違いない。
「よくもわらわを数々の卑劣で悪質な罠に貶めたな!?
これが貴様ら勇者のする事かぁー!!」
俺の警戒を余所に魔王はガチ泣きした顔を上げると無謀にも突っ込んでくる。
その動きは今まで見た魔王達の物とは及びも付かない。
拍子抜けを喰らった俺はとりあえずのけん制に魔王の頭を軽く叩くと……
『殺す気かっ!』と大泣きされた。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「……で、本当にお前が魔王なワケ?」
「くどいのじゃ! 先程からそうだと言っておるであろう!」
エリエットに教えて貰った秘湯で思わぬ収穫(?)を獲た自分達は、
とりあえず魔王を連れて宿に戻った。
あの後一悶着あったが魔王を庇うモンスター全てが控え目に言ってザコだった。
お世辞にも戦闘と呼べるものでも無かったし、弱過ぎだろ。
コイツ自身もスゲー弱いし……なんだコレ?
「さっき俺らが罠にしかけたとか言ってたけど、
罠を仕掛けてたのはそっちじゃねーか。
街の浴場にモンスター放ってたのお前なんだろ?」
「あれは人間を追い払って1人ゆっくりと湯に入る為じゃ!
昔はあんなに穏やかだった温泉街が美容ブームなど訳の判らん物で荒らされ、
来る者来る者すべてマナーのなっておらん奴ばかり!
湯とは静けさと穏やかな時間の中で楽しむであろうぞ!
ひっそりと人に混じって温泉ライフを過ごしておったわらわの身にもなれ!」
うん、言わんとしてる事はわかるが魔王がひっそりすんなよ。
まぁマナーが悪いのは実際居たし、言わんとする事はわからんくもない。
同じくその言葉にエリスも苦笑しながら頬を掻く。
「騒ぎに耐え兼ね、放ったモンスターはいつの間にか悉く倒され、
渋々煩い中我慢して湯に入れば街の温泉、銭湯全てに聖霊が注がれておった。
最後の望みと地元の者ですら殆ど知らぬ秘湯に赴けばそこにも聖霊の罠……。
これが数々の卑劣で悪質な罠と言わずして何と言おうかっ!」
半泣きしながら魔王はそう訴えを見せる。
魔王の言葉を確かめるべくエリスを見れば顔を逸らされた。
……俺と喧嘩してる最中にエリスは街の温泉と銭湯を堪能しまくった。
結果、浸かった湯全てにエリスがふともものみに持つ聖霊が溶け込んだ。
で、魔王はそれを罠と勘違いして逃げる様に秘湯へ行った。
そこなら大丈夫と思ってたらそこにもエリスが居て、
また聖霊湯に入っちゃったと。
入ってすぐ影響が無かったのはあの時はまだ湯に力が広がって無かったからか。
で、時間をかけて溶け込んだ聖霊の力は最終的に湯全体に広がり、
事の顛末になったと……。
まぁ、偶然が偶然に重なった結果ってところか。
「その辺はお前を狙ったって話じゃない。
偶然が偶然に重なったと言うか、うん。それより……」
とりあえずその辺りの話はどうでも良い。
今回の魔王討伐に於ける目的は魔王を倒すだけじゃない。
「性別を変える事が出来る魔王の情報を知りたいんだが、何か知ってるか?」
俺は話をぶった切って魔王に問う。
ロリ魔王は俺の質問にきょとんとした顔をし、首を傾げる。
……もしかすればここで話がこじれ、戦闘になる可能性はある。
しかし先程、秘湯から離れる際に手拭へ湯を染み込ませて帰ってきた。
ばれないように腰に巻いてるせいで冷たいが。
何かあった際には手拭の湯を剣に付けて戦えばどうにか出来る筈だ。
エリスの願いを叶える為でもある。
ここは何が何でも情報を得てやる。
「何じゃそんな事を知りたいのか?
変化系の秘術と言えばワテ坊の十八番じゃな。
西の魔王と言えば通りが良いかのう?
男色趣味も相まって昔から有名な魔王の一人じゃと思うが……」
「そう、その変化系の秘術をだな
―――ちょっと待て今なんつった?」
「昔から有名……?」
「もっと前」
「男色趣味? 変化系の秘術? ワテ坊? 西の魔王?」
俺の問いに単語を今一度並べながら幼い外見の魔王は首を傾げる。
同じくエリスもその言葉を前に固まり、動かない。
そしてその単語は絶望を確かにするだけの物となり、俺はその場に崩れる。
「おいふざっけんなよワテ坊倒しちゃったってばぁあああああああああああ」
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「……で、そんなこんなで連れて帰ってきました」
「まじでぇー勇者色々スゴすぎヤバすぎじゃないー?
でも魔王お持ち帰りとかワシめっちゃ困るんじゃけどぉ~」
あの後、話し合った結果、魔王を王都に連れ帰った。
その場で倒す事も考えはしたが西の魔王の一件を前にそれはやめた。
もしかすれば何かしら役に立つ力、知識を持っている可能性も捨てきれない。
色々と被害を出しているなら問題だが、
街に現れたモンスターは人に危害を加える事を一切していなかった。
温泉や銭湯を独占したいならそうすれば手っ取り早いにも関わらず、
この魔王はそこまでしていない。
それもあって倒す事は思い留まった。
「おい何じゃこの樽人間は!
しかも喋りがわらわと似てキャラが被っておるぞ! 困るのじゃ!」
「樽人間って流石に酷過ぎじゃない~?
ワシ、そんなに腹出てないしぃキャラも被っておらんとおもうんじゃよぉ」
「おんしこの腹、この腹で樽ではないと申すかっ!」
「あぁんお腹タプタプはやめるのじゃぁ~
ワシには后妃と言う一生を添い遂げる相手がぁ~」
「あーっはっはっは! 凄いのう見てみぃこの腹! そーれそれ、そーれそれ!
段々楽しくなって来たのじゃ! そぉ~れそれそれぇ~!」
「そ、そこはらめなのじゃぁ~」
国王はデカ腹を好き放題に弄られまくり、魔王ははしゃぎまくる。
……どうみても祖父と孫にしか見えんのですがコレ。
「しかし勇者よぉ。
連れ帰ってきたのは良いがワシらは面倒見切れんしぃ~
おぬしが責任持って魔王を面倒見るのじゃよぉ?」
「おい国王、
『らめぇ』とか言ってた中で急にらしくもない真面目な話を振んな」
「酷くな~い?
それじゃいっつもワシは変な事ばっか言ってるみたいじゃぞぉ」
「よく言うわ……
とりあえず面倒に関しては俺も最初からそのつもりだ。
聖霊の力が効くのはわかってるし、一応対策もしてる」
「そうか~。じゃあ問題無いのう。
なら後はこやつの続柄をどうするかじゃのぉ~」
国王は腹を好き放題に叩かれ、体を揺らしながらそんな事を言ってくる。
……続柄?
「続柄って何だっけ」
「続柄、要するに血筋の話じゃのう~。
血縁者と言う形にしてしまえば管理責任も生まれて手間も省けるじゃろぉ?」
「おいおい。血縁者って魔王を妹にでもするのか?」
「勇者が兄者か。ふむ、この場合はもっとフランクにこう……」
「いやいや。
面倒見るって言ったけどなぜそうなる。
しかも魔王もマッハ受け入れてんじゃねぇよ流石にそこまでは―――」
「ゆーしゃおにーちゃん、だめなの?」
あどけない少女の様に瞳を潤ませ、上目遣いにそんな言葉を向けてくる。
それは道端に捨てられた仔犬が何かを訴えるよう。
「駄目です」
しかしそれは背後より殺気を放つ我が女神の無慈悲な言葉で即却下となる。
おい魔王、折角修復出来た物をまた破壊するような真似すんじゃねぇよマジ。
「妹は流石にダメじゃろぉ~。そこは娘じゃろぉ~?」
「そうだな確かにむす……いや待て色々おかしいだろ待てよマジ」
「そうなると勇者がパパさま、聖女の娘がわらわのママさまになるのかのう」
「だから受け入れマッハ過ぎんだよこのロリ魔王。俺を置き去りにすんな」
国王と魔王の言葉に付いて行けず、助けを求めるべくエリスへ顔を向ければ……
満更でも無い様子で頬を染めていた。
ぬぅ。
エリエットがこの場に居れば多少はストッパーが居たのだが、
報告とかでどっか行っちまってるしタイミング悪いわ。
「じゃ、じゃあそうなるとハルヒトさんが旦那さんで……
自分は奥さん、って事ですよね」
エリスはそんな事を小さく呟きながらはにかんで見せる。
そんな表情を見せられて困惑するもはたと気付いてしまう。
……俺はエリスを女の子にしてあげる事がこの子の為だと思っていた。
けど、そんな事をせずとも今すぐに受け入れる方法があるんじゃなかろうか。
気付けばその様な考えが頭を過っていた。
「じゃあママさま! ママさまよろしくなんじゃ!
わらわはアイサって言うのじゃよろしくなのじゃ!」
「はい、よろしくねアイサちゃん」
そして色々と話し合う間もなく、2人でそんなやり取りをすんなり終える。
結果、幼女ことこのロリ魔王は娘となり、俺達はその魔王の親となった。
エロエットさんまじやさc