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37、芽生えの予感

ロレインの手紙は…。

ティファニーとラファエルに波紋を広げたけた、少し時のたったいま…完全に吹っ切れた訳ではない。どこかに澱のように心の奥底に潜んでいて…。

その手紙を押しつけてしまった…そして、忘れる…忘れたように振る舞っていた。


ブロンテ家には親族の家族達が冬を過ごしに、寒くなる前のこの秋にやって来ていた。

広い邸内であるから、大人たちはそれぞれ思い思いに過ごしているが、まだ小さな子供達はそうもいかない。

これが…またやんちゃなのだ!


「うわっ!」

扉を開けるとドタドタと走り回る子供達がいたりする。

手摺を滑り降りたり、階段から飛び降りたり…。


その賑やかさは陰鬱な影を吹き飛ばしていく。

ティファニーはその明るさに思わず笑った。

「みんな元気よね」

「…元気だけが取り柄だな…ブロンテ家は代々子沢山が多いから、あいつらもどういう親族かわかるようなわからないような…」


「あ、ティファニー!ダンスの曲弾いて踊るから」

女の子…マリンがティファニーの手を引っ張る。

「みんなちゃんと真剣に踊るの?」

ティファニーがピアノを弾けるとわかると、子供達にティファニーは弾いてやっていた。すぐにふざけてしまう子供達はするする!と頷いている。


外は今日は雨で外では遊べないのだ。


「ラファエルもヴァイオリン弾いてね」

「…俺を巻き込むな」

「そろそろ慣れておいた方が、いいんじゃない?」

くすくすとティファニーは笑った。

「こいつらには毎年慣れてるけど?」


溜め息を吐くラファエルはそれでもギャラリーについてくる。

絵画が飾られ、客人とパーティなどでもてなすこの空間はピアノももちろん置いてある。


舞踊曲を弾いてみせると、子供達はそれぞれ覚えたてのステップをふんで楽しそうにしている。

しかし…何曲か弾いていると、

「ラファエル、もう飽きたよ。あれ教えて」

と男の子たちがまず音をあげる。

「あれってなんだよ」

彼らにしてみれば、年の近いラファエルは大人でもなく我が儘の言える兄のようである。


「これこれ」

と回し蹴りをしてみせる。

「部屋でやったら怒られる。晴れたら外で教えてやる」

ラファエルはうんざりと言うと、目についたらしいちょうど通りかかったウィルとスティーヴをあっという間に捕まえると、

「ウィルとスティーヴが遊んでくれるって」

と言うと、ひきつった顔をするウィルを置いて、ティファニーの手を掴んであっという間にその場から離れる。

「あいつらに捕まったらいつまでも放してもらえないからな」


ロングキャラリーから離れてホールの方に入ると、

「ラファエル、書斎に付き合え」

アルマンと親族の男性たちがラファエルを待ち構えていた。

「…子供の次は、こっちか…」

げんなりとした表情でラファエルはそこに付いていく。こちらはラファエルの大切な役目でもあるからか、文句も言わずにだ。


「ティファニーはこっちでお茶にしましょう」

リリアナがにこにこと呼び掛けて、回りには何人かの夫人を伴っている。一番大きな広間には温室の花が飾られていて、華やかな室内となっている。

リリアナの隣に座ると、夫人たちは楽しそうにお喋りを始める。

話が盛り上がりティファニーはそれを聞くともなしに過ごしていると、

「ねぇ、ティファニー」

ふいに話しかけられて、リリアナを見た

「そろそろ、お医者様に見てもらう?」


やっぱり気づいていたか、とティファニーは苦笑した。

「まだ、いいです。ラファエルに話してから…」

「そう?じゃあ、その時は私に教えてね」

にっこりと微笑みを向けられる。

「あら、あら…まぁ。そうなの?」

反対隣の親族の夫人が目を見開いて見てくる。

「まだ分かりません」

ティファニーは少し早口で夫人の口を閉ざそうとした。

「エリー、まだ秘密よ」

うふふとリリアナは言った。


こうして、しばらくラファエルは夫人たちにニマニマと見られてしまう事になったのだ。


「あのね、ラファエル」

「ん?」

ラファエルの部屋で、彼は机に向かって本を広げていた。

話しかけたものの、何と言おうか悩む。

「あの…来ないの」

「誰か来る予定だった?」

いきなりで、しかも抽象的過ぎたか…。

やはりきっぱり言うしかないか、と振り返ったラファエルを見た。

「来る予定…だったのはそう。うん…そのはっきり言っちゃうと…もしかするとできたかも知れないの。赤ちゃん」

一拍、おいてその言葉を噛み締めて

「え。そ、そうか、うん」

ラファエルは立ち上がると、

「こういう時…どうするんだ…」

動揺が隠しきれていないその様子にティファニーは少し笑った。

「お医者様にちゃんと見てもらおうかなと思ってるんだけど…」

「あ、そうだよな」

「うん」

「で、ティファニーは大丈夫なのか?体調とか…具合悪くなったりするんだよな?」

「今のところ…平気みたい」

「それなら、良かった」

「本当に…出来ていたら…嬉しい?ラファエル」

「当たり前だろ?嬉しいに決まってる」

そっと抱き寄せられてティファニーはその身を預け温かさを服越しに感じる。


動揺を見せたラファエルだけれど、その後は実に冷静に振る舞ってみせ、翌日ソールに医師を呼ばせたラファエルは、一緒にその医師から話を聞きわずかに嬉しそうに笑った。


「ゆっくり大事に過ごそう」

「聞いていたでしょ?普通で良いって」


食べられない物が出来たり、お腹が空くとムカムカしたり…。そんな事はあったけれどティファニーはまずまず元気に過ごしていた。


書斎に向かい、ラファエルがアルマンに話しかける

「父上、報告が…」

「ああ、ラファエル。おめでとう、大事にな」

ふっとラファエルに似た笑みを向けられる。どうやら、ソールからかリリアナからか聞いていたようであっさりと言われてしまう

「ちゃんと報告させてください」

「悪いな」

アルマンは大人のゆとりのある笑みを見せた。

「二人とも、まだ若いがしっかりな」


そうして、冬を領地でゆっくりと過ごし、そして新しい年になり領地を後にして王都へと向かう。

色々あったカントリーハウスを離れるのは少し寂しかった…そして半年間、離れていたその街は何故かとても懐かしく見えた。





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