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16、伯爵家の朝

眠りの浅かったティファニーは、まだ眠っているルナ達を起こさないようにそっと起き出した。


部屋のベルを鳴らすと、メイドがやって来る。

「早くからごめんなさい、着替えをしたいの」

「承知いたしました」

メイドは、ティファニーがアークウェイン邸にいたときに世話をしてくれていたダイナだった。

「ダイナ、今はこっちに?」

「私は元々こちらのメイドですから」

話ながらも手際よく朝のドレスを着せていってくれる。

「ダイナ、ラファエルはもう起きてる?」

「ラファエル様なら庭で弓を引いておられます」

「そう、ありがとう」

「さ、出来ましたよ」


まだ早朝のこの時間、まだ下働きのメイド達が掃除をしていてティファニーの姿にギョッとして、慌てて控えるように壁に踞っている。

「ごめんなさい、お仕事続けてね」

下働きのメイドたちは、上級メイドと違って、主人家族やその客人には姿を見せてはいけないのだ。けれど、ティファニーの方がこの場合礼に反している。


足早に邸から外に出る。ぐるりとブロンテ邸の庭を回っていくと、ラファエルが的に矢を放っている所を見つけた。


簡素なシャツとズボンという砕けた格好だが、真剣に鍛練している様子はそうして日々の努力を怠っていないと感じさせた。

ラファエルはすぐにティファニーに気づき振り返った。


「おはよう、早起きね」

ぐいっとシャツで汗を拭うと、

「寝てられないだろ」

「どうして?」

「どうして?ってティファニーだって寝れなかったんだろ?」

「そっか…」

「やってみる?」

ラファエルは弓をティファニーに向ける。

「当たるとスカッとする」

「うん」


ラファエルのサポート付きで、弓を初めて扱ってみる。ティファニーの背後から支えてくれるからドキドキもする。

放たれた弓は弧を描いて的の端に当たる。

「次、やってみて」

言われるままに一人で引いてみると、なんとか的には当たる。続けて何本か射ってみる。

「上手いよ」

「でも、もう腕が駄目」

普段使わない筋肉を使ったせいか、腕が痛くなる。

弓をラファエルに返すと、彼はティファニーとは段違いの速さで矢をつがえて立て続けに矢を射つ。

「凄いね!」

「ティファニーだって、ピアノ凄いでしょ。それと同じ」


水筒から水を飲むと、テーブルにティファニーを促して座る。

「まさか、父が反対するなんて思いもしてなくてさ…驚いてる」

「うん」

「けど…そこまで話が通じないとは思っていないし、必ず解ってもらう」

「…私ね…これまで、たくさん当たり前の事を諦めてきたの。だって…どうしようもないことでしょ?だけど…この事は、諦めない。だから、ラファエルが閣下を説得するのを待ってる」

テーブルの上でつないだ手を、ラファエルがキスをする。

その手にはラファエルからの指輪が嵌まっている。

「必ず約束する」

「私も、待ってるって約束する」


もし、ラファエルの父に許しがもらえなければあと2年は待たなくてはならない。21歳になれば自分の意思で結婚が出来る。

ティファニーも、ラファエルもだろうけれど出来るなら祝福を受けたいとそれは、確認しなくても共通の思いだとそう感じている。

「そろそろ戻ろうか」


「そうする」

「そういえば昨日は楽しめた?ルナのいうなんだったかな?ガールズパーティとかなんとか」

重くなりそうな空気を変えようと、どうやら話題を楽しいものを持ち出したようである。

「珍しくみんなお酒も飲んだし…会話も…際どい所にいったりいつものお茶会とか舞踏会でのおしゃべりと違って、楽しかった」

にこっとティファニーは笑いかけた。

「際どい、な…」

「気になる?」

「全然」

「うそ、すごーく気になってるでしょ?」

「…全然気にならない」

「ふぅーん。そうなんだ」


「それよりさ、ジョルダンはもうすぐ発つそうだ。連絡来たりした?」

「ううん、聞いてない。そうなんだ…」

色々とジョルダンが協力してくれたのに、お礼も言えないままである。

「手紙でも出そうかな…」

「ちょっと気にくわないけど、そうしたら?」

「気にくわないんだ?」

くすくすと笑うと、

「ジョルダンってこう、何もかも完璧だろ?」

ラファエルは少し悔しさが滲んでいる。


玄関ホールで、ラファエルは身支度をしにバスルームに向かうようだ。ティファニー客室に戻ると、アナベルがようやく起きたところで、ルナとアデリンとエーリアルはまだ眠っていた。

「おはよう、アナベル」

「ティファニー、早いのね」

「なんだか眠れなくって…」


結局、アナベルと二人で小広間で朝食をとり、ティファニーはピアノを借りることにした。習慣なので欠かしたくはないのだ。

「私も聞いてて良いかしら?」

「もちろん」


音楽室のピアノを借りると、ティファニーはピアノを練習する。

いつものように指ならしから。

指が動くようになったところで、この部屋にもあったピアノソナタの楽譜を選んだ。この曲はすべての楽章を弾くと、とても時間がかかるのだ。

「アナベルは、弾かなくていいの?」

「私はそこまで熱心じゃなくて」

アナベルはおっとりと微笑む。

「それより聴きたいわ」

「では、聞いてください」

とティファニーはお辞儀をした。

複雑な技巧がいるので、本気で弾かなければならないくらい難しい曲をティファニーは弾ききった。

「すごいのね、ティファニーったら。演奏家になれそう」

アナベルの素直な賛辞に嬉しくなった

「ありがとう、アナベル」


昼近くに起きてきたルナ達に挨拶だけして、ティファニーは迎えに来た馬車に乗って帰る。結局、アルマン・ブロンテ伯爵にはティファニーは会う事が出来なかった。


何も出来ないで、待つだけというのはなかなか忍耐がいりそうである。





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