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13、気が付けばそこに

《Lady Tiffany

昨日、アークウェイン邸を訪れたと聞いて、驚いたよ。俺の誘いは断っておいて、あげくに全く連絡も無いのにレオノーラには会いに行くんだね? Raphael》


お茶を飲みながら、この手紙を見つけたときには思わずティファニーはむせてしまった。


宛名のみの手紙だったので、何気なく開けるとラファエルからだったのである。

ラファエルらしく、ストレートな言い回しではないか。確かに、具合が悪くてしばらくは乗馬も出来ないから、またこちらから連絡をする。とデューイに代筆させていた。


昨日のレオノーラの手紙が少し冗談めかした雰囲気だったとすれば、こちらは怒りの気配が滲んでいる。


「…何度か…具合は大丈夫かと、お尋ねにもなっておられましたし、是非お返事を…」

デューイが昨日に引き続き、おそれながらと言ってくる。

「…わかったわ。これから書くわ」

ホッとしたような顔のデューイに、ティファニーは目を向けた。

「…ねぇ、デューイ。もしかして…向こうから何か言われてるの?」

「…いえ、ただ…私達使用人にも付き合いというものがございますから、ラファエル卿の従僕とは知人でもありますし、あちらも主人との関係もありますから」

「…なるほどね…」


貴族同士が交流があるように、彼ら使用人同士何らかの交流があるということか…。だから、その従僕の立場としては何とかティファニーにラファエルへの手紙を書いてほしい…という事なのか…


手紙の束をもって、自室に戻りまずは他の手紙の返事を書き終えて、ラファエルへの返事を書く事にする。


どうしようかと悩む…。


《Sir Raphael

連絡をしなくてごめんなさい。でも、会いづらい私の気持ちも分かって欲しいの。あの夜の事を忘れた訳ではないでしょう?今はまだ心乱れる日々なの

tiffany》


まだきちんと話したそうなラファエルを振り切るように、逃げたした、と…そんな自覚はある。デューイに頼んで出してもらった手紙に対する返事は、その日の夕方前にやってきた。


「…え、返事。もう来たの?」


《Tiffany

何をどうしたら、忘れられる訳がある?俺の話もろくに聞かずに逃げ出して、そのうえ具合が悪いの一点張りで避けられた。

心乱れる日々だって?心乱されてるのは俺の方だよ

Raphael》


《Raphael

話なんて、もう聞きたくなかったんだもの。そういう時もあるでしょう?話があるなら、次の手紙で書いてください。文字なら感情的にならずに読めるもの

tiffany》


ティファニーのその挑戦状のような手紙に対する反応が少しばかり怖くて、どぎまぎとさせられる。


「どうかなさいましたの?また食欲がありませんか?」

エマが心配そうに聞いてくる。

「…私ってつくづく駄目だなって…」

出してしまったものの、どうしてもっと可愛いげのある文面を書かなかったのかと…。後から後悔の念が押し寄せる。


「何が駄目なんです?」

「…何も良いところが見つからない…」

「はぁ…何を贅沢な…」

「贅沢…?」

「よろしいですか?はっきりと申し上げて、ティファニー様はとても、お可愛らしくて、華奢で儚げな見た目ですから、実物以上のちゃんとした令嬢に騙せてますし」

「騙せてるって何、騙したことなんて無いわよ」

「ピアノだって歌だってお上手ですし、そのお陰か、外国語もすぐに覚えられましたよね?」

「そう?」

「ティファニー様が駄目だとすれば、それは時々とても陰鬱な事ですわ」

「陰鬱ってエマ…」

「うじうじしないではっきりといつものように仰ればいいのですよ。簡単な事ですわ」


「エマ…何の事を言ってるの?」

「それはもちろん、ラファエル卿の事ですわ。言われずともわかりますそのくらい」

はぁーとティファニーは息を出した。

「あれだけ楽しそうに、苦手な乗馬をされにお出かけされるのも、ラファエル卿とだからでしょう?」

「もぅ、やだ…」

「やだ、じゃありませんよ。申し分ない好きなお相手がいるのですから、鬱に入ってる暇はありませんよ」

エマがびしりと言う。

「ティファニー様、ファイトです!」

バレバレだったのかぁ…と少しばかり恥ずかしくなる。


「明日、ティファニー様の方から訪問されてはどうですか?」

「え?無理よ…さっきの手紙に話があるなら、手紙で下さいって書いてしまったから」

「あら、まぁ…。それではどんな恋文が届くか、楽しみですわね」

ふふふっとエマが力の入った笑みを浮かべる。



こんこんとノックがして、クロエが入ってきた。

「ティファニー、具合はどうかしら?」

「ええ、大丈夫です。お義母さま」

いつものように、そっけない返答だ。

「そう、良かったわ」


思えば、クロエにもずっとこんな態度で申し分ない気もする。けれど、今更この取り繕ったような会話も、直せる気がしない。

「貴女は初めてだけれど、春には王宮の大舞踏会があるの。体調が戻ったのなら、出席出来るわね?」


「大舞踏会…」

「そうよ」

「わかりました…出席します」

「良かったわ」

クロエが微笑む。


「…」

それ以降、言葉が見つからず少しばかり気まずい。


「ティファニー…。うちは、今は本当に没落の心配はないから貴女は、貴女の好きな相手と結婚していいの」

クロエがポツリと言った。

「気にしてるといけないから、伝えておくわね…」

「お義母さま、それ…」

「確かに…昨年、デーヴィド卿からお話が来たときは、そうだったけれど…。アークウェイン伯爵が色々と援助して下さって、大丈夫になったから…」

「そうだったのですね…」

薄々は、そうなのじゃないかと思っていた。


「だから、ちゃんと返事はしなさいと言いたいの」

「なんのお話ですか?」

「ラファエル卿よ。何か言われてないの?」

「…言われたような…そうでないような…」

「なんなの?らしくないわね。いいご縁なのだから、きっちりと捕まえなさい」

クロエはさばさばと言うと、そのまま部屋を出ていった。


これは、クロエなりのティファニーへの気遣いなのだろう。

家を気にして、ラファエルを断ろうとしているように思ったのだろうか…。


気がつけば、皆がティファニーに優しい…。


誰も、ティファニー何て知らないし、気にもしていないと思っていたのに…くすぐったくなる。



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