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12-01 陽動への備え


 シュタインさんの父親は、俺達との話を終えると馬車に乗って帰って行った。元お姉さんの魔導士が是非ともモモちゃんに会いたくて同行してきたらしい。会議室を出ると、ギルドのホールで毛糸玉と格闘していたモモちゃんを見つけて飛んで行ったぞ。

 コーデリアさんから特徴を聞いていたのかもしれないな。お菓子の袋を貰って、モモちゃんが元気にお礼を言っていた。

 

 俺とナリスさんは会議室を出てきたけど、シュタインさんはギルド長と話があるらしい。長期休業の手続きでもするんだろうか?

 ホールにいたのはヒルダさんとファンドさんにモモちゃんだけだったから、ガドネンさん達は早速蒸留酒造りを始めたのかな?


「納得したってことかしら?」

「どうやらそのようです。すぐに帰ったということは、王都で準備を始めるんでしょう」

「だが、具体的にはどうするのだろう? アビニオンも面白いが、王都も面白くなりそうだ」


 ナリスさんがお茶のカップを運んできて、そんなことを呟いている。まったく、親の顔を見てみたい気もするな。


「たぶん、斥候を放って魔族の進路を確認するはずです。生憎とこの王国全体の姿が分かりませんが、シュバルツ・ボーエンの縁を伝うように西に向かうと思いますよ。今回の魔族の作戦は、王都への強襲でしょう。なるべく我らに発見されることを避けてますからね」


 北の洞窟に攻撃を加えたのは、陽動に違いない。今まで通りベルク村の北日本隊がいると思わせたいのだろう。

 北の洞窟は守りを固めているはずだから、2個中隊をその場に貼り付けることができる。その分、王都の守りがおろそかになるということになるな。

 それに、イデル湖の魔族も連動して動けば、さらに戦力を分散しなければならなくなる。となると王都の守りは1個大隊と貴族の私兵ということになるんだろうが、貴族達も、所領の守りに王都を後にするんじゃないかな。

 となれば、予備費力は近衛兵の1個中隊ということにもなりそうだ。

 何とかイデル湖周辺の対応は、王都の戦力を分散しないで済むようにしたいものだな。


 暖炉でパイプに火を点けると、そんなことを考え始めた。

 どう考えても戦力不足。かといって近隣王国からの援軍を迎えるのも問題がありそうだな。


「何を悩んでいる?」

 顔を上げると、いつの間にかシュタインさんが席についている。とりあえず親父殿への報告が終わったから晴れ晴れとした表情で、ワインを飲んでいるぞ。


「先ほどの騎士達ですが、かなり厳しい戦になるだろうと考えてました」

「そうなるだろうな。だが、俺達の問題はイデル湖だ」


 やはりシュタインさんの考えることは同じなようだ。


「ですよね……。イデル湖の東西に、1個中隊ずつ欲しいところです」

「それだが、傭兵団で何とかならないか? デミ・ドラゴンクラスならば王都から出せるだろう。オーガクラスと合わせて、1個小隊にはなるはずだ」

「対する東は俺達と、集まっても2、3の傭兵団ですよ」


「だが、イデル湖の東と西では出てきた魔族が少し異なるぞ。西にはグラッパーだが、東はギレミー止まりだ」

「サイクロプスを忘れてますよ。でも、そうですね……、俺達に協力してくれる傭兵団が10人以上いれば何とかなるかもしれません。それに魔族は陽動をするために出てくるようなものです」

「今の話はギルドに伝えるぞ。大きく傭兵団が動くことになる。食料と矢にボルトだ。ガドネンには夕食時に伝えよう」


 シュタインさんが席を立って、カウンターの奥に向かった。残った俺達は顔を見合わせて、とりあえずため息を吐く。

 さて、俺達のところに集まる傭兵団はどんな連中なんだろうな? 最低でもガトルクラスでなければ、返り討ちに会いそうだ。

 俺達が準備を整えベルク村を出発したのはそれから2日後のことだった。


 ベルク村からアーベルグ村までは4日の距離だ。途中に大きな森があるけど、特に何もなかったのが気になるな。やはり、魔族は何箇所かに集結しつつあるのだろう。

 春の訪れが近いせいか、森の木の芽もだいぶ膨らんでいる。焚き木を森でたっぷり集めたけど、長期にわたって監視を続けなければならないからこれでも足りなくなりそうだ。

 アーベルグの村で他の傭兵団を待つことになる。シュタインさんは3日待つと言ってたけど、来てくれる傭兵団があるかどうか。魔族の陽動対策だから、魔族と1当たりする事になってしまう。危険な場所には近づかないのが傭兵団の信条らしいからね。


「今日で2日目よ。他の傭兵団なんて来てくれるのかしら?」

「その時は我らで対処せねばなるまい。アーベルグに撤退しながら戦えば被害は少ないだろう」

 

 たぶん、撤退戦をすでに考えているんじゃないかな? ガドネンさんが武器屋で矢とボルトを昨日から作り続けている。大量の矢を降らせながら後退すれば幌馬車に近づけないと考えているに違いない。そうなると、俺も弓の方が良いのかもしれないな。


 パイプを咥えながらそんな事を考えていると、ギルドの扉が開いて見知った人達が入ってきた。


「やってきたぞ。今度は6人だ」


 俺達に向かって片手を振ったバルテスさんが、カウンターで手続きを始めた。他のメンバーは俺達の近くのテーブルに着く。


「ん? ハンド以外にもう一人おるのう」

「俺の弟だ。バーサスと言うんだが、可愛がってくれよ」


 と言っても、イノシシ族だから強面だ。よろしくと挨拶してくれたんだけど、モモちゃんは俺の傍にピシ! とくっついた。


「それでどうなんだ?」

 バルテスさんが俺の隣に腰を下ろして、シュタインさんに切り出した。

「何もないということは無さそうだ。アオイは魔族の陽動を気にしている。陽動がイデル湖の東西どちらで起こるか分らんし、同時ということもあり得る話だ」

 そんな話を面白そうに聞いているんだから困った人達だな。さて、明日までにもう少し集まってくれると助かるんだけどね。

 

 アーベルグ村で3日待ったが、集まった傭兵団は2つだけだった。

 バルテスさんの率いるレクタス傭兵団の6人。それと、ガトルクラスになったばかりというコーダー傭兵団はショットさんという若い人間族が率いた5人組だ。

 都合、21人になるけどガドネンさんの言うところでは、兵士1個小隊に匹敵するとの事だ。その違いは実戦経験の有無らしい。確かにいろんな獣や魔族と戦って来たと思う。

 幌馬車2台に荷馬車2台に分乗してアーベルグ村から西に向かって進む。前回俺達が監視した場所が丁度良いらしい。

 途中で昼食を取っても、日のある内に目的地に着くことができた。

 4台の馬車を使って囲みを作り、牛とダリムを中に入れる。馬車の側版を外して、車輪に立て掛けて結べば、囲みの中は比較的安心できる。

 そんな囲みの周囲に杭を打ってロープを2段に張った。更に西側には扇形に柵を追加する。

 チル達が近くの雑木を切って焚き木をたくさん作ってくれたから、しばらくは安心できそうだな。

 蒸留器を温める大きな鍋を使って3つの傭兵団の食事をまとめて作るようだ。専用のカマドはファンドさん達が集めて来た石を泥で固めて作っていた。

 焚き木がたくさんあるから、カマド以外に2つの焚き火を作って俺達は暖を取る。

 そんな焚き火の一つに、各傭兵団のリーダー達が集まっている。なぜか俺がいるのだが場違い感があるんだよな。


「すると、場合によってはグラッパーがあり得るってことか?」

「私には、リーガンでさえも厄介に思えますよ」

「まぁ、イデル湖の東西で俺達が遭遇したのはそんな魔族だ。グラッパーは西側だった。ここで一番厄介だったのはサイクロプスだったが、今ではそれほど恐ろしくも思えん」


 リーガンは地面に【メルト】をぶつけてホコリを相手に付ければ良いし、サイクロプスの弱点は顔になる。グラッパーは鎧をつぶすように武器をたたきつけるとシュタインさんがリーダー達に説明している。

 

「猫族の連中に見張りをして貰えば良いだろう。先に相手を見つければ、どうにかなるものだ」

 そんなことをバルテスさんが言ってるけど、俺達だって任せっきりではいけないと思うけどな。

 けれども、早く相手を見つければそれだけ対応がし易いことも確かだ。バルテスさんの言うことはそういうことなんだろう。


「で、あの酒は持ってきたんだろうな?」

「夕食が終われば以前と同じようにガドネンが振る舞ってくれるだろう。楽しみに待ってるんだな」


 シュタインさんの言葉にバルテスさんが嬉しそうに微笑んでるけど、もう一人のリーダーであるショットさんはキョトンとしている。まだ飲む機会がなかったんだろう。俺達の造った酒が広まるのにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 そんなショットさんだったが、蒸留酒を飲むと驚いた表情でお代わりをガドネンさんに強請っていた。ショットさんも飲める口だったようだな。


 初日はショットさんの傭兵団が焚き火の番をしてくれるそうだ。一晩ぐっすり眠れるのはありがたい。

 イデル湖の西はどうなってるかな? ここからでは見えないけど気になるな。


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