11-06 神の一撃
敵わないと思ったんだろうか、一当たりするとゴブリンが逃げていく。
「来るにゃ。お兄ちゃん、怖いのが来るにゃ!」
「だいじょうぶだ。俺の後ろにいるんだぞ!」
長剣を軽く降るって血糊を払い背中に戻したところで、クロスボウの弦を引いてボルトをセットする。ヤジリが異様に長いボルトだ。
シュタインさん達がモーニングスターを持って前に出た時には10体ほどの銀色に光るプレートアーマーを着たラプトルが次々と柵を飛び越えてきた。
そんな連中に狙いを付けてボルトを放つと、ボルトがプレートアーマーに突き立つ。信じられないような表情でそのボルトを見ていたが、その場に倒れ込んだ。
次のボルトをセットして群れに放つ。
シュタインさん達はグルグルと鉄球を振り回して相手に叩きつけている。
互いに絡まないようにしているから俺達の壁になってくれる。
3本目のボルトを放ったところで、俺の前のナリスさんを迂回するように1体のラプトルが走って来た。クロスボウを放り投げて長剣を抜き奴の突進に身構えた時、奴の顔に矢が当たった。
俺から目を離した隙を付いて奴に駆け寄ると、長剣を首に差し込む。捻じるようにして引き抜くと次のラプトルを待ち構える。
突然、目の前に長剣が現れる。剣筋を見際めて袈裟懸けに相手より秋に振り下ろすと、ドサリと倒れ込みリーガルが姿を現した。
「リーガルが来てるぞ!」
大声で仲間に告げる。俺が声を上げるよりも前にモモちゃんの放った矢が見えない相手に当たって矢だけが動き回っている。
あれなら、リーザさん達の格好の的になるな。
直ぐに、矢の周りにボルトが何本か突き立った。
ナリスさんの相手をしているラプトルの後ろに回ろうとすると、俺に釣られて頭が後ろに動いた。
その瞬間、奴の頭が吹き飛んだのはナリスさんのモーニングスターが振り下ろされたんだろう。
「頭が弱点だ! 身体より頭を狙え!!」
ナリスさんの声でシュタインさん達の攻撃が頭部に集中しているようだ。
ナリスさんが次のラプトルに狙いを点けたところで、先ほどと同じように後ろに回ろうとしたら、目の前にいきなり長剣が現れた。
片足を引いて半身を取るのが少しでも遅かったら俺の腹にズブリと長剣が突き刺さっただろう。
長剣をやり過ごしたところで、サバイバルナイフを横薙ぎにすると、なにも無い空間に見えた場所から鮮血が吹き出す。
相手が見えればこっちのものだ。長剣を袈裟がけにして斬り伏せたところで、ナリスさんの援護に入った。
劣勢のナリスさんだたが、相手をしているラプトルの背中にはよろいの合わせ目がある。素早く駈けよって、その合わせ目に長剣を突き刺すと、一瞬、ラプトルの動きが止まる。次の瞬間、ラプトルの横腹にモーニングスターが当たって倒れこんだ。
1対1では不利だけど、2人掛かりなら何とかなる相手だな。
息を整えていたその時、数体のラプトルが俺に向かって来た。素早くナリスさんが俺の前にやってきてモーニングスターをぐるぐると振り回す。
1体はナリスさんに狙いを付けたようだが、残りの連中は俺達の後ろに向かって言った。
【メル】で火炎弾を作り収束させて1体の背中に見舞う。だが、2体のラプトルは手に持った長剣を幌馬車の下に向かって突き入れた。ぶ厚い側版が簡単に貫かれている。
これは……。
唖然とした表情で見ていた俺の目の前で、側版が弾け飛んだ。その場にいた2体のラプトルも数mほど弾かれている。
火炎弾の炸裂とは異質な音に、戦闘が一時静かになった。誰もが幌馬車の下に置いた側版の弾け飛んだ場所を見ている。
そこから淡い光を放つ人物が現れる。ネコの頭を持った人物……、いや神の姿だった。
「我の憑依体を害する者は全て滅ぼす……」
ネコの口から出た言葉では無い。俺達の頭に直接響いてくる言葉だ。
バステト神が軽く左手を横に振るとラプトル達が苦悶の表情でその場に倒れる。
実にあっけないな。神の力とはそれほどのものなんだろうか?
「寄り代の相手にしては不甲斐ない。少しはマシにしようぞ!」
俺の傍に滑るように移動してきたかと思ったら、俺の頭に右手を乗せた。途端に俺の頭が真っ白になった……。
「お兄ちゃん……、お兄ちゃん……」
モモちゃんの声で目が覚める。いつの間にか焚き火近くに毛皮を敷いて寝かされていたようだ。
起きようとしたら、全身が痺れるような痛みが走る。確か、バステト神に頭を撫でられたんだよな……。
「そのままでいるが良い。俺達が見たのは、バステト神の右手がお前の頭に手をやった時、お前がまぶしい光に包まれ唖然と見守るだけだった。我に返った時には倒れたお前がいたのだ」
「バステト神は?」
「光が消えた時には消えていた。役目を終えたと判断したのだろう」
どうやら、皆は焚き火の傍に集まって勝利の酒を飲んでいるようだ。
だけどいやに口数が少ないんだよな。
「やはり報告することになるのか?」
「当たり前だ。魔族数十体を葬ったことは確かだ。神の手助けが合ったとはいえ、お前達でグラッパーを7体も倒している。父様が聞けばさぞ喜ぶだろう。私に手伝ってやれとは言っていたが、今回私は長剣を抜いてもおらぬ。それにナリスとアオイはまるでリーガルが見えているようだった。信じられぬ事だが確かにあの動きは見えなければできぬ」
「そこまでで止める事は出来ぬか? 姉様の心にしまう事は」
「私の役目は、見届け人。やはり報告せねばなるまい。王国には2人の王子がいる。丁度歳も似合いそうだ」
「それは止めた方が良いぞ」
ガドネンさんがコーデリアさんのカップに酒を注ぎながら呟いた。
「バステト神にモモが願った事はアオイと結ばれること。それは神との盟約になる。つまり……」
「そういう事か……。王国の滅亡に繋がりかねんということだな。それはきちんと伝えねばなるまい。となると、王都に招くことも問題がありそうだ。シュタイン、小さな村で静かに暮らせ。あまり行動範囲を広げぬようにせねばなるまい」
神の力はそれだけ偉大だと言う事になるんだろうか?
この依頼が終われば少し傭兵団を休止にしようと相談してたんだから都合の良い話ではあるな。
「ベルク村で養生をするつもりだ。ヒルダの養生ももちろんだが、ガドネンとアオイも手傷を負っている」
「グラッパーが20体だ。ドラゴンクラスでも死人が出るぞ。手傷で済んだことを誇るが良い。たとえ神の業が合ったとしても、その恩寵にあずかっているのはアビニオン傭兵団なのだからな」
俺って怪我してたのかな? 改めて体を動かそうとしたけど、やはりあちこちうずくようなしびれが残って動けなかった。
だけど、バステト神が出てくるまで俺は動き回っていたはずだ。となると、この異変は何なんだろう?
「信じるだろうか?」
「真実審判官が立ち会う事になるだろう。とはいえ、先ほどの話に戻るが王国としては手を出す事も出来ぬし、神官達も詣でることはせぬはずだ。神の前で自分の信仰心を試すなど愚の骨頂としか言えんからな」
「なら、今まで通り北街道の警備を引き受けながら暮らして行こう」
そんなシュタインさんの言葉にコーデリアさんが噴き出すように笑い出した。
「ハハハ……。それ程簡単ではないぞ。ギルドに圧力は掛かるだろう。容易い依頼は無くなるだろうし、ギルドのレベルも上がるはずだ」
「それって、少し問題じゃない! 難易度の高いものだけが回って来るの?」
「そうなるのう。でないと、誰もが高レベルの傭兵団を希望するからな。デミ・ドラゴンクラスならば王国に10個もいないだろう。次のドラゴン相手に運よく生き残れば、デミさえ消えそうじゃ」
パイプを使いながらしたり顔でガドネンさんが呟いている。
これまで以上に危険な依頼が舞い込んで来るって事になるのかな?
「だが、それを行う事でバステト神の機嫌を損なうようでは王国の危機に繋がる。今回以上の任務は回されないだろう。そんな事をギルドが図ろうとしたことが国王の耳に出も入ったならば極刑にもなりかねない。神の加護とはそういうものだ。逆らわず去るのを待つのが王国の最善策となるだろう」
「姉様には世話を掛ける」
シュタインさんの呟きに小さく微笑んでいたから、シュタインさんを小さい頃はずいぶんと世話をしたんじゃないかな。いつまでたってもそれは変わらないということだろう。
そんな話を聞いていると、だんだん空が明るくなってきた。
だいぶしびれも取れたみたいだから少しずつ身体を動かすのだが、まだ立ち上がる事まではできないみたいだ。
朝食も体を起こして取るとは、情けない姿になってしまった。
「食事が済んだところで、グラッパーのヨロイを剥ぐぞ。それに武器もだ。魔族の鍛えた品だからな。王都の武器屋でもこれ以上の品は無いはずだ。亡き骸は隅に退けておけばいい」
「ベルク村は直ぐに雪に包まれそうじゃ。じっと冬を過ごすのも良いじゃろう」
報酬が金貨2枚だったから冬越しの資金には十分ということだろう。それに蒸留酒を作って売ることだってできる。
翌年には酒造所の建設が始まるから、色んな道具を作るのにも都合が良さそうだ。
昼前に休憩所を発った俺達は、4日目にベルク村に到着した。
コーデリアさんの連れてきた兵士はずっとこの村で待っていたようだ。到着した翌日に村に立ち寄った荷馬車に同乗して帰って行ったが、お土産にシュタインさんが蒸留酒の大ビンを渡していたぞ。あれで賄賂になれば良いんだけど、トラ族の人達は見な正直だからなぁ。




