11-04 造成工事が始まってた
モモちゃんと一緒に酒造所の造成地に出掛けてみた。
大勢の人が働いていたけど、どうやら王都から来た職人さんと、村人が参加しているらしい。
取入れが終わった農家の人達かも知れない。この季節だから冬越しの費用が稼げるということで参加してるんだろうな。
「おう、兄ちゃん達も働くのかい? だったら、あそこのテントに行ってみるんだな。嬢ちゃんだって昼食の準備に雇って貰えるかも知れんぞ」
そんな言葉を掛けてきたのは赤銅色の顔をした人間族のおじさんだった。たぶん王都からやって来た職人なんだろう。俺達に声を掛けた後は、両手をメガホンみたいに口に当てて、仕事の指図をしている。
せっかくだからちょっと覗いてみるか。
モモちゃんを連れてテントに向かった。
テントと言っても前がガラ空きのイベント会場によくあるようなテントだ。大きなテーブルを置いて、広げた紙が飛ばないように石で押さえつけている。
数人の男が座っていたんだが、俺達が近付くと1人の男が立ち上がった。
「これはアオイ様じゃありませんか。どうです。早速始めましたよ」
「しばらくこの村で休養と言う事なんですが、だいじょうぶなんですか? こんなに大勢の人を使って」
俺に声を掛けたのは、エドガー商会のカイセルさんだった。俺達に椅子を運んでこさせると、直ぐにお茶を出してくれる。
モモちゃんはお茶と一緒に出て来たお菓子に目を輝かせてるぞ。カステラみたいに甘い匂いを立てているからだろう。
「アオイ様達が購入した土地の2倍を確保しました。これはエドガー商会から寄贈しますぞ。少し斜面になっておりますから西に石垣を作るつもりです。何か造成上で考慮すべき個所はありますか?」
「でしたら、倉庫に地下室を作ってください。酒を入れたタルを長期間保管して熟成します。それと、井戸は何とかなりませんか?」
俺の要請を笑ってきいているんだから、エドガー商会の財力は半端じゃないんだろうな。
「井戸は必要なさそうです。造成した時に水脈に当たりまして、ちょっとした噴水になってしまいました。20家族以上の生活用水として使用できますよ。それと私達が作ろうとしている酒蔵はワイン用を基本にしましたから、1階分の広さとほぼ等しい地下倉庫を考えております。そうですね……横幅50D(15m)奥行き70D(21m)の地下室を作るつもりです」
それだけで、大タル500個を越えるんじゃないか? とんでもない酒蔵になるな。
「製品用と原料用の2つの酒蔵。醸造所に事務所。住まいは2部屋ですが、5つ作ります。我等の商会から帳簿管理を行える者を派遣するのは全ての工事が終わり、アオイ様達に引き渡してから1か月後を考えております」
「そうなると我等も本腰を入れなければなりませんね。とはいえ、最初から大規模に作れるわけではありませんから、その辺りはこうりょしてください。可能な限りカイセルさんには渡すつもりですから」
「それを聞けば十分です。売れ残った品も私共が買い取ります。楽しみにしていてください。再来年の春には醸造所の煙突から煙りだすことができると思いますよ」
モモちゃんと帰ろうとしたら、大きな袋にお菓子を入れてモモちゃんに渡してくれた。モモちゃんが大喜びでお礼を言ってるけど、何となく外堀を埋められているような気がしないでもないな。
幌馬車の近くに作った小さな焚き火で門番さんとワインを飲んでるガドネンさんを見付けた。
焚き火の傍にモモちゃんと座ったら、直ぐにワインのカップが渡された。ちびちび飲んでいようか。まだ昼間なんだけどね。
「造成地はどうだ?」
「とりあえずは要望を伝えましたけど、かなり大きいですね。ですが、あれだけの人数で作業をしているんですから、引き渡しは意外と早いように思えます。そろそろ少し大きなものを作る必要がありそうです」
俺の言葉に初めは嬉しそうだったが、直ぐに真顔に代わって俺を見た。
「大きくするには問題があるぞ!」
「大型化する上での課題は色々と出てきます。ですが、少しずつ大きくすれば良いでしょう。先ずは一回り大きなもので……」
大型化できなければ小型をたくさんでも良いはずだ。効率は悪いけど確実性がある。
今蒸留を行っている銅製のフラスコだって、一度に10ℓが入るからな。一回り大きくするだけでも、処理量は2割以上増えるだろう。
「土台を見たが酒造所は大きいようだ。数個を据え付けられるぞ。う~む、新たに人を雇わねばならんな」
「当てはあるんですか?」
「そうじゃな……。チル達は使えるとしても、更に数人以上雇わねばなるまい。ワシの妻と息子夫婦を呼びことにするかのう」
それで数人と言ったところだな。始めるとなれば少なくとも10人以上欲しいところだ。
「シュタインに断っておこう。後は、ヒルダとナリスそれにファンドのところだが、ヒルダはエルフ族だから来てくれるかどうか……。ナリスとファンドの家系は軍人だからのう」
俺達全員が対応しないといけないのかもしれないな。
そうなると、アビニオン傭兵団がアビニオン酒造に名前が変わるんじゃないか?
戦闘を繰り返す日々よりは、安心できそうだ。
その夜、夕食が終わり皆でワインを飲んでると、シュタインさんが新たな依頼の話を始めた。
「アビニオンのクラスはオーガになった。アオイがクラスを上げてデミ・オーガになったのも喜ばしい限りだ。そんな俺達にギルド本部より名指しで依頼がやってきた。ラゲルの森の魔族の討伐で報酬は金貨2枚。一応、断ることは可能だが、その場合は傭兵ギルドカードを返上することになる」
「穏やかじゃないわね。でも、あの間道は閉鎖されたはずじゃなかったかしら?」
「2個分隊が全滅したそうだ。森の手前の休憩所で1個小隊が駐屯していたのだがな」
「サイクロプス?」
「いや、半数が逃げ帰ったらしいが、兵士達の話ではドラゴンが出たらしい」
「ハン! おおかたアルガード辺りではないのか? 兵士の武器で通用するとも思えんしのう」
「いや、話を聞く限りではグラッパーだ。俺達を潰すつもりらしい」
ヒルダさんが、バッグから取り出した図鑑を素早くめくっている。止まった箇所に描かれていたのは、サイクロプス程の背丈のある直立歩行をする恐竜の姿だ。
ラプトルとか言うんじゃないかな。群で狩りをするらしいから知能が高いということになるんだろう。
「武器は牙と足と言う事になるのかしら? このクラスなら火を噴くことは無さそうね」
「だが、人間族より素早いぞ。手には長剣を持ち、プレートアーマーを着ているはずだ」
ヒルダさんが図鑑をもう1枚めくると、勇ましいドラゴンが現れた。
プレートアーマーは西洋のヨロイのようにも見えるけど、上半身だけだな。鎖帷子が足の膝付近まで伸びている。シュタインさんは長剣と言ったけど、図鑑の姿は片手剣だ。もう片方には丸い盾を持っている。頭にはすっぽりと兜が乗っており、大きな口だけがヨロイからはみ出ている。
こんな奴を倒すのか? 無茶としか言いようがないな。
「短期間でクラスを上げたしわ寄せと言う事か。父様から圧力をかけて貰うのも手ではある」
「それは止めておいた方が良さそうだ。依頼を放棄して止めるのは他の傭兵団から嘲りを受けるだろうし、ナリスの父親は軍の要職にいる。アオイを引き抜かれそうだからな」
「ではどうするのじゃ?」
「受けるしかあるまい。その後長期の休業をギルドに届け出れば、アビニオン傭兵団の名は残るし、再び活動も可能だ」
「アビニオンの活動を表からしばらく消すということか? ふむ……、丁度良いのう。酒造所が再来年には完成出来そうじゃ。金貨2枚と、これまでのアビニオンの蓄えがあれば依頼をこなさずとも何とかなりそうじゃ。ヒルダの怪我はドルネア殿も知っておるのも都合が良い」
ヒルダさんの怪我が癒えるまでは、長期休業と言う事で済ませるって事かな。
さすがに、このままでは無理な依頼が次々と来そうだから一時中断とは言えないだろう。
だが、今は目の前の問題だ。武装したラプトルを狩らねばならない。
「グラッパーの数は分りませんか?」
「1団と言っていたが、兵士の話からすれば、1個分隊10体という事になるだろう。行動単位が分隊となれば最低でも2個分隊はやっていていると考えて良さそうだ」
「偵察のリーガンが1個分隊。雑用のゴブリンが1個小隊を別に考えねばなるまい」
大部隊じゃないか! それを軍でさえ逃げ帰った俺達に相手をさせるのか?
シュタインさんの言った磨り潰すの意味がようやく分ってきた。
「グラッパーの着るよろいは丈夫なんでしょうか?」
「アオイの長剣と根は同じだ。トラ族の振う長剣を持ってしても切り裂くことは至難のわざだ」
「分厚いよろいというわけではありませんよね?」
「粘り強いと言う感じだな。長剣を叩きこんでもへこむだけだ。肉厚はアオイの手甲が参考になるだろう」
「なら、良い武器があるんですが、問題はその武器を作れるか。それとシュタインさん達が使えるかという事になります」
何だと? という目で全員が俺に顔を向ける。
それほど消沈する話ではないと思うんだけどね。やはり武器の発達が少し歪になっているようだ。
「どういう事じゃ?」
「別に相手を切らずとも倒せれば良いんでしょう? 刃物では無く、ハンマーでたたけば良いんです。要するに打撃武器と言う事になるんですけど……」
テーブルにメモ用紙を広げて、特徴的な打撃武器の絵を描く。
ある意味、ガドネンさんの戦斧だって打撃武器の一種だと思っているけど、新たに描いたモーニングスター、バトルハンマー、メイス、フレイルを皆が食い入るようにして眺めている。




