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2-05 保護色の魔物

「【アクセル】!」

 背中でモモちゃんの声がした途端、左手の方向から小さな小鬼が槍を掲げて突進してくるのが見えた。

 馬車が止まって、各々が武器を取る。

 街道に下りてこちらに走ってくるゴブリンにボルトを放つと、直ぐに次のボルトをセットする。2射目は荷馬車の荷台から数mも離れていない。

 クロスボウを荷台に置いて、太い杖を持って街道に飛び降りる。ついでに近くのゴブリンを殴りつけた。俺を取り巻くゴブリンを頭の上で杖を振り回して牽制しながら、槍を突き出してくる奴の肩口を殴りつけた。

そんなゴブリンにリーザさんの矢が突き刺さる。2度ほど火炎弾が俺の後ろで爆ぜたようだ。

 俺を突き刺そうとするゴブリンをモモちゃんがやっつけてくれたんだろう。なるべく動きながら周囲を見渡すように杖を振り回す。

 何匹目かのゴブリンの横腹をぶっ叩いた時、ワァ~と金切り声を上げて森の中に逃げ出して行った。


 リーザさんとモモちゃんが周囲を監視する中、急いでボルトと矢を回収する。適当に草でヤジリの血糊を落して荷台に乗せると、リーザシャさんが水筒の水で軽く洗い流してくれた。

 そのままにしておくと錆びてしまうそうだ。


「どうだ、怪我は無いか?」

「こっちはだいじょうぶ。アオイは中々よ。モモちゃんも頑張ってくれたしね」

「何人か怪我をしたが、俺達もだいじょうぶだ。ヒルダが【サフロ】で手当てをしている。終わり次第出発するぞ!」

 

 シュタインさんが車列を確認していたようだ。

 程なく荷馬車が動き出した。

 まだ昼前だが、こんな襲撃が何度か起こるのだろうか? やはりモモちゃんの弓に期待したいところだ。

 だけど、超初心者用の弓だからな。あまり離れた敵には使えそうもない。


「20匹はいたみたいよ。半分はやっつけたわね」

「それで、ちょっと相談なんですけど。モモちゃんの弓は使い物になるんでしょうか?」

「さっきも使ってたわよ。中々の腕ね」


 リーザさんの答えに驚いて、俺の後ろで孫の手をクルクル回して遊んでいるモモちゃんを眺めてしまった。


「まだそれほど力は無いでしょうけど、【アクセル】が使えるなら、初心者用の弓は十分に使えるわ。まだちびっ子だけど、将来が楽しみな子よ」


 生後半年のはずなんだけど、どう見ても12、3歳にしか見えない。ちゃんと育って大人になるんだろうか? ちょっと心配だな。

 

「だいじょうぶにゃ。力はあるにゃ!」

 そんな事を言いながら両手で俺の杖をヨイショ! と持ち上げている。あの感じでは俺の片腕以下の腕力って感じだな。


 昼を過ぎても、荷馬車の列は森の街道をゆっくりと進む。

 俺達は、周囲に注意を払いながら、リーザさんに貰った干し肉をかじっている。

 結構歯ごたえがあって、もぐもぐと口を動かすから眠気が冷めるんだよね。

 ホイ! と、一掴み俺達に分けてくれたんだけど、一切れだけで十分な気がするな。残りはバンダナに包んでバッグに入れといた。


 もぐもぐとモモちゃんも頑張ってるんだけど、半分以上口から出てるぞ。


「かじってると眠気が覚めますね」

「荷台に乗ってる時には丁度良いの。全部食べないで、ナイフで削って食べるんだよ」

 

 俺達の食べ方を見て笑ってる。

 次からはそうするか。でも、一度かじり始めたからな……。


 森を抜けると、まだ夕暮れにはだいぶ間がありそうだ。そのまま進んで、最初の広場を持つ林に入って野宿の準備が始まる。

 どうにか干し肉をかじり終えたんだが、2時間以上掛かったんじゃないかな? ほとんど森を抜けるのと同時位に水筒の水で飲み込んだ感じだ。顎が痛くなってきた感じがする。


 街道の入り口近くに作った焚き火にポットが掛けられ、俺達は焚き火近くに集まった。


「ゴブリンの群れとしては標準的だな。だが近頃見られなかったのも確かだ」

 シュタインさんが、焚き火でパイプに火を点けながら話を続ける。

「オグルとゴブリンがさっきの森にいるとなれば、次の森はさらに面倒になるぞ」

「森の中で一泊じゃからな。裏は深い繁みだから心配はない。だが広場は面倒だ」


 野宿で作る焚き火は1つらしいが、次の森では2つ作るようだ。

 焚き火を、防御に使うと言う事なんだろうな。焚き木を丸めて転がしておけば、モモちゃんが隠れるのに丁度良いかもしれない。1個作っておこう。

 商隊の人達が作ったスープで炙ったパンを頂き、早めに横になる。数時間は眠れそうだな。


 深夜に、モモちゃんに起こして貰った。

 これから朝までが俺達の見張りの時間になる。濃いお茶を飲みながら俺達を襲うかも知れない連中の話をシュタインさんに聞いてみた。


「ゴブリンとオグルを考えてはいるのだが、場合によってはリーデルも考えねばなるまい」

「リーデルはトカゲのような奴じゃ。人間より少し動作が鈍いが力はある。片手剣と盾を持ち、鎖帷子を着こむ者までいると言う話じゃ」

 ガドネンさんが補足してくれた。

 俗にいうリザードマンという奴だな。武器までRPGの世界と同じらしい。

 となると、ヤジリを5寸クギにしといて良かったと思わざるを得ないな。


「やはり群れで来るんでしょうか?」

「奴らは魔族の軍隊組織の一端を任されているようだから、10体以上であれば傭兵団ではなく正規軍が対応する。だが、偵察部隊であれば、精々3体というところだろう。とはいえ、ゴブリンを従えているかもしれん。もし遭遇するなら、王都から正規軍が派遣されることになる」


 訓練された部隊って事なんだろうな。そうなると3体でも俺達には手強そうだ。


「だが、良い事もある。魔族がいれば獣は近付かん。ゴブリンがいればオグルはいないし、オグルがいればリーデルはいない」

「魔物も獣もいなければ、盗賊を考えなくてはならないわ」


 シュタインさんの話ではリーデルとゴブリンは一緒のケースもあるようだ。

 必ずしも1種類と思わないでおいた方が良さそうだな。


 東の空が白んで来たところで、商人達は起き出して朝食を作り出す。

 朝日が昇る前に朝食を終えて、俺達は荷馬車に乗り込んだ。今日は荒地の道を進むだけだからそれ程の脅威があるとは思えない。

 3人で交代しながら荷馬車の掛け布の上で仮眠を取る。

 もっとも、モモちゃんはずっと寝ているけどね。俺とリーザさんがいれば特に問題は無いだろう。いざとなれば2人を起こすだけだし……。


 昼食は、小さなパンにはさんだハムと水筒の水だけだったが、ゆっくりと休むよりは先を急ぎたいのだろう。

 どうにか今夜の宿になる広場に着いた時にはすっかり日が落ちていた。

 それでも途中のちょっとした休憩で拾った焚き木を使って焚き火を作り、簡単な食事を取る。

 あまり長期間こんな食事ばかりだと体に悪そうな気もするな。

 お茶と一緒に小さな干した果物が出たのだが、モモちゃんが顔をしかめてかじっている。2日に1度は食べるらしいのだが、アンズのような果物はかなり酸味が強い。俺も、モモちゃんみたく顔をしかめてしまう程だ。


 俺達の焚き火の番が回ってきた時、シュタインさんが武器を直ぐに使えるようにしとけと念を押した。

 やはり明日の森は手強いんだろうな。

 

 翌日。周囲がすっかり明るくなってから、商隊は森へと入って行った。

 今夜は森の中にある広場で野宿する予定だからなのだろう。日のある内に着くと教えてくれたから、俺達が前に通った森と比べて1.5倍程大きいということになるんだろうか? 


「この森は大きいけど、遠くまで見通せるの。見張りがし易いから私はこっちの方が良いんだけどね」


 確かに200mは見通せる。藪が少ないんだろうけど、それほど距離が無い森で何故にこんなに違いがあるのかが分らないな。ちょっとした土壌の違いなんだろうけどね。


「でも、太い木が多いでしょう? 大きな木の陰は要注意よ!」

「分かりました。人が隠れられる位が目安ですね」


 とは言っても、伏せているのと立っているのではだいぶ違いがあるぞ。

 とりあえず、太めの木を注意して眺めていれば良いだろう。

 モモちゃんはキョロキョロと周囲を見ているけど、何を見てるのか気になるところだ。

 俺達には見えないものが見えるんだろうか? 心なし、尻尾まで太くなっている気がする。

 

「モモちゃん。何かいるの?」

「いるような気がするにゃ……。でも見えないにゃ」

「魔物って事かしら? でも姿が見えないし……、っ! まさかリーガンって事じゃないでしょうね?」


 早口で俺達にリーガンと呼ばれる魔族の話をしてくれた。

 どうやら、カメレオンみたいなリザードマンらしい。戦闘にはあまり参加しないと言う事だが、彼等の情報を元に戦う者が別にいるって事だろう。

 シュタインさんが注意してくれたことが現実味を帯びてきたぞ。


 荷馬車の進みはゆっくりだ。なるべく牛を疲れさせないようにも思える。たまに休憩を取るのだが、ほんの10分にも満たない時間になる。

 そんな休みを利用して街道近くの雑木を切って焚き木の準備をする。

 

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