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10-02 到着したら、先ず一杯


 幌馬車1台に荷馬車が2台でベルク村を出る。

 幌馬車は、蒸留器を乗せた小型のもので、荷馬車は軍の兵員輸送用の頑丈なものだ。

 何もない荒れ地らしいから簡単な陣を作るための杭やロープも乗せられて、食料と水タルも乗っているからかなりの荷物になる。

 

「街道を進む内は問題なかろうが、荒れ地は降りて押さねばなるまい」

 ガドネンさんがパイプを楽しみながらそんな事を言っている。

 小さな幌馬車に乗れる人数は限られているから、チル達に俺達それとガドネンさんが幌馬車に乗って、他の5人はレクタス傭兵団と一緒に荷馬車に乗っている。

 いつも通りの殿だが、真ん中の荷馬車に乗っているのが兵士達とは情けなくなるな。


「まあ、そんな見方も出きるじゃろうが、傭兵達の方が強い事は確かじゃろうな。兵士の多くが徴用された連中だ。2年の軍役を終えれば半数が去っていくんじゃ」

「俺達の里からも兵士に成った連中がいるぞ。軍役を3回務めると、嫁さんが貰えると言っていた。俺も姉さんから誘われなかったら来年には応募するつもりだったんだ」


 チルの言葉にガドネンさんが笑っている。

「ネコ族は無駄遣いをせぬからのう。6年おれば大銀貨5枚は集まるじゃろう。確かに嫁を貰って農地を買えるか」

「お兄ちゃんはだいじょうぶにゃ?」


 モモちゃんの言葉に、ガドネンさんが腹を抱えて笑い出した。チル達も御者台で笑いを堪えているようだ。


「まぁ、モモが大きくなるころには何とかなるんじゃないか。上手い具合に、酒が高値で売れそうじゃ。他にこの酒を造れる者がいない以上、作れるだけ売れるからのう」

「なら良いにゃ」

 簡単に納得してるけど、どう納得したか知りたくなったぞ。

 

「これで、アオイも将来が決まって来たのう。ワシと一緒にのんびりと酒を造れば良い」

「それも選択肢の1つでしょうけど、出来れば平和な村で行いたいですね」

「その為に、今があるんじゃ。魔族を何とかせねば、安心して酒を造るどころではないからのう」


 今を生きることで将来があるって事か? より良い暮らしを望むのはどの世界でも変わりがないな。

 そのために日々の暮らしを前向きに送るのは共感が持てる。俺も、モモちゃんと一緒に上手くこの世界に溶け込めるように努力しなければならないな。


 夕暮れ前にアーベルグの村に着く。

 ギルドで休んでいる間に、リーザさんが宿を確保してきた。

 ヒルダさんはファンドさんを連れて雑貨屋に向かったのは、野菜や果物の確保って事なんだろう。10日は様子を見るとシュタインさんが言っていたからね。


 ギルドではシュタインさんが昨年レクタス傭兵団と別れた後の出来事を話している。デミ・オーガというクラスになった経緯をリーダーのバルテスさんが知りたかったようだ。

 何度か俺の名前が出てたけど、そのたびにレクタス傭兵団の連中が俺を見るんだよな。


 宿で1晩ゆっくり休むと、いよいよ問題の場所に向かう事になる。

 大きな袋に入れられたお弁当を荷馬車に積み込んで、俺達の幌馬車は南へと進んでいく。

 一里塚を3つほど過ぎたところで少し早めの昼食を取り、進路を西に変える。

 最初は草原だったが、段々と砂や砂利が混じった荒地になる。緑も少なく、雑木がたまに密集した土地だ。

 たまに大きな石が転がっているから、進む速度が遅くなるし、起伏が激しいので座っているとお尻が痛くなってしまう。

 2度目の休憩を取ってからは、歩くことにした。

 幌馬車の進みも俺達が歩く速さと大して変わらないし、皆が下りたことで少しは荷が軽くなったはずだ。


 何度かモモちゃんが転びそうになったので、俺のシャツをしっかりと握っている。夏だから日差しも強いし、歩き初めて最初の休憩で既に汗だくだ。

 それでも、次の休憩を取る時には遠くに川の流れが見えてきた。目的地に近付いたみたいだな。


 3分程歩いたところで、急に隊列が止まった。どうやら目的地に着いたようだな。

 前に行って様子を見ると、湖の一カ所が川に接触しているような姿が見える。川に向かって少し傾斜しているようだな。川から5mほど俺の立っている場所が高く感じる。水辺からおよそ300mほどの距離だ。少し近くに感じるけど、だいじょうぶなんだろうか? とはいえ、見張りをするには丁度良いところでではある。


「ヨォーッシ! ここに陣を作るぞ」

 シュタインさんの言葉に皆が一斉に作業に取り掛かる。

 荷馬車の上でレクタス傭兵団と十分に話し合ったんだろう。直ぐに荷馬車が三角形に組み合わされて、その中に牛とダリムが繋がれる。

その周囲に杭が打たれ、ロープで柵が作られる。柵は3重にも作られてるし、西と東に門まで作られている。


「これで足りますか!」

 兵士達が近くの灌木を切り倒して来た。太い部分を切り取って焚き木を作り、枝先はまとめて逆茂木にしている。逆茂木を門に並べれば簡単だが進入しずらい扉になる。

 野営用のテントは俺達の幌馬車の枠を使って大きなものを作った。幌馬車の中を使えばかなりゆったりと寝られるに違いない。


「もう少し集めてくれないか。焚き火の予備を作っておきたい」

 シュタインさんの言葉に兵士達が直ぐに荒地に向かって行った。

 

 夕暮れが近付く中で、大きめの石を積んだカマドを使ってヒルダさん達が数人掛かりで食事を作り始めた。

 たぶん簡単なスープに違いない。村で購入したお弁当が残っているからね。


 キニアスさんが連れてきた分隊は混成分隊だ。5人の槍兵と5人の弓兵で、弓兵は全員がネコ族だから、槍と弓の2人が俺達の陣を交替で見回ってくれている。夜間も任せられるらしいから、俺達にとってはありがたい話だ。

 すでにシュタインさん達はそれを知っていたのだろう。2つの傭兵団からだと言って6本もワインのビンを差し入れていた。


 食事が終わると、チル達は酒造りを始めたようだ。

 ガドネンさんはヒルダさんにクラッシュアイスを作って貰い、2度蒸留を行った酒の味を確かめるつもりのようだ。

 2つの傭兵団の飲める者を集めて、キニアスさんまで呼んだみたいだな。


「新たに作った酒じゃ。かなりキツイが試してくれ」

「おいおい、そんなに氷を入れて、小さなカップ1つなのか? いくら強いと言っても限度があるだろうに」

 レクタス傭兵団のハインドさんはイノシシ顔の偉丈夫だ。モモちゃんを見てニコリと笑ったら、モモちゃんが驚いて俺の背中に隠れる位の強面なんだけど、話を聞くとおとなしい人物に思えるんだよね。

「まあ、飲んでみるんだな。この酒は前にドルネア殿に渡した酒よりも上物だぞ」

シュタインさんがキニアスさんに教えてるけど、キニアスさんの表情は少し強張って見えるぞ。俺と同じであまり強い酒は飲めないようだ。


 ヒルダさんが皆にカップを配り終えたところで、俺達はカップを掲げて一口飲んだ。

 途端に、バルテスさんとハインドさんの表情が変わる。


「シュタイン。これを1本譲ってくれ!」

「俺もだ。金はあるぞ!」


 口々に言い合ってるけど、俺とキニアスさんはちびちびと味わうように飲んでいる。とんでもなく強いぞ。これはちょっとやりすぎたかな?


「残念じゃが、残っとるのは小ビンに1つじゃ。ワシが飲むから譲るわけにはいかん」

「しかし……。これを作ったというのが信じられん。王都で売りだしたら一財産だろうが?」

「確かに良い酒だ。だが、少し棘があるな?」

「わかるか? それが直ぐに売れぬ理由じゃよ。1年ゆっくりと熟成して飲もう思うておる」


 作ったばかりだからね。熟成して初めてブランディーになるんじゃないかな? 

「どうしてもというなら、王都に大ビン3本を送ったぞ。商会がどうしてもと言うんで断り切れなかった」

「大びん3本だとしたら、ケンカ沙汰が起きるだろうな。商会は笑いが止まらんだろう。やはり、無理なのか?」

「ここで10日なら、大びん1本は分けても良いじゃろう。銀貨5枚じゃ。それと、この酒よりやや劣るんじゃが、それは我慢せい」


 ガドネンさんは商売上手だな。それでも俺達の収入が増えることを喜ぶべきなのかな。

 キニアスさんと青を見合わせて苦笑い。


「……アオイとナリスは本当にグロスターを斬ったのか?」

 いつの間にか話題が変わっている。水棲魔族の対策を話し合い始めたようだ。

「本当だ。だが、俺には無理だった。と言う事はバルテスにも無理だと思うぞ」

 信じられんと言う表情で俺とナリスさんをレクタス傭兵団とキニアスさんが見ているけど、この世界の長剣の使い方ではねぇ……。

「私も、以前なら無理だったろう。アオイの剣の使い方を見ている内にどうにか自分の物にした」

「となると見せて貰いたいものだな。この枝を切ってみてくれ」

 焚き木用に積み重ねた中から指2本分程の太さの枝を俺に突き出した。

「これですか? これならバルテスさんでも可能でしょうけど、一度だけですよ」


 念を押して、枝を受け取って焚き火の傍から腰を上げる。

 ナリスさんが2m程の枝の上部を持ってくれたので、背中の長剣を鞘ごと取り外して腰に差す。

 ゆっくりとナリスさんに近付き、素早く鞘から長剣を抜きながら斜めに振り下ろした。

 ポトリと枝の下側が落ちた。

 最初はニタニタしながらカップの酒を飲んでいた連中が、唖然とした表情で固まっている。

 そんな連中に頭を下げると長剣を鞘に戻して背中に背負った。



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