10-01 ギルドからの要請
ギルドの会議室でギルド長に依頼の報告を行う。
報告はシュタインさんがしてくれるから、俺とナリスさんはカウンターのお姉さんが持ってきてくれたお茶を飲みながら話を聞いている。
こんな夜遅くにお姉さんがギルドにいたことに驚いたけど、ギルドは年中無休で24時間営業ということなんだろうな。労働法に違反してるような気もするけど、異世界だからそれも問題ないんだろう。
「グレミーとはな……。火の鳥がいたんでは確かに閉鎖はせねばなるまい。良い間道であったのだが」
「問題は、グレミーの行動範囲だ。ロウソク1目盛分は水から出ていられるだろう。さらにイデル川とモンデール側もグレミーに押さえられるとかなり面倒な事になるぞ」
シュタインさんはテーブルに広げた地図を指差した。場所はアーベルグ村の西にある湖に流れ込む川と流れ出る川がある荒地だ。アーベルグの村から歩いて1日ほどの場所になる。
「ベルク村で待機して貰えぬか? 王都のギルドに報告することになっても調整で数日は掛かってしまう。ましてこのところの魔族の動きは王都も危惧しているからな」
「北の洞窟と似た洞窟をいくつか見付けたと聞いたが?」
「他の王国も慌てて探したと聞いてる。最大規模はベルク村の北にあるものだな。少しずつ潰しているらしいが、小さなものがどれだけあるかは誰にもわからん」
そんな中で、湖にも魔族世界との出入り口があるのが分れば、確かに一波乱起きそうなところだ。
「軍の余力は無いんじゃないか?」
シュタインさんの言葉に、ギルド長が力なく頷いている。
となると、調整に時間が掛かりそうだな。ベルク村で待つように言うのも何となく頷ける話だ。
翌日。俺達はベルク村へと向かう。生憎と荷役商人達の荷馬車はいないようだ。いつでも行き来してるわけでは無いんだけど、収入が無いのも問題だな。
チル達が頑張ってくれるから、別な収入があるのがせめてもの救いだ。あまり軍に係わっていると俺達以外の傭兵団は日干しになりかねないぞ。
「たぶん、他の傭兵団と一緒に見張ることになるんじゃないかしら? どれ位の収入になるかで参加する傭兵団のクラスが変わる事になるわ」
「最低でもガトルクラスが欲しいところよ。デミ・オーガとなると予算的に苦しいし、数も少ないわ」
そんな話をヒルダさんとリーザさんでしているのを、俺達は黙って聞いているだけだ。
暇にまかせてラビー狩りもしたんだけど、すでに夕食のスープ用はし止めてしまったからな。モモちゃんは俺の隣で寝息を立てている。
ビーゼント村を出て3日目にベルク村に到着した。
リーザさんは俺のし止めたラビーを下げて宿に向かったけど、手土産があるから優遇してくれるんじゃないかな?
ガドネンさんは幌馬車を北の広場に移動して行った。
少し長逗留する顔知れないとの事で、広場で蒸留酒作りを考えているみたいだ。
チル達は酒造りの要員だから、少し頑張って貰おう。
残った俺達はギルドに向かう。
ギルドの扉を開けると1組の傭兵達がテーブルで待機していた。
シュタインさんがカウンターのお姉さんと話をして奥の会議室に消えたので、俺達は隣のテーブルに着いて皆の帰りを待つことにする。
「俺達は王都から荷を運んで来たマクトス傭兵団だ。あんたらは?」
「アビニオン傭兵団よ。ラゲルの森に入口から戻ったところなの。あの間道は閉鎖されるみたいね。ナルス村からラケット村に新たな間道が作られるらしいわ」
「ほんとかよ! だが、あの間道で知り合いの傭兵団が2人程やられたらしい。グラスターは俺達にとって脅威だからな」
グラスターは確かに脅威だが、何とかなる相手ではある。となると、この連中はガトルクラス以下と言う事か?
「そうなると、ハーネル町からビーゼント村の間道が賑わいそうだ。次の荷がビーゼントまでだから丁度良い」
「ラケット村の周囲は警戒しといた方が良いわよ。ラゲルの森に近いから」
「そうだな。ありがとうよ」
ヒルダさんの忠告に、ぶっきらぼうな礼を言うと仲間達と相談を始めたようだ。最低限の礼儀を知っているなら問題ないけど、数人の傭兵だけでグロスターを相手にできるのだろうか? ちょっと心配になってくるな。
俺達の仲間は、最初に戻ってきたのはリーザさんだった。直ぐにガドネンさんがやって来たが、1人の所を見るとチル達を置いて来たようだ。
「あの2人には仕事があるからのう。次の依頼によってはここで仕事を継続して貰う事になりそうじゃ」
「連れ手こうよ。少しは役に立つでしょうし」
「でも、場合によっては幌馬車を置いて行くことになりそうよ」
荒地と言ってたからな。幌馬車で行くにはきついのかも知れない。
「頑丈に作ってあるから、少しぐらいの荒地なら問題は無いのじゃが……。シュタインの判断じゃな」
どこに行っても酒を蒸留することは可能だ。となれば連れて行った方が良いのかもしれないな。グロスターの時だって頑張ってボルトを放っていたとファンドさんが言ってたぐらいだ。
やがて、カウンターの奥からシュタインさんが帰ってきた。
ギルドを出て、宿の食堂で状況を聞くことになる。
「まだ揉めているそうだ。1個小隊は必要だろうとギルド本部は考えているようだが、軍は1個分隊で対応を図れと言う事らしい。派遣される兵士は北の洞窟からだそうだ。もう1組、傭兵団を仲間にして出掛けることになりそうだな」
「3個分隊に満たぬと言う事か? あまり状況を理解しとらんようじゃな」
「ナルス村とビーゼント村にも1個分隊を駐留させると言っていたぞ。そもそも王国軍の規模は小さいからな。隣国と戦をするわけではない。魔族の侵略を阻止するための軍だ」
迎撃特化と言う事なんだろうな。要衝を守れれば十分だと言う事なんだろう。魔族の動きが活発でなければそれで十分と言う事らしい。確かに軍を大きくすれば経費だって馬鹿にはできない。その分他の予算が削られるわけだ。
チル達も、少しでも人数が欲しいと言う事で同行することになるようだ。
一番喜んでるのはチル達よりも、リーザさんじゃないのかな?
翌日は、矢とボルトをガドネンさんが武器屋で作り始めた。
チル達の様子を見に行ったけど、眠そうな顔をしてたから俺とモモちゃんで蒸留ガマの番をしてあげることにした。
夏なんだけど、木陰に停めた幌馬車は涼しい。それだけ山に近いからなんだろうな。
涼しいからか、モモちゃんがうとうとし始める。確かにお昼寝には丁度良い感じだ。御者台を寝台代わりにしてモモちゃんが寝たところで、パイプに火を点ける。
手持ち無沙汰には丁度良い感じだ。
だいぶ日が傾いた頃にガドネンさんがやって来た。
「小さなタル2つに満杯になっておる。次の行程に進んでも良いのではないか?」
「それなら、明日にでも始めましょう。もう1度蒸留します。試飲は小ビン1つで良いでしょう? タルに積めて1年以上寝かせますよ。さらに美味しくなるはずです」
うんうんと頷いているのも困ったものだ。
モモちゃんが起きたところで、チル達も起こして貰い一緒にギルドに向かった。
ギルドで俺達を皆が待っていたようだ。
一緒に宿に向かって夕食を取る。
「どうやら、俺達に同行する傭兵団が決まったようだ。レクタス傭兵団が同行してくれる。明日の夜には到着すると言う事だ。北の洞窟からも1個分隊がやってくる。明後日には村を出るぞ。食料の準備は15日あれば良い。水も必要だ。足りない物に気付いたらアーベルグ村で調達できるだろう」
「矢とボルトはたっぷり作ったぞ。少し食料は余分に持っていた方が良いだろう。兵隊達の食料は気の毒な量だからのう」
置いて行かれると思っていたチル達も、同行できると知って嬉しそうな顔をしている。
見張りは少しでも多い方が多からね。ましてネコ族ならありがたいところだ。
翌日。ガドネンさんとチル達と共に2段階蒸留を試してみる。
出来た酒を小ビン3つと小さなタル1つに分けて、タルには今日の日付けをガドネンさんに書いて貰った。
「1年後じゃな。楽しみが増えたわい。残ったの残益は酒臭いが捨てるしかなかろうな。この3本はワシが貰っても良いんじゃろう」
「今夜にでも試飲してみましょう。残りはガドネンさんで良いですよ」
雑貨屋で新たなワインを購入しようとしたら王都の商会がタル3つを俺に届けているらしい。大ビン3本を商会に送って貰う事で、例の約束が守られるわけだ。
「これってお酒なんですか?」
「そうですけど、作るのが面倒なんでワインと交換なんです。よろしくお願いしますね」
雑貨屋が快く引き受けてくれたところをみると、商会から何らかの報酬を受け取ってるんだろうな。
はたして、あの3本がどんな話題になるんだろうか? ちょっと楽しみではある。
タルを担いで幌馬車に戻り、今度はギルドに向かう。
すでに皆が揃っているようだ。
レクタス傭兵団の5人と王国軍の分隊長だな。分隊長は、キニアスだった。騎士になれたようだ。
俺の顔を見て嬉しそうに頷いている。
シュタインさんが椅子を持ってくるようにと言ったので、空いている椅子を持ってモモちゃんの隣に腰を下ろした。
「さて、これで全部だ。バルテスとはたまに仕事をするから俺達の仲間を知ってるだろう。あれから新人が4人。俺の姪と姪の供、それにリーザの弟と妹だ」
「俺の方は2人入れ替えざるをえなかった。キャルラとリーダスの2人だ」
2人が軽く頭を俺達に下げる。人間族の女性とイヌ族の男性だが俺より少し年上になりそうだ。ナリスさんと同じぐらいかもしれないな。
「出発は明日の朝。昼食だけで良いだろう。明日の夜はアーベルグ村になる。アーベルグ村を出てイデル湖の東岸近くに野営する。状況監視は長くとも10日だ。水棲魔族の動向を調査する」
「グロスターって事か? あいつは弾力があるから面倒だぞ」
「ギレミーをアオイ達が見ている。厄介だぞ」
シュタインさんが呟くとレクタスの連中の目が見開いた。
やはり驚いてるようだな。それ程珍しい魔族なんだろうか。




