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9-08 新たな仲間


 ドックレーの森を何事も無く通過して、森の出口にある休憩所で野営をする。

 夜は再び蒸留酒作りだ。ガドネンさんが一晩中起きて火の加減をしてくれるから助かってしまう。たぶん番をしながらちびちびと飲んでいるんだろうけど、それ位の役得は許容してあげよう。

 ビーゼント村に到着した時には、大びん6本の蒸留酒を手にすることができた。小瓶も何本かあるようだけど、それはガドネンさん達の楽しみで良いだろう。俺には到底あのアルコール濃度は受け付けないからね。


 ビーゼントのギルドで警護の報酬を貰い。商人のリーダーに3本の蒸留酒を渡す。これで銀貨15枚なんだから凄いものだ。

 夕食時にヒルダさんから渡された報酬は、1人銀貨2枚ずつになる。盗賊が出た時にはどうなるかと思ったけど、何とかなった感じだな。やはりナリスさん達の参加が俺達の実力を底上げしてるんだろう。


「次の依頼は、王都からやって来る北の洞窟の交代要員だ。荷馬車10台に2個分隊が乗って来るそうだ」

「新兵なのか?」

「半々らしい。警護料はエバースまで銀貨10枚だが、俺達の仕事場所を掃除してくれているのだ。受けることにしたぞ」


 仕事の判断はシュタインさんに任せておけば良い。兵士が20人なら魔族の襲撃も安心できる。報酬の分配は銀貨1枚にもならないが、蒸留酒の利益が還元されるからね。新たに作る幌馬車が蒸留酒専用になれば、街道警備を安く請け負う事もできるだろう。それは小さな荷役商人達の安全にも寄与できるはずだ。


 エバース村とビーゼント村をつなぐ山街道を通る商人達の警備を数回行うと、周囲の景色も緑が濃くなってくる。

 短い夏がやってきたみたいだな。盗賊相手にほころびた革の上下を新調したが、段々と汗をかくようになってきた。

 すでにリーザさんは革の上下を止めて、綿の上下に替えている。俺とモモちゃんもエバース村に到着次第、雑貨屋で着替えを買うことにしている。


「だいぶ暑くなってきたのう」

「南の方は大変だろうな。王都もかなり暑くなっているはずだ」


 ガドネンさんとナリスさんの会話を聞くと、俺達が仕事をしているこの辺りの気候は冬が厳しく、夏はそれほどでもないことになる。

 確かに冬はきつかったが、夏もそれなりに暑かった気がするな。

 

「王都は南じゃからな。シュタインが傭兵団を作ると言った時に、涼しい場所が良いと言ったのじゃが、やはり夏は暑いのう」

「あとで、良い飲み物を教えてあげますよ」


 クラッシュアイスに蒸留酒を入れれば少しは涼しく飲めるんじゃないかな?

 酒を冷やして飲むことはこの世界でもやっているけど、氷を入れたカップに酒を入れようとは誰も考え付かないようだ。


 どうにか兵士達をエバース村に連れて来ると、ギルドには案内の兵士が俺達を待っていた。

 今夜は北の広場でテントを張り、明日の朝早くに北の洞窟に向かうらしい。

 

 ギルドのテーブルで一休み。いつものようにシュタインさんがカウンターのお姉さんと次の仕事の確認をしている。リーザさんは宿の手配に出掛け、ガドネンさんは暖炉の火でパイプに火を点けてテーブルにやってきた。


「せっかく叔父上の傭兵団に入ったのに、大物がやって来ぬな」

「来ない方が良いわよ。オーガだってやっとだったし、この間のドラゴンでさえどうにかよ。そうそう、アオイとモモちゃんはあとでカウンターに行ってレベルの確認をしといた方が良いわ。色々と退治してるからきっとレベルが上がってる筈よ」


 ヒルダさんの言葉に、思わずモモちゃんと顔を合わせると、互いにニコリと微笑んだ。

 今はイグル(野犬)クラスだから、ガトルクラスにまで上がるのかな?


「何だ? 嬉しそうだな?」

「アオイにレベル確認をしときなさいと教えたところなの」

「なら、直ぐに確認して来い」


 シュタインさんに言われて、俺とモモちゃんはカウンターのお姉さんのところに向かった。

 俺達の話が聞えていたんだろう。水晶玉を用意して待っていてくれた。

 その結果は……。2人ともガトルクラスになっていた。


「しばらくは、そのクラスになると思うわ。ガトルクラスで廃業する傭兵も多いの。ある意味、一人前だけど無理はしないでね」

 そんな注意を俺達に与えてくれたけど、その言い方ではこのクラスの幅が広いと言う事になる。リーザさんもガトルクラスだったし、オーガ退治でデミ・オーガになったシュタインさんだってずっとガトルクラスにいたぐらいだからね。


 2人でテーブルに戻って、ガトルクラスになった事を告げると、皆が自分の事のように喜んでくれた。

「今夜は贅沢に食事ができるぞ」

 ガドネンさんの言葉に、ヒルダさんが頷いてるから少しは期待できるかな?


「それにしてもリーザが遅いのう? 宿が見つからぬのだろうか」

「それはあるまい。ギルドには我等だけ。商人達の荷馬車も無いからガラガラのはずだ」


 そんな話を始めた時に、ギルドの扉が開いてリーザさんが帰ってきた。ん? 1人じゃないぞ。

「お待たせ。前に新しい幌馬車の御者の話をしてたよね。私の弟と妹よ。弟2人のはずだったんだけど……」

「ダリムを御せれば問題ない。モモよりは年上だろう?」

「今年18と16よ。モモちゃんは14歳だったわね」

「チリステルとミティルームです。チルとミチルと呼んでください」

「なら、リーザ。2人の登録をしてくれ。宿は一緒で良いな」

「同じ宿に泊まってたの。3日前に着いたんだって。ほら、2人とも付いて来る!」


 お姉さんぶってるな。家ではわがままなお姉さんだったに違いない。

 戻ってきて俺達に見せてくれたカードは、最初に俺が持貰ったカードと同じだった。確かネズミって感じのカードだったな。早くレベルを上げないとこの2人も可哀そうだぞ。


「さて、宿の食堂に行こう。次の依頼や、チル達の仕事の話もしなければならない」

 ぞろぞろとギルドを連れだって出でる。これで10人なんだよな。報酬は減るかも知れないけど、安全性は格段に上がりそうだ。

 人数が多くなったから2つのテーブルをくっ付けて夕食を頂く。

 いつもより料理の皿の数が多いのは、俺達がクラスを上げたのと新たな仲間の参入を祝うためだろう。焼いた鹿肉なんだろうけど、たまには食べたいものだ。

 夕食が終わると、ワインやジュースを飲みながらシュタインさんが次の仕事の話をしてくれるのを待った。


「次の依頼はグロスター討伐だ。ラゲルの森の北にある休憩所付近に出没しているらしい。小さな荷役商人達が何度か襲われて死人も出ているそうだ。おかげで、ビーゼント村とナルス村の間道が閉鎖状態らしい」

「グロスターが群れているわけでは無いのじゃな?」

「群れているとの情報は無いようだが、荷役商人達を襲ったグロスターは複数だったらしい。数匹ではないかとギルドは想定しているようだ」


「片道だけで7日ね。10分以上食料は準備しないといけないわ」

「ビーゼントに1日じゃから、終わればビーゼントで仕事を探せば良い。新しい幌馬車の御者もやって来たなら丁度良い旅じゃ」

「あんた達、単にダリムを動かせば良いってわけじゃないんだからね」


 リーザさんの言葉に、ジュースを飲んでいた弟妹がうんうんと目を輝かせながら頷いている。これは、モモちゃんと一緒にリーザさんと一緒に行動させといた方が安心できるな。

 

「装備は、明日にでも整えれば良い。ガドネン、クロスボウは出来ているんだろう?」

「だいじょうぶじゃ。念の為に数打ちの片手剣を持たせておけば十分じゃな。魔法は使えんのじゃろう?」


「俺が【アクセル】、妹が【クリーネ】を使えます」

「なら、2人ともその両方が使えるようにしとくんだ。リーザ頼んだぞ」

「仕事は少し面倒なんじゃ。お主達には傭兵団の直接的な仕事では無く裏方をやって貰う。速い話がこれだ」

 

 ガドネンさんが小ビンに入った蒸留酒を2人のカップに少しずつ注いであげる。

 すでにジュースを飲み終えていたみたいだな。

 恐る恐るカップを手に持ってグイッと飲んだけど、途端に咳き込んだのは無理もない話だ。


「それを作って貰う。お主達にはまだ早い酒だが、酒飲みにとってはこの上ない価値があるのじゃ」

「これにですか? とても飲める代物では無さそうですけど……」

「そうだな。その意見も正しいだろう。考えた本人でさえ飲めない始末だ。だが、王都の大商会が大ビン1本に銀貨10枚の値を付ける位の価値がある。この酒を造るのが幌馬車の御者としてもお前達の仕事だ。とはいえ、俺達と一緒に行動して貰うから身を守れるだけの武装は俺達で準備してやるぞ」


「やらせていただきます。両親も姉が一緒なら安心できると言っておりましたし」

 そんな弟の言葉に、笑顔でうんうんとリーザさんが頷いているな。

 安心できないの間違いじゃないだろうか?

 ヒルダさんも苦笑いを浮かべているから俺と同意見のようだ。


「となれば、しばらくはアオイ達が一緒にいてくれた方が安心できるな。ネコ族3人が殿なら後ろを取られることは無いじゃろう。何かあればモモが笛を吹くんじゃぞ」

「そうね。アオイならば後ろを支えられるわ。となると、2人にはクロスボウの練習を休憩所でたっぷりと教えないといけないわね」


 どんな道中になるんだろう?

 年が近い妹さんが一緒なら、モモちゃんも嬉しいんじゃないかな。

 新たな2人も、モモちゃんの事が気になるようだから、向こうから話し掛けてくれるかも知れない。リーザさんの弟妹だから性格もきっと似てるんじゃないかな。



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