9-07 盗賊達
カップでお茶を飲む。
遠くから見れば傭兵4人がのんびりと焚き火の周りで談笑しているようにも思えるだろうな。パイプを咥えたシュタインさん達はにこやかな表情で焚き火に焚き木を放り込んでいる。
「本当に来るんだろうか?」
「モモの能力はネコ族を越える。もうそろそろだろう……」
突然、俺の横を橙色に染まった火炎弾が飛んで行くと広場の入り口を塞いだ柵を飛び越えて炸裂した。
驚いたような顔をした一団がその場にうごめいている。
「来たな。打ち合わせ通りだ。焚き火の前には出るなよ!」
素早く焚き火の傍から立ち上がると、左手で背中の長剣を抜刀し、右手で腰のサバイバルナイフを抜いて逆手に構える。
長剣は肩に背負うようにして持てば、間合いを相手に悟られることは無い。
左手に少しずつ移動すると、ナリスさんも俺の右手に移動してきた。
「「ウオオォォ!」」
雄叫びを上げて柵を乗り越えながら俺達に迫ってくるが、すでに迎撃態勢は整えられている。広場の両側から矢が飛びかい、盗賊数人がその場で転倒する。
槍を俺に向けて来た盗賊を長剣で柄を切り落とし、驚いているところに長剣を下から切り上げる。
変な声を出したところで、次の相手が振り下ろした長剣をサバイバルナイフで弾くようにしてかわすと、男の腹に矢が突き立つ。
俺達の後ろに回り込もうとすればボルトの餌食だし、広場に立ち尽くそうものならたちまち矢が飛んで来る。
俺達と斬り結んでいれば矢に当たらないと見とたようで、たちまち盗賊が俺達を取り囲む。
少しでも間合いが広がればボルトの餌食だから、盗賊も必死だ。弓や槍を持った盗賊達はあらかた倒されたようだけど、たまに矢が飛んでくる。だけど、これだけ乱戦になっていたら盗賊達も弓の使用は考えるだろうな。
向かってくる相手に長剣を振い続けていると、笛の音が高く何度も聞こえて来た。
俺に向かって長剣を振り上げていた盗賊達が、たちまちクモの子を散らすように引き上げて行く。
終わったのかな? 隣で長剣を強く振って血糊を払っていたナリスさんと目が合う。
「引き上げたな……」
「怪我はありませんか?」
「だいじょうぶだ。アオイこそかなり血がにじんでいるが?」
トコトコとモモちゃんがやって来たかと思ったら、【クリーネ】と【サフロ】を掛けてくれた。
良く見ると革の上着があちこち破れている。乱戦で相手の長剣がかすったんだろう。不思議と痛みが感じないんだよな。
「ありがとう。モモちゃんの方はだいじょうぶだったの?」
「見えなかったみたいにゃ。リーザ姉さん達のところには何本か矢が飛んで来たにゃ」
バステトの力と言う事なのかも知れない。姿を隠すことができると言う事なのかな。
焚き火の傍にモモちゃんと向かうと、リーザさんがお茶のカップを渡してくれた。
「後ろで見てても安心してみてられるわね。ナリスもそれなりだけど、技と力の違いに思えてしまうわ」
「褒めても何も出ませんよ。ところで、これからは?」
「手伝ってくれ。盗賊を広場の反対側に捨てねばならん。いつまでも広場に置けないからな」
シュタインさんが俺のところにやってきて告げると、今度は商人達のところに向かって行く。
「だいぶ倒したからのう。息をしとる者にはさっき止めを刺しておいたぞ。動ける者達は引き上げて行ったようじゃが、中には途中で殺される者もおるじゃろうな」
遅れてやってきたガドネンさんがそんな事を呟きながら、バッグから取り出したビンを傾けて飲んでるのは……、蒸留酒じゃないのか?
「全く、事前に準備してなかったらと思うとゾッとしますね。幌馬車の下にいたんですが側板にたくさん矢が当たってましたよ」
「アオイ達を狙うと仲間に当たると思ったのかしら、予想以上に矢が飛んで来たわ。商人達にも2人ほど犠牲が出たらしいけど、後は軽傷者がほとんどよ」
ヒルダさんが教えてくれたけど、やはり犠牲者が出てしまったか……。
「商人達も命がけじゃ。まして隣国と貿易を企てるような者達ならばな。たとえ命を失っても残された家族は商会が一生の面倒を見る。それだけ忠誠心があるんじゃ。兵隊よりも士気は高いかも知れんのう」
何事も、その道を進むためなら頑張らないといけないということなのかな?
シュタインさんが数人の商人を連れて来たところで、俺達も焚き火の傍から立ち上がって、広場に倒れている盗賊の移動を始めた。
全員が人間族だから、シュタインさん達は軽々と運んでいるけど、俺は足を持ってずるずると引き摺りながら死体を運ぶ。
死んだ人間は重いと聞いたことがあるけど、確かに重い。3人で音をあげてしまったが、4体目を運ぼうとした時には広場の亡き骸は殆ど片付いていた。
焚き火に集まって、とりあえずはワインで乾杯する。
すでに盗賊は遠くに去ってしまったろう。モモちゃんが安心して俺の隣で寝息を立てているぐらいだからね。
「それにしても、モモの能力は私達ネコ族の能力を遥かに超えます。それだけなら、ネコ族の中にも、女神の寵愛を受けた者がいないわけではありません。私が驚いたのは、私達にはたくさんの矢が向かってきたのに、モモには1本の矢も飛んでこないということです」
「まるで盗賊から見えていなかったかのようだ……。と言う事だな」
シュタインさんの言葉に、ファンドさんがシュタインさんの顔をジッと見ながら頷いた。
「盗賊には見えていなかったのじゃ。それだけの寵愛を受けておる。いや、受けているというよりは」
「止めておけ。明日にでも幌馬車の中で教えてやる」
ガドネンさんの話をシュタインさんが折ってしまった。少し残念そうだが、教えてくれるならそれで良いという表情に変わったな。これでこの話は終わりになる。
リーザさん達がモモちゃんを抱いて幌馬車に向かった。
残った俺達はパイプを取り出して焚き火で火を点ける。
相変わらず、火を点けても咥えてるだけだから直ぐに消えてしまうが、別に吸うわけではないからねぇ……。
「アオイのおかげで何とか出来たな。盗賊の半分は倒しただろう。奴らが再び活動を開始するまでは山街道は安心できるな」
「2つの盗賊団がいたぞ。今回の荷がかなりの金目と見込んだのじゃろうな」
「2つもいたとは気付かなかった」
「兵隊崩れと傭兵崩れの盗賊団だ。武装に少し違いがある程度だからファンドには分からなかったかも知れんな」
シュタインさんの言葉に、ファンドさんが折れを向いたからフルフルと首を振った。俺も初めて知る情報だ。
「盗賊団の多くが傭兵崩れだと前に話したはずだ。北街道と旧街道を縄張りにする盗賊団は大小あるが、20人を越える盗賊団は4つあるだけだ。今夜襲ってきたのは街道の東を縄張りにする2つの盗賊団と言う事になる。商人が大人数で荷を運ぶのは、自分達の数が多ければ小さな盗賊団に襲われる可能性が低い事にある」
逆に大きな盗賊団となると、何度も同じ個所で襲うと軍隊がやってくる可能性があると言う事で、年に数回の襲撃だけにしているようだ。それに当たったらたまったものではないけどね。
「しばらくはおとなしくなるだろうが、小規模の盗賊団がその隙間を埋めるべく動くだろうな」
「襲撃されることが多くなると言う事ですか?」
「そうではない。盗賊達の群雄割拠が始まると言う事だ。力の弱い盗賊団は吸収されるだろうし、反目する盗賊団のつぶし合いが始まる」
「俺達は夜間街道を進むことは無いし、野営は林の中の広場じゃからな。奴らの抗争を見ることはあるまい。しばらくは獣と魔族があいてじゃな」
盗賊は初めて相手にしたけど、これからはしばらくは俺達の前に出てこないと言う事なんだろう。となると、森の休憩所だって安心できないんじゃないか?
「商人達の荷馬車の警備は、残り6日だ。ドックレーが心配ではあるが、魔族は軍が相手をしていてくれる。森の休憩所に出るとしても数は少ないだろう」
東の空が明るくなってきたころに、リーザさん達を起こして、今度は俺達が幌馬車で横になる。
俺達が目を覚ました時には、出発寸前の時だった。
「だいぶ寝てしまった。ガドネン、ダリムを頼む。食事は鍋ごと幌馬車に積み込んで中で食べれば良いだろう。ファンドとアオイは残った焚き木を幌馬車の下に押し込んどいてくれ」
起きたのは遅かったけど、皆で協力すれば俺達の出発の準備は直ぐに終わる。
荷馬車の殿だから、シュタインさんが御者台に上って、俺達は朝食を頂く。スープは少し冷めてしまったけど、昨晩あれだけ動いたからな。いつもより美味しく頂くことができた。
さっさとファンドさんが食事を終えてシュタインさんと手綱を代わる。
ガドネンさんは幌馬車の後ろの側板を開いて腰を下ろし、のんびりと食後のパイプを楽しんでいる。
「大きな森ですけど、誰も木を切らないんですね」
「村の近くにいくらでもあるからのう。じゃが、王都で木造建築を作るとなれば数年前から丸太を集めねばならん。その時はイーデンやドックレーの森からも切り出すことになるじゃろうな。だが、そんな事態はあまり起こらん。王都の建築は石造が基本じゃ」
滅多にないって事じゃないか。王都の建造物が石造なのは分る気がするな。王都で一番の恐怖は火事って事なんだろう。木造があまりないのは火事対策に他ならない。




