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9-06 来るとすれば


 何事も無くエバース村までやって来た。

 警護対象の商人達も、あの一件からかなり俺達の扱いが丁寧になって、今ではどちらが警護されてるのか分からなくなるほどだ。


「それで、なんとかなりそうなのか?」

「幌馬車は何とかできるぞ。問題は御者じゃな」

「私の弟じゃダメかしら?」


 夕食後のワインを楽しんでいると、リーザさんが提案してきた。

「リーザの弟だと? 今年幾つになるんじゃ」

「アオイと同じだと思うわよ。もう一人は2つ年下ね」


 ガドネンさんがリーザさんからシュタインさんに視線を移した。

 決めるのはリーダーだからな。でもネコ族なら、人間族より使えそうな気もする。


「となると……。ガドネン、クロスボウを2個作っておいた方が良いな。片手剣は数打ちでも構わんだろう。幌馬車から出ずに、隙間からボルトを放つだけでも十分だ」

「ありがとう。早速、連絡するわね。エバース村で待たせておけば良いでしょう?」


 これでアビニオン傭兵団は10人になる。仕事を頑張らなければ分配金がかなり減りそうだぞ。少しは蒸留酒作りで潤うだろうけど、それはそれと考えなくちゃならない。

 新たな幌馬車は前に乗っていたダリム1頭が引く幌馬車だ。蒸留酒作りに特化して作ったとガドネンさんが言ってたけど、どんなものかを教えてくれないんだよね。意外と子供っぽいところがあるからモモちゃんと仲が良いのかな?


「次はドックレーじゃな。ワシなら森の休憩所を襲うぞ」

「確かに物騒なところだ。商人にもあらかじめ告げておいた方が良いだろうな」

「ちょっと、待ってください。俺ならここを狙いますよ」


 シュタインさん達が広げた地図に、指先で襲撃地点を示した。

「ドックレーの入り口だと!」

「シュタインさんでさえ森の中の休憩場が問題と思うなら、まず間違いないかと思います」

「ほう、軍略と言う事じゃな。明日は危ないとなれば前日は早く寝ることになる。それが狙いか……」

「というか、森の休憩所を襲うにはかなりの危険が出てきます。盗賊は危険には敏感でしょう」

「魔族……。なら、森の出口はどうか?」

「一番考えられる襲撃地点を襲わないなら、どこで襲うか分からなくなります。警備は常に厳戒態勢、襲う方が難しいでしょう。それに、ドックレーの森の手前なら、逃げるにも都合が良いですよ」


 エバース村から旧街道のジェリムの町に繋がる間道があるのだ。易々と旧街道に出て行方をくらますことができる。

 ドックレーの森を過ぎた場所では山街道沿いにいくつかの村があるからな。足取りがばれてしまいかねない。


「なるほどのう……。ドルネア殿が欲しがるわけじゃ」

「アオイの案を最初に考えれば良い。襲われなければ次は森の休憩所となる」

「もしも、アオイの言う通りやって来るのだったら……」

「アオイは俺達の仲間だ。誰にも渡さんぞ」


 ナリスさんの呟きに、シュタインさんが笑いながらクギを刺している。どこかに推薦するって事なんだろうな。だけど俺はこの稼業が気に入っているし、モモちゃんだってちゃんと皆が認めてくれてるからね。

 王都は聞く限りにおいて他人を如何に蹴落とすかを考えてる人達だらけに思えてしまう。

 このまま傭兵を続けて皆と一緒に引退した後はのんびりと酒造りを始めれば良い。


「寝る前に少し準備をしとくぞ。村なら材料が揃っているからのう」

「頼んだぞ。矢は不足していないな? ボルトの予備も確認しておくのだ」


 俺達は2階の部屋に向かったけど、ガドネンさんとシュタインさんは宿を出て行った。準備と言っても、いつも通りだと思うんだけどね。

 

 村を出たのは朝の早い時間だ。農家の人達がそろそろ畑に荷車を引いて行く時間だが、街道の通る東西の門を利用することは無い。

 幌馬車の御者台にはリーザさんとファンドさんが周囲に目を光らせているようだ。殿を進む俺達の幌馬車の後ろから見える村の姿が段々と小さくなっていく。モモちゃんと俺で後方確認をしているから、監視についてはほぼ満足のいく状態だと思う。

 途中の休憩時間や昼食時間を早めに切り上げ、少しでも早くドックレーの森の入口にある休憩所に向かった。


 休憩所に着いた時には、まだ日が高い時刻だ。

 いつものように焚き木を集めたところで、シュタインさんが商人のリーダーを呼び出した。

 やってきた商人達と焚き火を囲み、シュタインさんが盗賊の話を始める。


「盗賊が来るとすれば今夜が怪しい。こことここに弓を配置してくれればありがたいのだが」

「今夜ですか? 我等は森の中を危惧しておりましたが?」

「昨年はオーガや小型のドラゴンまで出た場所だ。盗賊としても、森に潜むのは考えものだな。どちらかというと、森の休憩所が盗賊の襲撃を受ける可能性が一番低いだろう。それに、ドックレーを抜ければ村がたくさんあるからな。足取りを掴まれやすいぐらいは考えるだろう」


 地図を広げて説明すると彼らも納得しているようだ。襲われる確率が高いだけで、必ずしも襲われるとは限らないんだけどね。


「10人ずつ配置できるようにします。残りは槍を持って荷馬車の前と言う事で」

「お願いする。我等はこの幌馬車の周囲で頑張るつもりだ。広場の入り口から焚き火の間に矢を放ってくれ。荷馬車側では俺達に矢が届く」

「了解です。配置はいつごろから?」

「この者が知らせる。商人殿はどこに?」


 そんなやり取りをしている。俺達が盗賊もしくは魔族の接近を知ったら、ファンドさんが連絡するみたいだな。

 商人達の荷馬車はいつも通りに奥に並んで、牛を守っている。その手前に俺達の幌馬車があるんだが、ガドネンさんが何かやっているようだ。ダリムはリーザさんが牛の集まっている場所に引いて行ったから、俺達よりも安全な事は確かだな。


 商人達が帰ったところで俺達の食事作りが始まる。

 ガドネンさんを手伝おうと幌馬車に向かうと、幌馬車の前に腰に手をやりながら幌馬車を見ているガドネンさんがいた。

「手伝いますか?」

「な~に、終わったところじゃ。幌馬車の側版を2枚前に移動して、焚き木の束を左右に置いてある。側版に四角の穴があいているから、荷台の下からクロスボウで十分狙撃できるぞ」


 装甲は薄いけど、移動式のトーチカみたいだな。これなら敵の矢を防ぐ事もできるだろう。

 後ろに回ろうとすれば、槍を持った商人達が対処してくれるはずだから、モモちゃん達はこの中に入れとけば安心だ。

 

「盗賊は弓を使う者も多い。【アクセル】は夕食が終わったところで掛けておくんだぞ」

「了解です。一応、長剣を使いますが、よろしいですか?」

「俺とガドネン、アオイにナリスが前衛だ。ファンドとリーザ達は俺達の支援に徹してくれ。ファンドもクロスボウに少しは慣れたはずだ」

「だいじょうぶです。かなり強力ですから支援は任せてください」

 

 ボルトケースには10本以上が入っているはずだ。モモちゃんは弓になるけど、短距離ならあの命中率だ。3人の隙間を縫う事ができるだろう。

 そんな準備が整う間に夕食の準備も終わる。

 さっさと食事を終えるとお茶を飲みながら時間を潰すことになる。あんまり長い間待ってると、モモちゃんが寝てしまいそうだ。


 手持ち無沙汰にパイプを取りでして火を点けた。煙を吸い込むと咳き込んでしまうから、軽く吹かして香りを楽しむ。ちょっとハッカの風味があるんだよな。

 そんな俺をパイプを咥えながらシュタインさん達がおもしろそうに見ているんだよね。

 右肩が重くなったと思ったら、モモちゃんが寝息を立てて俺に寄り掛かっている。マントを広げて包んで上げれば、夜風に当たっても温かいだろう。


「寝ちゃったのね。ほんとに眠るのが好きな子ね」

「寝る子は育つと言うぞ。リーザも小さい頃は良く寝てたんではないのか?」


 ガドネンさんの言葉に、エヘヘ……とリーザさんが笑ってごまかしてる。

 皆で笑い声を上げた時、突然モモちゃんがマントを跳ね上げてスクッと立ち上がった。


「来るにゃ。怖い人がたくさん来るにゃ!」

「方角は?」

「あっちにゃ。少しずつ近付いて来るにゃ」


 モモちゃんが指さした方角は南東方向だ。直ぐにファンドさんが立ち上がって商人のリーダーに知らせに向かった。

「始めるぞ。すでに準備は出来ている。リーザ、モモを頼んだぞ」

「だいじょうぶ。ちゃんと面倒を見るわ。さあ、お姉さんと行きましょう」


 リーザさんがモモちゃんを連れて幌馬車の下に向かう。その後をヒルダさんが追い掛けて行った。

 これで後方は問題ない。ガドネンさんが焚き木を一束焚き火に追加する。その間に自分に【アクセル】を掛けておいた。背中の長剣を少し引き抜いて問題が無い事を確認し、腰のサバイバルナイフが飛び出さないようにしてあるケースの紐を外しておく。


「アオイが一番左だ。その右はナリス、続いて俺、一番右がガドネンで良いな」

「アオイの隣がナリスでだいじょうぶか? ワシと替わった方が良いのではないかのう?」

「問題ありません。長剣は父にしっかりと指導を受けました」

「隣に俺とアオイがいる。危なければ介入できる」

 

 ナリスさんの言葉に微笑みながら、ガドネンさんに答えているけど、俺にはそんな余裕があるとは思えないんだけどな。

 焚き火からシュタインさんが立ち上がって幌馬車のところで身をかがめて何か話をしている。直ぐに帰ってきたけど、何の話をしてたんだろう?


「モモに、相手が広場に入る前に火炎弾をぶつけるように頼んでおいた。状況が分るのがモモだけだからな。こんな時には助かる話だ」

 パイプの灰を落して、新たなタバコを詰めると焚き火で火を点けている。

 襲撃の一歩手前が分るから、それまではリラックスしてもだいじょうぶだと言う事なんだろう。

 ガドネンさんも、シュタインさんを真似てパイプに火を点けている。

 盗賊から見たら、のんびりと焚き火の番をしていると思われても仕方がないだろうな。待てよ、と言う事は演出してるってことか?

 


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