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9-02 意外な人気


 新しい幌馬車に揺られながらビーゼント村に向かう。6日間の旅になるが、幌馬車の具合を確認する旅でもあるようだ。リーザさんの指摘を可能な範囲でガドネンさんが野営時に改造や修理を繰り返している。

 文句も言わずに頑張っているのを見ると、少しはいたわってあげたい気持ちになってくる。

 

「ガドネンさん。例の酒を作ってみますね。時間が掛かりますから、火加減の調整をお願いします」

「やるのか? 楽しみじゃな。火加減と言われても分らぬが言われたことはちゃんとしてやるぞ」

 夕食が終って、俺とガドネンさんの会話を興味深く聞いているのは、シュタインさんにファンドさんだ。試飲できると思っているのが見え見えなんだけどね。


ガドネンさんに作って貰った蒸留器は、2重の鍋の様な代物だ。外側の鍋にお湯を入れて、内側の鍋に入れたワインを加熱する。加熱によって蒸発したアルコールは長い管を通るうちに冷やされて液体化する。

 外側の鍋を加熱するのは携帯用のストーブが使えるから、ストーブ内の炭の量を加減することで外側のお湯の温度を制御できるはずだ。

 外側の鍋は一側の鍋を入れても、お茶のポットのお湯が全て入れられるぐらいの量があるから、蒸留が終わるまでお湯を注ぎ足す必要も無いだろう。

 内側の鍋にはワインをビン3本分入れるぐらいの余裕がある。先ずは一度やってみよう。

 

 携帯用のコンロにたっぷりと熾火を入れて、その上に蒸留器を乗せる。

 内側の鍋にはワインが入っているし、外側の鍋にはお茶を入れた残りのお湯が入っている。銅管をコイル状に巻いた冷却機器の出口にカップを置いておけば準備完了だ。


 仕掛けを終えて、焚き火に戻って来ると、早速ガドネンさんから質問が飛んできた。

「だいぶ簡単なようじゃが、あれで酒ができるのか?」

「すでにワインですよ。もっと強い酒にします。もう過ぐ滴って来ると思うんですが……」

 皆も興味深々だ。ジッと少し離したところに置いてある蒸留機に目が向けられている。

「どれぐらい待つのだ?」

「順調なら俺が焚き火の番をしている間に試飲ができると思います。ビン1つに溜めるには一晩掛かるかも知れません。俺も初めてですからね」


 ガドネンさん達がにこにこして頷いているから、失敗したなんて言うとどんなことになるか分らなくなってきたぞ。

 

「だが、煮詰めるのではないんだな? そんな仕掛けを必要とするのが理解できん」

「ワインを料理に使う事もあるけど、できた料理を食べて酔う事はないわ。加熱すると成分が代わるんでしょうね。でも、それでワインが強くなるのが分らないわ」

 ヒルダさんは料理を担当してるから、ワインのアルコールについて経験で分ってるみたいだな。

 どれ、そろそろ見てみるか……。

 カップの中に1cmほど蒸留した酒が入っている。最初に出てくるのは飲めないとか聞いたことがあるから、これは捨ててしまおう。

 銅管の先からぽたぽたと落ちるしずくを今度はビンに集めることにした。

 かなり出が良いから、2時間もすればこのビンに一杯になるかもしれないな。


「最初に出てくる液は捨てるのじゃな。もったいないが、酒作りには色んな手間があると聞く。その一つかも知れんな」

「だが、酒の匂いがかなりするな。ワインとも違うようだ」

 シュタインさんの鼻もばかにはできない。アルコールをしっかりと嗅ぎ分けたようだ。

「ロウソク1目盛りで試飲ができそうですよ。かなり強いですから、あまり飲まないでくださいね」

「たかがワインじゃ。1ビン飲んでも酔う事は無いぞ」

 ヒルダさんが呆れた顔で2人を見てるけど、ナリスさんも少し顔がほころんでるな。やはり楽しみにしてるに違いない。

 

 1時間ほどしたところでビンの三分の二近くまで蒸留酒が溜まってきた。冷却器の導管から出てくるしずくの間隔がだいぶ開いてきたように思える。これ位で終わりという事になるんだろうか?

 ビンを新しい物に交換して、溜まった蒸留酒を皆が待っている焚き火のところに持ってきた。


「それが、アオイの言っていたものか? 透明なのだな」

「火酒とも呼ばれる時があるそうです。これだけですから、男性三人には半カップ。女性には一口になります。俺とモモちゃんは遠慮しときます」

「作った本人がいらぬと言うのか?」

「強すぎます。カップ半分も飲んだら明日は寝てなければなりません」


 ガドネンさんが待っていられなくてカップを差しだしてきた。

 半分より大目に入れてあげる。次にシュタインさんをはじめとして皆に注いで回る。

 

「我の将来に!」

 そう言ってガドネンさんがグイッと飲んだんだけれど……。

「なんじゃこりゃ! とんでもなく強いぞ。まさに火酒じゃな」

「確かに……。だが、欲しがる奴も多そうだ」

「喉が熱くなるわ。とてもワインで作ったとは思えない……」


「ワイン三本で一本は取れぬのか……。明日は四本で試してみるがいい。夜中に作るなら我等の仕事の邪魔には無らんだろうし、ドワーフ相手なら1ビン銀貨10枚で売れるじゃろうな」

「トラ族もだ……。確かに強い。だが、ちびちび飲むなら丁度良い」

「お酒の楽しみ方に幅が広がると言う事かしら? このお酒用に小さなカップが欲しいわね」

 

 そんな話から、小型のスキットルの話をしてみた。小さな水筒型の酒器で、蓋の上に小さなカップが付いてるものだ。

 

「ビーゼントの鍛冶屋は知り合いじゃ。ビンに半分ほどの酒を用意してくれ。俺達の分を作ってみるのもおもしろそうだ」

 蒸留酒で釣るのか? 何となくガドネンさんの考えが皆も理解できたようで、苦笑いをしている。

 そんな訳で、ビーゼント村に到着するまでに残りのワインを使って蒸留酒を作ることになってしまった。

 山街道で荷馬車を警備する時には、蒸留酒作りが俺達の仕事になってしまいそうだが、夜の退屈を紛らわせるにも丁度良い。


 ビーゼント村に到着すると、直ぐにガドネンさんが幌馬車を下りる。東門の門番に幌馬車をお願いした後は、いつも通り俺達はギルドに向かって行った。

「宿は1泊だったよね?」

 モモちゃんを連れてリーザさんが通りを走っていく。シュタインさんは答えようとして口を開いたんだけどね。全く聞く気が無かったな。


 ギルドの扉を開けて俺達は暖炉近くのベンチに向かう。他の傭兵団がテーブルに着いているけど、俺達の護衛する荷馬車を護衛してここまで来たのだろうか?


「見掛けん傭兵団だな。俺達はマジュール傭兵団だ。この辺りは物騒らしいから、海街道に向かった方が良いぞ」

「私達はアビニオン傭兵団だ。明日ここから荷馬車をエバース村まで護衛する。心配はありがたいが、アルガードやオーガなら問題なく倒せるぞ」

 

 ナリスさんがカチンときたらしく丁寧に皮肉ってるけど、アビニオンと聞いて相手が驚いている。

 それなりに、名がうれてるんだろうか? 妬まれるようでも嫌だな。


「アビニオンなら問題ねぇ。そうか、お前達がアビニオンなんだな。アルガードを倒してくれたおかげで山街道の封鎖が解けた。俺達も商売の範囲が広がって大助かりだ」

「あれで、街道を変えた傭兵団も多かったようだ。山街道なら海街道よりも2割は警備の報酬が多いからな。俺達イグルクラスの傭兵団にはありがたい街道だったんだ」


 それだけ危険な警備なんだろう。安全な街道で経験を積みながら自分達のレベルを上げて山街道の警備に名乗りを上げるのが一般的なようだ。

 そこを最初から自分達の仕事場にしたんだから、シュタインさん達の技量はおって知るべしと言う事になるんだろうな。


「予定通りだ。明日の早朝に出発する。まだ、ガドネンとリーザは戻らんのか?」

「まだです。たぶん例の水筒を作って貰おうとしてるんだと思いますよ。でもリーザさんはそろそろなんじゃないかと……」


 そんな事を言っている時に、ギルドの扉が開いてモモちゃんとリーザさんが帰ってきた。

「いつもの宿よ。1泊だけだから残念そうだったわ」

 リーザさんの言葉にモモちゃんも頷いてる。そんな2人を苦笑いでシュタインさんが見てるのも何となくいつもの雰囲気だな。

 やがて、満足そうな表情で帰ってきたガドネンさんと一緒に、俺達は宿屋に向かって歩き出した。


 翌日。朝食を終えた俺達は東の広場に向かう。12台の荷馬車の内、2台に新兵が乗っていた。

 引率するのは騎士のようだ。シュタインさんに挨拶していたから、案外シュタインさんの知り合いなのかもしれない。


 俺達が荷馬車に乗り込むと、少し遅れてガドネンさんがタルを担いでやって来た。この前よりも大きいタルだ。2倍以上あるんじゃないかな?


「これと、小さいのが1つだ。ビンも5本用意したぞ。ゆっくり蒸留酒とやらを作ってみるが良い」

「まだ1本残ってたんじゃありませんか?」

「あれは、ワシ等の水筒に化けたわい。今度ビーゼントに来る時には出来ておるじゃろうな」


「確かにあの酒ならドワーフは喜ぶだろう。今度は俺にも1本譲ってほしい。北の洞窟に届けたい」

 指揮官に届けるんだな。新兵も北の洞窟に向かうから丁度良いかも知れない。時間はたっぷりあるからな。数本分の蒸留酒なら十分に作れるだろう。



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