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2-03 森で俺達を襲うもの

 前を歩くシュタインさんが立ち止って、周囲をながめている。何か異変に気付いたのだろうか?

 直ぐに片手で俺達に街道の右手藪に移動するように合図を送ると、シュタインさんもその場で身を低くすると藪に移動して右手前方を眺めている。俺達は息を潜めて、シュタインさんを見守るだけだ。


「向こうに何かいるにゃ!」

 モモちゃんがひそひそと俺に教えてくれた。

「やはりいるのね。私もチラっと何かを見たわ」

後ろからリーザさんが教えてくれた。


 問題は、何がいたかってことだな。

 獣ならここまで用心はしないだろう。となると、盗賊かそれとも魔物と言う事になりそうだ。

「お兄ちゃん、準備しといた方が良いにゃ。それと……【アクセル】!」

 モモちゃんの魔法で、自分の身体が強化されるのが分かる。

「そうだね。直ぐに撃てるようにしとくよ」

 

 背中からクロスボウを下すと、体を立てないように注意して弦を引いてボルトをセットする。セーフティロックが掛かっているから、このままでも安全だろう。


「毛皮を着てたにゃ。4人で棍棒を持ってたにゃ」

「オグルよ。この森にはいないはずだけど……」


 モモちゃんが腕を伸ばして教えてくれた場所をジッと見ていると、ちらちらと俺にも奴らの姿が見えた。

 原始人みたいな感じに見えるぞ。筋肉質の体に毛皮をまとってる。チラリと見えた顔は鼻が低いな。まるで豚の鼻のように前方を向いているし、ザンバラ髪の頭から短い角が生えていた。

 鬼の一種なんだろうか? トラのパンツでないのが残念だけど、皮膚の色が赤黒くて太い棍棒を持っている。

 意外と、日本にも昔いたんじゃないのかな。絵本の鬼の姿に良く似ているぞ。だけど、身長がガドネンさんと良い勝負だから、ガドネンさんと相撲をしたら絶対にガドネンさんが勝ちそうだ。


「見つかったらしい。アオイ、一番左の奴を狙え、リーザは右からだ!」

 シュタインさんが俺達の傍に屈んでやって来ると、早口で指示を出す。

ゆっくりと立ち上がりながら、背中の長剣を引き抜いて街道の真ん中に立った。

 モモちゃんを後ろにしながら俺も立ち上がって、街道の左端に陣取る。クロスボウを構えて、オグルの近付くのを待った。


 前にシュタインさんとガドネンさんが立ち、俺はその後ろになる。射界を広く取るのに少し横に出た。リーザさんもそんな感じだな。最後尾にはヒルダさんとモモちゃんがいるけど、あの孫の手を握りしめてるんだろうな。


「来るぞ!」

 シュタインさんの叫び声とオグルの突進が同一に思える。

 丸太のような棍棒を振りかざしたオグルの胸に、俺の放ったボルトが突き立った。クロスボウを下して、近くに置いた杖を持って横に移動する。残り3人になったが直ぐにシュタインさん達と乱戦になった。

 棍棒を避けながら長剣を叩きつけてるけど、中々致命傷を与えられないみたいだ。

 後ろから飛んで来た火炎弾がオグルに命中したところを、シュタインさんが長剣を腹に突き差す。

直ぐにガドネンさんと一緒に、リーザさんが戦っている相手に助太刀に向かったのを見て、持っていた杖をオグルの足に投げつけた。

 上手い具合に足の間に挟み込んだようだ、オグルが転倒したところにガドネンさんの斧が叩きこまれる。

 残った1人は2本も矢を受けてるけど、動きが鈍ったようにも思えない。

 それ以上の素早さでリーザさんが短剣を振いながら周囲を飛び回っている。

 オグルの注意がそれたところをシュタインさんが長剣を振り下ろして、俺達の戦いがどうにか終わったみたいだ。


 クロスボウを担いだところに、リーザさんが杖を運んできてくれた。

「ありがとう。2人はちょっときついんだよね」

「ほら、回収してきたぞ。それにしても1矢で倒せるとは優れものだ」

 シュタインさんからボルトを受け取ってケースに入れておく。その内、作れないか確認する必要がありそうだ。いつも回収できるとは限らないからな。


 オグルの死体は放っておけば良いらしい。その内に獣が食べつくすと言う事だが、相手が多ければ俺達が食べられる側になってるって事だよな。モモちゃんを守れるか心配になって来たぞ。


 昼食を取らずに、短い休憩を取りながら森を進む。

 物騒な森は早めに抜けるに限る。俺達は足早に森の中の街道を西に進んで行った。

 途中の小さな流れで水筒の水を補給し、どうにか森を抜けた時にはだいぶ日が傾いていた。


「今夜はあの林で休む。明日の昼には次の村に着くぞ」

 シュタインさんの言葉に励まされて、どうにか林の中の広場にたどり着く。

 焚き火の跡が新しいようだから最近、この場所で休んだ者達がいるんだろう。大して焚き木を取らずとも今夜は過ごせそうだ。


 簡単なスープにパンが2つ。昼食を抜いているからどんなものでも美味しく頂けるぞ。

 食事が終わってお茶を頂いていると、シュタインさんが片手剣を取り出して俺に放り投げてくれた。


「さっきのオグルの持ち物だ。大方傭兵の持ち物だったんだろうが、アオイが使うならやるぞ」

「ありがとうございます」と礼を言ってモモちゃんを見ると、お腹のナイフを叩いている。これがあれば十分という意思表示なんだろう。

 ケースから抜いてみると両刃だな。けっこう厚みがあるぞ。刀身は50cmに満たないが、だいぶサビが出ているな。元は良いものだったんだろうけどね。

 暇つぶしに丁度良いから、近くにあった小石を砥石代わりにして砥ぎ始めた。

 俺が水で濡らしながら研ぐのを興味深い目で4人が見ているぞ。

 

 昨夜と同じように、俺とモモちゃんが最初の焚き火の番になる。

 俺の持ち時間は3時間程だ。ウトウトし始めたモモちゃんをポンチョに包んで、じっくりと片手剣のサビを落す。


 翌日は1人で起きたんだが、周囲が明るくなったからだろうな。

 まだ、朝食用のスープを作っている最中のようだ。

 起き上がった俺にモモちゃんがお茶のカップを渡してくれた。ゆっくりと飲みながら眠気を覚ます。


「今日の昼過ぎには村に着く。途中で昼食を取らずに村の食堂で取るからな」

 そんなシュタインさんの言葉に、目を輝かせているモモちゃんを見て、ヒルダさんが微笑んでる。

 朝食を早めに取ったところで、俺達は街道を進む。

 定期的に作られた雑木林で休憩を取りながらだから、それほど疲れることは無いんだが、さすがに足が痛くなってきたな。

 だけど、村に着けば今夜はベッドで休めそうだ。


 昼過ぎに、前の村と同じような丸太で周囲を囲った村が見えてきた。最初の村と比べて2倍以上の大きさがありそうだ。

 最後の休憩を取る時に、クロスボウを分解してバッグの中に入れておく。

 腰のバッグの後ろにサバイバルナイフと片手剣を交差して取り付けているから、このままでも野犬なら十分に対処できるだろう。

 短い休憩を終えると、村は目と鼻の先だ。30分も歩かずに村の門にたどり着く。


「シュタインじゃないか! 商人達が待ってるぞ。ん? 仲間を増やしたのか」

「ああ、中々の掘り出し物だ」

 

 門番さんとそんな会話をして、村に入ったのだが、門の内側の広場には荷馬車が10台以上停めてある。この荷馬車隊の護衛をする事になるんだろうか?

 

「俺達はギルドに寄る。先に宿に向かってくれ。俺の昼食も頼んどいてくれよ」

 途中のギルドの建物でシュタインさんが別れてギルドに入って行った。俺達はそのまま通りを西に向かって歩いて行くと、2軒目の宿に入ることになった。


「ここが我等の定宿じゃ。レドネ! 今日から部屋は3つになる。昼飯は6人前だぞ」

ガドネンさんが怒鳴るようにカウンターのおばさんに伝えてる。

「あいよ。部屋はだいじょうぶだが、だいぶ若い子を仲間にしたね」

 そんな事を言いながら大きな木製のカップにビールを注いで持ってきてくれた。俺達にはお茶だけど、ガドネンさんは昼間から飲むんだろうか?


「若いが、腕は確かなようじゃ。数年後が楽しみだな」

 ガドネンさんが、ニタリと笑いながらモモちゃんの頭を撫でている。

「ガドネンの後ろにいるんだよ。怪我でもしたら私に教えておくれ。こいつの頭にフライパンをお見舞いしてあげるからね」


 おばさんの言葉に、ガドネンさんが苦笑いしてるけど、髭にビールの泡が付いてるぞ。

 モモちゃんはそんなおばさんに「ありがとにゃ」と返事をしてるから、椅子からヒョイと抱えられてハグされている。

 悪い人では無さそうだ。どちらかというと近所の世話焼きおばさんに良く似てる。体形までふくよかさが似てるんだよな。


 俺達のテーブルに食事が運ばれてきた時に、丁度シュタインさんが現れた。

 少し遅めの食事が始まる。

 ハムサンドに具だくさんのスープはお腹に溜まりそうだな。

 モモちゃんはパンをバッグに入れてスープでお腹を満たすつもりのようだ。


「リーザさん。モモちゃんは語尾に『にゃ』が付くんですけど、リーザさんはどうして付かないんですか?」

「私? そうね。大人だからかな。私もモモちゃんの頃は語尾に『にゃ』が付いてたわよ。大人になっても残ってしまう人もたまにいるけどね」

「あまり気にせぬことだ。種族によっては俺達の言葉を話し難い連中もいる。王都に長く住んでいたのだろうが、世の中は広いんだぞ」


 シュタインさんの言葉は、俺を少し気にしている雰囲気だな。

 王都暮らしはしてないんだけど、落ちぶれた下級貴族と思っているのだろうか?


「ところで、護衛の依頼は明日の朝からだ。いつもなら、いつもならビーゼントからアーベルグまでなんだが、その先のエバース村までを請け負う事になる。リーザは矢を買い込んでおけ。アオイの矢は少し変わっているが、武器屋に頼めば明日までに用意してくれるだろう。12本ずつ揃えとくんだぞ」


 食事が終わった俺達にシュタインさんが指示を出して、銀貨5枚をリーザさんに渡している。矢の代金と言う事なんだろうか?

 リーザさんに連れられて、俺達は武器屋に向かった。カンカンと鉄を鍛える音が聞えて来たから、看板もいらないと思うけど、ちゃんと木製の剣が扉の所に掛かっている。

 店に入ると、カウンターの若い女性店員にメリーさんが用件を切り出す。

 弓の矢は直ぐに手に入ったようだ。12本が単位なんだろう。値段は120Lとの事だった。モモちゃんの矢を見て、『子供用ね』なんて言いながら、少し短めの矢を出してくれる。値段は半額だから、初心者用にも使える矢と言う事だろう。問題は俺のボルトだ。ボルトを1本カウンターに置くと、しげしげと店員が眺めている。


「明日の朝までに12本必要なの!」

「ヤジリが面倒ですね。同じように鍛えるとなると2日は掛かりますよ」

「なら、クギを使ってくれませんか? 長いクギなら丁度良いです」

「おもしろそうですね。それなら、先ほどと同じ120Lで良いですよ。明日の朝にはお渡しできます」


 リーザさんが呆れてるけど、鎧通しと同じヤジリになるはずだ。先端を研げば十分に役に立つ。


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