8-07 騎士見習いは知った顔
厳冬期なら4、5日掛かった道のりだが、初夏の季節なら3日で北の洞窟に行くことができる。
途中の2泊は魔族の襲撃を予想してたけど、何事も無く過ぎて行った。
何とか洞窟に来たところで、入り口が頑丈に補強されているの知った。2個中隊が駐屯してるんだから、これ位は容易いのかも知れない。東西100D(30m)崖まで50D(15m)とガドネンさんが見積もっていたが、丸太を立てて高さ5m程の頑丈な柵になっている。真ん中に小型の荷馬車が通れるだけの扉があるけど、見張りの兵が俺達の姿を見て扉を開けてくれた。
「立派になってますね」
「外を見たか? 何度かやり合っておる。これ位にせねば、負傷者だけでは済むまいて」
ガドネンさんの言葉に周囲を注意して見ると、なるほど戦の準備ができている。これだけの準備をしていると言う事は、何度か小競り合いをした結果と言う事になるんだろうな。
「アビニオンの方々ですね。指揮所にご案内します」
俺達のところに走り寄ってきた騎士2人の片方に見覚えがある。確かキニアスじゃなかったか?
騎士の案内で洞窟に入る途中で、若い騎士に声を掛けてみた。
「キニアスだったよな。騎士になれたのか?」
「騎士見習いになれたよ。冬の荷役が評価されたみたいだ。お前達のおかげかもな」
「いや、やっぱりキニアスの実力だと思うよ。ガトル相手にあれだけ戦えたんだからな」
「褒めても何も出ないぞ」
それでもキニアスは嬉しそうだ。騎士見習いならば兵士からは一段上になるだろうし、作戦に加われば短期間で騎士になれるに違いない。
「キニアス、知り合いなのか?」
「ええ、冬の資材運送時に護衛をしてくれた傭兵団です」
もう一人の騎士はキニアスの指導官でもあるのだろう。騎士は騎士を育てるとシュタインさんが話してたことがあるからな。ある意味、師弟関係としていつまでも残るのかも知れない。
指揮所は、奥にある大広間への回廊の壁を切り出して作ったようだ。
よくも切り出したと感心したけど、後でガドネンさんに聞いてみたら工兵1個小隊を使えば1か月も掛からないらしい。工兵はドワーフ族だと力説してたけど、ガドネンさんも工兵の出身と言う事になるんだろうな。
扉を叩いて、自分の名を告げて用向きを告げる。
軍隊らしく形式ばっているけど、中の連中には用向きが分るから都合が良いだろう。
扉が開かれると、騎士に連れられた俺達も一緒に入る。指揮所の大きさは学校の教室位ある。天井も3m以上あるんじゃないか。よくもこんな空間を短時間に作れたものだ。
「久しぶりだ。シュタイン達なら安心できるか……。ドラゴンを倒したようだな。王都では騎士達が騒いでおるじゃろう。久しぶりにドラゴンの鎧ができるのだからな。我等には山街道の封鎖が解けた方が嬉しい話だ」
「アオイがいるからな。今ではアビニオンの軍師とも言えるだろう」
シュタインさんの言葉に笑いながら頷いたのは、大隊長だったんじゃなかったか? ドルネアさんだと記憶してるけど……。隣の副官が俺達にテーブルに着くように促してくれた。直ぐにワインが運ばれてきたけど、モモちゃんにはジュースのようだな。兵士の中には酒を飲めない者もいるのだろう。
「話はギルドで聞いて来たはずだ。殺れるか?」
「殺るためにやって来た。アオイの作戦は俺達全員が納得している」
「ほう……。参考までに聞かせてくれぬか?」
「俺達が頭だと思っていたのは、本当に頭だったのかという疑問が答えになる。土竜を広場に誘き出し、触手を火炎弾で吹き飛ばす。胴体を切って傷口に火炎弾を撃ち込み傷口を広げる。ここまでは今までの土竜対処の基本だと思う。問題はその後、俺達は土竜の尻を攻撃する。アオイの考えではそこに本当の頭があるという考えだからな」
指揮所にいた数人がシュタインさんの話に驚いている。
「全く、恐れ入る。是非とも我が隣に欲しいところだが、我等にも騎士がおるし、シュタインの知能を取り上げるのも問題だな。となると……」
「土竜を誘き出すまでは我等にも可能と考えます。全身を引き出したところでシュタイン殿にお任せするのは?」
思い出した。副官はリーザックさんだったぞ。いつもドルネアさんが隣に置くぐらいだから、役割分担の考え方は直ぐに出て来たな。優秀な副官と言う事になるんだろう。
「どうだ?」
「危険ではないか?」
「それ位は容易いものだ。ダリムを餌にすれば直ぐにも出てくるだろう。左手の通路の奥にある水場は是非とも押さえておきたい。あの広場に誘き出せば良いな?」
体育館2つ分ぐらいあったはずだ。土竜の大きさが前と同じでも15m程だから十分に広さはある。
「アオイはどう考える?」
「十分かと。それと俺からのお願いがあるのですが……。槍を使える者を数名にお手伝い願えないでしょうか? 頭を攻撃する時に胴を攻撃して頂きたい」
願いを切り出すと、直ぐにドルネアさんが頷いてくれた。先を続けると何人かが副官に走り寄る。
「止めんか! 見苦しいぞ。……アオイの作戦はワシの脳裏にも見事に再現できる。と言う事は、その通りの動きが可能と言う事に他ならない。1個分隊をアオイに渡そう。キニアスはアオイとガトル狩りを行ったと聞いたぞ。ならば互いに息が合うだろう。ラクシュはキニアスの指導を行っておるな。ラクシュとキニアスで槍兵1個分隊を選び、明日はアオイの指揮下に入れ。リーザックには済まぬが土竜の誘き出しを行う騎士を選んでくれぬか。それが成功しなければ倒すことは適わん。この作戦の要になる」
中々人を使うのが上手いな。これなら選ばれた人達も悪い気はしないし、リーザックさんの報告いかんでは参加者全員の評価が上がることになる。
シュタインさん達の部隊にはこんな大隊長がいなかったのかな……。
「それにしても、シュタイン達には驚かされる。とはいえ我が王国にはシュタイン達がおるが他の王国はそうもいかぬ。かなり苦労をしておるようじゃな」
「傭兵団が流れると?」
「金で動く者達ならばそうなるであろうよ。残念な事だ」
傭兵は金で動く。確かにギルドで依頼を受けて動くんだから、そうとも言えるけどね。
だけど、シュタインさんはかなり慎重に選んでいる気がするな。安くとも請け負うことだってあるからね。
「シュタイン達がそうではないことを、ワシ達は知っているつもりだ。とはいえ、兄上達が気にしていたぞ。戻る気は無いのか?」
「今更です。とはいえ、王国の大事には馳せ参じるつもりではおります」
ガドネンさん達がシュタインさんの言葉に頷いているし、その言葉を聞いてドルネアさんも満足そうな顔をしている。ある意味、本音を確認したと言う事なんだろうか?
リーザックさんが微笑みながらテーブルを回って、俺達にワインを注ぎ足してくれた。
「少し若手が増えたようじゃな?」
「愚弟の末娘とリブラム殿の次男です。いずれは……」
「実戦を経験させると言う事だろう。第1大隊もしたたかじゃな」
シュタインさんの兄弟は軍に深く食い込んでいると言う事になりそうだ。となると、シュタインさんが軍を離れた理由が気になるけど、傭兵団は入団前の経歴を一切無視するとも言ってたから、俺から聞く事はできないんだよな。
一旦出て行ったキニアスが再び指揮所に戻ってきて、俺達に宿舎の案内をしてくれた。
宿舎は更に通路を奥に向かった場所にある大きな広場の右側にある大部屋の1つだ。それだけでも体育館並みの広さなのだが、いくつかに間仕切りして宿舎にしているようだ。
「ここを使ってください。食事時には再度案内に来ます。さっきの大きな広場にテーブルがあったのが見えたと思いますが、そこで食事を取ることになります」
帆布で間仕切りされた部屋には2段の寝台が6個置いてある。
適当に座り込んで、明日の準備を始めることになった。とは言っても、槍を取り出すだけなんだけどね。
「その片手剣を付けた槍を使うのか?」
「今回は突き刺すのではなく、切裂くことが重要です。少し柄が短くなりますが、これで行きます」
そんな俺の言葉に、皆が取り出した槍をもう一度選んでいるぞ。モモちゃんは気にせずに弓と矢を取り出して矢を数えてるけど、数が分るのかな?
「土竜なら、ボルトも利くんだよね。私は投槍とこれにするわ」
リーザさんがクロスボウを取り出したのを見て、ファンドさんが槍を眺めて迷っているぞ。
「ファンド、槍は持って行く事だ。使う事が無くても我等が使える」
シュタインさんは2本も槍を持ち出したし、ガドネンさんはドラゴン相手の槍まで持ち出したぞ。さすがにそれは使えないんじゃないかな? ナリスさんが呆れた顔でガドネンさんを見ている。
どうにか一段落したころに、キニアスさんがやって来た。どうやら食事の時間らしい。キニアスさんに連れられて広場に行くと、天井に上げられた数個の光球に照らされた中、いくつかのテーブルに兵士が食事を取っていた。
案内されたテーブルに着くと直ぐに食事が運ばれてくる。
シチューに薄いパンとワインだが、モモちゃんにはホットミルクが付いていた。牛がいるんだろうか?
大勢が一緒に食事を取っているけどざわめきは少ない。広場壁が音を吸収するのだろうか?
食事が終わり、ワインのお代わりが運ばれてくると、数人の女性が俺達の席にやって来た。
「お久しぶりです。前にアオイ殿に呪文を教えて貰った魔導士です。明日の土竜退治に志願して認めて頂きました。【メル】は我等にお任せください」
「御協力を感謝します。明日の魔法担当は、ヒルダさんにモモちゃんでしたから助かります。申し訳ありませんが、ヒルダさんの指揮下で作戦に参加してください」
ヒルダさんが魔導士達に頭を下げている。了解って事なんだろう。これでモモちゃんの心配も少しは軽減できるぞ。




