8-06 土竜復活の知らせ
「良くも倒したものじゃ。ナリス手伝ってくれ」
まだぴくぴくと尻尾が痙攣しているんだが、ガドネンさんはトマホークとカナヅチを用意して首にトマホークを叩きこんでいる。
幅広のナイフをシュタインさんが持ち出してその隙間を広げ始めた。ナリスさんは槍を使って隙間に差し入れて皮と肉を分けている。
「アルガードの皮って売れるんですか?」
「ええ、売れるわよ。この大きさなら結構な額になるでしょうね。それに、肉も需要があるの。背中の肉は鹿肉よりも極上らしいわ」
ヒルダさんの話を聞く限りにおいて、一番凶暴な獣は人間達なんじゃないかな?
周囲の監視はファンドさん達がやってくれてるから、残った俺達は焚き火にお茶のポットを乗せて3人の作業終わるのを待つことになった。
なんだかんだと言いながらアルガードの皮はぎを終えたころには、空が明るくなってきた。
ヒルダさんはモモちゃんに手伝って貰いながら、スープ作りを始めている。朝食が終わればこのまま出発することになりそうだ。
「これで私もデミ・オーガになれるのだろうか?」
「ギルドの査定次第じゃな。ワシらだって、次のクラスには登れんじゃろう」
どうにか皮を剥ぎ取って、幌馬車の荷台に詰め込んだナリスさん達が、焚き火の傍に帰ってきた。
ヒルダさんから、お茶の代わりにワインを受け発ったガドネンさんが、ナリスさんの問いに答えている。
「まだまだ、先だな。今回もアオイの気転のおかげだろう。アオイの魔法攻撃で倒したようなものだ。アオイがいなければアルガードとの一戦はまだ終わっていないぞ」
「それだ! あんな威力のある火炎弾があるのか?」
「呪文のおかげでしょうか? 少し持ってる魔力が高いせいもあるんでしょうけど、何度も使えません」
俺の言葉に納得しかねるという目をしているけど、ヒルダさんが頷くのを見てそれ以上の詮索を止めてくれた。
「とはいえ、今回はあの槍が役に立ったな。潰さずに2本は幌馬車に乗せておいても良いだろう」
「そうじゃな。ワシも賛成だ。それと、幌馬車を一回り大きくせんか?」
「一回りと言わず、荷馬車並みにすれば良かろう。1台で十分だと思うぞ」
シュタインさんがガドネンさんの案を修正してるけど、俺も賛成だな。その方が、幌馬車の中が楽しくなりそうだ。
簡単に朝食を済ませて、俺達は休息所を後にした。
眠い目をこすりながらどうにか森を抜けて一泊し、その翌日の夕暮れ前にエバース村へと到着する。
ギルドにアルガードの皮を届けて、依頼の完了を確認して貰い報酬を受け取る。
その前にガドネンさんとリーザさんが俺達から離れて行ったけど、ガドネンさんの用事は幌馬車なんだろうな。
シュタインさん達と一緒にギルドで2人の帰りを待つことになる。
シュタインさんがパイプを取り出そうとした時、カウンターにいた娘さんがシュタインさんを呼びに来た。新たな依頼なんだろうか? 俺達はカウンターの奥に向かったシュタインさんの後姿を眺めた。
「新しい依頼ですって?」
「でも、いつもと違って、報告の後からよ」
「緊急と言う事なんじゃろうな。ワシの方は何とか出来たぞ。5日は掛かりそうじゃがな」
リーザさんとガドネンさんが戻ってきたので経緯をヒルダさんが説明してたけど、2人ともちょっと戸惑ってるみたいだな。新しい幌馬車は上手くできるって事だろう。移動時に幌馬車の中が賑やかになりそうだ。それより、ガドネンさんがどんなギミックを取り付けてるかが気になるな。
シュタインさんが奥に消えた後で、何組かの傭兵団がカウンターで仕事の確認を行っている。ドックレーの森のドラゴンが討伐されたと知って、ほっとした表情で帰って行く。これで山街道の通行止めが解除されたと言う事になるんだろう。
カウンターの奥の扉が開く音がする。
どうやらシュタインさんの打ち合わせが終わったようだ。俺達は皆で宿に向かう事にした。
1階の食堂で夕食を頂いた後で、ヒルダさんから報酬を受け取る。俺とモモちゃんで960Lというのは破格な報酬に違いない。
ワインのカップを持ち、皆で依頼の終了に乾杯すると、シュタインさんから次の依頼の話が始まった。
「北の洞窟を知っているな。現在2個中隊が駐屯しているが、劣勢らしい。シュバルツボーゲンの別の場所に同じような洞窟があるらしい。軍隊はそれを探していたのだが……」
「見付けたが、返り討ちというところか?」
「いや、そうではない。もう片方は上手く封鎖したそうだ。2個分隊を失ったらしい。問題は俺達が調査した洞窟だ。あの土竜が復活したそうだ」
「あれだけやられたんだから死んだと思ってたけど?」
「土竜は殺せるものではない。ドワーフ族の長い闘いの物語でも、土竜を殺した勇者は聞いたことが無いぞ」
蘇生能力が極めて高いと言う事なんだろうな。だが、あの時に口の中で火炎弾を炸裂させたはずだから、あたまも一緒に吹き飛んだはずだ。それでも再生出来るものなんだろうか……。いや、待てよ。俺達が頭だと思っている箇所は、実は巧妙な擬態と言う事も考えられる。群体生物かとも思ったが、精々クラゲ止まりのはずだ。となれば、やはり擬態と考えた方が良さそうだな。
「何か思いついたのか?」
シュタインさんがおもしろそうな目で俺を見ている。
「いや、あの時に俺達は頭を破壊したんじゃないかと……。それで復活できるわけを考えてたんです」
「頭とは違うと言う事じゃな。真の頭を潰せば倒せると?」
「えぇ~! 口があったんだから、あれが頭でしょう?」
「おもしろい。過去にも俺達と同じところまでは追い詰めた者達がいるが、その後で土竜は復活している。やはり、アオイの考えが的を射ていると言う事になるな。俺も頭が破壊されても復活した事に驚いたが、そう言う事なら納得できる」
「でもそうなると、土竜のどこに頭があるの?」
「わからん。だが、アオイには見当が付いてるんじゃないか?」
「ひょっとしてですよ。俺達は頭とお尻を間違ってるんじゃないかと……」
今度は全員の顔が俺に向いたぞ。だけど、ひょっとしたらだからな。俺に責任は無いんだけど。
「未だかつて、そのような考えを持ったもんはおらぬが、そうなると……」
広い場所に誘き出して、お尻を狙う事になる。頭だと思っていた場所の触手も厄介な話だ。
「槍をすべて持って行くことになるな。クロスボウは使える。触手を【メル】で潰せば長剣も使えるはずだ」
「頭はかなり小さいでしょう。擬態でお尻を頭に見せかけているぐらいですからね。それと、頭部からの攻撃は分かりませんか?」
俺の質問にガドネンさんが腕を組む。ドワーフ族の伝説はかなり奥が深いようだ。そんな部分を攻撃した者だっているはずなんだが。
「土竜のお尻から糸を吐くと聞いたことがあるぞ。クモの糸のようには粘らぬらしいが、たちまち1人を真っ白に包むほどだったらしい」
なるほど、クモと同じと見たんだろうな。だが、幼虫で糸を吐くならそれは頭のはずだ。
吐き出される糸が厄介だが、炎で燃やすこともできるんじゃないかな。
「何とかなりそうです。ただし、頭の攻撃は二人一組と言う事になるでしょうね。土竜を誘き出して広間に出たところを前回同様に攻撃して、最後に頭を潰すというやり方なら可能でしょう」
「準備する物は?」
「松明と、出来れば油を入れた容器が欲しいところです。吐き出される糸を燃やしながらでないと、頭に近付けないでしょう」
「良し、明日は準備だ。ガドネン、必要なら魔法の袋をもう一つ準備した方が良いかも知れんな」
夏だから、北の洞窟までは3日もあれば着くんじゃないかな。往復で6日、土竜退治に1日の7日の行程になりそうだ。
翌日早くに準備が始まる。
前回の土竜との戦いの話をヒルダさんから詳しく聞いたナリスさんは片手剣の刀身だけを武器屋から買いこんで来た。長刀を作るんだろうか? 確かに槍よりも使い手が良さそうだ。
リーザさん達も矢とボルトの数を確認している。ボルトが有効なのは知っているはずだが、洞窟までの道のりで魔族に合わないとも限らないからな。
「私達の幌馬車が門番さんのところに無かったにゃ」
「ガドネンさんが新しい幌馬車を作ると言ってたから、洞窟から帰って来たら新しいのがあるはずだよ」
「ダリムはどうなるのかにゃ?」
「分からないな。新しく幌馬車を引く牛が来るかも知れないし、もっと大きなダリムかもしれないよ」
モモちゃんが餌をあげてたからな。分かれるのが寂しかったかな。
だけど、ガドネンさんもそれは知ってるはずだから、後で聞いてみよう。
翌日。一人2個のお弁当を持って、俺達はエバース村の北門を出た。
先頭はシュタインさんとファンドさんだ。俺とリーザさんが殿になる。モモちゃんはヒルダさんと一緒だからリーザさんがちょっと寂しそうだ。
だけど、前、中間、後ろにネコ族がいるんだから、道中の監視は十分だろう。
雪山と違って草原と林の緑の中を俺達は進んでいる。だいぶ兵士達が行き来したのか藪が別れて道になっているな。
俺達はそんな道を北に向かって進んで行った。




