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8-05 俺の必殺技


 翌日の夕食時に、再度準備を確認する。

 ガドネンさんが作った槍は5本。ファンドさんも15D(4.5m)の竿と太い皮製のロープを手に入れることができたらしい。

 ヒルダさんは食料と矢を準備したらしいけど、矢はあまり役に立ちそうもない。だけど、ボルトを横腹に撃ち込むのは効果があるんじゃないかな。


「準備はできたようだな。再度、アオイの案を確認する」

「図鑑でアルガードの姿を見ただけで対策を立てられるのじゃから、たいしたものじゃ。ドワーフなら10人以上で戦斧を叩きつけるじゃろうな。倒すまでにどれだけ時間が掛かることか……」

「トラ族も似たようなものだ。だが、何人倒れようとも向かうだろうな。ネコ族なら最初から相手にはせぬだろうし、人間族なら追い返す手立てを模索して終わるのが常だ」


 要するに力攻めができる種族が相手をしていたと言う事か……。かなり犠牲者を出してきたんだろう。そんな犠牲者を出しながらも倒す事ができた傭兵団がドラゴンクラスを名乗っていたのかも知れない。


「それでは、作戦をお話します。先ずは……」

 相手を倒すには場所と役割が重要だ。

 アルガードがドックレーの森にいても、森を抜ける街道は狭いから俺達が自由に動くことができない。何としても森の中の休憩所で迎撃することにしたい。


「アルガードは夜行性だ。早めに休憩所に付いて準備をするなら、森の街道の途中で襲われることは無い」

「ならこっちにも都合が良いです。そうなると次は役割分担の再確認になります」


 直接攻撃と援護攻撃に分けて役割をもう一度説明した。

 今度はかなり危険な相手だからな。皆真剣な表情で聞いている。


「ところで、俺が槍を持つのは少し後にしたいんです。あの図鑑の絵を見て考えたんですが、ひょっとしてアルガードの横腹ならボルトが効くんじゃないかと……」

 俺の言葉に、ファンドさん達クロスボウを持つ連中の表情が変わったぞ。

「本当か?」

「あの絵では、横腹が膨らんでたでしょう? そもそも自分の体全体の表皮を硬くすることは出来ないんです。獲物を食べればお腹も膨れるでしょう。硬ければそんなことはできません。下腹を膨らませる事もできますから、横腹が柔らかいと言うのはやってみないと分らないんですけどね」

「一理ある話だ。やってみろ。上手くいけばファンド達の援護はかなり役に立つ」

「休憩所へのおびき出しは、途中で狩りをせねばなるまい。な~に、ラビーを数匹で十分じゃ。モモとアオイならわけ無いじゃろう」


 翌日は早めに村を発つ。

 ドックレー荒野を横断し、アーベルグの村に到着して、ギルドで再度ドラゴンの話をシュタインさんが確認した。


「どうやら1頭だけらしい。山街道は閉鎖という事だ。討伐の報酬が上がったぞ。銀貨60枚という事だ」

 1人銀貨3枚は確実だな。街道が封鎖されているなら村人達も困っているだろう。早めに倒したいものだ。

 翌日、アーベルグ村を発ちドックレーの森の手前にある休息所で野営を取り、俺はモモちゃんとリーザさんを連れてラビーを狩った。

 夕暮れまでに8匹を狩ったところで野営地に戻る。


「モモちゃんとアオイが一緒なら、いつでもラビ―が食べられるのよね」

 リーザさんがそう言って半分を焚き火で焼きだした。

「リーザ、それは餌なんだぞ。俺達が食べてどうする」

「4匹残ってるわ。それで十分でしょう?」


 食い気には勝てないよね。

 夕食にはラビーの半身を食べて明日に備える。

 久しぶりの焼き肉に、皆も嬉しそうだ。やはり大物を前に頂くと士気も上がる。ワインを飲みながら取らぬ狸の話をするのも、俺達の仲が良いのかも知れないな。


 翌日、日の出とともに森に入る。モモちゃんは怖いのはいないと言ってたから、森の中の休憩所までは、とりあえず安心できるだろう。

 シュタインさん達を先頭に、俺達の幌馬車が進む。

 モモちゃんと俺は後ろの幌馬車の荷台の中だ。最初は森の中をあちこち眺めていたモモちゃんだが、最初の小休止を取る前に夢の中に戻ってしまった。

 御者台にはリーザさんがいるから周囲の監視は問題ないだろう。今夜が勝負だからね。

 朝早く発って、休憩時間を切り詰めたおかげで、まだ日が高い内に盛るの中にある休憩所に着くことができた。

 リーザさん達が幌馬車の後ろにダリムを移動して焚き火の準備を始めるようだ。俺達男達は森に入って焚き木を出来るだけ集める。大きな焚き火を作ればその後ろに隠れることもできるだろう。


 ヒルダさん達が夕食を準備する間に、アルガードの迎撃準備を進める。

 杭のような太い柄が付いた槍を広場の左右に準備し、3つの焚き火の入り版奥にだけ火を点けて左右の焚き火にはまだ火が点いていない。アルガードがやって来てから火を点けるって事なんだろう。

 そんな焚き火の後ろに輪が付いたロープを付けた竿を用意した。


「入るかどうかは分らんが、これも用意しておこう」

 3匹のラビーを広場の真ん中付近に置いて、その周りにロープで輪を作った。ラビーを食べようとしたところでロープを引けば輪が締まるという見え見えの仕掛けだけどね。俺達もクロスボウとボルトケースを焚き火の後ろに隠して置く。


「これで準備が終わった。いつやってくるかわからんから、食事は今の内だぞ」

「ラビーを解体して街道にばら撒いておきました。まだやってはきません」

 シュタインさんが焚き火の傍に腰を下ろして俺達に告げた。少し遅れてその隣に座ったファンドさんが全ての準備が終わったことを皆に告げる。


「やって来るぞ。早いに越したことは無いがのう」

 スプーンでスープを掻き込みながらガドネンさんが話すのを、顔をしかめてヒルダさんが見ている。行儀が悪いって事なんだろうな。

 それほど急がなくても良いんじゃないかな? モモちゃんがおとなしく食べているからね。

 俺達の食事が終わると、焚き火の傍に寄せておいたお茶のポットを使ってヒルダさんが俺達にお茶を入れてくれた。

 シュタインさん達がパイプを使い始めた。後は待つだけだからね。モモちゃんが配ってくれた飴玉を口の中で転がしながら俺達は待つことになる。


「来るにゃ……。お兄ちゃん、怖いのがやって来るにゃ!」

「だいじょうぶだ。最初に2発。頭に【メル】だ。その後は、離れたところから目を狙って矢を放ってくれよ」

「分かったにゃ!」

 モモちゃんの元気な声に、少し微笑んだシュタインさんだったが、パイプをしまうと俺達目を向ける。

「アオイの作戦通りに行く。役割は覚えてるな。ヒルダ、モモを頼んだぞ!」

「「オォ!」」

 各自が【アクセル】を自分の身に掛けると、声を掛け合って焚き火の傍を離れる。リーザさん達が左右の焚き火に火を放った。

 3つの焚き火の真ん中にラビーが3匹置いてある。はたしてそれを狙って広場に入って来るんだろうか……。


 俺達は西側だ。直ぐ傍に太い槍を持ったナリスさんと、長い竿の先に輪が付いた罠を持ったリーザさんがいる。

 東側の焚き火の後ろにはシュタインさん達がじっと待っているに違いない。


「近付いてるわ。もうすぐ広場に入るわよ……」

 来るのが分っているから、入り口に柵は移動していない。そのまま入って来れるはずだ。

 ガチガチと爪が石を叩く音が聞こえて来た。いよいよか……。

 焚き火の明かりの中に姿を現したのは、やはりワニだな。かなり大きいぞ。5mはあるんじゃないかな。

 ワニの背中はかなりの硬さだ。やはり横腹が狙い目に見える。腹は殆ど石畳を擦るような感じで歩いているな。頭の大きさだけでモモちゃんの身長位ありそうだ。今はゆっくりと動いているが、ワニは意外と素早いと聞いたことがあるぞ。


 ゆっくりとラビーに向かって歩いている。 正面にはモモちゃん達がいるはずだが焚き火の後ろだから今のところは安全だろう。

 クロスボウの弦を引いて、ボルトをセットする。

 立ち膝でクロスボウを構えるとアルガードがラビーを食べる瞬間を待つ。

 獲物を捕らえる瞬間が一番無防備になるはずだ。


 爪を鳴らしながら広場の中に入ったアルガードが、口を開いて最初のラビーを口に入れた瞬間、トリガーを引いた。

ドス!

 音が聞えた気がする。一瞬アルガードが身をよじるように体を捻った時、シュタインさん達が一斉に飛び出した。

 ナリスさんが深々と槍を横腹に突き入れて引き抜く。傷口から血が噴き出たところを俺のボルトが直ぐ傍に突き立った。

 ガドネンさんがロープを引いたらしく、上手い具合に前足の1本に輪が締まっている。これで動きが制限されるはずだ。

 身を激しくよじってロープを切ろうとしているところに、ファンドさん達が口にロープを絡めている。

 散発的に頭に【メル】で作られた火炎弾が炸裂してるがあまり効果は無いようだ。とはいえ、相手を混乱させるには十分に使える。


「リーザさん、ボルトが効いてる!」

「分かったわ。ファンド、ヒルダ、ボルトが効いてるって!」


 2人に知らせると直ぐにクロスボウを取り出して参戦してくれた。

 横腹はかなり槍で突かれているから、周囲が血の海に見える。だが、俺達を見る目はいまだに攻撃的な目をしている。

 その眼に矢が放たれる。激しく頭を動かしてるからモモちゃんの腕でもなかなか当たらないようだ。


「さすがはドラゴン族だ。しぶといな」

「血が全て流れるまではダメなようですね。ナリスさん、少し頭に近い場所を攻撃してくれませんか? 傷口に【メル】を放ってみます」


 直ぐにナリスさんが場所を移動してくれた。

 北の洞窟では効果があったけど、ドラゴンにも利くんだろうか?

 とりあえず試してみよう……。

 呪文を唱え、火炎弾を左手に作る。次の呪文で集束させ、素早くアルガードに駆け寄って火炎弾を傷口に押し込むと後ろに飛びずさる。


ドォン!

 今までの火炎弾の炸裂とは異質な炸裂音が周囲にこだますると、アルガードは頭をのけぞる様に上げて大きな唸り声を上げた。

 ダメか? そう思った時、そのままアルガードの頭が広場の石畳に落ちて行った。


 頭が落ちた振動が足元から伝わってくる。

 クロスボウを構えて様子を見たが、動く気配は無いようだ。


「やったのか!」

「分かりません。ですが、まだ血は流れてます」

 直ぐには止まらないのだろう。それともまだ心臓が動いているのだろうか?


 しばらくじっと見ていると、シュタインさんが慎重にアルガードに近付いて奴の目に槍を突き差した。体重を乗せて深く突きだすと柄を持って中をえぐっている。あれなら脳まで破壊されているだろう。もう1つの目にはモモちゃんの矢が突き立っている。それ程深くは無いけど、失明したのは間違いなさそうだ。


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