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8-04 ドラゴンと言うよりワニじゃないか?


 翌日、地下の墓所から地上に戻る。

 出発間際に祭壇に向かって手を合わせる俺に、モモちゃんが慌てて見習っている。そんな俺達をシュタインさんがジッと見ていたが、別に言葉を放つことは無かった。

 どんな神であれ敬意は払うべきだろうし、死者が埋葬されているなら彼らにも静けさを破った事を詫びることぐらいはやっておかねばなるまい。触らぬ神にタタリ無しというけれど、すでにモモちゃんに憑依しているようだからな。


 やっと地上に出てまぶしい光に目を細めていると、足元から振動が伝わってくる。

 振動が段々と大きくなり、俺達は慌てて周囲に何もない場所まで駆けていった。数十mほど遺跡の入り口から離れたところで後ろを振り返ると、遺跡の上部が陥没している。


「地下の広間が埋まってしまったのう……。再び見ることは出来んじゃろうな」

「そうなると、これだけが遺跡の財宝って事になるの?」

「たぶんな。小箱の宝石はありきたりの品だ。貴重というわけではない」

 シュタインさんの言葉に、ヒルダさんがモモちゃんに顔を向ける。無言だけど、あの真っ黒な魔石は価値があると言う事なんだろうな。

「魔石の話はしないでおく。これだけでも十分な財産だ。ギルドや王族も喜ぶだろう」


 各自1個ずつ頂いた。俺はこれだ。と言えばギルド長も納得するだろう。リーダーの選んだ宝石以上の物を他者が持つというのもあり得ない話という事だろう。トラ族のシュタインさんは正直だから、話す言葉には嘘が無い。

 風が出て来たので急いで帰路につく。北風だから歩くには楽だけど、モモちゃんが何度か転んでしまってからは俺のベルトをしっかり握って歩いている。

 このままだと、あの遺跡は再び砂に埋もれてしまいそうだ。

 

 どうにか砂と砂利の広がりを抜けてまばらに草の生える荒れ地に出た。少し大きく広がった枯れた藪の風下で野営することになるだろう。

 シュタインさんが野営地を決めたのはほとんど夕暮れ時だった。

 まだまだ強い風が吹いて、砂を飛ばしてくる。テントを広げてどうにか砂を防ぐと、残った焚き木で焚き火を作る。

 周囲に、怖いのはいないとモモちゃんが教えてくれたから安心できるな。

 それでも、俺達が夕食を取った時には、星空が輝いていた。


「それで、モモちゃんはあの石像と何を話したの?」

 リーザさんがワインを飲みながらモモちゃんに質問している。食事が終わった一時は、皆でお茶やワインを飲むのがアビニオンの恒例だ。モモちゃんだけがブドウジュースなのはしかたがない事なんだけどね。


「お兄ちゃんの御嫁さんになりたいってお願いしたにゃ」

 モモちゃんの話を聞いて、皆が一様に微笑んだ。ちょっと恥ずかしくなって俺の顔は赤くなっているに違いない。


「だいじょうぶじゃ。モモならアオイの嫁さんになれるじゃろう。アオイに他の女性が近付いたらワシが追い払ってやるぞ」

「兄弟として育ったんでしょうけど、異種族だから私も応援してあげるね」

 リーザさんも乗り気だな。問題はどっちをどのように応援するか、ってことなんだろうけど、絶対に俺達で遊ぶ魂胆が見えているぞ。

「私は、その見返りが気になるわ。モモに話しかけて来たんでしょう?」

「私と一緒にいたいと言ってたにゃ。分ったと答えたにゃ」


「何だと、 聖霊神の憑依を許したのか!」

「不味かったんでしょうか? 『我が名はバステト……』と俺には名乗っていました。モモが倒れた時にです」


 リーザさんとファンドさんは口を大きく開けてアワワ状態だ。ヒルダさんも眼を見開いているぞ。


「獣人族の女神じゃ。バステトとはのう……。あがめる者は多いぞ。他言は無用じゃ」

「バステトの憑依……。無敵でしょうね。それは私達にも及ぶのかしら?」

「モモ限定のようです。俺としては安心できますが、不味かったでしょうか?」

「まあ、妥当なところじゃろう。モモの祈りに答えた以上、モモに限定は理解できる話じゃ。そんなに都合よくいくものではない」

「……だな。俺もガドネンと同じ思いだ。それでも神の加護はモモを通して我等に及ぶことがあるだろう。とはいえ、それを期待してはダメだということに違いない」


 いずれは去ることを言ってたからね。神頼みは良くない。

 やはり自分達の腕を上げて今まで以上の依頼をこなせるようにしなければなるまい。

 いつものように俺の横にぴったりくっついてるモモちゃんを見ると、昨夜と全く変わらないんだけどね。

 

 翌日にモスデール荒野を抜けて、草原と小さな林を西に向かって歩く。来る時は荷馬車だったけど、帰りは歩きだから1日で歩ける距離が限られている。

 結局、俺達がテレス村に着いたのは、出発してから6日目の午後のことだった。


 村に入ってすぐにリーザさんが俺達と別れて宿に向かう。2泊をとりあえず頼んでくるみたいだ。残った俺達はギルドに向かった。

 ギルドに入ると、シュタインさんとガドネンさんがカウンターの扉を開いて貰って奥に向かう。俺達は、テーブルでお茶を飲みながら待つことになった。


 急にギルドの扉が開いて数人の男女が入って来る。荷馬車の護衛をしているのだろう。疲れた表情で、カウンターに向かったのはリーダーに違いない。残った5人程が俺達に近いテーブルに腰を下ろした。


「俺達は、メリック傭兵団だ。あんた達は?」

「アビニオンよ。護衛の途中かしら?」

「そんなとこだ。これからジェリムの町に向かう。エバース村を目指してるんだが、ドックレーの森が物騒らしい。あんたらも護衛には気を付けろよ」

 

 かなり遠回りして荷を運ぶらしい。軍隊用の荷物かもしれないな。

 だけど、俺達が通った時にはあまり変わらなかったようにも思える。また魔族達が森に入ったんだろうか?


「リーデルが出るの?」

「ドラゴンを見た奴がいる。小型の4本脚らしいが、ドラゴン族には違いない」


 ドラゴンがいるとは聞いたけど、どんな奴なんだろう? 4本脚の小さい奴と言ったらワニみたいなものなんだろうか?


「ドラゴンとはな……。我等で対処しきれるか?」

「シュタインがどう判断するかってことでしょうね。全く、精々ゴブリンぐらいだったのがどうなったのかしら」

 

 ナリスさんとヒルダさんはかなり表情が硬くなっている。モモちゃんが俺を見上げてるけど、頭を撫でてやるとニャハハと小さく笑ってる。アビニオンの護衛地帯にいるとなると、いずれはと言う事になるんだろう。だが、どんな奴なんだろうな?


 再びギルドの扉が開く。やって来たのはリーザさんだ。俺達のテーブルに途中で椅子を拾ってやってきた。


「まだ、相談中なの?」

「長引いてるようだ。宿は?」

「問題なし。次はどこだろうね」


 リーザさんがファンドさんと話しながら、自分でポットを持ってきてお茶をカップに注いでる。俺達のカップにも注ぐと暖炉に戻しに向かう。

 ふと、隣のテーブルを見ると、いつの間にか傭兵達の姿が消えていた。明日は早くに発つんだろうな。


 ガタン! と音を立ててカウンターの奥の扉が開く。

 どうやら終わったらしい。次の依頼は簡単なのが良いんだけどね。

 2人が隣のテーブルから椅子を取って腰を下ろすと、シュタインさんが俺達の顔をぐるりと眺める。

 

「めんどうな依頼だ。ドックレーの森でドラゴンを撃つ」

「ドラゴンと言っても、アルガートらしい。皮が分厚く固いから難儀しそうじゃがな」


 さっきの傭兵達も注意しろと言ってたけど、まさか直ぐに対峙することになるとは思わなかったぞ。

 リーザさんがカウンターから図鑑を借りて来てテーブルの上に広げる。ヒルダさんが図鑑をめくってアルガードを探していたが……、どうやら見付けたようだ。

 名前が似てるから、ひょっとしてと思っていたけど……。

 全長15D前後で重さが150Ctカウント、移動速度はかなり素早いらしい。張り出した太い脚には鋭い爪があるけど、3D(90cm)ほどに伸びた口には鋭い歯が描かれていた。


「噛みついてから身をよじって食いちぎるらしい。矢はまるで役に立たん。アオイのボルトも無理だろう。槍で仕留めることになるんだが……」

「ワシかトラ族でなければ奴の皮を突き通せん。突き通して捻じれば穂先が折れてしまいそうじゃ」


 俺達の槍は穂先を短剣にしてるからな。分厚い皮で覆われた奴なら、ガドネンさんの言う通りだろう。


「穂先と柄を変えますか。穂先は鉄の丸棒。柄はそれ自体で重さを持つなら、こいつの皮を貫通できそうですけど?」

「鉄の棒を削るのか? それを杭のような柄に取り付ければ……。なるほど、深く突けそうじゃ。シュタイン、4本作るぞ!」

「今の槍は止めを刺すのに使えそうだな。何日掛かる?」

「明日1日で十分じゃ。そうなると、明後日に発つのか?」

 なるべく早くと言われたそうだ。

「もう一つあるんですが?」

 皆が俺の注目する。長い竿の先にロープで輪を作り、奴の口を閉じる方法を提案してみた。

「それは、私が担当できそうです。いくらアルガードが素早くとも、【アクセル】状態のネコ族よりは落ちるでしょう。リーザと共に左右から挑んでみましょう」

 リーザさんが真剣な表情で頷いている。

 となると、残ったヒルダさんとモモちゃんの役目は奴の目くらましだな。【メル】で作った火炎弾を目の付近に浴びせれば良い。


 全員がシュタインさんに大きく頷いて見せる。それに頷く事でシュタインさんが答えた。さてどうなるか。

 アルガードだけなら問題なさそうだが、付録が付いているということは無いんだろうな。


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