7-09 砂トカゲの襲来
シュタインさんに続いてガドネンさんがひょいっと軽く荷車に飛び乗るようにして外に消えて行った。
荷車に飛び乗った状態で俺とナリスさんがクロスボウと弓を構える。
いったい何がやってきたんだ?
「砂トカゲだ! 槍を投げてくれ!」
シュタインさん達が武器を収めて、ナリスさんの投げた槍を手にする。ナリスさんも槍を手にガドネンさんの隣に下りて行った。
「アオイはクロスボウを使え。俺達の援護を頼んだぞ!」
シュタインさんの声に「オゥ!」と返事をした時、俺の目にも砂トカゲという相手が見えてきた。
2mに満たないトカゲだが、額に片手剣ほどの鋭い角を持っている。体高が50cm程だから、場合によっては荷馬車の下に潜り込まれかねないな。
「モモちゃん、リーザさんと荷馬車に上がるんだ。荷馬車の上なら少しは安全だ」
モモちゃん達がごそごそと這い出してる音がする。
少し手伝ってあげたいけど、突進してくる砂トカゲに向けてトリガーを引いた。急いで弦を引くと次の砂トカゲに狙いを付ける。
その時、目の前に紅蓮の壁が出現した。
「ヒルダの【メルト】よ。助かるわね。目にするのはこれで2度目だけど、やりやすくなったわ!」
後ろからの声はリーザさんだ。どうやら2人とも俺の後ろに上ったようだ。
「ここを頼みます。俺は下に下りますから」
クロスボウを手に荷台から飛び降りて、ナリスさんの後方に位置する。
ここなら、ナリスさんを援護できるし、俺に近寄って来るトカゲはモモちゃん達がやっつけてくれるはずだ。
続けて2度ボルトを放った時、俺の直ぐ傍に砂トカゲが迫ってきた。背中に2本の矢が刺さってるけど、動きに変化はない。
クロスボウを横に置いて背中の長剣を引く抜き、砂トカゲの横に回り込むようにして首に長剣を突き刺す。
思ったより簡単に突き刺せたぞ。背中の矢がどうにかヤジリまで体に刺さってたからかなり固い皮膚だと思ってたんだけど……。
「モモちゃん、相手の首を狙うんだ。背中はあまり効いてないぞ!」
「分かったにゃ!」
「皆、背中じゃなくて首だって!」
リーザさんが大声で周囲に知らせている。弓を使う連中は多いからね。
素早く周囲を見渡して砂トカゲがいないのを確認したところで長剣を戻してクロスボウを使う。
ひたすらボルトを放ち、ボルトが尽きると今度は槍を持ってナリスさんの後方に位置する。
ナリスさんの横に回ろうとする砂トカゲを2匹討ち取ったところで、急に辺りが静かになった。
どうやら危機が去ったのかな?
「もういないにゃ。遠くにピョンピョンがいるにゃ」
ピョンピョンというのはたぶんラビーなんだろうな。近くなら焼き肉の良い材料なんだけどね。
「ご苦労だった。安心して前を向ける」
槍を手に近付いて来たナリスさんが俺の肩をポンと叩いて荷台を越えていく。
シュタインさん達も戻って行くところだったから、俺もクロスボウを回収して荷台を越えて焚き火に向かう事にした。
モモちゃん達の隣に座ると、ヒルダさんがワインのカップを配ってくれる。モモちゃんにも渡してるけど、俺に「ジュースよ」と教えてくれた。わざわざ買い込んでくれたのかな? 手間を掛けて申し分けないところだ。とりあえずヒルダさんに頭を下げると、笑顔で答えてくれた。
「どうにか対処したな。ナリスとファンドも良くやってくれた。事前にアオイが【メルト】の話をしていたのが良かったのかもしれん。ヒルダが躊躇せずに放ったからな」
「長剣は使えるじゃろうが、槍も中々じゃ。親父殿の薫陶と教練の賜物じゃな。角は明るくなってからで良いじゃろう。商人達には1本ずつ分けてあげれば喜ばれるはずじゃ」
あまり役立ったとは言えないけれど、手伝って貰ったことは確かだからな。その辺りの報酬のさじ加減もしなければならないと言う事なんだろう。
「それにしても、クロスボウは強力だわ。リーザもガドネンに作って貰いなさい。かなり役に立つわよ」
「そうじゃな。ファンドの分と合わせて作ってやろう。少なくとも弓の2倍は強力じゃ」
状況に応じて武器を変えると言う事になりそうだ。パーティの人数が当初の2倍になっているんだけど、この頃の街道警護は物騒な連中が多いからな。
翌日、砂トカゲの角をガドネンさんがトマホークで器用に折り取っていた。
それを見てシュタインさんまでもが俺のトマホークを狩りに来る始末だ。あまり使う機会が無かったから、シュタインさんに進呈することにした。
角の数は30本を超えている。6本を荷役商人に渡して残りは今回の警護の余禄となるようだ。
少し遅い朝食を取って、テレス村へと向かう。
何事も無く、テレス村に到着した。これで俺達の警護は終了する。
報酬は1人140L。これに砂トカゲの角の報酬が30L追加になる。
「少し、角の報酬が減ったが、リーザとファンドのクロスボウとアオイのトマホークを作るための材料費じゃ。2日ほど村に逗留してくれるとありがたいんじゃがな」
遅めの夕食が終わったところで、ワインを飲んでいた俺達にガドネンさんが説明してくれた。
「だいじょうぶだ。ガドネンの仕事が終わり次第で良い。ボルトと矢も買い込んでおいてくれ。足りない資金はヒルダに言って欲しい」
「ボルトケース2個分を個人と言う事で良いじゃろう。矢は不足しとるのう。リーザが揃えておくんじゃ。ボルトはアオイの分を含めてワシが責任を持つ」
「ガドネンさんの仕事次第と言うのが気になるんですが?」
俺の質問にシュタインさんが俺に顔を向けた。
「気になるか? ギルドの特命というやつだ。アビニオンを名指しで仕事の斡旋をしてきた。受けねばなるまい」
「いよいよ名が売れたと言う事なのね。他の傭兵団より頭一つ抜け出したわ」
「潰す気なのかしら? どうにかデミ・オーガクラスよ。ギルドの特命ならオーガクラスでもあまり聞かない話だけど……」
出る杭は打たれるって事なのかな?
リーザさんは嬉しそうだけど、シュタインさんとヒルダさんは複雑な表情をしている。ナリスさんは目を輝かせてるし、ガドネンさんは渋い表情だ。
「一応、受けることが前提だ。詳細は明日、ギルドで聞くことになる。アオイとヒルダも付いて来い」
「そうね。アオイの知識がどこで得たかは分からないけど、シュバルツボーゲンを彷徨っていたなら、記憶喪失になっても仕方がないわ。でも、アオイの記憶の断片さえ私達には役立つわ」
かなり面倒な依頼と言う事なんだろうか? 前のように北の洞窟探索に似た依頼なのかもしれないな。
翌日、ガドネンさんは武器屋に出掛け、リーザさんはモモちゃんを連れて雑貨屋に向かった。ナリスさんは村の周囲をファンドさんと一緒に偵察に出掛けたらしい。
シュタインさん達の後に付いて俺はギルドに向かう。
ギルドのカウンターで用向きを告げると、直ぐにカウンターの扉を開いてくれた。奥に続く通路の途中にある扉を開けて中に案内してくれる。
教室よりも少し狭い感じの部屋だ。低いテーブルとベンチのような長椅子が四方を取り囲んでいる。
一番奥に、シュタインさんと、ヒルダさんが腰を下ろして、俺は横のベンチに腰を下ろす。
直ぐにお茶が運ばれてきて、精悍な顔つきをした老人が入ってきた。老人と言ったのは髪と髭が真っ白で顔には深いしわがあったからだが、体つきは俺よりもがっちりしているトラ族の戦士のような感じだ。
「頑張っておるようじゃな。北の洞窟の話はここまで聞こえてきたぞ」
「ガルジナ殿もお元気そうで何よりです。それで、今回の話ですが……」
「そう急ぐこともあるまい。そっちの若者がオーガを倒した若者か。良い目をしておるな」
「アオイと言います。シュタインさんのパーティに加えて頂きました」
ギルド長は、俺の言葉に目を細めて俺を見ていたが、直ぐに視線をシュタインさんに戻した。
「人間族とは異なるようじゃ。シュタインの力になるじゃろう。それで、依頼の件じゃが……」
ギルド長が腰のバッグから紙を取り出してテーブルに広げた。
俺達はジッとその紙を見たんだけれど、最初は何が描かれてるかまるで分らなかった。
紙には直線が幾つも伸びており、いくつかの中心点が描かれている。これって……。
「地図ですか?」
「ほう、さすがじゃのう。だが、どこの地図かは分かるまい。モスデール荒野の地図なんじゃが……」
長老が、地図の一角を指差した。何かが書いてあるけど、俺には読めないな。
「神殿跡?」
「そうじゃ。モスデール荒野の端で、ミツバチ猟をしていた傭兵団が見付けた。6人の内3人がやられたが、イグル(野犬)クラスでは仕方なかろう。いつの間にかモスデール荒野に深入りしたようじゃな」
「となると、我等の任務とは?」
「神殿の探索じゃよ。分かる範囲で良い。その情報に応じて報酬を払おう。とはいえ、魔族が棲むようなら少しは数を減らして欲しいものじゃな」
北の洞窟と同じって事かな? となるとモモちゃん頼りになりそうだが、今回はファンドさんもいるからね。前衛だってナリスさんが加わってるし、ガドネンさんがクロスボウを2つも作っている。北の洞窟よりも少しは荷が軽い事になりそうだ。
「地図は合っているのか?」
「ガドネンに渡せば分ってくれるはず、だが、用心はするんじゃぞ」
「期間は?」
「そっちで判断して構わん。その間の幌馬車とダリムの世話はギルドで対応しておく」
見てくるだけでも報酬を貰えそうな感じだな。だけど、それだけではアビニオンの評価に係わることになりそうだ。今回の依頼はアビニオンの傭兵団としての質を確認するためのものかもしれない。
「了解した。少し準備を整えたい。3日後に出発する」
「門番にはギルドから知らせておくぞ。それでは頼んだからな」
ギルドの小部屋を出ると、暖炉際のベンチで皆を待つことになった。
ナリスさん達は喜ぶかもしれないけど、モスデール荒野の奥地に向かうのはかなり危険かもしれないな。




