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7-06 塩の搬送を終えて

「プレイターとはな。まあ、無害な奴ならそっとしとく事だ」

「グラスターの移動は、まだ先のようだ。いないに越したことはない」

 

 それはそうだろうけど、大きなカエルというのも見てみたかったな。

 朝食を終えると、俺達はビーゼント村に向けて間道を北に向かう。

 エバース村を出てからだいぶ経つから、少し陽気も良くなったように思える。たぶん山街道の森の中を通る道の雪も融けてるんじゃないかな。

 まだまだ寒いけれども、身を切られるような寒さは無くなった。コタツモドキの携帯コンロを利用するのも次の護衛が最後になりそうな気もする。

 

「アオイ、右手を見て!」

 御者台のリーザさんの言葉にモモちゃんと一緒に幌馬車から頭を出して右手を見ると……。

 大きな湖があった。蒼く見えるのは空の蒼さを反射しているためだろうか。

「綺麗ですね」

「大きいにゃ……」

 あれだけ大きいとたくさん魚が棲んでいそうな感じだが、村が近くに無いということは危険な湖でもあるのだろう。それとも、神秘的な美しさに畏怖を覚えたのかもしれないな。


 昼食は、湖が良く見えるところで取った。ここを通る連中は皆この場所で昼食を取るんだろう。焚き火の跡が幾つもあるからね。景色のいいところで食べる昼食は、普段通りの昼食でも一味違うんじゃないかな?

 それはモモちゃんも一緒だろう。スープのお代わりをしていたぞ。


 間道が坂道に代わって少しずつ登って行くのがわかる。湖が見えなくなってしばらくすると前方に村が見えてきた。

 どうやら、ビーゼント村に戻って来たようだ。


 ビーゼント村でしばらく休息するらしい。リーザさんは宿を探しに出掛けたが、3日の宿を頼む事をシュタインさんに指示されていた。

 門の番人に幌馬車を頼むと、俺達はシュタインさんの後に付いてギルドに向かう。

 ギルドのカウンターにシュタインさんが依頼書を広げていたから、報酬の受け取りと次の依頼を探すんだろう。

 俺達はその間、暖炉近くのテーブルで待つことにした。


「アビニオンのガドネンじゃねえか。どこから来たんだ?」

「エバースからアーベルグ、テレス、ナルスを巡ってきた。塩の運送じゃよ。レビット達はどうなんじゃ?」

「ハーネル町から荷馬車の護衛じゃよ。山街道の雪も融けたようじゃしのう」


 ガドネンさんに声を掛けてきたのは同じドワーフ族の男だ。この稼業ではドワーフ族は少ないからな。

「ちびっ子まで雇うのか? もう少しマシな傭兵もいるだろうに」

「なんの、こいつらのおかげでオーガを倒せたようなものじゃ。見掛けはちっこいが、腕は立つぞ」

 可愛がってるモモちゃんをけなされたと言う事かな。誤りを訂正してくれてるぞ。

「ほう、ガドネンが言うなら、そうなんだろう。人は見掛けによらんということじゃな。ちっこいの、ガドネンの後ろにいるんじゃぞ。怪我をしたらワシに教えてくれれば良い。こいつの頭にこれをおみまいしてやる」

 大きなハンマーを取り出してモモちゃんに言ってる。吃驚した表情で頷いているから、相手も笑顔でモモちゃんの頭を撫でてる。直ぐに薄炉に下がって俺の隣にビシっとくっ付いたところをみると、少し人見知りする性格なのかな?

 レビットと言うドワーフは大声で笑いながら暖炉の仲間のところに行った。仲間に何事か耳打ちしてるけど俺達の事なんだろうな。


 ヒルダさんがお茶のポットを暖炉から下して来て、俺達のカップに注いでくれた。

 やはりこの季節は温かな飲み物だな。シュタインさんを待ちながらゆっくりとお茶を味わった。

 シュタインさんがテーブルに着くと、報酬をヒルダさんに渡す。分配はヒルダさんの役目だからね。

 受け取った金額は1人120L。モモちゃんはそのまま俺に渡してくれる。明日は雑貨屋を見てみようかな。上手く、魚の干物でもあれば良いんだけどね。

 リーザさんが戻ったところで宿に場所を移し、夕食を取ることになった。いつもの薄いピザの様なパンでは無く。丸いパンはモモちゃんのお気に入りだ。

 最初は、スープだけで済ませていたけど、このごろは2つ出てくるパンの1つを食べるようになってきた。少し育っているんだろうか? そうは見えないんだけどね。


「次の依頼はビーゼントからエバースまでの荷馬車の護衛になる。荷馬車の台数は12台。用心にガトルクラスの傭兵団が付いてるらしいが、2つの森を越える区間を俺達が追加で加わる」

「他の傭兵団はおらんかったし、低報酬でもやらんわけにいはいかぬのう」

「6日で銀貨6枚ではな……。昨年のことがあるから、しばらくはこの状態が続くと思わねばなるまい。出発は4日後になるぞ」


 ヒルダさんがため息をついてるのは、傭兵団の会計担当だからだろう。一泊30Lの宿に8人が4泊するんだからね。この宿に払う宿泊料よりも報酬が少ないとなると、確かにため息も出るだろう。幌馬車も購入してるからかなり出費が続いてるからね。


「単独の依頼に比べると、期間限定の追加の依頼は半額になるのよ。でも、そのうちに回収できるんじゃないかしら。初夏になれば山街道を通る荷馬車が増えるからね」

 リーザさんが耳打ちしてくれたけど、それってかなり希望的なところがあるんじゃないかな。


 そんなことで、ビーゼント村で3日の自由時間ができた。

 翌日、早速モモちゃんを連れて雑貨屋を訪ね、魚があるかどうか聞いてみたら、小さな開きを見せてくれた。焚き火で炙って食べるらしいのだが、どう見ても酒のつまみにしか見えない。10匹で3Lと以外に安いから、30匹を買い込んでモモちゃんの魔法の袋に入れておく。魔法の袋に入れておくと、野菜でも長時間しなびたりしないそうだ。この世界の冷蔵庫代わりということなんだろう。

 

 村の様子をあちこち見て回っても精々一日で事足りる。翌日は朝からギルドの暖炉の傍で鞘を削って時間を潰す。

 リーザさんはモモちゃんを連れてダリムの様子を見に行った。草を食べる様子がおもしろいらしいのだが、その感性は俺には無いな。

 俺の作業を見ていたガドネンさんが途中から鞘作りを手伝ってくれた。あまりの不器用ぶりに見ていられなかった。というのが真相何だろう。

 暇になった俺は、ガドネンさんが武器屋で買い付けた柄の付いていない片手剣をギルドの裏庭で研ぐことにした。

 

 片手剣というよりは、刀身の長い短剣と言うところじゃないかな。刀身の長さは俺のサバイバルナイフぐらいだ。

 両刃だが幅が無い。刺身包丁の背中を合わせたような形だ。

 確かにこれなら良い槍ができそうだ。突いても、切ってもつかえるな。それに、突きさせば薄い穂先だから深い傷を負わせられそうだ。

 触れただけで切れそうになるほど研いだところで、ギルドの中にはいるとガドネンさんの姿が見えない。


「ガドネン殿は武器屋に向かったぞ。できた! とか言っていたんだが」

 ファンドさんが俺を見て教えてくれたけど、ガドネンさんに次の作業を教えていなかったんだよな。だいじょうぶだろうか?


 夕方近くに、ガドネンさんが戻ってきた。俺に、ホイ! っと投げてくれたのは、金具で鞘を補強した長剣だった。

 背中に背負えるように、革ひもが鞘の上に巻かれていた。


「おもしろい鞘じゃな。逆さにしても長剣が抜けんから、武器屋のおやじと理由を考えながら飲んでおった。今も分らぬが、たぶん刀身の反りが関係しておるんじゃろう」

「身幅が無いのは片刃なのだろうが、木で作る理由があるのか?」

「木で作ると良いことがあるんですよ。抜く速さが尋常ではなくなるんです」


 居合何て言っても理解できないだろうけどね。

 明日は村の外で練習してみよう。背中に背負っても良いし、ベルトに差しておいてもいい。


 明日は出発という日に、村の外に出て鞘の具合を確かめてみる。

 長剣をベルトの右腰に差し詫姿を見て、ナルスさんが不思議な表情を見せたけど、具合を確かめると言ったらモモちゃんと一緒に付いてきた。


「枯れた茎を相手に剣を振うのだな? 枯れてるとは言え一刀で断ち切るのは難しいのだぞ」

 自分の長剣を抜き取って手近な枯れた茎に長剣を叩きつけたんだが、確かにそれだと切れないよな。茎が折れただけだった。


「今度は俺がやってみます」

 右手で鞘の頭を持ち、左手で長剣の柄を握る。

「えい!」

 声と同時に腰を捻るようにしながら、左足を一歩踏み出して左手で長剣を一旋した。

 長剣が枯れた草を薙いだ後に、折れることなく枯れた茎が上下に分れて落ちる。


 ナリスさんとモモちゃんは驚いて声も出ないようだ。

 続いてもう1本の茎も同じように断ち切った。ちゃんとできたぞ。これで長剣を抜く動作だけで相手を斬り伏せられる。


「私がその長剣を使えば、同じように切れるのだろうか?」

「やってみます?」


 腰から長剣を抜くと、鞘ごとナリスさんに手渡した。直ぐに左腰のベルトに差したから、俺の動きはきちんと見ていたんだろうな。

 同じように一歩踏み出しながら長剣を振う。

 残念ながら、茎は両弾できなかった。折れた茎をジッと眺めていたが、次の茎に向かって長剣を振った時には半分以上茎が切られていた。


「なるほど……。手前に長剣を引く動作が必要という事だな。練習は必要だが、トラ族で初めての長剣使いになれそうだ」


 ずっと、誰かに師事して長剣の使い方を習っていたに違いない。俺の動きを見ただけでそれができるんだからね。

 後は練習だと言っていたが、今までの動きと違うからどこまでものになるかは分らないな。だけど……、将来的には剣豪とまで言われる存在になりそうだ。斬る事に目覚めた初めてのトラ族になるからな。



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