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7-04 お湯を入れてスープを飲もう


 コツさえ分れば見えない相手を恐れることは無い。

 相手の得物の動きで体の位置が想定できるし、リーガンも直ぐには体色を変えられないみたいだ。不自然に景色がボケるような感じで視認できるようになってきたぞ。


 思いがけない方向から近寄って来るリーガンには、幌馬車の下で援護してくれるモモちゃんの矢が突き刺さる。矢が刺さってるから直ぐにナリスさんが一刀両断にしてしまう。矢を抜いても血の流れは残るから同じことだ。

 勘を頼りにリーザさんが放つ矢も、たまにリーガンに当たっている。やはり女性の勘は男性のファンドさんを凌ぐようだ。


 唐突に戦闘が止む。終わったのか?

 周囲を油断なく眺めていると、モモちゃんが「怖いのはいないにゃ!」と教えてくれた。

 ホッと一息ついて、焚き火の傍に寄ろうとした俺の肩をナリスさんがポンと叩いた。


「さすがだ。私にはあれほどの技量は無い」

「たまたまですよ。ナリスさんの方が多くのリーガンを倒してるじゃないですか」

「分ったか? それがアオイの能力だ。人間族のようだが少し異なるのだろう」


 すでに焚き火の傍でパイプを取り出しているシュタインさんがナリスさんに事アを掛ける。

 俺達が焚き火の周りに座ったところで、ヒルダさんがお茶の準備を始めた。


「全部で20体を超えているわ。リーガンがそれほど多いなんて……」

「活動時期も問題じゃな。まだ山には雪が残っておる。この時期にリーガンを見るのは初めてじゃ」

「北の洞窟付近から比べればこの辺りは温かいですから、昨年の魔族の侵攻ではぐれた部隊ということでは?」


 俺の言葉に、シュタインさんが顔を向けた。ジッと俺を見て考え込んでるようだな。

 いつの間にかモモちゃんが隣に座って、皆と一緒になって俺を見ているぞ。そんな変な話なのかな?


「たぶんアオイの言う通りだろう。それは理解できるのだが、モスデール荒野の寒さに衣服を着ぬリーガン達は耐えられるのか?」

「どこかに拠点があるのよ。拠点でなくとも、何かのほら穴とか、建物があれば良いんでしょう」


 モスデール荒野の寒さも半端じゃないってことなんだろうな。

 こんな荒野を開拓する連中もいないだろうし、苦行僧にしても水すら無いような場所なら修行が死にいたる終業になりそうだ。

 となれば……、洞窟ってことか?


「とりあえずはギルドに報告すれば良いだろう。モスデール荒野で20体以上のリーガンに遭遇したとな。ここを通る荷馬車の隊列もそれで傭兵を雇う目安にできる」

「それにしてもさすがじゃのう。まるでリーガンが見えているように長剣を振っておった。親父殿が聞けばさぞや嬉しかろう」


 うんうんと頷きながらガドネンさんがナリスさんを褒めてるけど、ワインのカップを持ってる時点で酔っ払いの戯言に聞こえなくはないな。


「それだ。2人の斬撃に無駄が無い。見えていたのか?」

 シュタインさんがナリスさんに聞いてるけど、俺にとってはあの緊迫した状態で俺達の動きを見ていた2人の方に驚くばかりだ。

「リーガンを見ることができたのは、アオイの妹ぐらいだろう。放つ矢に全く無駄が無い。私はアオイの指示に従ったまでだ。アオイは得物を持つものがリーガンだと言っていたぞ」

「そういうことか……。得物の構えで位置を知ったのだな。中々使えそうだ」

「早くに聞くんだったのう」


 モモちゃんには聞かないのかな? もっとも、そこにいたから何て答えそうだけどね。モモちゃんの能力は助かることばかりだからな。昼寝するぐらいは見逃してあげよう。


 再度、モモちゃんに周囲の確認をお願いして、何もないことを知ると、シュタインさんとガドネンさんを残して俺達は幌馬車で横になる。ファンドさんは焚き火の傍で眠ると言って毛布を持ち出してたけど、ネコ族の青年がいるだけでシュタインさん達も頼もしく思ったに違いない。


 翌日は、朝食も取らずにモスデール荒野を後にする。モスデール荒野を出れば昼過ぎにはテレス村に着くだろう。

 朝食を抜いて、少し贅沢な昼食を取れば良いということは、全員が賛成した。

 その間は、モモちゃんが配ってくれた飴玉で我慢しよう。

 リーガンの死体は生体活動を停止すれば周囲の色に合わなくなるらしい。朝起きた時にはたくさんの死体があったけど、その色は緑色だった。カメレオンが進化したのかも知れないな。死体はその場に放置しておく。ガトルの餌になるそうだ。

 ある意味、掃除人としての役割があるようだ。俺達を襲ってこない限り、そっとしておいた方が良いのかもしれない。


 段々と幌馬車の周囲に緑の芽吹きが見え始めると、遠くにテレス村が黒い点になって見えて来た。

 後は幌馬車を進めるだけだな。2時間も掛からないだろう。

 

 昼過ぎにテレス村に到着したところでギルドに荷を届ける。

 テレス村で一泊して、明日はモンデールの森を抜けて一泊し、2日目にはナルス村に到着する予定だ。

 リーザさんが宿を手配してくる間、ギルドの暖炉でお茶を飲む。

 ずっと幌馬車でゆられてきたからな。

 宿を探しに出掛けたリーザさんが帰ったところで、俺達は遅い昼食を取りに出掛ける。

 明日にモンデールの森を抜ける事を考えると、昼食を終えたところでベッドに入った方が良さそうだな。


 翌日はお腹が空いて起きてしまった。

 まだ空は薄暗いんだが、一度目が覚めてしまうと二度寝をするのも気が引いいてしまう。このまま起きてしまおうと、上着を着て装備ベルトを着けているとモモちゃんが目を覚ました。

 直ぐに飛び起きて衣服を着替えている。置いて行かれると思ったんだろうか? そんな事は絶対にしないんだけどね。


「まだ早いよ?」

「ずぅ~と、寝てたにゃ。それにお腹が空いたにゃ」

 俺の顔見ながら恥ずかしそうに話してくれた。

 そう言えば、お湯で作れるスープが残ってたはずだ。食堂の暖炉に火があるなら、それを作って頂こう。

 部屋に忘れ物が無いことを確認して、一階の食堂に下りていく。

 すでに、宿の人が起きているらしく、調理場で野菜を刻む音が聞こえてきた。お湯を分けて貰えそうだな。

 宿の裏手にある井戸で顔を洗い、食堂に入ると暖炉に火が入っていることを確認する。

 モモちゃんを暖炉に残して、調理場をのぞくと宿のおばさんがいる。


「すみません。暖炉のポットのお湯を使わせてください」

「ああ、良いよ。だいぶ早いね。まだ食事には時間があるよ」


 おばさんに笑って答えたところで、即席ポタージュスープを二人のカップに半分ずつ入れて、暖炉に下がっているポットを使ってお湯を入れる。

 途端に美味しそうな匂いが漂ったから、モモちゃんのお腹が鳴っている。


「まだ熱いから、少し冷めてからだよ」

 モモちゃんが、スプーンでカップのスープをクルクル掻き混ぜている。たまにスプーンの先を指で触ってアチチと言ってるからもう少し待つことになりそうだ。

 スプーンで温度を確かめていたモモちゃんがにこりとしたところを見ると、そろそろ頂けそうだ……。


「美味しそうな匂いね!」

 振り返ると、リーザさんが笑顔で俺を見ている。

「飲んでみます? 俺の国のスープなんですけど……」

 俺の言葉を待っていたように手を伸ばして来たから、カップを渡すことになってしまった。

 しょうがないから、ビスケット状の固形食糧を齧ることにするか。アルミの封を切ってスティック状のビスケットを一本取り出すと、半分に折ってモモちゃんとリーザさんに渡す。残りの一本はお湯を飲みながら食べることにした。

 

「変わったスープだけど美味しかったわ。ありがとう」

 リーザさんがモモちゃんのカップと一緒にして、【クリーネ】を掛ける。汚れが取れているのを確認すると俺に返してくれた。


「早く寝すぎたのよね。皆も早く休んだみたいよ。今日はモンデールの森を抜けるからそろそろ起き出してくるんじゃないかしら?」

「早めの朝食、早めの出発ということですね」

「そうそう。でもその前に武器屋で矢を調達して来るわ。昨日だいぶ使ったからね」


 当たれば良いんだけど、リーザさんは勘を頼りに数撃ちをしてたからな。矢が不足するのも無理はない。


 結局、テレス村を出発したのは朝日がようやく顔を出したところだから、普段と比べればかなり早い酒発になるんだろうな。

 リーザさんは武器屋を叩き起こしたらしい。昨日の内に買い込んでおけばよかったんだろうけど気付いた時はベッドの中だったらしい。

 ヒルダさんがやんわりと注意してたけど、シュタインさんは何も言わなかった。リーザさんの矢を受けたリーガンの数もだいぶあったんだろうな。


 御者台にはリーザさんとナリスさんが乗っているから、俺とモモちゃんは幌馬車の中でのんびりと時間を過ごす。村を出て一時間も経たずに森が見えてきた。手前でお茶を頂き、ダリムを休ませる。

 森では小休止をあまり取らずに森を出たいということだろう。確か途中で右に折れるんだよね。休憩所が森の出口にあったはずだから、このペースで進めば余裕で日のある内に着けるだろう。


 森に入る前にクロスボウを用意しておく。モスデール荒野でリーガン二出会ったぐらいだ。この森にだって何がいるか分かったものじゃないからね。


「怖いのはいないにゃ」

 俺の様子を見てモモちゃんが教えてくれた。だけど準備は必要だと思うぞ。モモちゃんの弓と矢筒も入口近くに置いておく。


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