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7-03 相手の得物で姿を見る


 いつものように、モモちゃんと一緒に毛布に包まって焚き火の番をする。

 直ぐに眠ってしまうモモちゃんなんだけど、今夜は孫の手をジッと握りしめて俺に寄り添っている。


「怖いのが遠くにいるにゃ」と教えてくれたんだけど、相手が何かまでは分らないし、報告もかなり南東方向を指差すだけだった。

 とりあえずクロスボウを近場に置いておく。何かがいるらしいのだが差し迫った危険は無いらしい。モモちゃんの尻尾はいつも通りだからね。

 削っていた鞘も、だいぶ刀身が入る部分が出来てきた。本来なら左右同じ深さになるんだろうけど、俺の腕ではそこまでは無理だ。刀身が収まり逆さにして抜け出さなければ十分だと思う。

 ゆっくりと丁寧に鋭利な小刀で削っていく。塩の運搬が終わるころには何とかなるんじゃないかな。


 ランタンのロウソクの目盛でリーザさん達と交替する時に、モモちゃんの話をしておいた。

「そうなんだ。私も嫌な感じがするんだよね。でも、差し迫った問題では無さそうだという、アオイの考えにも賛成できるわ」

「やはり、シュタイン殿の言うとおりと言う事か?」

「そうね。今夜では無く、明日の夜が問題よ」


 焚き火のポットからお茶をカップに注ぐと、女性達の話が始まる。監視の時間を全て3人のおしゃべりで終わりにするつもりなのかな?

 そんな疑問を持ちながら、モモちゃんを抱えて幌馬車に入り毛布を掛ける。

 足が暖かいから直ぐに眠れそうだ。


 翌日は早めに、休憩所を出発する。

 御者台にはリーザさんとナミスさんが乗っているんだけど、リーザさんは弓を抱いて毛布に包まっている。

 荷台の俺もクロスボウを手に厳戒態勢だ。モモちゃんは毛布に包まってコタツに入ってるけど、弓矢は荷台の側版に立て掛けてあるから、直ぐに使えるだろう。

 宿泊所の林が段々と遠ざかり、辺りは雑草がまばらに生えるモスデール荒野に入って来たようだ。


 前にここを通った時にはラビーがたくさんいたんだけど、まだ冬眠中何だろうか? 全く姿が見えないし、モモちゃんも興味を示さない。

 退屈しのぎに鞘を削っているのだが、結構荷台が揺れるから手元が狂いそうだ。

 刀身が入る部分では無く、鞘を皮ひもでしっかりと綴じ合わせると、外側を粗めのヤスリで削ることにした。これなら、手元がブレても問題は無い。

 断面は楕円になるようにしたいんだけど、あまり削りすぎても問題だ。このままだと、木刀のような形になりそうだな。


 たまに小休止は取るけれど、10分にも満たない時間だ。昼食も幌馬車の中で取る。

 リーザさん達が昼食を取る時には、俺が1人でダリムの手綱を握る。ダリムが温厚な使役獣だと分ってからは安心していられるんだよね。特に何もしなくとも、前を進む幌馬車の後に付いていくぐらいだから。


 曇天だけど、周囲は良く見通せる。この季節が荒野を通るには一番適してるんじゃないか? そんな思いを浮かべながら幌馬車を走らせていると、前を進む幌馬車が横にそれ始めた。


「野営地を見付けたみたいね。私が代わるわ」

 御者台の後ろの天幕を開いてリーザさんがヨイショと言いながら俺の隣に座ると、手を伸ばしてきたので手綱を渡す。


「あの藪に向かうようね」

「少しは役に立つということなんでしょうね」


 藪としては大きいものだ。横幅だけで5mを超えていそうな感じだな。

 やがて荷馬車は藪の西側に停車した。直ぐにガドネンさんとファンドさんが降りて、俺達の荷馬車を誘導してくれる。


「藪から5D(1.5m)離して荷馬車を縦に停めるぞ。藪と荷馬車の間にダリムを入れればガトルに襲われんじゃろう」

 藪は小枝が絡みついて高さが2mほどもある。良い場所を見付けたものだな。

 幌馬車の側版の藪側を外して、幌馬車の下側に潜り込まれないようにしておく。杭を周囲に打って、ロープで結べば簡単な柵の出来上がりだ。

 リーザさんとモモちゃんが、ガトルの毛皮を幌馬車の下に敷いているのは今夜はそこで待機するつもりのようだ。

 ファンドさんが薪の束とロープを使って更に堅固な射点作りを行っている。

 一回りしてみたけど、これなら幌馬車の下に潜れそうもないな。ダリムも安心してるのか飼葉をのんびりと食べている。


「明日の夕刻にはテレス村に着くだろう。今夜は2つに分けて番をするぞ」

 最初は俺達以外にガドネンさんとリーザさんが一緒だ。後先共にネコ族がいるのがネックだな。

「もし、やって来たなら直ぐに休んでいる者を起こす事になる。ファンド、モモに期待してるぞ」

「私もいるわよ。でも、モモちゃんの方が勘は良いわね」

「幼なくとも大人以上と?」

「そういうことになるのう。実績もある」

 

 モモちゃんの能力にファンドさんが驚いてるようだ。

 それを自慢げに肯定するガドネンさんは、何かおじいちゃんの様な感じだな。ヒルダさんが笑いをこらえている。


 まだそれほど暗くはなっていないけど、夕食を頂いて干した果物を食べる。酸っぱいのや甘いのがあったけど、今度はどうかなと思いながら一口齧ると甘酸っぱい味が口の中に広がった。アンズなのかな? いつもこれ位なら良いんだけど、ヒルダさんがどんな基準で買い込んでくるのか分らないからな。


 パイプを楽しんだ後で、シュタインさん達が幌馬車に入っていく。

 焚き木の束をどかして幌馬車の下をくぐりぬけるようにしてダリムのいる側から乗り込むようだ。

 面倒くさいけど、それだけ正面を強化したってことなんだろうな。


 ガドネンさんがパイプを咥えながら、モモちゃんに昔話をしている。モモちゃん達は薄い毛布にリーザさんと包まりながら聞いているようだ。

 ガドネンさんの良い暇つぶしなんだろう。リーザさんがたまに、話の腰を折ろうとしてるけどね。

 

 焚き木をたまに追加しながら、鞘の外側を削っている時だった。

 突然、モモちゃんが被っていた毛布から頭を出すと、しきりに辺りの様子をうかがいだした。

 少し間をおいて、今度はリーザさんも動き出す。立ち上がって闇の奥を見通すような感じで周囲を探っている。


「ももちゃん?」

「来たにゃ。怖いのがたくさん来るにゃ」

 ガドネンさんが腰を上げて幌馬車の中へ声を掛けると、直ぐに4人が装備を整えて焚き火の周りに集まってきた。

 ヒルダさんがお茶を配っている。まだ眠そうな感じだからな。


「相手は?」

「モモちゃんが、怖いのがたくさん来ると」

 シュタインさんは俺の言葉に首を傾げて、リーザさんの方に顔を向けた。


「まだ分んないよ。でも、かなりいやな感じがするわ」

「確かに、近付いているようだ。俺の尻尾がこれほど太くなるとはな」

 周囲を睨んでいたファンドさんも異変に気付いたようだ。問題は何が来てるかということなんだよな。

 

「怖い奴とは、前にもあったことがある奴かな?」

「覚えてるけど、忘れたにゃ」

 期待して皆がモモちゃんを見てたんだけど、その答えに「はぁ~」と肩を落としてる。

「オーガというわけではないんだな?」

「大きいのと違うにゃ。……ずっと前にあったことがあるにゃ」

 

 だいぶ絞れてきたぞ。ずっと前と言うからには獣でもオーガでもない。となれば魔族の小さい連中なんだろうか?

 

「リーデル辺りが怪しそうじゃな」

 ガドネンさんが戦斧をクルクル回しながら呟いている。

「ヒルダ、光球を2つほど上げてくれ。真上と東で良いだろう」

 短い呪文と同時に2つの光球が辺りを照らし始めた。

 皆で明るくなった周囲を眺めたのだが、それらしい姿が見えない。


「やってきたにゃ!」

 モモちゃんが南東方向に火炎弾を飛ばす。

 20m程先で弾けたのを見て、シュタインさんが大声上げた。

「リーガンだ。リーザ達は幌馬車に急げ!」

 

 見えないトカゲだったかな? 立ってる姿は俺ぐらいの奴だったけど……。

 モモちゃんを抱えるようにしてリーザさんが後ろに下がる。任せとけばだいじょうぶだろう。

 クロスボウも役には立たない。自分に【アクセル】を掛けて、背中の長剣を抜いた。

 何頭やってくるかは分からないが、勘を頼りに戦うしかないみたいだな。

 

 シュタインさんが焚き火を足で蹴飛ばして、周囲に散らしている。ガドネンさんは、明日のスープを仕込んだ鍋を自分の周りにぶちまけた。あれって、相手の足跡で接近を探るのか?


 さてどうしようかと、ナリスさんを見ると偶然に視線が合ってしまった。

「どうする?」

「こっちが聞きたいくらいですけど、リーガンは周囲に体の色を合わせられるんですよね」

 俺の言葉に長剣を両手で構えながらナリスさんが頷いた。

「でも、武器まで周囲の色に合わせられないんじゃないですか?」

「確かに、武器を取れば位置が見えるか……。分った。感謝するぞ!」


 何処からやってくるか分からないからな。左手で左肩に長剣を担いで、右手でサバイバルナイフを逆手に持つ。ナリスさんと背中を合わせるようにしながら周囲をジッと見つめる。

 短い間隔で矢が放たれる。ネコ族の2人は勘で矢を放っているようだ。

 たまに弾かれるから、確かにリーガンがいることがわかる。俺の後ろからの矢はモモちゃんなんだろうな。何も無い空間に矢が突き立つたびに、ナリスさんが長剣を振っている。


「これで、3体めだぞ。いったい何体がやって来たんだろう?」

「だいぶいるみたいですよ。……そこだ!」


 ナリスさんの近くで長剣が急に姿を現した。数歩近付いて長剣を突き刺す。構える方向で体の位置がおおよそ分かるな。

 辺りに気を配りながら、ナリスさんから離れる。俺達の戦いはしばらく続くことになりそうだな。



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