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2-01 アビニオン傭兵団

 帰る途中の景色の良いところでお弁当を頂く。ザックから飯ごうを取り出してお湯を沸かすと、1人分のインスタントスープをシェラカップ2つに分けて仲良く楽しむ。

 携帯食料でスープが作れると言ってたから、収入次第では買っても良いな。

 それと、雨具は必要だろう。今は天気が良いけど、帰る途中で雨って事もありそうだ。

 

 食事が終わったところで、水筒の水でカップを洗いザックに入れた。水筒はこれ1つだけだから、もう1つ欲しいところだ。

 色々と欲しいものがあるが、無理せずに暮らして行こう……。


 荒地の途中でモモちゃんが見付けたラビーを1匹し止めたら、モモちゃんが足を持ってそのまま運んでる。

 どうするのか? と思っていたら、トラ顔の門番さんにモモちゃんが渡してた。


「良いのか? これを狩るのも苦労するだろうに?」

「お兄ちゃんが弓の名人だから大丈夫にゃ!」


 少し離れたところに立っていた俺のところに、2人の会話が届いて来る。少し恥ずかしくなるな。

 トコトコと走ってきたモモちゃんを連れて、ギルドに向かう。昨日よりも遅い時間だから早めに報酬を貰って帰ろう。


「7枚持ってきたの! 1枚25Lだから、175Lになるわ。……ところで、明日も出掛けるのかしら?」

「稼げるときに稼がないと冬が辛そうです。何か良いものがあれば教えて頂きたいんですが……」


「そのことで話があるの。将来の身の振り方を考えるのは、もう少し先かなと思ってたんだけど、傭兵団の1つがフリーの傭兵を募集してるのよ」

「傭兵団ですか……」


 今のままでは狩人みたいな感じだけど、そこそこの収入がある。だけど、精々1日で2日分の宿代程度だから、冬を越すのはかなり苦しいと思ってたことは確かだ。

 傭兵団ともなれば、最低限の衣食住は保証してくれるだろう。条件次第だな。


「話を聞いて断ることは?」

「それは貴方達の自由よ。傭兵団の構成員も結構出入りがあるようだから」

「一度、条件を確認したいんですが……」

「明日、ここにいらっしゃい」


 俺の顔を見てニコリと微笑んでいる。

 モモちゃんは俺の傍で俺とお姉さんの顔を交互に見ている。今夜きちんと説明してあげなくちゃならないだろうな。


 その夜、モモちゃんにこれからの事を話してみた。冬と言っても理解できていないような感じだ。モモちゃんが生まれたのが冬だから覚えてないのかも知れない。


「今は夏に向かってるけど、その後は少しずつ涼しくなるんだ。そうなると、服をたくさん着ないといけないし、狩も苦労しそうだ。その前に、お姉さんの話を1度聞いてみようと思ってるんだけど……」

「モモはお兄ちゃんと一緒なら大丈夫にゃ!」


 俺の話を理解してるのか理解に苦しむんだよな。ベッドでピョンピョン跳ねながら聞いているんだもの。

 とりあえず俺の判断に従ってくれると思って良さそうだけど、傭兵団の仕事はどんなものなんだろう?。


 翌日、朝食を終えるとギルドに向かった。

 それ程無理なくモモちゃんと一緒に暮らせるなら、傭兵団も良いのかも知れない。

 この世界だと俺達が出来ることは限られてるみたいだし、住み込みの働き口があるとは思えないからね。


 ギルドの扉を開けると、カウンターに向かう。

 お姉さんが笑顔で俺達を迎えてくれたんだけど……。


「おはようございます。それで……」

「さっき、ここに着いたわ。あの人達がそうなの。……私に着いてらっしゃい」


 振り向くと、4人の男女がテーブルに座ってお茶を飲んでいる。

 トラ顔の壮年。カウンターのお姉さんより年上の女性は人間だ。ネコ耳を出した女性は俺より年上なんだろうな。最後に、髭面の小柄な爺さんがいた。


 カウンターのお姉さんの後に付いて彼らのところに向かうと、ネコ耳のお姉さんが近くのテーブルから椅子を2つ運んで来た。


「シュタインさん。この子達を紹介するわ」

「だいぶ若いが、だいじょうぶなのか?」

「傭兵になって最初の狩りでラズーを7匹、野犬を4匹狩れる腕よ。昨日はイグルを7匹狩って来たわ」


 お姉さんの話を聞きながら、俺を興味深く見ているぞ。

 女性2人は目を大きく見開いたから、驚いてるんだろうか?


「なるほど。グレッドクラスでありながら、イグルを越えるか……。となれば、是非とも欲しいところだな」

「これで、貸し借り無しだからね!」

「ああ、十分だ。後は俺達で交渉する」


 頼まれてたと言ってたけど、前に借りを作ったのかな?

 俺達を連れてきたお姉さんはカウンターに帰って、こっちを見ているようだ。


「傭兵になったばかりで、傭兵団については知らんだろう。俺達は『アビニオン』という名の傭兵団で、見て分るとおり団員は4人になる……」

 

 トラ顔のリーダーはシュタインという名前らしい。見るからにがっちりした体格のトラ族だ。

 人間族のお姉さんはヒルデガルドと言って魔導士と言う事だ。

 ネコ族の女性はメリーシャという名前で、髭面の小柄な男は良く見ると筋肉質だ。ドワーフ族と言っていたが、あのドワーフなのかな? 名前はガドネンと教えてくれた。

 見たままの種族だな。となれば、俺は人間族でモモちゃんはネコ族となるんだろう。


「俺がアオイでこっちがモモです。種族は違いますが兄妹として暮らしてきました」


 そんな自己紹介で始まったアビニオン傭兵団は、ベルクというこの村を中心に東のアーベルグ、西のビーゼントという2つの村を行き来する商隊の荷馬車護衛を請け負っているらしい。


「たまに盗賊が出るが、数人組だ。山沿いの街道だから、獣や魔物が多いな。それでも20を超えることは無い」

「獣と言っても、野犬やイグルがほとんどだし、魔物はゴブリンが良いところね。たまにオグルに出会うと他の傭兵団が言ってるけど……」


 シュタインさんの話に、メリーシャさんが話を続けた。

 ゴブリンってのはRPGゲームの低レベルのモンスターだったと思う。イグル程度の連中なのかもしれないな。

 

「それなら4人でも十分に護衛をこなせるような気がしますが……」

「このままなら、その通りだ。だが、もう少し難易度の高い依頼もこなしていきたい。その為にはアビニオンの数を増やし、技能を高めねばならん」


「野犬クラスなら俺達でも役に立つかも知れません。参加したいとは思いますが、この冬を越さなければならない事も確かです。その辺りはどうなのでしょうか?」

「待遇と言う事か?」


 シュタインさんがにこりと微笑むと、待遇を説明してくれた。

 アビニオン傭兵団で、食事と宿は出してくれるそうだ。その為に、依頼金の半分がアビニオンの共通費になる。残りの半分を団員で等分に分けると教えてくれた。

 衣服と武器、それに嗜好品は分けて貰った報酬で手に入れなければならないらしい。


「村2つ分の護衛で1人銀貨1枚程度を渡せるだろう。傭兵団に入れば、冬を越すための衣服を、秋には手に入れることができるはずだ」

「俺達2人で大丈夫ですか? モモちゃんは魔法が少しと弓も使えます。昨日はイグルをナイフで倒してます」

「十分だ。魔法を使えるだけでも役に立つ。リーザ、雑貨屋に行って装備を整えてやれ。傭兵になったばかりだとリーナが言ってたからな。それと、これは少し古いが入団祝いとしてアオイにやろう。アオイが背負ってる袋なら3つ分程入るぞ」


 シュタインさんがバッグから取り出した革袋は座布団程の大きさの袋だ。何に使うんだか分からないけど貰えるものは貰っておこう。

 手渡された袋をとりあえずザックに入れて、メリーシャさんと一緒にモモちゃんを連れて雑貨屋に向かう事になった。


「絶対必要なのは、ポンチョとバッグよ。魔法の袋とベルトに着けるバッグがあれば、ほとんどの品を入れられるの」


 ん? メリーシャさんはネコ族だけど語尾に『にゃ』が付かないぞ。『にゃ』が着くのはモモちゃんだけなんだろうか?


 雑貨屋に行くと、矢継ぎ早にカウンターの女の子にメリーシャさんが注文を始めた。

 俺達2人のポンチョとティッシュボックス2つ分程の革製の丈夫なバッグ。後はモモちゃんの麦わら帽子だ。

 食器も買おうとしてたから、持ってると教えておく。代わりに小さな水筒を買ってくれた。モモちゃん用ってことだな。

 

「しばらくはこれで十分。寝る時はポンチョに包まって寝ればいい。秋を過ぎると毛布が欲しくなるけど、その時はアオイ達で買うのよ」

 ついでに、モモちゃんの下着と靴下を買い込んでおく。銀貨1枚が無くなったけど、バンダナをサービスして貰ってモモちゃんは嬉しそうだ。だけど丸めてバッグに入れている。畳む事を知らないんだろうか? 

 改めてバッグからバンダナを取り出して畳み方を教えると、嬉しそうに「ありがとう!」と言ってくれた。

 

 メリーシャさんがさっき貰った袋を出してと言うので出してみると、ポンチョや俺のザックを袋の中に詰め込んでいる。

 あれだけ入れても全く袋が大きくならないぞ。

 最後に半分に折ってクルクルと丸めると、購入したバッグの中に詰め込んだ。


「魔法の袋は便利よ。買うと銀貨10枚は必要だけど、次に買うのはしばらく先になりそうね。冬用の毛布だって収納できるわ」

 俺のベルトを腰の後ろまで外してバッグを取り付けてくれた。

 なるほど、腰のところにあれば邪魔にはならない。

 準備が整ったところで、皆の待つギルドに戻る。

 

 ギルドのテーブルには先ほどの3人がお茶を飲んでいた。

 俺達を見て腰を上げてこちらにやって来る。


「出来たようだな。ビーゼントに向かうぞ。商隊が俺達を待っている」

「色々と用立てて頂きありがとうございます」

「気にしないで良いのよ。私達もそうやって最初の装備は整えて貰ったんだから」


 ヒルデガルドさんが俺の肩をポンと叩いてシュタインさんの後に続いてギルドを出る。俺もモモちゃんの手を握って遅れないように、後に続いた。

 ギルドを出ると、南の門に向かって歩く。いつも北門を使ってたから、こっちに行くのは初めてだ。

 北門と同じような門には門番さんが2人立っていた。人間と犬族の老人だ。門番は老人の仕事って事なんだろうか?


 南門を出ると、段々畑がずっと南に続いている。

「ここから10ミルほど南に下りると街道に出る。今日は森の手前で野宿することになるぞ」

 シュタインさんが教えてくれたけど、単位が良く分からないな。休憩を取った時にでも教えて貰おう。

「明日の夕方には村に着くわ。商隊は荷馬車を連ねるから乗せて貰えるんだけど、今回は歩かないといけないの。それと、私の事はヒルダでいいわ。メリーシャもリーザで大丈夫よ」


 愛称ってことだな。さすがにシュタインさんとガドネンさんには無いようだ。

 それにしても長く歩くことになるが、それ位は我慢しよう。1日歩くなんて初めてだけど、モモちゃんはだいじょうぶだろうか? 場合によってはおんぶすることになりそうだ。


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