表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/203

6-02 とにかく寒い


 夜半にリーザさん達と交替してモモちゃんと幌馬車の中で横になる。足元が暖かいと、これほど快適に眠れるんだと感心してしまう。

 翌朝目が覚めた時には、すでにモモちゃんは着替えを済ませていた。

 大きく体を伸ばしながら幌馬車を降りて、積もっている雪で顔を洗う。顔を拭いながら焚き火の傍に座ると、モモちゃんがヒルダさんが入れてくれたお茶のカップを渡してくれた。


「いつでも飛び出せるようにしておくんだぞ。襲って来ても荷馬車を走らせる事はできないからな。その場で止めることになる。出来れば、車列の前面で戦え。側面に回り込まれると、ダリムが襲われる」

「リーザの合図でダリムの前に出れば良いんじゃ。直ぐに我等も駆け付ける」


 そうなると、支援してくれるリーザさん達の場所が微妙だな。

「私達は御者台から援護するわ。高い位置だから都合が良いのよ」

リーザさんの言葉に、モモちゃんまでが頷いてるぞ。分かってるのかな? 少なくとも高い場所にいるんだったら安全って事になるんだろう。


 ちょっと寒いけどマントに包まって幌馬車の後部に腰を下ろす。

 動き出した幌馬車は、のんびりと森の中に吸い込まれていく感じだ。今日は晴天になったから雪原が眩しく感じる。

 ザックからサングラスを取りだして掛けると丁度良い感じだな。プラスティック製の安物だがけっこう役に立つぞ。

 モモちゃん達はどうしてるのかと、荷台の前に行って2人を覗いてみると、エスキモーの使う遮光メガネのようなスリットのある眼鏡を革紐で付けている。あれなら落とすことは無いと思うけど、周囲が良く見通せないんじゃないかな?


「アオイ、これを渡しておくわ。ちゃんと掛けていないと目を傷めるわよ。……そんなものがあるの?」

 リーザさんが俺のサングラスを見て驚いている。確かに誰も使っていないからね。ありがたく遮光眼鏡を貰ったけど、今付けてるサングラスが壊れたらこれを使ってみるか。


 森の中はゆっくりと進んで、休憩時間をあまり取らないようにするのは何時もの事だ。途中数回の短い休憩を取っただけで、昼食も冷えたサンドイッチを幌馬車の中で食べる。

 それにしても、身体が冷えるのは問題だ。

 森の中だから、幌馬車の奥で毛布を被っているわけにもいかないので、直ぐに飛び出せるように後ろの側板を降ろして腰を下ろしているのだが、マントに包まっているだけでは寒さが身に染みる感じだ。

 槍を持って素早く前に走れるように、手袋の中で指を動かし、足も冬用ブーツの中で動かしているんだが、冷たいというよりもしびれている感じがする。

 凍傷にはならないと思うけど、槍を握れるか心配になってきた。


 幌馬車が急に左に進路を変える。

 どうやら、森の中の休憩所に到着したみたいだ。槍を掴んで荷台から滑り降りると、広場の真ん中に向かい、槍を構えて周囲を伺う。

 俺には気配何て分らないけど、何かいればモモちゃんが教えてくれるし、潜んでいるような獣がいたとしても、今の俺なら格好の獲物だ。直ぐに飛び出してくるだろう。

 周囲をキョロキョロと見渡して何事も無い事を確認する。

 すでに荷馬車が続々と広場に入って来るから、こんな役目はいらないような気もするけど、リーザさんの「先頭を行くものの務めよ」の言葉で、やっているようなものなんだけどね。


「お兄ちゃん、周りに怖いのはいないにゃ!」

「なら安心だね。どれ、焚き木を取って来るか」


 モモちゃんに槍を渡して、ベルトに差し込んでいるトマホークを引き抜く。早く集めればそれだけ早く温まれるからね。

 モモちゃんが槍を引き摺って行く姿を見て思わず笑みがこぼれた。広場に入ってきたシュタインさん達に片手を上げながら、広場を囲む森に向かう。


 両手で焚き木を抱えて戻ってきた時には、女性達だけが焚き火を囲んでいた。シュタインさん達も焚き木を集めに出掛けたようだ。


「寒かったでしょう? これを飲んで焚き火で温まりなさい」

 小さなカップに入っていたのはワインじゃないか! 一息に飲んで焚き火で体を温める。

 中と外から温まる感じだな。たくさん飲むのは問題かも知れないけど、たまに飲むのは冬の幌馬車の中では必要な品かも知れない。

 10分程度じっとして温まったところで、再度森に向かう。焚き木は多ければ多いほど良いからね。

 両手でどうにか抱えられるほどの焚き木を焚き火の傍に運んだ時には、皆が焚き火の周りで暖を取っていた。


「ご苦労だったな。まだ食事にはならないが、入り口は閉じてある。商人達も近場で焚き木を集めたようだ。いつも通りだが、ここは森の中だから武器は手元に置くんだぞ」

「クロスボウと弓は幌馬車の中ですけど?」

「十分じゃ。剣を身に着けて槍を近場に置けば良い」


 いつもの事だけど、あえて注意してくれたって事かな? モモちゃんは怖いのはいないと言っていたけど、夜になって行動する奴らも多いのかな?


「山側の森でガトルの足跡を見付けた。雪を被っていないから古いものではない。街道には全く足跡が無い。ガトルが偵察をしているのだろうな」

「群れ全体がいつも動いているわけではないんじゃ。四方に老いたガトルが獲物を探して群れを導いている」


 かなり頭が良いんだな。獲物を見付けてから、群れが襲撃地点に移動して襲い掛かるって事になる。獲物がいつでもあるわけではないから、彼らなりにあまり体力を使わずに獲物を得る手段を身に着けたって事なんだろうな。

 環境がそうさせたって事じゃないかな? この世界の冬は、スキー場よりも冷える気がするからね。


「雪が深い。転ばぬようにすれば普段と変わらぬはずだ。あまり動かずに向こうに動かせるんだぞ」


 シュタインさんが意味深な話をしてくれたけど、ガドネンさんもその言葉に頷いているところをみると、その通りって事なんだろう。

 動かずに動かせろ……、ひょっとして、襲わせるのか?

 シュタインさん達なら力技で襲ってくるガトル達をねじ伏せられるんだろうけど、俺の場合は相手の攻撃をかわしながらカウンター気味に長剣を振ってるんだよな。

 やはり、この世界は体力がものを言うのかも知れない。

 少しは筋肉が付いて来たと思うんだけど、マッチョ体形になったりしたら……、ちょっと考えてしまう。


 夕食が運ばれ、平たいパンをスープに付けながら頂く。

 香辛料の効いたスープはワイン並みに体を温めてくれる。

 隣のモモちゃんを見ると、先割れスプーンで器用に具を食べている。この生活にもだいぶ慣れたみたいだ。

 

 食後のお茶を飲み終えると、俺とモモちゃんを残して皆は幌馬車に入って行く。

 最初の焚き火の番は俺達の仕事だ。夜中や朝方に起こされるより遥かに楽だし、まだ商人達も起きているからな。

 冬でなければ俺達が夜中からになるんだけど、冬はガトルの襲撃が多いらしく、俺達も普通に野営をする時のように見張りのシフトを調整しているみたいだ。


「お兄ちゃん、怖いのが近付いてるにゃ」

「皆を起こしたほうが良いかな?」

「たぶん、ガトルにゃ。2匹であっちで見てるにゃ」


 モモちゃんの指差した方に視線を向けたんだけど、暗くて何も見えないな。ガトルが2匹というのはシュタインさんが言っていた偵察って事なんだろうか? それなら襲っては来ないだろう。

 

「2匹だけなの?」

「そうにゃ。外にはいないにゃ」


 そう言って眠そうに目をこすっている。このままだと過ぐに眠りそうだな。まぁ、偵察部隊だけだとすれば今のところは安心できる。

 それにしても、春から秋には魔物で冬は獣とは、中々物騒な世界だな。おかげで仕事にあり付けたことも確かではあるんだけどね。


 眠ってしまったモモちゃんを毛布でしっかりと押さえておく。焚き火の傍だから十分に温かなはずだ。

 暇つぶしに、足元に焚き木の切れ端で簡単なストーブの構造について絵を描きながら考える。けっこう色々と鉄を使って物つくりをしてるんだよな。

 大まかな絵を描けば、その通りに作ることができるんじゃないか? ダメなら、火鉢をもう1つ買えば良いけど、ストーブの方が料理にも使えそうだから便利だと思うんだけどね。


 時計代わりのランタンに入っているローソクの切れ目を見て、リーザさん達を起こした。星が出ていないと、ローソクで時を知ることになる。


「あ~あ、起こされちゃった。さて、後は引き受けるわよ」

「それじゃあ、お任せします。ポットにお茶が入ってますよ」


 2人がお茶をカップに注ぎ始めたところで、モモちゃんを抱えて幌馬車に入った。

 毛布を大きく広げて足元に火鉢の入った木箱を入れる。その上に薄手の毛布を乗せてモモちゃんと一緒に横になった。

 少し床が固いけど、暖かければ寝られそうだ。星が出ていないから明日は雪なのかも知れないな。


 翌朝、嬉しそうな顔をしたモモちゃんに起こされたんだけど、幌馬車の幌を開けてその理由が分った。一面の降りしきる雪だ。結構雪の結晶が大きいな。気のせいか気温もいつもよりは下がっていないように思える。


「凄い雪だね」

「凄い雪にゃ。リーザ姉さんと一緒にあれを作ったにゃ!」

 

 モモちゃんの指差した先にあったのは雪ダルマだった。この世界にも同じ風習があるんだなと感心していたけど、今日は森を抜けることになるからこの雪で大丈夫なんだろうか?

 途中で雪で顔を洗い、焚き火の傍に向かう。

 ヒルダさんがお茶のカップを渡してくれたのでゆっくりと味わう事にした。ハーブティーのような味で苦みが無いのが良い。


「今日は俺達が先行する。リーザが山側の森にガトルの気配がすると昨夜話してくれた。襲ってくるかもしれん」

「モモちゃんは2匹いると言ってました。やはり偵察でしょうか?」


 俺の言葉に、シュタインさんとガドネンさんが顔を見合わせて頷いている。そう言えばリーザさんに話してなかったな。


「終わった事では仕方がないが、そう言う情報は次の焚き火の番に伝えて欲しかったぞ。だが、モモが2匹と言うのではアオイの判断で間違いなさそうだ。ガドネン、商人達に伝えてくれ。俺はプラットの連中に伝えてくる」


 何かあわただしくなってきたぞ。冬場のガトルは他の季節と何が違うんだろう?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ