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5-07 雪原での待ち伏せ


 洞窟を抜け出ると、一面の雪原だった。あれから数日が経過しているから俺達の足跡なんか綺麗に消えている。

 新雪を踏みしめて、シュタインさん達が杖を頼りにこんもりと盛りあがった雪の丘を目指して歩いて行く。

 たぶん目指す大きな雪の丘が岩なんだろうな。

 北風をもろに受けてるから、風上が雪におおわれているに違いない。

 今にも吹雪になりそうな空だから、朝なのか昼過ぎなのかさっぱりわからない。もしも昼過ぎだとしたら早めに野営の準備をしないといけないだろうな。



 モモちゃんをリーザさんに頼んで、焚き木を集めに出掛ける。

 生木でも良いと言っていたけど、出来れば枯れ木を集めたい。枯れ木の方が直ぐに火が点くからね。

 一抱えの焚き木を抱えて雪の丘の後ろに回ると、すでにテントが設えてあった。前回野営した時に使った柱となる丸太が残っていたらしい。

 雪を掻き分けて地面を出したところに、少し穴を掘って焚き火を作る。


「何が起きるか分からん。少し多めに焚き木を集めてくれ」

シュタインさんの言葉に、男達4人が焚き木を集めに出掛ける。先ほどよりも多くの焚き木を抱えて帰って来ると、トラ族の男達が長剣で切り倒した立木を引き摺ってきた。あれならたっぷりと焚き木が取れるだろう。焚き木が積み上げられた場所に抱えてきた焚き木を降ろして、3たび林に向かった。

 今度は片手でどうにか握れるぐらいの立木を2本切り取って野営地に運ぶ。


「だいぶ細いのを運んで来たな」

「これですか? もしあいつが出て来たらこれを突き刺さそうと思いまして」

「大型の槍という訳か……。ガドネン、2本も切って来てくれないか?」

「俺達が行こう。確かにこの槍では小さすぎる。その丸太の片方を鋭くするだけだろうが、俺達トラ族が【アクセル】状態で使えば十分に役立つだろう」


 シュタインさん達トラ族の男達が感心してみていたけど、直ぐにガルート傭兵団の2人が林に向かって行った。


「槍作りは俺達に任せておけば良い。出てくるかどうかは分らんが暇つぶしにも丁度良い」

「先ずはテントで衣服を整えたほうが良いだろう。すでに他の連中は終わってるからアオイが最後になる」

 

 シュタインさんの薦めで、テントに行くと下着を交換して厚手の綿のシャツに交換する。バックスキンのような上着とズボンだから、ズボンの下にも1枚薄いズボンを履けば寒さの感じ方がだいぶ異なる。ジャージの下が欲しいところだな。冬用のブーツから雪靴を外しておく。これだけでもかなり動きが自由になる。移動するときにまた履けば良い。

 袋から薄手の毛布も取り出して置く。

 焚き火に当たっている時だって背中が寒いはずだ。モモちゃんにとって、この冬は初めてだからな。生まれた時も冬だったんだろうけど、その時には母猫が温めてくれていたはずだ。


 テントから出ると、モモちゃんを探そうとしたが、直ぐに見つけることができた。

 雑木を並べて棒で挟んだような簡単な風よけの中でマントに包まっている。

 直ぐ目の前が焚き火だから、それなりに暖かいんだろうけど、リーザさんとガルート傭兵団のお姉さんに挟まれているようだ。そんな3人に薄手の毛布を渡してあげると、直ぐに毛布を広げて包まっている。

 今度は少し暖かく過ごせるかな?


 ガドネンさんが焚き火の上に三脚を吊るすと、ヒルダさんが鍋を掛けている。

 火加減はモモちゃん達がいるから任せるつもりのようだ。

 トラ族の男達が細身の丸太を抱えてきたところで、今度はシュタインさんが焚き火の傍から腰を上げた。

 袋から小さなスコップを取りだすと、ガドネンさんと一緒に吹き溜まりの雪を固め始める。

 ひょっとして雪洞を作るつもりなのかな?

 俺も腰を上げて、シュタインさん達の作業を手伝う事にした。


 雪洞は2人が中に入れる位の大きさだ。小さな穴を開けて洞窟を見ることができるようにしてある。

 この中に籠っていれば、小さなランタンでも暖かく感じるんじゃないかな。


 雪洞での監視はシュタインさんとヒルダさんが最初だ。小さな火鉢を持ち込んでいるから雪洞が解けないか心配になるが、段々と冷え込んで来たから丁度良いのかも知れない。


 出来立てのスープに固いクラッカーが食事だが、スープが大盛だから嬉しくなるな。香辛料が効いているようで、身体が温まる感じだ。

 早々に食事が終わったところで、シュタインさん達と見張りを交替したのがモモちゃんと俺だった。

 俺の大きなマントの内側に火鉢を入れると、コタツみたいに温まる事ができる。直ぐにモモちゃんが寝てしまったけど、元がネコだからねぇ……。ここは俺が頑張れば良いだろう。

 モモちゃんに貰った飴玉を舐めながら、雪洞に空けた小さな穴から洞窟を見る。

 すでに夜のなって雪もちらついているけど、100m程先の岸壁に開いた洞窟ははっきりと見ることができる。

 暗闇に目が慣れたことと、見当違いの場所で周囲を照らしている光球の明かりを雪原が反射しているせいだろう。

 もっとも、見えるだけで色はまるで分らない。モノトーンの世界は水墨画のような光景だ。


 どれ位の時が流れたか分からなくなったころに、ガドネンさんとリーザさんが俺達と交替してくれた。

 モモちゃんを起こして、眠そうな目をしたモモちゃんを抱えるようにして雪洞を出ると、焚き火の傍で暖を取る。

 

「大きくテントを作ったから雑魚寝になるわよ。毛布に包まればそれなりに過ごせるわ」

「火鉢の上にマントを乗せると温かですよ。それじゃあ、先に休ませていただきます」


 モモちゃんを連れてテントに入ると、確かに雑魚寝だな。あちこちで毛布に包まっているぞ。隙間を見付けて薄手の毛布を引いてその上に厚手の毛布を半分に折って乗せると、厚手の毛布の中に潜り込んだ。直ぐにモモちゃんも毛布に入って来る。歩き疲れてたんだろうな。直ぐにまぶたが閉じて眠りに落ちて行った。


「お兄ちゃん…お兄ちゃん」

 俺を呼ぶのはモモちゃんだな。ゆさゆさと体を揺すられるから起きてしまったけど、もう少し寝かせて欲しかったぞ。


「やって来たにゃ!」

「何だと!」

 モモちゃんの言葉に飛び起きた。やって来たと言う事は、あの大タコに違いない。急いで装備を整えるとテントを飛び出した。


「起きたようだな。やはり追ってきたぞ。一戦は覚悟せねばなるまい。だが、だいぶ動きが鈍い。それが寒さのせいなのか、アオイにやられた目からの体液流出によるものかは分らんがな」

「もう一度、目を狙え。そうすれば奴は俺達が見えんはずだ」


 焚き火の傍に腰を下ろした俺に、シュタインさん達が指示してくれる。

 ヒルダさんの入れてくれたお茶を頂いて喉を潤す。少しずつ目が覚めて来るのが「自分でもわかるぞ。


「それよりここにいてもだいじょうぶなんですか?」

「問題ない。洞窟の入り口でもたついている。やはり寒さのせいなんだろうな」


 それで皆で焚き火を囲んでるんだな。雪洞にはガルート傭兵団の人間族の2人が監視しているようだ。


「大きな槍を作っているから役に立つだろうが、あそこから出ないとなると問題だな」

「まだ夜明けには間がある。朝まで待って出て来なければ誘ってみるか?」

「そうなると配置が問題だ。敵は自由に動けるからな。囮を置いてくれれば側面からあの槍で串刺しにできると思うが」

「なら、その役は俺になりますね。身体機能を上げて奴の左目を狙います。その前にモモちゃんに【メル】を放って貰えば、注意が俺に向かうでしょう」

「右目は使えんか……。それで行くほかなさそうだな」


 シュタインさんとガルート傭兵団のリーダーが焚き火の傍で地面に棒や木切れを置いて俺達の配置について話し合っている。

モモちゃんは最初の攻撃が済んだら後ろの方で矢を射れば良いらしい。リーザさんに任せておけば安心だな。


「アオイには悪いが、上手く立ち回って囮を務めてくれよ。もっとも、左目を潰したら何も見えなくなるだろうけどな」

「矢を射込むのは目だけになるでしょうね。かなり射込んだところに俺も【メル】を使ってみます」

「アオイのは強力だからな。それで怯んでくれれば良いのだが、上手く行けば俺達も本体に2、3本の丸太を突き刺せるだろう」


 これが夏だったらと思うとゾッとするな。厳冬期の寒さの中でならどうにか倒すことができるかも知れない。


「やはり洞窟の入り口で触手を伸ばしているみたい。外に出たいけど雪を嫌がってるみたいね」

「やはり雪と寒気が奴の嫌うところなんだな。上手くおびき出せば、かなり動きが緩慢になるだろうな」

「それほど待つことも無さそうだ。東が明るくなっている。晴れはしないだろうが狩りをするには十分だ」


 確かに明るくなってきた。

 ヒルダさんがスープを作って、カップに入れてくれた。香辛料の効いたスープは何より体が温まる。スープを飲み終えたところで、装備を整えマントで体を包み込むと所定の位置に向かう。


 洞窟の前に俺とモモちゃんで歩いて行く。シュタインさん達が丸太の槍を持って大きく林の中を移動しているのが見えた。

 ガルート傭兵団の人間族の2人が弓を背にして、短い槍を2,3本ずつ持っている。丸太の槍が使えなければシュタインさん達はあの槍を使うんだろう。

 ヒルダさんとリーザさんは既に林のやぶに身を潜めているのが見えた。


「モモちゃん。【メル】を2発放ったら、リーザさんと一緒に弓を使うんだよ。林の中なら怖い事にはならないからね」

「モモなら大丈夫にゃ!」


 孫の手をぶんぶん振ってモモちゃんが答えてくれた。

 どれ、そろそろ自分に【アクセル】を掛けておくか。

 クロスボウの弦を張ってボルトをセットする。モモちゃんを見ると俺に頷き返してくれた。シュタインさん達やガルート傭兵団の連中も配置に付いたようだ。頭をリーザさんの方に向けると片手を上げて準備完了を知らせてくれる。


「モモちゃん。始めるぞ!」

「分かったにゃ!」

 教えた通りに呪文を唱えると、オレンジ色の火炎弾が2発続けて洞窟に向かって飛んで行った。

 直ぐに、モモちゃんがリーザさんのところに走っていく。まどろっこしく感じるのか、リーザさんが身を乗り出しておいでおいでをしているぞ。

 顔を洞窟に向けた時、腕を伸ばして周囲を探るようなそぶりで大タコが出て来る時だった。

 俺を大きな目でジッと見据えている。

 獲物として俺を目標にしたという感じがするな。

 距離は20m程だ。ゆっくりとクロスボウを構えると、奴の目がターゲットスコープの視界からはみ出している。

 膝内の姿勢でトリガーを引く。ボルトが奴の右目に吸い込まれるように奥深く突き立った。


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