4-06 新たなクラスはデミ・オーガ
翌日は何事も無くドックレーの森を抜け、2日後にエバース村へとたどり着いた。
エバース村のギルドで、ガドネンさんがオーガの右手をカウンターに乗せたから、たちまち一騒動が起きてしまった。
ドックレーで倒したと正直に報告を行い、俺達アビニオン傭兵団はガトルクラスからデミ・オーガクラスに変わったが、個人のギルドカードはシュタインさんとガドネンさんだけがデミ・オーガになっただけだった。残念ながら、ヒルダさんとリーザさんはガトルクラスに残留らしい。俺とモモちゃんは一気にガトルクラスに昇級した。これでモモちゃんもネズミクラスからおさらばできるな。
「これからは向こうから依頼が舞い込んでくるぞ」
「だが、しばらくはギルドに依頼をしきって貰おう。大商人の下で飼われるのもおもしろくない話だ」
食堂で夕食を取りながらシュタインさん達の話を聞く。
傭兵団のクラスが変われば依頼も変わると言うことのようだ。ギルドを通さずに直接依頼を受けることも出てくるのだろうか?
シュタインさんは当分は今まで通りを考えているようだけどね。
「デミ・オーガであれば、売り込みも多そうだが?」
「とりあえずは今のままで良いだろう。アオイ達の参加で従来よりも護衛が容易になった。危険度が高くなれば臨時に他の傭兵団を加えれば良いだろう」
傭兵団が他の傭兵団と共同で仕事を受ける場合には、ランクで区分けをするらしい。
上位ランクの傭兵団に雇われる、下位ランクの傭兵団を雇う、それに今も行っているような、同一レベルの傭兵団が共同で請け負うという3つの形態があるようだ。
デミ・オーガのクラスならば、下位のガトルクラスを雇うことができるし、その斡旋をギルドに依頼することも可能ということだ。
何となく、優越感に浸れる感じがする。リーザさんも最初は目がキラキラしてたけど、取り合えずは現状通りのシュタインさんの言葉にガッカリしている。
俺達2人がいるからしばらくはこのままと言う事なんだろうけど、その内に他の傭兵団と常に行動を共にすることになるのかもしれない。賑やかな道中だと退屈しなくて済むし、俺達を襲うものにも容易に対処できるだろう。
何となく楽しみが増えた感じだ。
エバース村で一泊し、途中の休憩所で野営をして、俺達はサグレム町に到着した。荷役商人達の荷馬車がここで分かれるらしいから、俺達の護衛はここまでになる。次の護衛をおこなう傭兵団がすでに到着しているようで、一部の荷馬車は更に東へと向かうようだ。
「リーザ、とりあえず3日だ。場合によっては更に2日は伸びるかもしれん」
「私達の荷馬車を買うんでしょう? 任せといて。モモちゃん行こう!」
「どれ、ワシも出掛けるぞ。早ければそれだけ良いものが手に入る筈じゃ」
ギルドのテーブルでお茶を飲んでいると、3人がそんな用事で席を離れて行った。
残ったのは俺達3人だけど、直ぐにシュタインさんが席を離れていく。カウンターのお姉さんに呼ばれたみたいだな。
「新たな依頼かしら? 少なくとも3日はこの町で休みたいものね」
「先ほど言ったばかりですから、シュタインさんも分かってると思いますけど……」
俺達がカウンターを見ていると、シュタインさんはカウンターのお姉さんと一緒に奥に入って行った。やはりデミ・オーガクラスになったと言う事で、重要な案件を請け負うのだろうか?
しばらくカウンターの奥を眺めていたのだが、どうやらしばらく掛かりそうだな。改めてヒルダさんがお茶を入れてくれた。
最初に戻ってきたのは、モモちゃん達だ。俺を見付けてトコトコと走って来る。俺の隣の空いている椅子にチョコンと座ると、ヒルダさんが入れてくれたお茶を美味しそうに飲んでいる。
「あれ? シュタインは」
「ギルド長と相談らしいわ。宿は取れたの?」
「初めての宿だけど、やはり町だけあるわね。食堂と酒場は無いみたい」
それが本来なんじゃないのかな? 食堂は酒場兼用の場所を探すことになるんだろうな。
「後は、ガドネンね。上手く見つかれば良いんだけど……」
リーザさんがギルドの扉を見ながら呟いてるけど、荷馬車とそれを引くダリムの目利きが必要らしい。
ドワーフ族にできるのかと疑問もあるけど、シュタインさん達が納得してるんだよね。
明日はダリムを見に行こう。どうも気になって仕方がない。やはりポニーだと思うんだけど、荷馬車を引くのが馬ではなく牛だから、想像できないんだよね。
やがてカウンターの奥の扉が開き、シュタインさんが俺達のところに帰ってきた。
途中で暖炉でパイプに火を点けてきたから、モモちゃんから離れた場所に座ると、煙の流れを気にしているようだ。それならパイプを使わなければ良いのにね。
「まだガドネンは帰っていないか……。少し変わった依頼を仰せつかった。かなり面倒にも思える。皆で考える必要がありそうだ」
「荷馬車の護衛じゃないの?」
ヒルダさんの言葉にシュタインさんが首を振る。
「次の依頼と言うわけではない。雪が降ってからになるな。王国軍の魔物討伐隊が大きな洞窟を見付けたそうだ……」
「洞窟の探索? ……確かに厳冬期になりそうね。他の傭兵は?」
ヒルダさんに答えながらも俺達の疑問に答えるような形で、詳細をシュタインさんが再び話し始める。
場所は、エバース村を北上してドクレル川の源流をたどれば見付けられるとの事だ。地図が発達していないのが問題ではあるけれど、川沿いを上流に向かえば良いらしいから、洞窟を見付けるのはそれ程難しい話では無さそうだ。
問題は洞窟探索そのものだな。
魔物は冬季は自分達の地下世界深くに帰ってしまうらしい。地下世界で生物が暮らせるのか良く分からないけど、地底に王国を築いているって事になる。
そんな連中がそのまま地底にいるなら問題はおきないのだが、暖かくなると地上世界を目指して行動しているようだ。
ひょっとして、シュバルツボーエンの山奥には地上に魔族が暮らす地もあるんじゃないかな? やはり生物が地下世界で暮らすには色々と無理もあるような気がする。
「光球が常に2つは必要だわ。松明だけでは何本あっても足りないわよ」
「モモも光球を作れるにゃ!」
モモちゃんの言葉にヒルダさんがモモちゃんに微笑み掛けて頭を撫でてる。
そう言えば、かなりの種類の魔法をモモちゃんは使えるようだ。限定7回の制限があるけどね。
「松明は用意せざるをえんだろうな。出来ればもう一人魔導士が欲しいところだ。ヒルダとモモだけでは心もとないところがある」
「なら、アオイに【アクセル】と【クリーネ】を覚えさせれば良いんじゃない? それだけでモモの魔法使用回数は2つ上げられるわ」
自分に掛ける【アクセル】と【クリーネ】を除いて5回を傭兵団の為に使えると言う事だな。だが、俺の手持ち金で魔法を使えるようになるんだろうか? かなりの借金を残しそうな気がするぞ。
「それも一案だ。明日、教会にアオイを連れて行ってくれ。その2つは必需品だからな。
アルビオンの蓄えから出してくれ」
「良いんですか? 魔法が使えるようになるにはかなりの出費だと思いますが?」
「それなりの働きをしているよ。オーガを倒せたのもアオイの作戦が優れていたからだ。それにアオイの変わった弓とモモの能力は他の傭兵団より俺達を頭一つ伸ばしてくれる」
ここは謙遜せずに行為に甘えておこう。
「ありがとうございます」と返事をすると、皆が頷いている。やはり俺だけが魔法を使えないというのは問題だったんだろうな。
それからしばらくして帰ってきたガドネンさんを伴なって、町の食堂兼酒場に出掛ける。独立した食堂と酒場もあるようだが、皆で一緒に食事をするならこっちの方が都合が良い。俺達は直ぐに食事だけど、ガドネンさん達は先ずは酒だからね。
「良い出物が合ったぞ。都合2台になる。俺達が使うとなれば補強がいるし、板バネも交換せねばならん。取りに行くのは3日後だ。ヒルダ、明日は町の工房に行くぞ。アオイのような弓を作る」
「なら、アオイは私が連れて行ってあげる。魔法を2つでしょう。だいじょうぶよ」
「そうね。リーザに頼むわ。これでお願い」
リーザさんに手渡したのは穴の開いていない銀貨だ。銅貨と同じならば、通常の銀貨の10倍になるはずだ。
「よろしくお願いします」
「構わないわ。リーダーのシュタインが決めたことなら問題もないし」
ヒルダさんの話だと、リーダーが傭兵団の全権を掌握してるって事になる。となればリーダー次第で傭兵団の将来性が決まるって事にもなりそうだ。アルビオン傭兵団のリーダーであるシュタインさんは極めて用心深い性格だから安心できそうだ。
翌日、俺達はリーザさんに連れられて教会に出掛けることになったのだが、この世界の教会の祈る神は1つでは無いらしい。
○○を司る○○神……、というような形でたくさんいるらしいから、多神教になるんだろうな。それを1つの教会にまとめてるんだからかなり都合が良い神様達のような気がする。
俺にとってはどうでも良い事だけど、教会だけが心に中に魔方陣を作って魔法を使えるようにすることができるとリーザさんが教えてくれた。
ほんとかなぁ? と聞いていても胡散臭くなるけど、モモちゃんも魔法が使えるんだよね。人間族なら10回以上は使えるようになるらしいから、将来は俺も【メル】を覚えよう。
教会は俺の知るキリスト教の教会のような感じではなく、ちょっと大きな屋敷に見える。目印は玄関の扉に付いたわけのわからない紋章と家の屋根の1角に取って付けたような鐘楼だけだ。今朝鳴った鐘の音はこの鐘の音なんだろう。
「ここよ。ちょっと待ってね」
リーザさんが入口の扉をドンドンと乱暴に叩いたのは、この世界の習わしでは無くて、性格なんだろう。
それでも、はっきりと来訪が分ったらしく、直ぐに若い修道女のような衣装を着た女性が現れた。
「御用でしょうか? 生憎と小間物は間に合っていますけど……」
乱暴に扉を叩いたせいで、押し売りと間違われているようだ。
「違います! この男性に魔法を授けて頂きたいのです」
「まあ! それなら、こちらにどうぞ」
直ぐに誤解が解けたようで良かったけど、俺達は修道女の案内で教会の中へと入って行った。
入ってすぐに通路が左右に伸びている。玄関を開けて目の前にも扉があったけど、俺達は通路を左手に進んで行った。
角を曲がると直ぐに扉がある。その扉の中は、床一面に魔方陣が描かれていた。




