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Eー407 池から出てきた怪物


 3本目のタバコに火を点けながら、焚き火の傍から腰を上げる。


「気になるのか?」

「誰かに呼ばれた気がしたもので……」

「脅かさないでくださいよ。この子は怖がりなんです!」


 振り返ると、デリシャさんが若い女性兵士を抱きかかえていた。震えているところを見るとオバケは苦手なのかもしれない。


「済みません。脅かすつもりは無かったんです。ちょっと外に出てきますね」


 その場に立っていると、色々と文句を言われそうだ。

 屋形の外に出て見ると、少女がいた窓を何気なく見上げた。


 部屋に明かりが灯っているし、窓は切れにガラスまであるようだ。

 窓を広げて少女がジッと池を眺めている。


「やあ、一緒に散歩でもしないか!」


 俺の呼びかけに応えるように、俺に顏を向けると微笑みながら頷いてくれた。

 その場から身を乗り出して飛び降りたから、急いで窓の下に向かう。

 驚くことに、地上3mほどの高さになると少女の体が羽のようにゆっくりと下りてくる。

 少女の体を通して壁がぼんやりと見えているところを見ると、目の前の少女はこの世のものではないということになるんだろうな。

 おずおずと伸ばした手を握ろうとしたんだが、まるで掴めない。

 困った顔をしていたけど、俺の手の上から握り直して俺に笑みを浮かべてくれた。

 俺からは無理だけど、少女からなら俺の手を握れるらしい。

 ゆっくりと、池のほとりを散策する。

 魔族の気配はどこにもないようだ。


 少女を連れてそのまま焚き火の傍に腰を下ろすと、少女も俺の隣に腰を下ろす。

 ずっと一人で寂しかったのかな?

 モモちゃんより少し幼く見えるけど、西洋人の年代は良く分からないんだよねぇ。


「外はどうであった?」

「全く気配はありません。今のところは問題なしです」


 隣の少女にナリスさんは気が付かないようだ。

 俺にしか見えないのだろうか? それならここに座らせておいても問題は無いだろう。


「さて、そろそろ交代の時間だ。済まんが起こしてくれぬか?」

「そうね。でも今まで来なかったということは、私達もあまり眠れないかもしれないわね」


 デリシャさんが腰を上げると、男性隊員を軽く蹴って起こしている。あれで起きないようではもっと強く蹴るってことかな?

 ちょっと問題がありそうな起こし方だけど、皆が起きだしているのなら問題はないんだろう。

 さすがに、理沙さんとモモちゃんは蹴りを入れずに由利動かしていた。


「いてて……、デリシャは相変わらずだな。それで?」

「今のところは問題なしだ。だが、昨夜のこともある」


「ああ、襲ってくるだろうな。池の方向にたっぷりとセンサーを仕掛けているが、嬢ちゃんの方が確実ってことだな」


 ブリッツさんが自分のカップにコーヒーを注ぎながら頷いている。

 モモちゃんの能力が分かったみたいだな。

 当人もようやく起きたらしく、大きな伸びをしているようだ。


「ああぁ! お兄ちゃん、隣の子はどうしたの! どこから見付けてきたの!」


 大声を上げて俺に腕を伸ばすから、皆の視線が俺に突きささるんだよなぁ。

 まるで浮気現場を捉えたような言葉だから、デリシャさんは笑いをこらえるのに懸命だ。

 さっきまで隣に腰かけていた少女はモモちゃんの剣幕に驚いたのか、俺の背中に回って俺を必死に抱えている。

 実体があるようでないような存在だ。幽霊って、ある程度この世界に干渉できるんだろうか?


「モモ、私には何も見えんのだが?」


 ナリスさんの言葉に、理沙さんやKSKの隊員までが頷いている。


「さっきまで隣に腰かけてたけど、今はお兄ちゃんの背中に隠れているの。ほら、出てきなさい。お兄ちゃんは私のだからね! ちゃんと教えておかないと」


 とうとうデリシャさんが笑いだしてしまった。

 ブリッツさん達も苦笑いを浮かべて、成り行きを見守っている。


「モモちゃん。本当に居るの? 私達には全く見えないんだけど」

「どうやら、俺とモモちゃんには見えるようです。確かに背中に隠れて俺に抱き着いているんですが……」


 俺の言葉が終わると同時にモモちゃんが光に包まれた。

 ゆっくりと光が治まると、バステト神がモモちゃんの隣に腰を下ろしている。


「モモよ。心配はいらぬぞ。アオイは心根が優しいからのう。この館の霊を誘いこんでしまったらしい。

 出てきなさい。悪いようにはせぬ」


 おずおずと俺から離れた途端に、皆の表情が変わった。

 見えたということなんだろうな。


「傍に来なさい。その記憶を見たい……」

 

 足音も立てずに、滑るように少女がバステト神の前に身を屈める。

 少女の頭にゆっくりとバステト神の手が伸びていくと、手がほんのりと光りはじめた。


「そういうことか……。ならば、しばらくはアオイと一緒に暮らすが良かろう。我が力はこの世界ではそれほど高くはない。実体化は半日となろう。

 モモも妹が欲しかったのだろう。丁度良いではないか……」


 そう言うと、バステト神が消えてしまった……。バステト神の傍にいた少女の姿が、だんだんと明確になってきている。先ほどまでは体を通して向こう側が見えていたのだが、実体化が進んだということなんだろうか?


「今、そこに居た魔物は何なんだ? それと隣にいる少女はさっきまでいなかったはずだ!」


 ブリッツさんの大声に、ナリスさんがゆっくりとブリッツさんに顔を向けた。


「先ず誤解を解いておく。先ほどまでその場にいたのは、バステト神と呼ばれる神だ。神は実在する。この世界に存在する多くの神の中の1柱と言うことになる。

 モモに憑依しており我等を助けてくれる場合もあるが、あまり手は出してこない。とはいえ、教会で神に祈るよりは御利益は確かな存在だ。

 その娘は、この館にかつて住んでいた霊であろう。肉体が滅んでも、どこに行けばよいかわからぬようだな。我等で面倒を見ることになりそうだが、モモ、世話を頼んだぞ」


「だいじょうぶにゃ。でもお兄ちゃんは私のにゃ!」

 

 まだ言ってる。

 モモちゃんがおいでおいでをすると、ゆっくりとモモちゃんの傍に歩いて行った。

 実体があるとしても怪我をすることは無いだろうから、モモちゃんと一緒にいるなら問題は無いだろうな。


「幽霊じゃないのよね?」

「幽霊ではないな。れっきとした名前もあるだろう。そしてこの館の持ち主でもあるようだ。城に帰って、総長に顛末を話さねばなるまい。このまま置いておくわけにもいかぬだろう」


「部隊で引き取ることも無理だろうな。戸籍も無いだろうし……。騎士団に預けるしかあるまい」


 モモちゃんが取り出したお菓子を一緒に食べている様子を見て、ブリッツさんは無理やり納得しているみたいだな。


「マリア様やキリスト様以外にも神はいるということでしょうか?」

「大勢らしい。どれぐらいいるのか? とかつてアオイに聞いたことがあるのだが、その答えは800万という数だった。もっともアオイが暮らした日本では、たくさんの数を800万という数で表すらしいから実数は更に多くなるはずだ」


「多神教ってことか? テロリストにそんな宗教観を持った連中がいたんだが、アオイはテロには関わらないんだな?」

「そんな、まさか! ですよ。少し親を困らせることはしたことがありますが、警察の厄介になったことはありません」


「親を困らせないような男というのは、もっと問題だろう。それに騎士団員であるなら問題はない。後は任せてそろそろ横になった方が良いぞ。何時やってくるか分からないからな」


 言いたいことや聞きたいことはたくさんあるんだろうけど、それは理沙さんに任せておこう。

 ブリッツさんの言葉に頷くと、モモちゃん達の頭をぐりぐりしてモモちゃんが寝ていたブランケットに包まった。

 だんだんと瞼が重くなった時だった。


「来るにゃ! たくさんやってくるにゃ」


 モモちゃんの大声が聞こえてきた。

 ブランケットを跳ねのけて、ムラマサをベルトに差し込むとショットガンを握る。

 

「モモちゃん、グレミーだけなのか?」

「たくさんいるにゃ。それと大きいのが1ついるにゃ」


 思わずナリスさん達と顔を見合わせてしまった。


「ゴーレムということか?」

「以前出会ったことがある魔物は、モモちゃんがそれなりに教えてくれます。初見の魔物と言うことになるんでしょうが、大きいとなると……」


 ガタン! とブリッツさんが音を立てて後ろに下がった。


「何だあれは? 魔物ではないぞ。怪獣じゃないか!」

 

 ブリッツさんの視線の先にいたのは、池から顔を出した3つ首の怪物だった。


「ヒドラに違いない。伝説は本当であったのだな」

「落ち着いている場合か! さすがにロケットランチャーは持って来ていないぞ」


「伝説では騎士が倒している。長剣なら倒せるということに違いない」

「ヒドラは俺が対応します。グレミーをよろしくお願いしますよ。間違っても白兵戦に持ち込まれないようにしてください」


「あの後ろに見えるカエル頭だな。あまり背は高くなさそうに見える。ブリッツ殿、行けるか?」

「逃げることも出来ないでしょうね。おい! しっかりしろ。ベルトにマガジンを1個挟んでおけよ。セミオートで無くフルオートで連射すれば倒せるはずだ」


 崩れ落ちた瓦礫に隠れて、応戦するようだ。

 モモちゃんも少女と一緒に隅に向かうと、その前に2体の犬型ロボットが体を伏せてくれた。

 

「最初の1発はドラゴンブレスです。理沙さんに預けますよ」

「残りはスラッグ弾ね。こっちにしようかな」

「それなら、これを……」


 12番のスラッグ弾とドラゴンブレス弾をポケットから取り出して理沙さんに預けた。

 腰の刀の鞘を右手でしっかりと握り、舘から外に出る。

 怪物が足を池の縁に乗せて鎌首を持ち上げている。どう見ても体長は15mを越えている気がするな。

 ナリスさんがヒドラと言っていた。確か毒を持っているんじゃなかったか?

 その上、斬っても直ぐに傷口が治るということを聞いたことがある。単に傷をつけて体力を奪うことはできないってことだろう。


 とりあえず、あの頭を何とかしよう。毒か炎を吐き出しそうに見える。

 ムラマサが伝説の勇者の持つ神剣にどれだけ迫れるか……。

 口の中で真言を唱え、一気に首を刈にヒドラの元へ飛び出した。


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