2-12 冬はかなり厳しいらしい
焚き火でじっくり遠火で炙る。
何回目かの夜間の見回りを終えた時、リーザさんが切り分けてくれたラビーの焼き肉を味わった。
分量はあまりないけど、焼き肉何て久しぶりだからね。
皆、目を細めて美味しそうに味わっていたぞ。
円陣の周囲を回っても、たまに遠吠えが聞える位で危険な獣は近寄ってこないようだ。
「今夜は静かだな」
シュタインさんがそんな事を言ってるけど、それってフラグが立ちそうなセリフだよな。
思わず聞き耳を立てたけど、どこからも遠吠えは聞こえてこないようだ。賑やかな夏の虫が鳴いているだけだ。
「静かね。やはり荒野の出口に近いせいかしら?」
「小さいのはたくさんいるにゃ……」
そんな事を言うからリーザさんにハグされてるぞ。だが、昨夜とはだいぶ違うな。
こんな夜なら大歓迎だ。
「静かなものだ」
「だな……。やるにこの地で焼き肉を食べても奴らは寄ってこないようだ。やはり昨夜で打ち止めって事なんだろう」
シュタインさんにレクサス傭兵団のリーダーが同意している。焚き火から腰を上げて俺達と入れ替わる。
3回程代われば夜が明けるだろう。明日はベッドで眠ることができそうだ。
翌日、朝日の出る前に荷馬車の列が動き出した。
のんびりと俺達は後ろを眺めているが、モモちゃんはすでに寝息を立てている。
夜の間、ずっと俺達と歩いていたからな。まだ小さいんだから仕方がないのかもしれない。俺が昼は頑張っていよう。
日が昇ると、荒野に陽炎が立ち上る。遠くが見通せなくなるのが問題だ。
だけど、200mほどならそれ程問題は無い。遠くで俺達を眺めているガトルは必ずしも脅威ではないのが、この頃少しずつ分かってきた。
驚異の大きさとは、相手の持つ危険性と俺達の距離と言う事になるのだろう。それに群れの数も掛けることになるな。
離れた場所の20匹の野犬と、近場の5匹のガトルでは格段に後者が脅威となるわけだ。
「今は夏ですよね?」
「そうよ。かなり暑くなって来たでしょう。でもこれ以上にはならないわ。来月からは少しずつ涼しくなるから、もうちょっとの我慢ね」
リーザさんの話では、今が盛夏ということらしい。俺の多機能時計では気温が30度位だから、前の世界の酷暑からすれば十分に過ごしやすい。
ということは、冬の寒さが酷いと言う事になるんだろうか?
「この辺りも雪が降るんですか?」
「たっぷり降るわ。冬は荷馬車じゃなくて、ソリを使って荷物を運ぶのよ。革の上下の下に2枚は服を着ることになるわね。セーターも必要よ。風を避けるだけでも寒さが和らぐから、薄い毛布で裏打ちされたマントは必需品になるわ」
相当冷えるってことじゃないか! モモちゃんはだいじょうぶかな?
携帯用のコンロを探したほうが良いのかも知れない。その前にかなり稼がないと冬を越せないかも知れないぞ。
「吹雪が来れば止むまで商隊の歩みは止まるわ。焚き木と食料はたっぷりと用意しないといけないのよ」
周囲の監視でリーザさんも退屈してるんだろうな。色々と注意点を教えてくれる。
「とりあえず、衣服を整えれば良いんでしょうか?」
「ええ、そうなるわ。2か月後に手持ちで銀貨20枚を目安にすればモモちゃんの衣服も一緒に整えられるわよ」
バッグの中から財布代わりの革袋を取り出して、銀貨を数えてみる。
銅貨はたくさんあるが、銀貨は6枚しかない。残り14枚を何とかしなくちゃいけないってことだな。
「今度の依頼は率も良いし、ガトルの大群を倒してるからかなり貰えるわよ」
心配そうな表情で袋をバッグに戻した俺を慰めてくれた。
なるほど、依頼だけの収入とは限らないってことだ。換金額の良い、倒すのに楽な獣であれば良いんだけどね。
周囲の荒野に少しずつ草むらが増えていく。
どうやら、モスデール荒野を抜けつつあるようだ。リーザさんの話では昼過ぎにはテレス村に着くらしい。
「平地の街道に近いから大きな村よ。たぶん私達の生きている間に町になるかも知れないわ」
「村と町の違いって何なんですか?」
そんな素朴な質問にもきちんと答えてくれる。
どうやら、宿の数と、住んでいる人数によって決まるらしい。宿が5軒以上で、住人の数が3000人を超えることが条件らしい。だけどそれだけの住人が住むなら住居だけで300軒以上になるんじゃないか?
住居やお店などをまとめて周囲を囲うとなれば、塀を作るだけでもかなり大きくなりそうだな。
昼近くになってモモちゃんが起きたのは、お腹が空いたのかもしれない。
しきりに周囲を眺めているのは、寝ていた間に景色が変わっていることに驚いているのだろう。リーザさんがそんなモモちゃんを微笑んでみている。
「あっちに、大きな村が見えるにゃ!」
それが、テレス村ってことなんだろう。干し草越しに前を見ると、確かに大きな村だというのが良く分かる。
丸太を使った塀だけで最初に暮らしたベルク村の倍以上はありそうだ。
1時間程過ぎたところで、俺達を乗せた荷馬車の車列はテレス村の北門をくぐって、大きな広場に到着した。
モモちゃんがぴょんと荷台から飛び降りる。俺達も忘れ物が無い事を確認して荷馬車を降りた。すでにクロスボウは畳んで魔法の袋に入れてるから、俺の荷物は杖だけになる。モモちゃんが弓を斜めに担いでいたので、弓を持ってあげた。あれでは、あちこちに弓を引っ掛けそうだからね。
「リーザは宿の手配だ。俺達はギルドに向かう。2晩泊まることにするぞ」
シュタインさんの指示で、リーザさんが広場から通りに向かって走って行った。俺達はシュタインさんに連れられてギルドに向かう。
通りも俺達の知っている村の通りより広く感じるな。石畳がずっと南に伸びている。その先には北門と同じような門があるに違いないがここからではまだ見え無いようだ。
石造りの立派な店も何軒か通りに並んでいる。
その中の1つがギルドだった。皆で中に入ると、カウンターにシュタインさんとガトネンさんが向かい。俺達はミーネさんと一緒にテーブルに向かう。
やがてシュタインさん達がテーブルにやって来て、ミーメさんが俺達の人数分のカップを出して暖炉からお茶のポットを運んで来た。
リーザさんのカップにお茶を注いでいると、ギルドの扉が開き、リーザさんが帰って来た。
にこにこしているところを見ると、良い宿が見つかったようだな。
「俺達への依頼はここまでだ。ギルドで次の依頼を探したんだが、東への依頼ばかりだ。南のモンデールの森を西に向かいナルス村に向かうぞ。そこで依頼が無ければ、荒地を西に向かって連絡街道にあるラケット村を経てドーガント村に戻る」
絵図のような地図をシュタインさんがテーブルに広げて、これからの予定を話してくれた。
時計回りに大きく回り込む感じだな。ドーガントの村には6日は掛かりそうだ。野営用の広場が描かれてるから、おおよその日数が分かる。
「ナルス村に依頼があれば良いがのう……。ラケットならば確実かもしれんな」
「無ければドーガントで待つことになる。今回の報酬は各自に240L。それにガトルの褒賞が各自に66Lだ」
銀貨3枚と銅貨が6枚になる。モモちゃんの分も一緒に受け取って袋にしまいこんだ。目標まで残り銀貨8枚だから、何とかなりそうな感じだ。
「宿は、通りを南に向かって最初の宿よ。2晩ということで予約しといたわ」
「それじゃあ、宿に行こう。モスデール荒野では気疲れしたからな。美味い料理を食べてゆっくり休め」
それには俺も賛成だ。
傭兵として依頼をこなしている時には、ゆっくり眠ることができないからね。
ぞろぞろと連れだって宿の食堂に向かう。
シュタインさん達はワインを飲み始めたが、俺とモモちゃんは最初から食事で良い。
新鮮な野菜のポトフと焼き立てのパンはそれだけで十分に美味しく感じる。それに洋ナシのような果物が一切れ付いていた。
甘い物が飴玉位だからな。食事が終わった後で、お茶と一緒に味わった。モモちゃんが美味しそうに食べていたから、明日は雑貨屋を回りながら何個か買い込んでおこう。
まだワインを飲んでいる連中をテーブルに残して、先に部屋に向かった。
モモちゃんの魔法で体と衣服をまとめて綺麗にして貰ったところで、ベッドで横になる。
数時間にも満たない眠りを繰り返してるから、ぐっすりと朝まで眠れることが贅沢に思えるな。
翌日は、リーザさんと一緒に雑貨に向かう。
俺達だけで、次の村に向かうから準備は大変らしい。そんな買い出し仕事はリーザさんの担当らしい。
「共通品を入れる魔法の袋は私が持ってるの。水や食料が担当で、野営に必要な品物はガトネンさんだし。食器類はミーメさんが担当よ」
そんな事を言いながら、カウンターのお姉さんに色々と注文を出している。
モモちゃんは干した果物を1袋と飴玉を買い込んだ。新鮮な果物は八百屋にあるとカウンターのお姉さんが教えてくれた。
「モモちゃんがそれを買ったんなら、皆で食べるのはこっちが良いわね」
リーザさんが大きな袋で別の干した果物を買い込んだ。それって、干しブドウじゃないのかな?
八百屋で昨夜頂いた果物を3個買い込んだところで、宿に戻ることにした。
明日は再び歩くことになりそうだ。
早朝に宿を発つ。お弁当を作って貰ったから、何が入っているかちょっと楽しみだな。
日差しが強いから麦わら帽子のような物を皆被っているが、俺はサバゲーで使ってた帽子を被る。
広い通りにはまだ人が出ていないな。南門には農家の荷馬車が何台か止まっていた。
門番さんに挨拶して俺達は街道を南に歩く。
この先の森の中に西に向かう道があるそうだ。その先がナルス村らしいが、今夜は森を抜けたところで野営をするらしい。
まだ歩き出したばかりだから、モモちゃんの足取りも軽やかだ。
少し長く歩くから、途中からおぶってあげないといけないかもしれないな。




