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2-06 リーデルの武器


 森の中に作られた広場は、周囲が石塀に囲まれていた。

 石塀に沿って外側には竹のような植物が密集して植えられているから、背後から襲われる心配は無さそうだ。

 入り口にも可動式の柵が作られており、何となく砦に入ったような印象を受ける。

 まだ日が高いから、俺達は周囲の森から焚き木をたくさん集めておく。広場の中にある石で囲った焚き場所が2つあるから、それに見合う分だけ集めなければなるまい。

 少し太めの木まで倒して運んで来る。

 

「今夜は最初から焚き火の番になる。移動式の柵が4つあるから、焚き火の左右に1個ずつ置いて、真ん中に2つだ。焚き火の左右は商隊の連中が守ってくれる。俺達は中央だが、襲って来たらヒルダはリーザとモモを率いて柵の中。俺達3人は柵の外で戦う。アオイはあの矢を使って1匹倒してからで良い。俺の左を頼めるか?」


 焚き木の束を椅子代わりにして焚き火の周りに座った俺達にシュタインさんが役目を話してくれた。

 俺は左側か……。左利きだと話してなかったけど、すでに分かってたみたいだな。

 力強く頷いて了承を伝えておく。


 俺達が座っている焚き木の束を2つ合わせれば、モモちゃん位は隠せるだろう。

 魔法が使えても精々5回だからな。後はこの束に紛れていれば見つからないんじゃないか。


 食事が終わったところで、焚き火の勢いを増して周囲を明るくする。

 たっぷりと焚き木を取っておいたから、もっと盛大に燃やしても良いのだろうが、ものには限度というのがある。

 少し濃い目のお茶を飲み、小さく切った干し肉を噛ヒルダがら眠気を覚ます。

 最初は、元気に起きていたモモちゃんが俺の隣で船をこぎ出した。ポンチョを敷いて、焚き木に寄り添わせて眠らせておく。


「お前の妹はネコ族にしては変わっているな。リーザに聞いたが、リーガンに気付く者はそれ程いないだろう」

「確かにちょっと変わってますけど、大事な妹にかわりはありません」


 俺の答えに4人が小さな笑い声を上げた。どう言う事だ?


「気を悪くしたなら謝る。俺が言ったのはそうではない。ネコ族を越える能力を持っていると言う事だ。ある意味ありがたい話だ。リーガンに気付かずにリーデルに取り囲まれた話は良く聞く。だが、事前にそれが分れば、このように体制を整えられる。怪我はするだろうが亡くなる者はいないかもしれない」


 危機管理ができると言う事か? 警報装置替わりにもなるのだったら、一人前に程遠いモモちゃんだけど十分に仲間として認めることが出来ると言う事だな。


「リーザの上を行くとは中々いないぞ。だが、確かにありがたい能力じゃな。その上、数回でも【メル】が使えるのなら、後方からの支援も期待できると言う事じゃ」

「それなんですが、一応弓も使えるようです。初心者用ですからあまり役に立たないとは思いますけど……」


「気にするな。それよりリーデルが来るなら、それよりも良い片手剣が手に入るぞ。前の剣は売り払って装備の足しにするんだな」

「なら、数匹は倒さなくちゃね。……残りは、私達のおこずかいで良いでしょう?」

「構わんぞ。だが、長剣を持っていたなら、アオイのものにしろ。リーデルの長剣の質はかなり良いものだ」


 リーデルの武器は片手剣と丸い盾だと聞いたが、長剣を持っている者もいるんだろうか?

 必ずしも武器は一定ではないということになりそうだ。

 お茶を飲み終えたところで、バッグから指先の無い皮手袋を取り出して手に付ける。片手剣が取り出せるように剣のガードとケースを結び付けた革紐を解いておく。ボルトケースからボルトを3本引き抜いてクロスボウの傍に置いた。

 太い杖は直ぐ横に置いてあるから、これで俺の準備は完了になる。

 

「これが刺さると思うと、私の矢がオモチャに見えるわ」

「だが、数を撃てぬ。それが問題ではあるな。それでも1匹に痛手を負わせられるなら、俺達の戦いが楽になる事も確かだ」


 シュタインさん達が、ボルトの先端のヤジリである5寸クギを眺めながら話をしている。

 10cm近くあるからね。頭に当たれば即死だろうし、胸や腹に受けても重傷には違いない。


 夜が段々と更けた時、突然モモちゃんの尻尾がピンと上を向いた。かなり太くなっているぞ。

「全く、寝ていても分るのだから問題なさそうだな。やって来るぞ!」

 

 シュタインさんの声に俺達が得物を持って広場の入口に目をやる。

 腰を下ろしていた焚き木を一カ所に纏めていると、モモちゃんが起きて来た。

 目をごしごし擦っているが、直ぐにリーザさんの後方に下がり、俺に【アクセル】を掛けてくれる。

 シュタインさん達は自分で掛けている。俺も早めに習った方が良いんだろうけど、しばらくはモモちゃんのお世話になるしか無さそうだ。


 モモちゃんを後ろに下がらせて、左の焚き火近くでクロスボウを構える。

 シュタインさんは柵の真ん中付近で入り口を眺めているし、ガドネンさんはその右手で両刃の斧を持っている。片方には丸い盾を持ってるのだが、結構な重さだと思うぞ。あんな武装でよくも戦えるものだ。


 入口付近に何かが現れた。俺達に向かってくる一団がトカゲが立って歩いている姿だと分かったところでクロスボウのトリガーを引く。直ぐに弦を引いてボルトをセットする。数m前に迫ったリーデルにボルトを突きさしてクロスボウから太い杖に武器を持ち替えた。

 直ぐ目の前で火炎弾が炸裂して、俺にまで火の粉が降りかかる。怯んだ相手に思い切り杖を叩き付けた。

 柵を飛び越えた俺の目の前に現れたリーデルの腹に矢が突き立つ。身をかがめたリーデルの顎を杖で殴り上げた。ガツンと骨の折れる音が手に伝わって来る。


「数が多いぞ! まだまだやって来る」

 商隊の誰かが叫んでいる。そんな事は見ればわかるから、いますることは目の前のリーデルをぶん殴るだけだ。


「キャー!」

 リーザさんの叫び声に後ろを振り向きざま、杖をリーデルの背中にぶん投げた。さすがに刺さりはしなかったがその場で転倒してくれたから、後はリーザさんで十分だろう。

 腰のサバイバルナイフと片手剣を左右の手で引き抜き、片手剣を振りかざして迫って来るリーデルに向かい合う。

 逆手に構えた片手剣を使って相手の片手剣の斬撃を受け流すと、一歩踏み込んで左手のナイフで相手の喉を掻き斬る。反転したところで足で蹴り飛ばすと次の相手に向かって行く。


 たまに周囲のリーデルに火炎弾が炸裂したり、矢が突き刺さる。モモちゃんが助けてくれてると分かると、頑張れるな。

 新手のリーデルに挑みかかり、首を掻き斬った。


 喧噪に包まれていた広場が静かになった。いや、雄叫びが呻き声に変わっただけなのかも知れない。

 改めて広場を見てみると、至る所にリーデルが倒れている。よろよろと立ち上がろうとする者には情け容赦なく槍が突きだされていた。

 

 終わったみたいだ。

 さぞや血まみれの姿だろうな。サバイバルナイフを2、3度振って血糊を飛ばすと腰のケースに戻してモモちゃんのところに向かう。

 俺の姿を見た途端【クリーネ】を唱えたところを見ると、かなり凄惨な姿だったに違いない。


「ありがとう」とモモちゃんの頭を撫でると、くすぐったそうなそぶりをしていたが、直ぐに倒れたリーデルのところに向かった。矢を引き抜いているようだ。かなり使ったのだろうか? 俺も近くのリーデルから矢を引き抜くのを手伝ってあげる。


「ほら、長剣モドキだ。やはり持ってた奴がいたぞ。前の片手剣より遥かに良い品だ」


 ポイっと、ガドネンさんが放ってくれた剣は、片手剣よりも少し長めだったが、シュタインさんの持つ長剣より20cm程短そうだ。だから長剣モドキなんだろうな。

 だけど、これなら片手でも両手でも使えそうだぞ。日本刀のように少し反った片刃の剣は厚みがあって確かに重い。

 中途半端な品だから、あまり欲しがる者もいないのだろう。刃渡り60cmと言ったところだな。これと片手剣で丁度俺には合ってる気がする。


「倒したリーデルの武器と防具の金具は貰って置け。俺達の貴重な収入源だ!」

 シュタインさんの言葉に、リーデルからの剥ぎ取りが始まった。

 剥ぎ取った武器等はまとめてガドネンさんの用意した袋に入れる。リーデルは広場の片隅に積み上げて置いた。亡き骸は森の獣達の腹を満たす事になるんだろうな。


 そんな事をしているといつの間にか朝になる。

 簡単な食事を終えると、再び森の中の街道を荷馬車が進む。

 まだまだ油断はできないんだよな。昼過ぎには森を抜けるらしいから今夜は少し安心できそうだ。


 「次の村まで遠いんですか?」

 「今夜一泊すれば、明日の夕刻には到着するわ。いつもはこの森の手前にある三差路で南に向かってたの」


 となると、森の中の野宿は初めてと言う事だったんだろうな。

 いつもより1つ先の村に行くと言ってたからね。

 

「モモちゃんの弓の腕も中々ね。無駄矢が1本も無かったわ」

 チラリと後ろでお休み中のモモちゃんを見てしまった。あのオモチャの弓なら十分に使えるって事になる。

 弓なら連射ができるから、魔法が使えなくなってもそれなりに力になってくれると言う事になる。俺も何度か後ろを取られそうになった時に助けて貰ったんだよな。

 かなり優れた後方要員になるんじゃないか?


 まだ日のある内に森を抜け、その先にある街道の休憩所に馬車が入って行く。

 森との距離は3km近くありそうだ。今夜は早めに寝て疲れを取ろう。


 翌日は荒地を進む。

 周囲の見晴らしが良いから、モモちゃんは荷物の上に寝転んでいる。ピョンピョン跳ねてなければ注意しなくとも良いだろう。眠くなれば下りてくるだろうしね。

 きっと、周囲の景色を見てるんだろうけど、荒地が広がっているだけだから、俺は飽きてきたな。こんな場所なら襲ってくる連中もいないだろう。


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