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プロローグ

 この物語は 最低でもR15、該当する15歳未満の方ごめんなさい。

 そして『春の官能競作祭り! 春エロス2008』参加作品です。

 公式サイトはページ下部にございますのでそちらからどうぞ。

 PCをご利用で狭い改行が気になる方は、以下をご利用いただきますと少しは解消されるかもしれません。

 【携帯電話版( http://ncode.syosetu.com/n8922d/k/ )】


 なお、この作品は2008年4月9日に一部改訂しております。

 改訂以前に苦情が寄せられた「競馬シーン」を大幅にカットしました。

 それでもカットし切れない冒頭の競馬シーンは……なんとか我慢して読んでいただくよう泣いてお願いする次第です。

 物語の根幹部分にどうしても競馬が絡んでしまうので、予め納得して読んでいただければと思います。


 カットした部分は新たにエピソードを加えたSpin offとし巻末に収録しました。

 ということで改訂以前のものを既読の方はSpin offのみを、そうでない方はこのプロローグからお楽しみください。


 ちなみにエロスや恋愛をお望みの方はエピローグまでで止めておくのが無難です。

 Spin offは競馬がかっちりと絡みますので。

 その分、競馬も大丈夫な方のみオマケ部分もお楽しみいただけるのではないかと思います。

 全般的にえろいシーンは微妙、期待しないで下さい。


 最後に、"えろす"と"ギャンブル"は行き過ぎると身を滅ぼします、多分。

 ですので用法容量を守って正しくお楽しみください。

 ではどうぞ。


 五月六日、月曜日。

 ゴールデンウイーク最後の休日となったこの日。

 ――くそっ! 思い出してもうたやんけ!

 待ち合わせまでの三十分余りを駅前のコンビニで時間を潰そうと、長谷川伸一はせがわしんいちは店内に足を踏み入れそしてすぐさま後悔した。

 入り口には筒状に丸められボックスに突き刺さるスポーツ新聞。その一面にでかでかと書かれているのは、昨日の出来事が事実であることを証明する忌々しい文字の数々。


  淀を誘惑、魔女ヴェイユ!

  ターフを切り裂いた女王様!


 伸一が思い出したのは昨日の午後三時五十分ごろの出来事。


『わかっとるがな。奴隷でもメイドさんでも、何でもやったるわいな!』

 よもやの敗北を喫し投げやりな伸一へ、勝者藤田瑞希ふじたみずきはこう言った。

『ショッピングモールタナカの一階噴水広場。時間は十一時。良いわね?』

 その時、目の前のテレビには伸一の敗北を象徴する芦毛あしげ牝馬ひんばテンプテーション号とフランス人女性騎手カトリーヌ=ヴェイユが、京都競馬場十二万人の大観衆へウイニングランで応えているところが映し出されていた。

 夢でも見間違えでもなく、テレビに映し出される優勝馬はテンプテーション。

『さ、早速明日かいな……』

 やり場のない怒りや悲しみに伸一は、一方的に話を進めていく瑞希へ力なく答えるのがやっとだった。

 ゴール前ほんの百メートルで表彰台から奈落の底へ真っ逆さまに転落した伸一。それもこれも全てテレビに映るテンプテーション号とヴェイユ騎手の一世一代の大仕事のせいだ。だがそれを責めることは出来ない。

『少し多目にお金を持ってきて頂戴。そうね……三万くらいで良いわ』

 しかし気落ちする伸一に容赦なく次なる条件を提示する瑞希は、彼にとってまさに執行人。

 人並みにアルバイトなどしている伸一ではあったが、自由に使える金銭など知れている極めて一般的な大学生。瑞希の言った三万円が出費であるならば、彼の財政事情が明日以降大きく悪化することは確実なのだ。

『奴隷にするだけじゃ飽き足らんで、銭まで剥ぎ取るつもりかぃ!』

 だから財産を死守せんが如く抵抗を見せる伸一の言動も、当然といえば当然。

『だって約束でしょ?』

 けれど勝負は勝負。

 約束は約束。

 敗者を自覚し始めた伸一に返す言葉などない。

 もしこの勝負に勝利していれば伸一だって瑞希へ何を言っていたか、想像も出来ない。それほどに伸一はこの天皇賞に思いを託していた。だからこそ、瑞希が勝ち取った権利の大きさを痛感している。

『罰ゲーム』

 彼女が発した一言に伸一は首を縦に振らざるをえなかった。


 そんな昨日の悪夢を思い出す切欠である新聞が刺さるボックスを、伸一は思わず蹴り倒したくなった。

 けれど蹴り飛ばせばより惨めになるだけ。

 ――敗者は黙って罰ゲーム……勘弁して欲しいわ……

 新聞に対する怒りは、敗者であることに対する嘆きへと変わる。

 コンビニを出た伸一の足取りは、とても重いものとなった。



 予想通り、駅前に建つショッピングモール・タナカは子供連れの家族で溢れかえっていた。

 その一階広場に設置された小さな噴水の周りは、平日の夕方を過ぎれば多くのカップルで生暖かい空間へと変貌を遂げる、地元民にとって"駅前"と並ぶ待ち合わせ場所だ。

 待ち合わせ時間の十分前、約束を守り伸一はその"タナカ噴水前"に辿りついた。


 黄金週間最後の日、それもファミリーの多い十一時ならば、流石に人目は憚られ空間の温度も上がってはいないだろう。そんな伸一の予想は大きく裏切られ、隣同士に座り手を握り合う数組のカップルや、相手を待っているのだろう若者が少なからず存在していた。そして周囲を気にもしない彼らが、独特の甘い空間を作りはじめていたのだ。

 ――この時点で罰ゲームやん……

 よもや自分がここを利用する事に、あまつさえ相手が藤田瑞希になろうとは想像もしていなかった伸一だったが、これから展開されるのは心ときめく甘い一時では、断じてない。

 同じ場所で待ち合わせをする彼らと、罰ゲームを執行される自分。

 どうしてこうも境遇が違うのかと苦笑しつつ伸一は噴水の前まで足を進め、辺りを見渡たした。

 瑞希の姿はまだなく、ひとまず噴水の縁に腰を掛け携帯電話を確認するが、彼女からの連絡は入っていなかった。

 億劫がる伸一に十分前行動などという七面倒な常識を推奨したのは誰でもない瑞希。そんな彼女が罰ゲームという恰好の舞台を前にまだ姿を現さないことに、伸一は妙な違和感を感じ、そして思う。

 ――楽しゅうて夜も寝られへんかった、とかそういうオチやあらへんやろな……

 ふと頭に浮かんだ考えに「それはそれでツッコミどころが増えて面白いか」などと小さく呟きながら、伸一は携帯電話をたたんだ。

 そしてポケットに戻そうと軽く腰を上げたところで、それに気付いた。


 四、五歳辺りだろうか小さな女の子が二人、伸一の顔をじっと見つめていたのだ。

 興味深く伸一を眺める二人に面識など全く無い。勿論、じっと眺められるような理由も持ち合わせていない。

 自分を見つめる四つの眼に動揺し、慌てるように彼女達へ問いかけた。

「な、なんやねんな君ら」

「おにーちゃん、でーと?」

 間髪入れず返ってきた質問は純粋な子供らしいそれで、勘違いも甚だしくけれど理解出来るものだ。周りの光景を見れば子供ならずともそう思うだろう。けれど残念な事にこれから始まるのは地獄。

「デートなんてええもんとちゃうねん。お兄ちゃんな、今から罰ゲームやねん」

 伸一は目の前に並ぶ二つのピュアな顔へ、これからはじまるであろうそれを説明する。

「ばつげーむ?」

「そーやで。多分やけど、嫌ぁなことせなあかんねん」

 だが身振り手振りを交えながら伸一が教える罰ゲームの恐ろしさは、純真無垢な子供には伝わらなかったようだ。

「なんか、おにーちゃん」

 女の子の一人が伸一の話を遮り、首を傾げながら伸一に疑問を投げかける。

「めっちゃたのしそーっ!」

 とても簡潔に。

「……へ? 楽しそうやった?」

 伸一の問いに、口々に肯定の言葉を投げかける子供二人。

 罰ゲームが楽しいわけなどない、けれど言われてみれば確かにそうだった。コンビニに立ち寄った時にはあれほど重かった気持ちが、ここへ着き瑞希の事を考えていた間に軽くなっていった。

 二人の不思議そうな表情があまりに純粋だったからか、本当に楽しいと思っていたのか、気付けば伸一は心情を素直に言葉に変えて口に出していた。

「まぁ、楽しいっちゅーたら楽しいんかもなぁ……」

 それを聞いた子供達は、更に不思議そうな顔を強めていく。そして伸一自身も何が楽しいのか分からず、三人で頭上にハテナマークを浮かべることになるのだった。


 背後の噴水が勢いを増しはじめ、それが伸一に十一時を知らせた。

 興味の対象を噴水に移した子供達が伸一の目の前からすっと離れていくと、開けた視界の真ん前に見慣れた姿が立っていた。

 薄手の黒いロングジャケットの裾を膝元辺りでたなびかせながら、伸一を見つけた彼女が噴水へ向かい歩き出す。待ち合わせの相手であり賭けの勝者であり、そして本日の罰ゲーム執行者。藤田瑞希、その人だ。

「モテモテね、長谷川」

 ニヤリと笑いながら言う瑞希は、ジャケットの下を飾りの無い白のボタンダウンシャツに黒いレザースカートで固めている。

「せやろ? モテる男はつらいで」

「噴水には敵わなかったみたいだけど」

「ほっといてんか」

 派手は似合わないと普段から公言してやまない彼女らしく、飾りのないシンプルないでたちの瑞希はそれがよく似合い、そしてあまり女性を感じさせない女性だった。

「変に女の子してきたらどないしよか思ったけど、それなら安心やわ」

「長谷川もいつも通りじゃない。こういう時って少しは気合入れたりしない?」

 瑞希は伸一を下から上へ眺めたあと、そう言いながら彼の横に腰掛ける。

 黒いダメージデニムパンツに黒パーカー、中のシャツが瑞希と同じ白。瑞希の言うように伸一の服装もにシンプルであり普段のそれだった。

「飾りっけないんはお互い様や、いつものことやで」


 伸一と瑞希は、普段から思いのほか馬が合った。

 言葉が洒落でも何でもなく競馬好きという共通項。衣服に金銭を掛けない思考やシンプルを好むところもそうだ。そして何よりも遠慮も気遣いもない言動が、互いが相手の性別を感じない間柄を築き上げていた。

 馬が合う。

 それが長谷川伸一と藤田瑞希を表わすのに最もしっくり来る言葉だろう。


「そもそも俺はこれから罰ゲームを受けるねんで? 何で服に気合入れなあかんねん」

 今も尚、瑞希とは"馬が合う"と考える伸一には、今置かれた状況が「瑞希相手のデート」などとは全く想像出来ない。あくまでも目の前の瑞希は性別の垣根を越えた友人。そして今日は罰ゲームの執行者。

「でも容赦はしないわよ?」

 伸一の考える瑞希像そのものが、この一言に込められているようにすら思えるほどだ。

「それは覚悟しとる。バッサリやってくれや」

 しかし一方、期待通りの台詞を口にした伸一に、瑞希は複雑な感情を抱いていた。

 それもおよそ半年ほど前から。

 勿論それを表に出すことは極力避け、今までずっと親しい間柄を続けてきた。

 それが一番良いのだと信じながら。

 だから今日も瑞希は"予定通り"のやり取りを"予定通りの時間まで"続けるつもりでいる。

「潔いわね。でも勝負は勝負、お望みどおりバッサリやってあげるわ」

「おぅよ。バッチ来いやぁ!」

 いつの間にか女の子達はいなくなっていた。


 そして二人にとって恒例の罰ゲームが始まった。

 瑞希の思惑を乗せて。



 はじめまして新橋てっくです。


 もし我慢強さに自信がおありしたら、競馬の部分も楽しんでいただければと思います。

 まえがきは基本的に前話までのあらすじです。続けてお読みの方は、以降まえがきをすっ飛ばしていただいても構いません。まえがきだけ追えば内容が分かるって話もありますが……。


 まぁそんなこんなで楽しんでいただければ幸いです、ではどうぞ。


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