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Fox Tale  作者: すずらん
第一章
6/6

 ベースキャンプを出て、森の中を歩き回ること数分。目的のレッドマッシュルームを探しつつ木っ端魔獣を狩っていく。攻撃方法は主に魔法を使っているが、どうせならと例の木刀もどきも使っている。当然鞘に入ったまま相手の頭に向けて振り下ろすだけなのだが、遅すぎて当たったためしがない。まだまだ練習がいるようだ。

 さらに奥地へ足を踏み入れ、キノコが生えてそうな場所を片っ端から探していく。

「あった、、、」

 倒木にかなりの数が群生しているが、その前には魔獣が三体、お食事中。

「あっキノコっ!」

 その飯がレッドマッシュルームである。目の前で数を減らしていくキノコ。群生していたとはいえ、相手は魔獣三匹、、もりもり減っていく。

「く~~やっと見つけたのに」

 本来そこまで探すのは難しいことではないはずなのだが、初めてこの森に来たということもありかなり見逃している。 

 グルルルルル

 そうこうしてたらいつの間にかニーナの後ろにクレインウルフの群れがいた。数は十体ほど。本来銀狐族は気配の察知に優れているが、目の前でターゲットが減らされて、なおかつ経験不足のため一歩遅れた反応になってしまう。

「やばっ!いつの間に!?」

 すぐに距離を取り戦闘態勢に入るニーナ。

 戦いの火ぶたを切ったのは向こう側。陣形を崩さないように突っ込んでくる。対してニーナは犬っころの群れの進行方向に魔法陣を展開、トラップを仕掛ける。そこに誘導すべく火炎弾を放っていく。群れの先頭、二、三匹が魔法陣を踏んだとたん火柱が上がる。そこら一体に肉の焼け焦げたような匂いが広がる。

「二匹死亡、、さすがに半分はもってけない、か」

 ニーナが使用した魔法陣は火属性の簡単な応用術。対象が魔法陣の効果範囲内に踏み入ると発動し、火柱が上がる。さながら地雷である。ちなみにぶっつけ本番だったりする。こういった新しい挑戦ができるのも今回の場所が比較的安全なおかげである。とはいえ一般人にしてみれば十分危険な所でルーキーにも厳しいところであることには変わりはない。

「ちょっ!うっとおしい!」

 先ほどから仕留めそこなった残党がぐるぐるとニーナの周りをまわり、時折飛び出してきて噛みつこうとする。

 ニーナは魔法をやめ、木刀もどきを使う。そもそも魔法には発動までのタイムラグが存在し、それを限りなくゼロに近くしたとしても指向性があるため、動き回る相手に対して偏差射撃を行わなければならない。これは知識でどうにかできるものではないため、圧倒的経験不足のニーナには酷なことだった。飛び出してきた頭に向かって振り下ろしていき、一匹また一匹と沈めていく。

 残り二匹となったところで、クレインウルフはニーナに背を向け逃げていく。

(ふぅ、めんどくさかった。さてっと、回収回収♪)

 キノコをあさっていた不届き魔獣は戦闘が始まると同時に逃げていたらしく姿はない。

 ニーナはできるだけきれいな形、傷がないものを選びアイテムポーチにしまっていく。

 グルルルル

「、、、、」

 ニーナが10個ほど回収したときまた囲まれていた。

「、、ファイア!」

 さすがにめんどくさくなったのかあたりかまわず火炎弾をばらまくニーナ。全方位型の弾幕により各個撃破されていくクレインウルフ。炎に焼かれ黒焦げになった死体が増えていく。

「...」

 再びニーナが一人キノコ収穫祭を始めようと思って振り返った先にあったのはメラメラ燃えるキノコの木。おそらく追い払うために放った火炎弾が近くに着弾、燃え移ったと考えられる。自分のうかつさに声も出ないニーナ

 結果

「探しなおし、、、はぁ」

 再び森の中をさまよい始める羽目になった。とはいっても、この度の依頼、個数が指定されていない常駐依頼であり、別の依頼のついでに見つけて来たら買い取ってもらえるといったものである。依頼を発注しようがしまいが関係ない。であるからして本来ならもう帰ってもいいはずだがニーナは知る由もない。



 昼下がり、森のどこか

「ねぇ、カイ、ホントにこっちが近道なの?間違ってたら怒るよ」

「大丈夫だって、エリー。すべて任せてついてこい!俺の感がそう言っている!」

 森の中を一つのパーティーが進んでいた。カイと呼ばれた少年はまだまだ若く自身に満ち溢れた声で返事をする。

「感って、、あんたねぇ、、、ベースキャンプに着くなり一人で飛び出して、依頼完了して帰るときに地図を落としたぁ?お次に帰りは感??バカなことも休み休みしなさい!!!」

 腰まで届くようなストレートヘアで背はカイと同じくらいのエリーと呼ばれた少女がカイに食って掛かる。

「なんだと!無事にミッションクリアしてるからいいーじゃねーか!夜になる前に出ればいいだけだろ!!」

「夜になる前に出れるかどうかが心配なのよ!!感じゃなくてもっとましなものなかったの!!」

「じゃあ、お前ならどうするんだよ!ほかの方法があるのか!」

「私だったら救難信号を打ち上げるわ!信号を見たハンターが助けに来てもらえるかもだし!大体私たちハンターなり立てだし!」

「ただ迷っただけでそんなもの打ち上げれるか!まだ昼だしきっと出られるって!」

「まぁまぁ二人とも落ち着いて、、それよりもあれ見てよ。」

「なんだよ、クルト。この忙しい時に...ん?」

「みんなどうしたの?...えっ?」

 言い合っていた二人だがクルトが指さす先に見えるものを見て疑問符を浮かべる

「「あれは火の玉??」」

 背の高い木々の間からわずかに見える空に飛んでいく火炎弾。ニーナが全方位に放ったものである。

「ハンターでもいるのかな?なんか面白そう!」

「とりあえず行ってみるわよ。助かるかもしれない!!」

「ちょっと待ってよ、二人とも、魔物同士の戦いだったらどうする、、、「おいてくぞークルト!」あっ待ってよ~」

 火炎弾が見えた方向へ走り出す二人。一方のクルトは乗り気ではなかったが、二人とはぐれるよりかは、と慌てて二人の後ろを追っていく。



「これは、、、何があったんだ?」

「少なくともいいことではなさそうね」

 二人の目の前に広がるは、森の中にできた空き地。木が焼け落ちてまだ焦げ臭いにおいと熱気がこもっている。ニーナが放った火炎弾は直撃した対象を燃やすため、かろうじて山火事ならぬ森家事を防ぐことができた。

「はぁはぁ、、、二人とも早いよ、、、え?なにこれ?」

「クルト、これを見てどう思う。この辺で魔獣の争いでも起きたのか?」

「ううん、、これは魔法によるものだと思う。少なくとも魔獣のものではないよ」

 二人より少し遅れて到着したクルトが分析する。

「それを聞いて安心したわ」

 グルルルルル

「おい」

「私じゃないわよ!失礼ね!カイじゃないの!」

 突如なった音にエリーの腹の虫が鳴いたのかと疑ったカイだがエリーに速攻で否定される。

「俺じゃねぇ!」

「じゃあクルト?」

「僕じゃないよ」

「じゃあ、誰だよ」

 グルルル

「「「、、、、、、、、」」」

 そっと三人が後ろを向くと今にも襲い掛からんとしているクレインウルフ。三人の顔が一気に青くなっていく。

「全員回れ右!!全力疾走!!!」

「「うわぁぁぁぁ!!」」

 カイの号令により一斉に走り出す三人。

「カイ!!どこ行くの!!」

「わからん!!とりあえず走れ!!クルト大丈夫か!!」

「なっ何とかっ」

「しっかりしろよ!!(どうする!どうする...)」

 チームのメンバーを助けるための策を考えるカイだがいい案が浮かぶわけもなかった。


 ドドドドドドドドドドドドドドッッ

 キノコ焼失事件から立ち直り改めて探していたニーナだが背後からかすかな地響きが聞こえフードの中で耳をそばだてる。距離はそれなりに離れているのだろう。自分には害はないかな、と結論付けたニーナは再び探索に戻る。


「もうっ!いつまで走ればいーの!」

「知るか!!後ろの狼どもに聞け!!クルトまだ生きてるか!!走るのやめたら胃袋へ直行だぞ!」

「だっ大丈夫、、でももうそろそろ限界かもっ」

 この三人の中で一番小柄なクルト、多少なりとも体力があったとはいえ不整地での全力疾走は長く続けられそうになかった。

「ちっ、しょうがない。俺が引き付けるから二人はその間に何とかしてくれ!!」

「無茶でしょ!!あんたバカだし!!何か考えでもあるの!!」

「今そんなこと言ってる場合か!何とかしてくれ!!」

「っ、、わかったクルト行くよ!!。カイ!しっかり逃げてなさいね!!」

「わかってるって!!こんなところで食われてたまるか!!」

「いいか!あそこの大きな木に登れ!俺はその辺逃げ回ってるから!!」

「わかった!!」

「いまだ!!」

「「はっ(えい)!!」」

「早く何とかしてくれよー!!」

 無事二人が木に飛び乗ったのを確認したカイはクレインウルフを引き連れ走っていく。

「死んだらだめよ(だよ)!!」

「わかってるってぇぇぇぇ」

 土煙と共にカイとクレインウルフが去っていく。

「さっ!クルト!何とかするわよ!!」

「うん!早くカイを助けなきゃね!」


「、、、なんかくる??」

 ニーナは先ほどから感じていた地響きがだんだん大きくなってくるのを感じ取る。どうやら此方に向かってきているらしかった。

「うぅぅぅぅ!!おおおおおおおお!!!!こんなところで死んでたまるかぁぁぁぁ!!!」

 先頭を走るはカイ。その後ろにはニーナが二度も囲まれたクレインウルフ。さっきからの地響きはこれだったのか、と一人納得するニーナ。

「そこのひとぉぉ!!たぁぁすぅぅけぇぇてぇぇくぅぅれぇぇ!!!」

 とかなんとか言いながらカイは猛スピードでニーナの前を走り去っていく。クレインウルフはニーナのことなどお構いなしにカイを追いかける。

 (クレインウルフの...目が笑ってる...)

 カイを追いかけるクレインウルフの目を見たニーナはうっすらと鳥肌が立つのを感じた。

 するとカイが大木を一周してUターンしてきた。本来ならこの行為は擦り付けとみなされ処罰の対象になるのだが、良くも悪くも二人とも新米であるため知らなかった。

「早く!!」

 ピューーン

「何とか!!」

 ピューン

「してくれーー!!!」

 ピュン

「って、、いいかげんにしろーー!!」

 カイがニーナの目の前を通るたびに声をかけるが唖然となっていたニーナには聞こえなかった。

「はっ」

 やっと我に返ったニーナは火炎弾を数発群れの中に叩き込む。

「はぁはぁ、、、ありがとう、助かったよ、、、もうちょっと早く助けてくれなかった?」

「いや、、その、、ごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃって、、、」

「俺の名前はカイ、最近ハンターになったんだ。あんたもハンターだよな、これから宜しく。」

「私はニーナです、よろしくです」

 あいさつもそこそこにしばらく話していると二人の声がニーナの耳に入る。

「カイーーーーー!!大丈夫ーー!!!」

「準備終わったよーーーって、、え?」

「俺があんなことでどうにかなるはずないだろ?大丈夫だよ。この人、ニーナに助けてもらったんだ。」

「あんた、、あってすぐの人にいきなり呼び捨てかますとか、、、あきれてくるわ、、。どうもありがとうございます。ニーナさん。私はエリー。この馬鹿がお世話になりました。」


「僕からもお礼を言わせていただきます。ありがとうございました。僕はクルトと言います。本当にありがとうございました。」

「ところで、どうしてニーナは顔を隠しているんだ?」

「いや、、それは、、その、、「こら!カイ!そういうデリカシーのないこと聞くんじゃないの!!」」

 カイの頭にエリーのげんこつが落ちる。よほど痛いのか目に涙がたまっている

「いってぇぇぇ!なにすんだよ!」

「ほんとつくづくバカね!」

「なにーー!!!」

 目の前で取っ組み合いが始まりニーナが固まっていると隣から声をかけられる。

「気にしないでください。いつものことですから」

「そっそう、、、」

 もうすでに慣れたものだ、と言わんばかりの表情でクルトは話し始める。

「僕たち三人は小さいころからずっと一緒で、そのときいつかハンターになると決めて、ハンター資格を持てる15歳になって念願のハンターになったんです。それで今回が初めての依頼なんだけど終わった後帰るときに地図をなくしていることに気がついてさまよっていたんです。そしたら空中に火炎弾が飛んでいて見に行ったら空き地になっていて、、ニーナさんはこれが何なのかわかりますか?」

「うん、、それやったの私」

「へーそうだったんですか。あの、、一つお願いがあるのですが、、いいでしょうか?」

「ん?なに?」

「僕たちをベースキャンプまで連れてってもらえないでしょうか?かなりでたらめに走ってきたので、ここがどこだかさっぱりなんです。」

「う~ん、、、いいけどちょっと時間かかるよ?私まだ依頼終わってないんだ」

「いえ、全然かまいませんよ。ありがとうございます。ところで、その依頼内容は?」

「レッドマッシュルームの納品。あと十個ほどほしいんだけどがなかなか見つからなくて、、、」

「それだったら今手元にありますよ。どうぞ」

「えっ?いいの?」

「はい、お礼だと思ってください」

「うん、ありがと」

「みんなー。行くよ。ニーナさんが案内してくれるって。」

「ほんとか!?ありがとな!ニーナ!」

「だから呼び捨てにしないの!ありがとうございますニーナさん。いろいろとお世話になります。」

「ニーナでいいです。行きましょう」

 その後はいろいろとそれぞれのことについて話しながらベースキャンプに向かった。


 ベースキャンプに戻る間ニーナは質問攻めにあっていた

「へーニーナも俺たちと一緒で最近ハンターになったばっかだったのか、、てか昨日なったのか、、」

「うん、とりあえずはマップの確認と試したいことをやろうかと」

「ねぇ、ニーナ、腰の刀は?ちょっと抜いてみてよ。」

「これねー抜けない、、」

「えっじゃあどうやって戦うの?攻撃魔法で?」

「大半はそうだけど、、これ使うときはそのまま相手にたたきつけるだけ。」

「うっそれなんか意味あるの?」

 若干引かれた気がしたニーナだが気のせいであろうと己に言い聞かせる。

「う~んと、、傷がつかない?とか」

 とりあえず利点らしきことを言ってみるニーナだがもはや、苦し紛れの言い訳にしかならなかった。

「みんな質問しすぎだよ、、、」

 クルトの言葉にふぅやっと救われた、と息を抜いたニーナだったが

「ところでニーナはどんな魔法が使えるの?」

 そんなわけなかったようだ。

 (ん?)

 不意にあたりを確認しだすニーナに不思議な顔をする三人

「どうしたのニーナ?」

「どうしたニーナ?」

「?」

「しっ、、静かに、、何かが来る、、、それも、今までとは違うなにか」

「えっそれホントニーナ?僕もう嫌だよ?」

 ニーナの言葉にクルトがもう走りたくないといった表情を浮かべる。

 表層とはいえ十分日光が届かないこの森。ニーナの正面、暗闇の奥から何かが歩いてくる。

「なっなんだ?この感じ...背筋がぞくぞくする。...戦闘態勢」

 カイの言葉に各々が武器を構える中そいつは暗闇から現れた。

「なっ!!キングウルフ!!??こんなとこに出ないはずなのに!!」

 開口一番クルトが名前を出す。二人から歩く辞典とまで言われているクルトが言うのだ間違いはないだろう。

 キングウルフ 主に中層あたりに生息している魔物であるが新人の手には負えないような相手だった。

「キングウルフ...なんでこんなところに。」

「しっかりしろ!!いつもの威勢のよさはどうした!!」

 すでに涙目のエリー。口ではああいっているもののかすかにふるえているカイ。クルトは...気を失っている。

「下がってて...安全な場所まで。このまま右に走っていけばベースキャンプに着く。クルトをしっかり守って」

「バカ言ってんじゃねーよ!!一緒に逃げるぞ!!」

「多分逃げられない...クレインウルフとはわけが違う。戦うにしてもあなたに何かできる?」

「ニーナ...」

「エリー早く行って。ここにいたらまき沿いを食う、、カイ、みんなをしっかり送ってあげて」

「っち!戻ってくるまでに死ぬんじゃねーぞ!!っていうか死ぬなよ」

「こんなことで死んでたまるかってね?戻ってこなくてもいい、、戻ってきたら、、、死ぬよ?さぁ早く行って」

 カイのどこかで聞いたでセリフをまねしながら素の口調全開でしゃべるニーナ。

「っく行くぞ!!」

 カイはクルトを担ぎエリーの手を引いて、ベースキャンプのほうに走っていく。ニーナは三人の後ろ姿を見送り改めてキングウルフと対峙する。

「わざわざ待ってくれてありがと、、、いくよ!!」

 ニーナの背後にはすでに数十の火炎弾が浮かんでいる。相手が走り出すと同時にそれを目標に向けて放つ。

「くっ!早い!」

 いくら銀狐の獣人だからと言って戦闘経験なんて皆無に等しい。せいぜいやれて魔法の弾を相手に向けて撃つだけである。それも偏差をつけるために微調整しながらで、だ。こつこつと練習していくものをいきなり実戦で行うのはいささか無理が過ぎるというものである。

 火炎弾は目標に命中こそすれ表面の毛皮を少し焦がす程度に終わる。いくら火属性に適性があるといっても、訓練していなければこんな相手には通用しにくい。

 不意に横から尻尾が現れニーナの横腹に当たる

「くはっ!!」

 かなりの勢いで飛ばされたニーナは木に背中を打ち付け、肺の空気を無理やり押し出され息が止まりそうになる。

「まだまだあぁ!!」

 すぐに体勢を立て直し標的の周りをまわりながら、付近に転がっている石に目を向ける。魔法を行使、石を加工し矢じりのような八面体を作り出す。火属性魔法が効かないのならば物理攻撃で勝負という算段らしい。一斉に標的へ向け発射する。

 足、腹、背中と着弾し肉にめり込んでいくがさほど堪えた様子はない。やはりあの毛皮で衝撃を吸収してしまう。

「対して効果なし...か。こうなったら持久戦に持ち込むしかない...」

 またにらみ合う形になったとき、キングウルフがかすかな笑みをこぼした気がした。

「っ!」

 魔法も遠距離もだめならと、購入していた一対のダガーを取り出す。長さが短いためかなり肉薄しなければならないが、ほかに選択の余地はなかった。逆手に持ち替え相手に少しでもダメージが与えられるようにする。

「っふ!!」

 走りこんできた相手に向かってニーナも走る。噛み殺さんがごとく迫ってきた牙をぎりぎりでかわし、足にダメージを入れていく。

 (ちょっとずつでいい...少しでも動きが鈍れば...勝機はある!!)

 また正面で向き合い、一匹と一人は同時に駆けだした。


 あれから何度ぶつかっただろうか、噛みつきを避け、のしかかりをかわし、尻尾薙ぎ払いをかわす。また相手の分厚い毛皮に向かって刃を立て、刻み、行動力を制限していく。

 すでにニーナのローブはボロボロに、フードはどこかへ飛んで行ってしまっている。体のあちこちかあら血が流れだし、服が赤色に染まっている。頭の上では二つの狐耳が動きに合わせパタパタと揺れ、尻尾は機嫌が悪そうに揺れていた。そして相手は白銀だった毛並みが血に汚れあちこちから血が垂れていた。耳も欠け、前左足が負傷しているにもかかわらず、執拗にニーナを狙っている。

 双方とも満身創痍の状態。ニーナの体力も限界になっていた。もはやニーナの体を動かしているのは気力のみである。

「ニーナ!!」

 ふとニーナの耳が声を拾う。まぎれもないカイの声だ。

「「ニーナ!!」」

 (あぁ全員戻ってきちゃったのか...)

 ニーナがどうしようか考えたその時、キングウルフが尻尾の毛を逆立て先を三人に向けた。とっさに危険を感じ取ったニーナは攻撃対象である三人の射線上に体を入れるべく走り出す。

「危ない!!!!」

 キングウルフは自らの尻尾の毛を針のごとく硬質化し放つ

 いくら先に走り出したとはいえ、間に合うはずもない。人外の域に達する運動性能にも限界はあった。キングウルフは三人は確実に倒れるであろう、と勝ち誇った顔をしていた。三人はただ唖然としたまま、歩みを止めて立ち尽くしていた。

 (何としてでも...止める!!!)

 このときニーナは強く思った。『守りたい』と。まだ出会って数時間しかたっていないが、それでもニーナには見捨てるといった選択肢が出てこなかった。若干人見知りのフシがあるのでは?と自覚していたために、あの三人の空気が気持ちよかったのかもしれない。

 ニーナの手が自然と左腰にさしてある木刀もどき銀牙ぎんがに伸び一気に引き抜いた。淡白く光るそれはまるで意思があるかのように自然と動き三人に向かって飛んでいく針めがけて斬る。光輝く鎌鼬カマイタチが針を消し飛ばす。

 そこからのニーナの動きは早かった。この状況を一刻も早く終わらせるべく、思うがままに動く銀牙を操りキングウルフに傷をつけていく。

 型や基本動作なんてない。目の前の敵を倒すべくニーナは斬り刻んでいく。


(ここは...)

 ニーナが目を覚ましたのはベースキャンプ。体を起こすニーナだが外傷はなく、代わりに恐ろしいほどの疲労感がニーナを襲う。

「目が覚めたんだ。気分はどう?ニーナ」

 そう言いながら、簡易テントの中にコップを持って入ってきたのはエリーだった。コップからは湯気が立ち上り何らかのスープであることがわかる。

「大丈夫。だいぶ落ち着いた...」

「クルトが外傷は直したけど、無理はしないで。中身ボロボロだと思うから」

「ありがとうエリー。クルトに後でお礼言わないと」

 クルトはけがの治療をした後ずっと落ち着かなかったと、エリーが笑う。

「そうしてあげて。きっと喜ぶから」

「うん...ところで二人は?」

「クルトは先にギルドへ戻って報告に、カイはキングウルフの死体をばらしてる」

 キングウルフの毛皮はその頑丈性もさることながら、手触りもよく高く売れる。カイは今一生懸命に毛皮をはぎとっているらしかった。

「...なんかごめん。いろいろ迷惑かけちゃって」

 そういうニーナの狐耳は力なく垂れ下がり、はたから見てもシュンとしているのは明らかだった。

「気にしなくていいよ。私たちは守られた側だからね。それよりも....ニーナが狐の獣人ってことに驚いてるなー、みんな」

 そういいながらエリーは意地悪く笑う。

「ああ....うん...これは...ね。隠さないと注目浴びちゃうし....目立つの嫌だったし.....ごめんね?」

町でのラオネの件もあり狐の獣人も珍しく奇異の視線にさらされるのではないか、という危惧の元顔を隠していたニーナ。もっとも銀狐のままであればさらに注目を集めていただろうから仕方がなかった、と言えるだろう。

「ふふっ怒ってるわけじゃないよ、ただ...可愛いなーと」

「へ?」

「いやっ何でもない!ほら二人とも帰ってきた」

 次第に小さくなっていったエリーの声だがニーナにはしっかり聞こえていたようで、内容が内容だけに思わず聞き返したニーナだがエリーは慌てて話を逸らす。

『ニーナ....大丈夫かな?』

『うん....大丈夫だよ。お前が治療したんだし、あんなに強かったんだから...』

 テントの外から二人の声と足音が聞こえてくる。そして次第に大きくなっていきテントの前で止まる。

「エリー入ってもいいか?」

「大丈夫よ」

「ニーナは、、どうなって、、、」

「エリー、ニーナは、、、、」

 二人の視線が体を起こしているニーナに注がれる。そしてしばらく見つめあったのちに

「「よかった...」」

 この一言と共に地べたに座り込んでしまった。

「ちょっと二人とも大丈、、「この!めちゃくちゃ心配したんだぞ!!」夫、、ってちょっと!わざわざかぶせること...「痛いとこない!もう平気!?」ってクルトまで...」

崩れ落ちた二人に声をかけるエリーだが、二人は全く意に介さずニーナに詰め寄る。

「大丈夫...心配かけてごめん。二人とも、ありがとね?」

わずかに微笑みながらニーナはお礼を告げる。

「ほんとだよ!まったく!でもほんとに無事...じゃないがよかったよ」

「いや...その...僕は当たり前のことをしただけだから...」

 クルトの顔ものすごく赤くなっていく。照れているのはまるわかりだ。

「ハァ....ニーナ立てる?」

 あからさまにため息をつきながらエリーがニーナに問う。

「うん、もう平気だと思う...」

「それじゃ、撤収しましょうか」

「ニーナ帰ったら一杯奢れよ?」

「何言ってんの!あんた助けられた側よ?」

「うん..いつかね」

「僕を忘れないでね?」

(あぁ、やっぱり心地良い...)

ニーナにはこのくだらないやり取りがひどく懐かしいものに感じられた。

「「「「はははっ(ふふっ)」」」」

 こうしてニーナの初めてのクエストは終了した.。

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