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王国<クリストハルト>人が住んでいる地域の中で一番規模が大きい国。城下町では各地から仕入れられたものが売られている。世界各国から訪れた人が行きかい、そのにぎやかさは夜も衰えることを知らない。城下町を出ると広大な畑が広がりあちらこちらに村がある。
王都入口には、立派な門と共に厳つい顔をした兵士が通行人とその人の身分証明書とを見比べ入国審査をしている。一人の男の身分証明書に不備があったらしく、どこか連れていかれていた。
こんなことが起こっている門の前で一人の少女は
「やっと...ついた...」
かなりバテていた。
三時間前・・・・
ニーナが森を出て歩き続けること一時間、やっと小さな町が見えてきた。 地図だと割と近くにあったはずだったんだけどなーと、思っていたニーナだったが、そもそもまともな測量ができるはずがないので仕方がない。
今のニーナ服装は、真っ黒いマントにフードをかぶっている。銀狐族だとばれると厄介らしいので、形体変化と念のための認識阻害魔法をかけている。なぜ銀狐だと厄介かって?この種族自体(金狐含む)が自体がとっても貴重な存在かつものすごく珍しいからだ。
昔、金狐と銀狐が争い、ともに種族が滅びることもいとわない勢いで戦った結果、その数は激減し争いが終わっても、両者ともにもともと子をなすことが難しかったためにその数はなかなか増えることはなかった。今では双方とも和解しているが、それでも仲が良いとは言えない。たまにいざこざも起こるらしい、、、。
そして数が希少なことはもちろん人も知っており、めったに人の前に出てこないためその姿を見たものは幸運になれる、とまで言われてる。
もっとも、銀狐も金狐も魔界の森の奥深くで獣の姿で過ごしているから人前に姿なんてさらさないと思うが。
カラン、カラン・・・
客の来店を知らせるドアベルの音が響く。
「いらっしゃいませ~」
まだ昼前、店に客は入っていなかった。暇を持て余し、椅子に座っていた女の子が立ち上がりながら純粋無拓な笑みを浮かべながら、ニーナを迎える
「お一人様ですか?」
「はい」
「それではこちらへどうぞ」
ニーナは町の中にあった小さなレストランに入っていた。さすがにずっと歩きっぱなしではおなかも減る。
女の子についていき、案内されたテーブルに着く。
「えっと、店内ではフードを取ってくださいませんか?食事の場はコミュニケージョンの場でもありますので...何か特別な事情があるのでしたらかまいませんが」
年下に見える女の子に指摘され、少し恥ずかしくなるニーナ。フードで隠れていて見えなかったが、おそらく頬は赤く染まっている。
「あっ、ごめんなさい」
しばらく思案した後フードを取る。今のニーナは魔法を使い見た目はただの狐の獣人になっている。
フードを下すと今まで隠れていた三角の耳がぴょん、と飛び出す。乱れた髪を整えながら目の前にいる女の子を見やるニーナだったが
「...」
なぜか目をまん丸にしてフリーズしていた。
「えっと、、どうかしました?」
そんな彼女の様子にまさか術が解けてる?と心配になるニーナだがその心配は杞憂に終わった。
「はっ!私としたことが、すみません...狐の獣人さんって私初めて見てものですから...」
物珍しいものを見たような視線を送る店員だったがニーナは気が付いていない。
(狐の獣人でも珍しいのかな?いや、そんなはずは...ある!十二分にある気がする!)
別のことで頭がいっぱいのようだ
「あっ気を悪くしたらごめんなさい。別に悪く言っているわけではないんです。ただ父から話には聞いてましたが、まさかこんなにきれいな方だったとは思わなくて」
ニーナが黙っているのを見て、機嫌を損ねたとでも思ったのか慌てて謝罪の言葉を述べる女の子。しかしすぐにどこかへ旅立ってしまった。
「えっと...オーダー、いいですか?」
とりあえずこの子を現実にサルベージしてあげる。
「あっ!!すみません、すみません、すみません・・・」
自分がどこかに行っていたことは自覚があったのか、ものすごい勢いで何度も頭を下げながら謝る女の子。
「もっもう大丈夫だから。それよりもオーダーのほうを...」
「はっ、はい。」
そこまで謝られるとは思っていなかったのかおっかなびっくりしながら止めに入るニーナ。やっと謝ることをやめメモを取り出す女の子。その顔はすでに、店員になっていた。
「それじゃ【店長の今日のおすすめセット】で」
「はいかしこまりました~」
メモを取り厨房へ下がっていく女の子。なぜかスキップしそうな勢いだった。
そんな彼女を見送りつつニーナは水を一口飲み、料理が来るまで窓の外に広がる街並みを眺めていた。
「おとーさん!おとーさん!狐の獣人さんが来たよ!おとーさんが言った通りほんとにきれいだった!」
厨房にいるのはいかにも料理人といった感じの男。しかしその体はある程度鍛えられていた。
「こら!ラオネ!お客様に失礼だぞ!いちいち騒ぐな。まさかとは思うが何か失礼なことはしていないよな?」
ハイテンションで厨房に飛び込んできたラオネと呼ばれた少女を叱りつつ、少し怖い顔で詰め寄る。
「ええと...その、はい...フリーズしてしまいました。本当にごめんなさい...」
もじもじとうつむきながら謝るラオネ。こうしてみるとまだ年端も行かない少女だというのを再認識させられる。
「ちゃんと謝ったのか?注文は?」
「注文はしっかり取ったよ。店長の今日のおすすめセットだって」
「は~謝ったならいいが料理を出すときに俺も一緒に行くから改めて、しっかり謝るんだぞ」
「はい...ごめんなさい...」
「反省したならしっかり手伝ってくれ。サービスしてやらんとな」
「うん!!」
店内に広がる香ばしい肉の香り。その匂いに気づくことなく眠る狐少女あり。
「お客様、お客様、起きてくださ~い」
「うん?あっすみません。」
「いえ、お気になさらず。こちらもとんだ無礼をはたらいてしまいました。誠に申し訳ございません。ほら」
「本当にすいませんでした!」
「大丈夫ですよ。気にしてないですから」
改めて頭を下げるラオネ
「本当に申し訳ない。お詫びと言っては何ですが。今回の代金はこちらがもたせていただきます。」
「いや...さすがにそれはちょっと申し訳ないです。せめて半分は払わせてもらいます」
「そうですか。ありがとうございます。私はこの店の店主をやっています、レーゲンです。こっちは娘のラオネ」
「ご丁寧にどうも。私はシレイラ=ニーナです。ニーナと呼んでください」
「わかりました、ニーナさん。では料理のほうを」
そうこうしている間に料理がニーナの前に並べられる。若干赤みが残るように焼かれた肉は食欲をさらにそそる。
「ところでニーナさん、これからどちらへ行かれるのですか?」
店主ことレーゲンはニーナの反対側の席に着きながら問いかける。もちろんラオネも一緒だ。
「この先の王都のほうへ服を作ってもらいに行こうと思っていまして、あと観光ですね」
なぜいる?という疑問を飲み込み、これも何かの縁だなとあきらめるニーナ
「服ですか...それなら私の知り合いが経営しているところに行くといいですよ。私が一筆添えれば喜んでOK出してくれると思います」
(おおなんとラッキー!)
内心でガッツポーズを決めるニーナ。思わず顔が綻びる
「ありがとうございます」
そのあとしばらく雑談がてら料理に舌鼓をうちこのひと時を楽しんだニーナだった。
「それでは、これが城下町にある〖服屋クリスタ〗までの地図と私の手紙です。これを見せれば、すぐに作ってもらえるはず、、腕も確かなのですぐに出来上がる思います。」
「ほんとにありがとうございました。帰りにまた寄っていきますね。」
「はい、いい服ができるといいですね」
それでは~とニーナがドアノブに手をかけたとき
バタンッと勢いよく扉が開き、両手両足に枷をはめた頭に猫耳のある少女が店に飛び込んでくる。
呆気に取られているニーナの後ろに隠れ、まるで盾にするかの如くローブの裾を強く握り震えていた。
「えっと...どうした....「ニーナさん...」のえっはい?」
「その子と関わらないほうがいい...見たからに奴隷商人から逃げてきたようだ...下手に首を突っ込むとろくなことになりかねない」
「じゃあどうするんですか?この子を見捨てろと?今から外に放り出せということですか!?」
「しょうがないんだ!私だってできるなら助けてやりたい!!でもそんなことをしたら今度は娘がつかまる!それだけは避けたい!正義感だけでどうにかなる問題ではないんだ!!」
ニーナの質問に血相を変えて答えるレーゲン。
実際その気持ちも分からなくもない。誰だって自分の子供や己の命のほうが一番大切なのだから。
正義感でどうにかならないのもまた事実、下手にかかわればろくなことになりかねない。
「っ!!国は...王は何も対策をしていないんですか!?」
「王はまだ即位して間もないんです。年も私と同じくらいだったと思います。今現在のところ実権を握っているのは一部の貴族です。その中に奴隷商で儲けている、とうわさされてる人がいるので実質野放し状態になってるんでしょう」
「そんな...」
驚きを隠せないニーナ。
「すまない、ニーナさん。どうすることもできないんだ...例えあなたが奴らに歯向かったとしてもつかまって奴隷として売りさばかれるだけです!」
「まだ」
「「え?」」
「まだ...私がいる」
覇気のこもった声がニーナの口から漏れ、あたりを静寂に包む。
「まだ分からないのか!あなたが行っても何ら変わりはなく失うだけです!私としてもそれは避けたい、お願いします....つらいかもしれませんが、どうにもできないのです」
「レーゲンさん。店の中にいてください。この子は手枷を外して服を着替えさせ裏口から逃がしてあげてください。この命に代えても奴らを抹殺してやります!!」
「っその魔力はいったいどこから?!さっきまでそこまで強くなかったはずなのに...」
銀狐本来の力を宿し、ただの狐獣人にあるまじき魔力と威圧を放ちレーゲンにそう告げるニーナ。
「それでは...何があっても出てこないでください」
フードをかぶり直しニーナは外に出る。
(皆殺しにしてやる)
静かに決意しドアノブを回すニーナ。
ニーナを引き留めることは二人にはできなかった
異様に静まり返った街並みを歩くニーナ。
目的はただ一つ「そっちにいたか?」「いやいない!」「ええい!家の中までしっかり探せ!」「わかった!」「いいか、絶対逃がすな!草の根をかき分けてでもさがしだせえ!!」
こんな声がする方向へ向かい殲滅することだ。
時折家の中から、住人らしき人が必至の形相で手を招いていた。
おそらく早く隠れろとでも言いたいのだろう。
だがニーナはこれを無視してさらに足を進める。
しばらくすると町の中心部に位置する広場に到着。二台の貨物用馬車が止めてあり普通の馬車より大きなそれの周りには五人ほどの人間が立っている。
(あの子を探しに行ったのはもっと多いはず...先に殲滅でいいよね)
建物の陰から状況を探るニーナだが
「おい!貴様なにもんだ!!」
見つかった
完全ではないとはいえ仮にも銀狐である。気配を消すぐらいお茶の子さいさいなはずのなのだが。
ニーナもこんなあっさり見つかるとは思っていなかったのかびっくり顔だ。
ばれているのに隠れていてもしょうがないので姿を現すニーナ
先ほどの男の声でほかの人間もニーナのほうを向いている。
「おい!死にたくないなら武器を捨てて投降しろ!」
そんなつもりは毛頭ないニーナ。
ゴミたちに向かって歩みを進める。
「貴様ぁぁーー!!!」バカ1号が腰の剣を抜きニーナを殺そうと走ってくる。
が、その剣がニーナに届くことは無かった。バカ1号はその場で止まり、首筋に赤い線ができる。
ゆっくりと首の裏側まで線を描いたのち首が飛ぶ。さらに胴体が真っ二つになりずり落ちる。
(この程度か)
初めて人を殺したはずなのにいたって冷静なニーナ。いや冷静というよりも冷徹と表現するべきだろう。
ニーナが使ったのは水の刃だ。原理は簡単、ただ水を薄くして超高速で飛ばすだけ。
シンプルなものだが汎用性は高い。
目の前でいきなり一人殺され、動揺する男たち。だがすぐに立ち直り各々剣を抜く。
男の一人が小さな笛を鳴らす。甲高い音はあたりに響き渡る。おそらく仲間を呼ぶためのものだろう。
(来るなら来い。みんなまとめて始末してやる)
猟奇的な笑みを浮かべ、ニーナは一つのイメージを作る。
バカどもがそれぞれ炎を噴き上げちりも残さず消滅する姿を。
ニーナが使用しようとしている魔法は消費する魔力が大きいうえ対象がしっかりと目に映っていないと使用できない、というかなり制限がありはっきり言ってものすごく使いにくいニーナオリジナルのものだ。
「ファイア!!」
たった一言。ニーナの発した一言で男たちは火柱に包まれ、その場から動くことすらできないまま跡形も残さず消えた。
(まだ...たりない)
次から次へと集まってくる足音。
ニーナは当初の目標通りすべて殲滅するべく動き出した。
この日奴隷輸送隊一号車と二号車との連絡が途絶えたとの知らせが王宮の一室にいる人に伝わった。部下に指示を出しほくそ笑む男性。また新たな騒動が裏で動き出した。
「えっと...もう充分ですから」
現在ニーナは人に囲まれて色々なものを渡そうとしてくるものを断っている。なぜ奴隷商人を葬っただけでこんなことになったかといえば
「あいつらを倒してくださりありがとうございます。奴らは息子のかたきのようなものだったんです。しかし私共の力ではどうすることもできなくて...本当にありがとうございました」
・・・ということだったらしい。ほかの人は町から消えてほしかった、だの暴利で買いたたかれた、だの怖い、といった理由だ。
「ニーナさん」
ふと声が聞こえたほうへ顔を向けるニーナ。
(たすかった~)
その視線の先には安堵した表情のレーゲン。
ニーナはこの人込みから脱出できることに喜びを感じながらそちらへ駆け寄っていく。
「なんですか、レーゲンさん」
「今すぐ王都に行ってハンターになってください」
「へ??」
「今回のことで例に貴族連中が動き出すかもしれません。この場合一番安全なのは独立組織であるハンターズギルドです。そこでハンターになってしまえばたとえ貴族だろうと容易に手出しできないでしょう。今はまだあなたの素性が割れていませんが、時間が経つにつれ的は絞られていきます」
「わかりました...」
最初こそ何言ってんだこいつ?と疑っていたニーナだったがすぐに撤回。 さぁ早く、と言って走っていく後ろに慌ててついていく。
(レーゲンさんあなたほんとに人間ですか?! かなり走るの早いんですけど)
ニーナが驚くほどの速さで走るレーゲン。ただものではない
二人がついたのは馬小屋。そこで馬の準備をしながらギルドについて説明を受ける。
「門に着いたら入国審査を受けて集会所を探してください。それなりに大きい建物なのですぐに見つけれると思います。」
(入国審査って何するんだろ?)
ニーナの疑問を読み取ったのかレーゲンは簡単に説明する。
「入国審査は血を少し取って調べるだけですよ。犯罪履歴がないか、指名手配されていないか、などを調べるだけです。顔は見られてないと思いますが貴族の力は底が見えない...幸いにも顔をチェックされることはあまりないはずです。ができるだけフードをつけたままにしておいてください。もしかしたらもうすでに根回しが始まっているかもしれないので」
「説明ありがとうございます。お騒がせしました」
「気をつけていってください。あ、あとこれをお渡しします」
そう言ってレーゲンさんが手渡してきたものは何の素材でできているのかわからない腰に付けるタイプのポーチ。
「アイテムポーチです。私が以前使っていたものですが、まだ使えるはずです。持ち主の魔力に応じてスペースが広がっていきますので。かなり重宝しますよ。きっとこれから役に立つはずです。」
「いいんですか、こんなものいただいて?」
実際このアイテムポーチはある程度のお金を積めば手に入れることはできる割と普及しているものだ。
と言ってもそうやすやす庶民が手に入れられるほどではないが。
「私にはもう必要ないものですから、そいつも使ってもらえればうれしいでしょう」
にこやかに笑いながらニーナに手渡す。
(うん、まぁもらえるならもらっとくけど)
「こっちのことは気にしないでください。町総出で魔法をかけて持ちこたえますから」
「それじゃ何とかなるんですか?」
「はい、貴族の中にも善良な人はいます。そこの私設軍が警護してくれるよう頼んでみるつもりです」
(よかった~)
それを聞いてやっと胸をなでおろすニーナ。
「そっちも頑張ってください。慣れないことや、いろいろなタイプの人間がいますから」
「ありがとうございます。では行ってきます」
「頑張ってくださいよ?その馬走れば30分ほどで王都に着きますがかなり乗り心地悪いので」
「えっちょっそれ・・・「よしいけーー」てっ、キャーーーーはーーやーーいーー!!
レーゲンさんの声で馬が走り出しそのスピードに驚いたニーナは思わず悲鳴をあげる。あっという間にレーゲンの姿が小さくなっていく。王都まではもう少しだ。
だがニーナは見逃さなかった。
がははと豪快に笑うレーゲンさんの本性を...おそらくそちらが素なのだろう。
(いつか寄るときはうんとサービスしてもらお)