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勇者さまがわたしを迎えにきた様です。

作者: ぱんだ

ドンドン、と扉を叩く音が響く。


「ジゼル!迎えに来たよ!また一緒に旅をしてくれないか」


そう我が家の前で叫んでいるのは勇者さま、である。

わたし、ジゼルは勇者シードのパーティメンバーで治癒術士≪ヒーラー≫だった。

ただし、「前世では」と注釈が入るんだけどね。


今から遡る事三百余年。

幼馴染のアイツはテンプレ通り育った村を魔族に焼かれ、勇者として目覚めテンプレ通りチート&ハーレム略してチーレムを形成したのだ。

王女で魔法使い≪メイジ≫のラーナレーナ・レーランは高飛車でツンデレ、女戦士≪アマゾネス≫のアーシェ・ジャンドレードは犬耳アホっ娘、踊り子≪ダンサー≫のロージア・メイリーはセクシー姐さん、弓使い≪アーチャー≫のメルメル・バーズはエルフロリっ娘、聖女≪シスター≫クリスティーナ・セイントはおっとり巨乳と、まるでギャルゲかエロゲの様なラインナップだった。


わたしはモブの如き村娘ですけどね!

名前もただのジゼルだし…まあ村娘としては普通なんだけど。


それでも必死に治癒術士≪ヒーラー≫としてレベルを上げ、アイツと旅に出たのは、滅ぼされた村のたった二人の生き残りだったから。

そしてなんだかんだ言ってアイツが好きだったから。

まあ、すぐに旅について行った事を後悔したんだけど。


最初は良かったんだけど、他のメンバーが加わる度にわたしの場違い感はあらわになっていった。

皆レベルも高いし、テイストの違う美形揃い。

おまけに聖女≪シスター≫はわたしと出来る事が被ってるのに能力はあちらが上っていう…わたしの役割が治癒術士≪ヒーラー≫という名の雑用係になるのはあっという間だった。


そのくせ幼馴染で気安いものだからシードはわたしにかまう。

ハーレムメンバーの嫉妬を一身に浴び続けたわたしはやつれていって、最期まで胃痛と戦っていたと記憶している。

そう、最期。

わたしはシードの活躍を今世で知った。

これまたテンプレ通り中盤のボス戦でアイツを庇って死んだのだ。

倒した筈のボスの、最期の力を振り絞った一閃。

世界の動きがスローになって、こっちを向いたシードの顔がくしゃりと歪んでいって、わたしの名前を叫んで、喉から、胸から、お腹から熱いものが飛んで零れていって、それでもわたしは「これで楽になれる」…なんて思っていた。

正直その頃にはアイツを好きって気持ちと、ハーレムをまとめる事も出来ないアイツに対する怒りが3対7くらいだったと思う。


「ジゼル、前世でのオレは魔王を封印する事しかできなかったんだ…時間も経って、封印も緩んできている。どうか、またオレに力を貸してほしい」


自分ではハーレムを管理できないから、誰か一人を選べないから盾がほしいんですね、分かります。

なんて思うようになってしまったのは好きって気持ちが欠片も無くなってしまったからだろうか。

それともわたしが荒んで…大人になってしまったからだろうか。

大体、記憶があるとはいえ前世のわたしと今世のわたしは別人なのだ。


「近所迷惑だから静かにしてくれない?」


「ジゼル!」


わたしはゆっくりと玄関を開けた。


「子どもが起きちゃうじゃない。やっと寝てくれたところなのよ?」


ぽかん、と口を開けてこちらを見る「勇者さま」の顔はなぜか前世の面影がある。

顔を見たら気持ちが蘇るかと少し不安だったけれど、そんな事は無かった。

昔を思い出して、ただただ懐かしいだけだ。

旦那への愛は揺るがなかったよ!万が一が無くって良かったー!

第一、今のアイツに手を出したら犯罪だよ!ショタコンだよ!


わたしは臨月に近い自分のお腹をゆっくり撫でた。


「二人目もそろそろ産まれるし、妊婦に旅に出ろとか無茶言わないでちょうだい、坊や」


「ジゼ、ル…?」


前世で幼馴染だったからって、今世でもそうだとは限らない。

輪廻転生があるとして、死んだ時期が違うなら尚更。


「勇者ごっこはそれくらいにして、お家に帰りなさい。そろそろ晩御飯の時間でしょう?」


推定7歳の未来の勇者さまは、肩を落としてしょんぼりと帰って行った。






「お帰りなさい、あなた」


「ただいまー、今日はなにかあった?」


「いいえ、なにもなかったわ」


わたしの幸せはこの人の傍にあった。

それだけ。














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