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臨床現場における歯科医師数削減の試み


「はい、では歯を抜く前に、麻酔をしますね-。お座席倒しまーす」


 白衣にマスクという、典型的なスタイルの歯医者が、患者に言った。気だるげな口調だ。

 歯医者の目が、注射器や治療器具の方を向いた、その刹那。


「死ねえ!」


 患者に化けていた暗殺者が、隠し持っていたナイフを振りかぶった。

 歯医者は殺気を感じるや、足でフットペダルを踏み込んだ。

 歯科の診療椅子はフットペダルで操作される。診療椅子がスムーズに倒れたせいで、暗殺者のナイフは歯医者を外した。


「ほう。我々歯医者の土俵で、我々に刃向かうか。剛気だな。面白い」


 歯医者はマスクの下、にやりと口を歪める。

 暗殺者がナイフを横になぐ。歯医者はかすかにのけぞって、刃をかわす。

 同時に、机の上から診療器具を掴んだ。


「人体ってのはな、こうやって侵襲するんだよ!」


 歯医者はペンチにも似た歯科器具を暗殺者の口の中に突き込む。稲妻のような一撃だ。

 ボキンっ、と音がする。歯医者は一瞬で暗殺者の奥歯を抜いたのだ。

 その道のプロだけが可能な、鮮やかな手つきだった。

 暗殺者が口を押さえる。その指の間から血が滴った。


「痛いかね? いいや、こんなものは序の口でしかない」


 言いながら、歯医者は暗殺者の指をペンチで掴んで捻ると、机の上からスクリュードライバーのような器具を掴む。それで暗殺者の手のひらを診療椅子に串刺しにした。


「ぐはっ!」


 暗殺者が呻いたその瞬間に、またペンチを口の中に突きこんだ。スナップを利かせて、あっさり三本の歯を抜き去った。


「ぎゃあ!」


 暗殺者が激痛に悲鳴を上げる。その顔は血まみれだった。


「抜歯にも飽きたな。治療方針を変更しよう」


 歯医者はがらん、とペンチを放り捨てた。


「やっぱり、歯医者と言ったらこれだろ」


 歯医者はドリルのような診療器具を取り出した。コードから伸びたその先端で、金属が光っている。


「……ナチスの秘密警察ゲシュタポは、歯科を拷問に使ったという。その理由を、身をもって知ることができて、ラッキーだな」


 歯医者は言いながらフットペダルを踏む。

 キュィィィィン、と特徴的な甲高い音をたててドリルのような器具が回転した。


「さて……今まで味わったことのない苦痛など、どうだね?」


 歯医者がドリルを振りかぶる。暗殺者が身を守ろうとする。

 ムダだった。

 歯医者が持つのは歯を削る器具だ。人体で最も硬い組織、歯を切削するのだ。

 その先端は一分間に三十万回転し、先端はタングステンに焼き付けられたダイヤモンドでできている。

 それが生み出すのは、シンプルにして絶大の破壊力である。ある意味、医療系職業人が持つ最強武器だ。

 歯はもちろん、それより柔らかい骨など、豆腐よろしく抵抗もなしに削ってしまうのである。

 ちょっとやそっとの防備で、こんなものを食い止めることはできなかった。


 歯医者が腕を振るうたびに、鮮血が飛び散る。歯科医院の白い壁や天井が、彩色されていく。

 悲鳴も、肉が切開される音も、骨が切削される音も、ドリルの甲高い叫喚には勝てなかった。

 やがて、治療に満足した歯医者が、得物を置いた。

 凄惨な光景と化している診療室を眺めて、つぶやく。


「診療室が血まみれだ……」


 歯医者はくくっ、と肩をふるわせて笑った。


「まあ、いいさ……。歯科医院には血が似合う」


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