君と2人でテスト勉強
本編(女を捨てた君と女々しい僕)よりも恋愛要素は強めです。
本編で不快感を感じてしまった方はあまりお勧めしません。
…といっても、大した描写はしていないのですが。
「テスト前だし、一緒に勉強しないか?」
きっかけはその一言だった。
もちろん、一樹に批判はない。(基本的に一緒に過ごせればいいという考え。ある意味で恋人クラスか。)
その後の話し合いによって、実施日は次の土曜日になった。
どちらの部屋でやるかという話し合いは、「無機質感漂う翔也の部屋よりは、可愛らしく着飾ってある一樹の部屋のほうがいいだろう。」という結論でまとまった。
その時に、部屋について翔也にいじられるのは最早お約束といってもいいので、あえて特記しないでおく。
そういった経緯で波乱の勉強会は幕を開けたのであった。
まあ、元々2人共落第するような成績は取っていない。
だが、総合では翔也の方が多少上なのは意地と言うべきか。
(とはいえ、一樹に勝ちたいという意識がないことから、一概に意思のみとは言い切れない。)
そんな2人であるから、勉強の区切りがついたからといって、お茶をしていたからといっても文句はいわれないであろう。
「それにしても翔ちゃん、よくそんなに難しい問題が解けるよね。」
一樹は紅茶とクッキーを時々口に含みながら、話す。
このクッキーは、一樹の手作りだというから驚きだ。(ある意味では当たり前かもしれない。)
だが、その言葉に翔也は反応ができなかった。
クッキーに対する思慮が働いていたからだ。
(こんな美味しいクッキーを一樹が作れるのか…どうも女子としてのプライドが…いや、今は男子だしいいんだ!)
「翔ちゃん?」
反応を返さずにいた翔也に対して一樹は不安の色を顔に浮かべる。
「あ、ごめんよ。数学の話だっけ。」
「うん、そうだよ。珍しいね、翔ちゃんがぼーっとしてるなんて。」
まさか、一樹の腕前に嫉妬しているとは翔也のプライド上言えなかった。
それが自分が女子であるという認識の上に成り立っていることに気づいていない。
ある意味で、男子になりきれていない翔也だった。
「ちょっと、勉強の疲れが溜まって…。
でも、数学は僕の得意教科だよ?得意教科で負けるほど勉強してないわけじゃないぜ。」
「うーん、それもそうかもね。
で、さすがに勉強中は話さないようにと思ってたんだけど…」
すごく歯切れの悪い口調で切り出す一樹。
それは、内容からしたら仕方ないことであるといえるかもしれない。
「なんでワンピースなの!?」
「むしろ、今まで突っ込み待ちだったんだけどね。
可愛くないかい?」
「うん、とても可愛いよ。」
「…たまには突っ込みを交代しようと思ったのに、ここで素で返されると困るねぇ…。」
翔也のつぶやきに、首をかしげる一樹。これもまた美徳というべきかも知れない。
実は、今日の勉強会を何より楽しみにしていたのは、翔也だった。
前日の夜から、今日どんな格好をしていこうか、どんなサプライズをしようかと悩んでいたぐらいだ。
その結果が、中学の頃着ていたワンピースだった。
幸いというべきか、不幸にというべきか、男子になってからほとんど(いろんな意味で)成長をしていないので、
そのまま着れたのだ。
今の格好は、ワンピースに薄手のカーディガンという確実に女装と取れるような服装だった。(もっとも、外見は女子中学生で通るので、女装と表現していいかどうかは微妙なラインである。)
はじめは、着替えたらワンピースという風にできないかと思ったが、ズボンをはいていって脱ぐというのもおかしな話である。
そういって、断念していた。(ちなみに、余談だがワンピースの下には、スパッツをはいているので、はしゃいでも下着が見えるというハプニングはない。スパッツの下にはいているものが女物か男物かは、翔也のプライバシーを考えてあえて明言しないでおく。)
「でも、本当のことだから言ったらおかしいかな?」
この言葉は、ある意味で翔也が待ち望んでいたものだった。
男と女の間にいるような気持ちの翔也であるから、ついつい女子の頃の癖でこういったスカートなんかをはきたくなることもある。
だが、戸籍上は現在一応男である。(外見は問題はないので、かなり非断定的になってしまったが。)
そういったことを考慮して(追加で面白さを考えて)今日の服装となったのだ。
「ありがとう。一樹。」
その言葉は、翔也の数少ない本音の言葉だった。
だが、ここからは翔也も予想できなかった。
「あれ?一樹?」
翔也の視界から、一樹がいなくなっていた。
少し思慮に浸ったとはいえ、ドアから出れば音で気づく上にそこまで長考したわけでもない。
しかし、深く考えるまでもなくどこにいるのかわかった。
「翔ちゃん♪」
一樹が後ろから抱き付いてきたからだ。
「か、一樹…?」
いつものノリなら、軽口もあったのだろうが今は褒められて少し思慮が回らない上に、この格好である。
十分貞操の危機の範疇だった。(ここでの貞操をどう取るかは個人にお任せしようと思う。)
後ろから、手を回して抱きついたまま、耳元で一樹はつぶやく。
「翔ちゃん、もしかして誘ってる?
服装も、アピール満点だし2人きりの状況を作り出しているし…。」
「ちょ…ちょっと…。」
もはや、一樹の独断場だった。
一樹の暖かい息が、翔也の耳にかかる。その吐息に耐え切れずにたまに高い声が出てしまう。
「今から、やることわかってるよね?僕よりもいろいろ知ってるから。」
そう言って、一樹の手がうごめく。
(え?ちょっと…それは……。)
その行動と言葉の魔術によって、翔ちゃんの意識は白さを増していった。
「ねぇ、翔ちゃん。起きてる?」
(頭が働かない。僕、今何してたんだっけ?)
「もう、5時だって。僕たち寝ちゃったみたいだね。」
(5時…帰らなきゃいけないかな?その前って確か…。)
そこまで、頭の回転が働いて急に目が覚める。
「お、翔ちゃん。起きたみたいだね。
いつもの強気の翔ちゃんもいいけど、寝ぼけて可愛い翔ちゃんもいいね。」
いつもなら本気で突っ込むような(翔也にとっての)問題発言をしているが、今の翔也の意識はそこになかった。
(服は…今日のワンピースのまま。服も乱れてない…あれってもしかして…。)
「翔ちゃん。やっぱりまだ寝ぼけてるね?帰りは危ないし、送っていこうか?」
「いや、いらないね。一樹なんかに送ってもらったら、こっちがまたおくらなきゃいけなくなるじゃないか。」
ここまできて、やっと翔也にいつもの口調が戻ってきた。もっとも、心の中は混乱したままであるが。
無意識下でもこの口調が出てきてしまうのは、損というべきか得というべきか、悩みどころだ。
「…そんなことないって!」
翔也のからかいの言葉に素直に反応して、恥ずかしがりながら否定する一樹。
「本当かい?」
「うん!」
「不良に絡まれたらどうするつもりかな?」
「え…それは…えーと…。」
「やっぱり無理じゃないか。」
「う…うぅ…。」
この時には、完全にいつものペースに戻っていた。
「さて、このままいじっていたいけど、さすがに時間だね。」
「う…あ…そうだね。下まで送ってくよ。」
こうして、一波乱(?)あった勉強会は幕を閉じた。
(あれは…夢だったのかな?)
一人で帰り道を歩きながら翔也は考える。
引っかかったのは、最後にいった一樹の言葉だった。
「今日はいろいろ楽しかったね~。翔ちゃんのワンピースも見れたし。」
(いろいろ…って何を指してるんだろう。もしかしてそれって…。)
その思考は答えを見つけることなく、また答えを知ることもなく(さすがの翔也も聞く勇気はなかった。)楽しい1日は幕を閉じたのだった。
この短編が一番書いてて精神を削りました。
自分の頭がおかしいんじゃないかと何回疑ったことか。
ただ、こういった悶える作品は好きなので、自分でも書けて満足はしてます。