1∥いとこ
その三日後、優美子は完全復活して、学校に登校していた。
「季遊崎、おはよう。」
そう言って、真斗が優美子の隣を歩いた。
「おはよう、美壁君。どうしたの、不機嫌だけど。」
優美子はそう言って、真斗を見た。真斗は優美子を見て、
「そっか、お前は昨日学校を休んでたもんな。俺、昨日、美佳とケンカしたんだ。結構、みんな知ってる。殴り合いになりかけたからな。」
と言った。優美子はそれを聞いて、目を見開いた。
「美佳ちゃんと?仲良かったのに。」
「まぁな。俺の好きな人のことでもめた。」
優美子はそれを聞いて、胸に何か刺さったような気分になった。
「好きな人?」
「うん。俺が、好きな人が出来たから、今日からはお前と一緒に学校に行かないって言ったら、あいつ、いきなり怒り出したんだ。『真ちゃんは女のことを誰も本気で好きにならないって決めてたじゃん!』って。言ったことはあるけど・・・しょうがないよな、好きになったものは。人の気持ちなんだし。」
真斗が優美子にそう言うと、優美子はうなずいた。
「そうだね。」
優美子はそう言ったあと、すごくモヤモヤしているのが分かった。
「美壁君の好きな人って誰?」
優美子がいきなり聞いたので、自分の気持ちに気づいている真斗は、すごく赤くなった。
「べ、別に、季遊崎には関係ないだろ。」
「・・・そうだね。ごめん。」
そう言って、しょんぼりした様子の優美子を見て、真斗は慌てた。
「いや、別に、あの、季遊崎には教えられないっつうか、そんな顔をするなよ。」
真斗がそう言うと、優美子はニコッと笑って、
「それもそうだね。好きな人のことなんて、言えないか。」
と言った。真斗は安心したようにため息をついて、ニコッと笑った。
「もう、驚かせるなよ。」
真斗はそう言って、笑った。
「そんなに驚かせた?まだ信じてもらえてないのかなって思ったから言っただけなのに。」
優美子がそう言うと、真斗は優美子の頭を撫でた。
「え、何?」
「俺は、お前のことを裏切ることはしない。季遊崎が俺のことを裏切るまで、ずっと信じ続けるから。」
真斗がそう言うと、優美子は赤くなった。
「裏切らないよ。あ、そうだ。約束してほしいことがあるの。」
「・・・何?」
「誰を信じるかは美壁君の勝手よ。でも、私、美壁君のこと、どんなことがあっても信じるから、美壁君は、私のことを信じて。別に、信じなくてもいいけど・・・さ。」
優美子はそう言って、真斗に笑いかけた。
「分かった。これからは、お互いをどんなことがあっても信じ続けること。いいか。」
真斗にそう言われて、優美子はすぐにうなずいた。
その日の午後、五時限目の授業が終わったときに、優美子にこんな情報が耳に届いた。
「美壁君が体育の時間に倒れたんだって。」
結構、真斗は顔がよく、密かに好いている人が少なくはない。だから、真斗の情報は、結構すぐに回ってくる。優美子は、すぐに保健室に行った。保健室の前には、何人か女子生徒が集まっていた。
「ごめんなさい、道開けてくれないかな?」
優美子がそう言うと、女子生徒はすぐに道をあけた。ほとんどの生徒が優美子の体の弱さを知っているので、真斗を心配して入ったとは思われない。
「あ、季遊崎さん。また気分が悪くなったの?」
養護の先生が言った。優美子はすぐにうなずいた。
「復活したばっかりだものね。ベッドに横になって休みなさい。」
養護の先生はそう言うと、優美子を二つしかないベッドの一つに寝かせた。すると、赤い顔をした真斗がベッドに横たわっているのが見えた。優美子は真斗をチラッと見て、すぐに養護の先生を見た。
「美壁君、どうしたんですか?」
「ちょっと熱があるのよ。心配するほどじゃないけど。」
養護の先生がそう言うと、優美子は納得した顔をして、ベッドに横たわった。
「あ、悪いけど、季遊崎さん。今から先生、ちょっと用事があるの。あなたや美壁君に何かあったら、職員室にいる先生に言ってくれるかな?ときどき、他の先生に見に来てもらうけど。」
養護の先生にそう言われ、優美子はすぐにうなずいた。養護の先生はすぐに保健室を出て行った。優美子は、起き上がって真斗を見た。氷枕が解けかけて、額に乗っているタオルが落ちそうになっていた。優美子は、すぐにそのタオルを氷水にひたして、真斗の額に乗せた。
「あ・・・季遊崎か。大丈夫か?また気分が悪くなったのか?」
真斗が起きてそう言った。優美子はいたずらっ子のような顔をして、首を横に振った。
「ううん。美壁君が心配になってきたの。気分が悪いって言ったから、授業をサボることになるけど。風邪をうつしたのは私だろうし、気になって仕方がないもの。次の授業は小林先生だから、サボったって何の支障もないわ。」
優美子がそう言うと、真斗は苦笑いをした。
「まじめな季遊崎が、俺のせいで不良になっちまった。」
真斗がそう言うと、優美子は真斗に微笑んだ。
「いいの。このぐらいなら大丈夫。」
優美子はそう言って、ニコッと笑った。
「頭がズキズキする。」
「頭痛薬、あげようか?」
「いいよ。医者が処方したものしか飲むなって言われてるんだ、春海さんに。」
真斗がそう言うと、優美子は首をかしげた。
「春海さんって?」
「俺の乳母。」
真斗はそう言うと、くしゃみをして、鼻をすすった。
「あのおばさんだけには、頭が上がらない。」
真斗はそう言って、ハハハと笑った。
「信じてるわけでもないけど、両親より家族みたいな人だから。春海さんは、俺のお母さんみたいな人。」
真斗はそう言うと、優美子に微笑みかけた。
「会ってみたいな、春海さんに。」
「会わせようか?今度俺の家に来いよ。」
「いいの?でも・・・一人は・・・ちょっと・・・」
優美子がそう言うと、真斗は苦笑いをした。
「いや?」
「ううん。私的には、一人で行っても別に抵抗はないんだけど、お父さんがなんて言うか・・・私のお父さん、すっごい厳しいのよ。彼氏が出来たら、キスは一日一回。門限は決まってないけど、決められた時間にしか、デートできないし、男友達と遊ぶときは、誰か女子を一人は連れて行かなきゃいけないし、もう、うんざり。」
優美子がそう言うと、真斗はクスクス笑った。
「じゃあ、天王寺をつれて来いよ。仲いいだろ?」
「え、でも・・・」
「いいよ、あいつなら。季遊崎の親友だし。」
「ありがとう。」
優美子がそう言うと、真斗と見詰め合って、笑った。
「優美子、大丈夫か・・・げっ!」
六時限目が終わると、小林先生が保健室に入るなり、ベッドのカーテンを開けて、驚いたような顔をした。
「他の生徒がいたのか・・・」
「だから、言ってるじゃない。学校では教師らしくしろって。何で私を学校で優美子って呼ぶかな!?いつどこに人がいるかなんて分からないんだからね!」
優美子がそう言うと、小林先生は申し訳なさそうな顔をした。
「どういう関係だ?」
真斗がそう言った。
「私のいとこなのよ、この先生。」
「俺、優美子が受精卵のときから知ってるんだぜ。」
「変なこと言わないの。」
優美子がそう言うと、真斗が噴出した。
「お前、小さい子をあやす女の子みたい。」
真斗にそう言われて、優美子は小さく微笑んだ。
「いつもボケは誠人兄で、ツッコミは私なのよ。教師なのに、しっかりしてほしいよ。」
優美子がそう言うと、真斗は頭をおさえながら起き上がった。
「小林先生って、下の名前、誠人だったんですか?」
真斗がそう言うと、誠人はうなずいた。
「一緒にお風呂に何回も入ったことがある仲だから、すごい仲がいいんだ。」
誠人はそう言って、優美子に抱きついた。
「そう思ってるのは、誠人兄だけです。もう少しで終学活が始まりますよ。早く教室に戻ってください。」
優美子がそう言うと、誠人は優美子から離れて、どこかに行った。