2∥友達以上恋人未満
次の日、優美子が学校に行く途中、蛍太が優美子を抱きしめた。
「優美ちゃん。おはよう。」
「お、おはよう、蛍ちゃん。その制服・・・もしかして、うちの学校に通うの?」
「そうだよ。似合うだろう?」
そう言って、蛍太はくるっとまわった。そして、優美子を公園のフェンスに押し付けた。
「ねぇ、俺じゃダメなの?何であいつなの?」
「え、蛍ちゃん?言ってることがわかんない。」
「美壁って奴のこと。好きなんだろ?」
「え・・・?誰もそんなこと言っていない。それに、好きかどうか、わからない。」
優美子がそう言って、蛍太を突き放した。蛍太はため息をついて、優美子にキスをした。
「やめて!」
「・・・季遊崎、どうした?」
そう言ったのは、真斗だった。真斗の腕には美佳がくっついていた。
「いや、何でもない。・・・蛍ちゃんのバカ!」
そう言って、優美子は走って登校した。
「・・・美佳、先に行っていいから。」
そう言って、真斗は優美子を追いかけた。
「ねぇ、誰か知らないけど、優美子ちゃんのこと好きなの?」
「え・・・あぁ、俺は、町田 蛍太。優美ちゃんのことは好きだけど、あいつに取られたかもね。あんたは?美佳ちゃんだっけ?美壁 真斗のことが好きなんだろう?あんな奴、どこがいいんだ?」
蛍太はそう言うと、学校に向かって歩き出した。
「好きっていうわけじゃない。ただ、真ちゃんを私の奴隷にしたいのよ。あの人、何でも出来るでしょう?」
「あいつの家がどんなのか知ってるのか?」
「え?いいえ。幼馴染だけど、真ちゃんの家には行ったことがないし、どんな家かも教えてもらったこともないわ。」
美佳がそう言うと、蛍太は驚いた顔をして、意地悪そうに微笑んだ。
「何だ、あいつは自分のことが知られたくないんだ。と言うよりか、女はまだ信じきれていないのか。」
蛍太はそう言うと、嬉しそうにスキップして、学校に向かった。
「季遊崎!」
そう言って、真斗は優美子の手を引っ張った。
「美壁君。」
「大丈夫か?走るなよ。昨日倒れたくせに。ここで倒れたら、コンクリートで頭を打つことになるじゃねぇか。」
真斗はそう言うと、優美子の顔を覗き込んだ。
「ねぇ、美壁君にとって、私は何?信じられる?」
「え?・・・まぁ、正直言って、俺は女をあまり信じてない。でも、季遊崎はなんだか信じられる。俺にとって季遊崎は何だという質問だが、俺が思うに、俺たちは友達だ。それ以上の関係にもなれるし、それ以下の関係にもなれる。そんな関係だ。」
そう言われ、優美子は満面の笑みを見せた。
「そう。じゃあ、今から親友に昇格していい?」
「え、うん。」
真斗がそう言うと、優美子は肩を落とした。
「嫌?」
「ううん。季遊崎が俺にそんな事を言うなんて思ってなかったから。」
真斗にそう言われ、優美子は首をかしげた。
「何で?」
「俺は家柄がどうであれ、不良だから。でも、嬉しい。俺、女の子と友達以上恋人未満の関係になるとは思わなかった。こんなこと言うのはおかしいけど、親友以上の関係にもなれるよね?」
真斗はそう言って顔を赤らめた。優美子はまた首をかしげた。
「別に、今からなりたいって言うわけじゃなくて・・・もし、俺がお前に恋愛感情を抱いたらの話な。今日の朝、美佳に言われたんだ。俺は季遊崎のことが好きなのかって。」
真斗はそう言って、歩き始めた。優美子もその後ろからついていく。
「私も、蛍ちゃんに聞かれた。それで、まだそんなこと思っていないって言ったら、キスされたの。それでバカって言った。悪いことしたかな。」
優美子はそう言って、立ち止まった。真斗は優美子を見て、ニコッと笑った。
「別にいいんじゃないの?自分の意見はちゃんと言わないと。」
「・・・そうだよね?昔はもっと私のことを気にかけてくれて、自分のことを優先しなかったのに。蛍ちゃん、ずいぶん変わっちゃった。私も、蛍ちゃんから見たら変わったのかな?」
優美子はそう言って、がっかりしたような顔をした。
「変わったとしても、季遊崎は今のほうがいいんじゃないか?それと、俺の前で、あいつの話をあまりするなよ。俺、あいつが嫌いだ。」
真斗はそう言って、顔を赤くした。
「あ、うん。」
優美子はそう言って、ニコッと笑った。
学校に着くと、優美子の親友、天王寺 朝美【てんのうじ あさみ】が、校門の前で待っていた。
「優美子!」
「朝美?どうしたの?」
優美子がそう言うと、朝美は真斗を見て目を見開いた。
「ねぇ、美壁君と付き合ってるって本当?」
朝美にそう言われ、真斗と優美子は顔を見合わせた。
「私たちって付き合ってたっけ?」
「いや、付き合ってなかったと思うけど・・・あれ?付き合ってたか?」
真斗はそう言って、首をかしげた。朝美も首をかしげた。
「付き合ってないってことでいいの?」
「うん。そうだな。付き合ってない。」
真斗はそう言うと、朝美にニコッと笑いかけた。
「何、のんきなことを言ってるの?学校中、大騒ぎよ!」
それを聞いて、二人はまた顔を見合わせた。
「放っておくか。どうせすぐ分かることだし。」
「そうだね。」
二人はそう言うと、笑い始めた。
「え、いいの?」
朝美がそう言うと、二人ともうなずいた。
「だって、変に否定しても怪しまれるでしょう?」
「そうだけど・・・」
「どうせ、それを聞いたら、転校生が否定してくれるだろ。」
真斗はそう言うと、下駄箱に向かって歩き出した。
「転校生?」
朝美が優美子にそう言った。優美子は苦笑いをして、
「私の幼馴染で、私のこと好きみたいなの・・・」
と言った。朝美は目を見開いて、ニコッと笑った。
「じゃあ、優美子はその人のことが好きなんだ。」
「違う。」
優美子はきっぱりそう言うと、笑って下駄箱に行った。