1∥次期社長
「優美子、起きなさい。」
そういう母の声で、優美子は自分の部屋で目を覚ました。
「え、お母さん?」
「あなたが倒れたって聞いて、迎えにいったのよ。」
「ごめんなさい、迷惑かけて。」
「何言ってるの。当然じゃない。あ、美壁君が来てるから、この部屋に入ってもらうわよ。」
そう言って、優美子の母は、部屋を出て行った。すると、真斗が入れ違いで入ってきた。
「美壁君・・・」
「そうとう気分が悪そうだったから、先生が季遊崎のお母さんを呼んだんだ。あ、これ宿題。」
そう言って、真斗は宿題を優美子にわたした。
「ありがとう。」
そう言って優美子が笑うと、真斗もニコッと笑って首を横に振った。
「大したことしてねぇし。」
真斗はそう言って、ニコッと笑いかけた。
「あの子は?えっと・・・佐久野さんだっけ?」
「美佳か?あいつは、普通の幼馴染だから、別にどうでもいいよ。」
真斗はそう言うと、床に座った。
「優美ちゃん!」
そう言って、いきなり男が優美子の部屋に入ってきた。
「蛍【けい】ちゃん!オーストラリアから帰ってきたんだ。」
優美子はそう言って、体を起こした。蛍ちゃんと呼ばれた男は、ニコッと笑った。
「久しぶり、優美ちゃん。さっき帰って来たんだ。・・・その人は?」
「この人は、私と同じ学校の美壁 真斗君。美壁君、この人は私の幼稚園からの幼馴染の町田 蛍太【まちだ けいた】。」
真斗はニコッと笑って、蛍太に会釈した。
「どうも。町田株式会社の次期社長さん。」
「こちらこそ、『Beauty wall』の次期社長さん。」
二人の言葉に、優美子は動揺していた。
「え?蛍ちゃんは知ってたけど、美壁君まで次期社長さん?」
「うん。でも、あまり人には言わないで欲しいんだ。」
真斗はそう言うと、恥ずかしそうに頭をかいた。
「言わないわよ。それより、悪いけど、お母さん呼んできて。気分が悪くなってきた。」
優美子がそう言うと、蛍太は立ち上がってどこかに行った。
「季遊崎、大丈夫か?」
「うん。たいしたことないわ。頭が痛いだけだから。」
優美子がそう言うと、真斗は優美子の額に手を当てた。
「変に我慢するからだよ。ほら、横になってろ。」
そう言われて横になった優美子に、真斗は布団をかぶせた。
「ありがとう。」
優美子がそう言った直後に、蛍太と明美がやってきた。
「大丈夫、優美子?」
明美がそう言うと、優美子はニコッと笑った。
「頭が痛いの。頭痛薬はない?」
優美子がそう言うと、明美はすぐに下へおりて、またあがってきた。
「はい。飲みなさい。」
「ありがとう。」
優美子はそう言うと、薬を飲んだ。すると、蛍太が優美子のベッドに座って、優美子を抱きしめた。
「け、蛍ちゃん!?」
「いいだろう。ずっと会ってなかったんだ。ずっと会いたかった。」
そう言って、蛍太は優美子をもっときつく抱きしめた。
「じゃあ、俺はこれで、失礼します。」
真斗はそう言って、優美子の部屋を早足で出て行った。優美子も行こうとしたが、蛍太に引っ張られて無理だった。
「いいだろう、優美ちゃん。あいつより、俺のほうが優美ちゃんのことを知ってる。俺は優美ちゃんが好きなんだ。」
そう言って、蛍太は優美子にキスをした。
「蛍ちゃん。」
そう言って、優美子は蛍太を突き放した。
「蛍ちゃん。いくらなんでも、強引すぎるよ。」
「さっきの奴、彼氏?」
蛍太はそう言って、優美子をベッドに押し倒した。優美子は、首を横に振って、起き上がった。
「蛍ちゃん。美壁君は、別に彼氏ではないし、あまり深い関係でもないけど、優しいよ。そんなに、嫌ったようないい方しなくてもいいんじゃない?」
「嫌いなんだよ。あいつとは何回も会ったことはあるよ。あいつの母親は、あいつの父親の金目当てで結婚して、あいつを産んで、病気で借金を残して、亡くなった。それのせいで、あいつ、女は信じない。それに、社交的だが女性にはきつい。とてもイギリス育ちとは思えないよ。俺は嫌いだ。」
そう言って、蛍太はベッドのシーツを握り締めた。
「優美ちゃんが、何かひどいこと言われたらどうしようって思ってる。すごく、心配だ。」
そう言って、蛍太は優美子を見た。優美子は蛍太に笑いかけた。
「大丈夫。いざとなったら、得意の柔道と空手があるから。」
優美子はそう言うと、蛍太に笑いかけた。