4∥無理
次の日、優美子は母親の心配を無視して、学校に登校した。
「季遊崎!もう大丈夫なのか?」
そう言って優美子の顔をのぞいたのは、もちろん真斗だ。
「えーっと、大丈夫かな?」
優美子は自信なさげにそう言った。
「バカ。何で休まないんだよ。」
真斗はそう言うと、優美子の荷物を持った。
「あまり無理するな。」
「無理なんてしてないわよ。」
優美子はそう言ったが、すぐにふらついて、その場に座り込んだ。
「あっそ。」
あきれたようにそう言って、真斗は女子を呼んで、
「これ持ってみ。」
と言うと女子に優美子の荷物を持たせた。
「重い・・・です!何ですか、これは?」
荷物を持たされた女子はそう言って、荷物を地面に置いた。
「いや、普通のカバンなんだけど・・・ありがとう、ごめんね。」
真斗がそう言って、ニコッと笑いかけると、女子はルンルン気分になりながら、どこかに行った。
「重いだってよ。女子は持てる重さじゃないんだよ。」
真斗はそう言うと、優美子に笑いかけた。
「まったく、こんな重いものを持ったら、どんなに気分がよくなっても、すぐに疲れるぞ。」
真斗はそう言って、優美子を抱きかかえた。
「え、ちょっと、おろしてよ。」
優美子はそう言って、顔を赤くして真斗を見た。
「保健室まで我慢しろ。」
「出来ない!」
そう言って、優美子は無理にでもおりようとしたが、体力が無くなってすぐにおとなしくなった。
「すぐ疲れてるじゃん。」
「うるさい!」
「無理するな。」
そう言って、真斗は優美子を保健室のベッドに寝かせると、保健室を出た。すると、保健室の前に、一人の女子が立っていた。真斗の幼馴染である、佐久野 美佳【さくの みか】だ。
「真ちゃん、さっきの子、誰?」
美佳が甘えるように言った。
「え、あいつか?ただの友達。」
「ホントか?」
「ホントだ。美佳、後でいいから、頭痛の薬をくれ。」
そう言って、真斗は美佳にニコッと笑いかけた。美佳は心配したように真斗の顔を覗き込んだ。
「どうしたの?」
「ん?頭痛いだけ。」
真斗はそう言うと、優しく微笑んだ。
「真ちゃん、本当に大丈夫?」
「うん。でも、なんかこの辺が苦しい。心拍数も早くなってるみたいだ。変だよな。こんなこと今まで無かったのに。」
真斗はそう言いながら、自分の胸を押さえた。美佳は、真斗がなぜそうなったのか分かっていた。だが、あえて言わなかった。美佳は真斗が好きなので、優美子に告白されるのが嫌だからだ。
「何かの病気なんじゃない?病院に行ったほうがいいよ。」
「そんな、大げさな。大丈夫だよ、これくらい。」
そう言って、真斗は美佳の頭を撫でた。真斗にとって、美佳は妹みたいな存在だ。
「あ・・・のね、あんたたちが保健室で騒いだら、どれだけ迷惑か考えたことある?頭が痛くて保健室で休んでたら、あんたたちの声が聞こえて、どんなに頭がガンガンすると思ってるの?ホント、そういう事やめてよね。」
そう言って、男子生徒に優美子が怒っていた。真斗は廊下をもう曲がっていたのだが、廊下にその声が響いていたので、真斗はすぐに保健室にもどった。男子生徒たちは、もうどこかへ言っていたが、保健室の前で、優美子が座り込んでいた。
「季遊崎!」
そう言って真斗は、優美子の顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
「・・・教室に行って。私は大丈夫だから。」
「それで、大丈夫って言えるのかよ。」
「うん。私の取扱説明書にはそう書いてあるわ。」
そう言って優美子はニコッと笑うと、真斗もニコッと笑った。
「真ちゃん。あれ、その子はさっきの・・・」
「季遊崎 優美子です。よろしくね。」
優美子がそう言うと、美佳もニコッと笑って、
「よろしく。私は佐久野 美佳。真ちゃんの幼馴染なの。」
と言った。そして、真斗の腕に抱きついた。
「おい、美佳。」
「いいじゃない。じゃあね、優美子ちゃん。」
そう言って、美佳は真斗を引っ張って、保健室の前を去った。優美子がその後ろ姿を見ていると、美佳が振り返って、優美子に『あっかんべ』をした。優美子は首をかしげて、その場に立ったが、すぐに倒れた。
「ダメだな。やっぱり、無理しすぎだ、私。」
優美子はそう呟くと、力尽きて気を失った。
「・・・崎、季遊崎!」
そう言って優美子を起こしたのは、真斗だ。
「今日は養護の先生は休みなんだ。だから、心配してきて見れば、お前が倒れてるんだから、ビックリしたよ。」
そう言って、真斗は優美子に笑いかけた。
「おい、何をしてる?」
そう言って、この学校で一番若く、優美子の担任である小林先生が、二人を見て笑っていた。
「あ、いや。心配してここに来たら、季遊崎が倒れていたので。季遊崎、立てるか?」
そう言いながら、真斗は優美子を支えながら立たせた。
「わざわざそんな事をしなくても。」
先生はそう言って、優美子を軽々と抱きかかえた。
「え、小林先生!?」
優美子がビックリして先生を見ると、先生はニコッと笑っていた。
「いやー、季遊崎は軽いな。」
そう言って、先生は優美子を保健室のベッドに寝かせた。
「先生、誰かに見られていたらどうするんですか?下手したらくびになりますよ?」
「大丈夫、大丈夫。」
「大丈夫じゃありません!あ、もう少しで授業ですよ。早く行ってください。」
優美子がそう言うと、先生は笑って保健室から出て行った。
「あの先生、優美子のことを好きだったりして。」
「何を言ってるの。美壁君も早く教室戻りなよ。」
「あ、そうだった。」
真斗はそう言って、保健室を去って行った。優美子はベッドの上で、目を瞑って休んだ。