2∥友達
「ったく、誠人兄は本当に変わってない。」
優美子があきれたように言うと、真斗はクスクス笑って、優美子に笑いかけた。
「季遊崎って、本当にキャラが面白いな。」
真斗はそう言って、ベッドの上であぐらをかいた。
「そう?」
優美子は真斗に笑いかけた。真斗はうなずいて、優美子に近づいた。
「何?」
優美子が後ろに下がりながら、そう言った。真斗はそのまま優美子を押し倒した。そして、優美子の唇にキスをした。
「何で?」
優美子がベッドに横たわったまま言うと、真斗は優美子の頬に触れた。
「何でだろう?変に胸が高鳴ってるんだ。体も火照ってる。」
真斗がそう言うと、優美子はため息をついた。
「風邪のせいじゃない?」
「ん?そうかもな。お前からうつされた風邪だから火照ってるのかもしれない。」
真斗はそう言って、ニコッと笑った。優美子は、真斗を押し離した。
「もう。からかうのはいいかげんにしてよ。」
優美子は笑いながらそう言った。真斗は苦笑いをして、突然笑い出した。そして、優美子の頭を撫でた。
「季遊崎、カワイイ!」
真斗にそう言われて、優美子はクスッと笑った。
「ありがとう。」
「優美ちゃん、帰ろう。」
そう言って、蛍太が保健室に入ってきた。
「蛍ちゃん・・・?」
優美子がおびえた様子でそう言うと、
「真ちゃん、一緒に帰ろう。」
と言って美佳が入ってきた。
「美佳・・・?」
二人とも、困惑していた。優美子は蛍太とケンカしたばかりだし、真斗も美佳とケンカしたばかりだったからだ。
「ちょっと、あんたたち。美壁君と、優美子は私たちと帰るのよ。」
そう言って、朝美が玲と保健室に入ってきた。
「ごめんね、蛍ちゃん。」
優美子はそういって、靴を履くと、朝美のところへ行って、朝美からカバンを受け取った。
「美佳、先に帰れ。」
真斗は怒ってそう言うと、美佳から自分のカバンを受け取った。そして、玲と一緒に保健室を出た。
「ちょっと待って、美壁君!」
優美子がそう言って、真斗の腕をつかんだ。真斗は振り返って、壁にもたれた。
「大丈夫?」
優美子がそう言うと、真斗は少しため息をついた。
「まぁ、大丈夫だと言いたいところだけど、そんなに・・・」
真斗はそう言って、床に座り込んだ。
「大丈夫か?」
玲がそう言って、真斗に肩をかしながら、真斗を立たせた。
「悪い。家までおくれるか?」
真斗がそう言うと、玲はすぐにうなずいた。
「季遊崎と天王寺もついて来てくれないか?」
真斗がそう言うと、朝美と優美子は顔を見合わせた。
「私はいいよ。朝美は?」
「私もいいよ。一緒に行こう。」
朝美と優美子はそう言って、真斗の横に並んで歩いた。
「浅野って、意外に力持ちだよね。」
校門を出ると、朝美がそう言った。
「そうか?まぁ、昔、真斗と柔道、空手、剣道と合気道を習ったりしてたから、武道の心得はある。」
玲はそう言うと、静かに微笑んだ。それを聞いて、朝美と優美子は感心したように、笑った。
「じゃあ、二人とも強いんだ。」
朝美がそう言うと、玲は首を横に振った。
「俺は真斗に比べれば、全然だよ。だって、真斗は黒帯だし。」
「ちなみに、玲は茶帯だ。」
真斗が付け足す。優美子はクスクス笑って、
「私も黒帯よ、柔道。柔道と合気道を習ってるの。」
と言った。男子二人は、優美子を見てニコッと笑った。
「すげぇ。この前の校内ピアノコンクールで優勝できるくらい、ピアノが上手くて、成績も真斗と一位と二位を争ってるくらいだし、その上に運動神経抜群、おまけに柔道の黒帯で合気道も出来る。完璧じゃん。さすが、学校一の姫は違うな。」
玲がそう言うと、優美子はため息をついて、玲の頭を叩いた。
「姫っていう呼び方、やめてよね。それ言っていい人は、一人だけよ。」
優美子はそう言って、玲を睨んだ。
「誰だよ、その一人は。」
「え、名前は知らないのよ。たぶん、お互い知らないと思う。会ったのも、三回だけで、そんなに親しくならなかったし。」
優美子はそう言って、ニコッと笑った。
「二度と会うことないかもしれない。中学二年生の夏のときと入学式のときのことだし。」
「あ、そう言えば、真斗の初恋も入学式だよな。入学式の三日前と入学式のときに会って、それっきりだから、あきらめたけど。」
玲がそう言うと、真斗は顔をしかめた。
「今も続いてる。見つけたから。」
真斗はそう言うと、赤くなった。玲は目を見開いて、爆笑した。
「マジで?カッコイイ、真斗。」
「うるせぇ。だって、そいつ、可愛すぎるんだ。」
真斗は赤くなって、足を止めた。そうとう恥ずかしいらしい。優美子は、そんな真斗から目をそらした。真斗の言うそいつと言う言葉を聞いて、真斗の事を見ていられなくなったのだ。
「ごめん、私、帰る。」
「こら、優美子。今日は習い事ないでしょう?帰る必要はないわ。」
朝美がそう言うと、優美子は泣きそうな顔をした。
「泣かない。美壁君が心配するでしょう。」
朝美が小声でそう言った。優美子は涙をこらえて、うなずいた。朝美は、優美子が真斗を好きで、優美子がそれを気づいていないこと、真斗が優美子のことを大好きで、自分の気持ちに気づいていることを知っている。優美子とは、蛍太と同じぐらいの長い付き合いなので、見たらすぐ分かる。それをあえて言わないのは、優美子が自分で気づかないと意味がないからだ。
「大丈夫なのか、季遊崎?用事があるなら、帰ってもいいぞ。」
「ううん、大丈夫。美壁君だって、何回も私の家に来てくれてるんだから、私だって行くよ。」
優美子はそう言うと、ニコッと笑った。真斗は笑って、うなずいた。
真斗の家に着くと、朝美も優美子もビックリしていた。とにかく、大きいのだ。
「何ここ?大邸宅じゃん!」
朝美がそう言うと、真斗は苦笑いをした。
「これは言わないでほしいんだけど、俺は『beauty wall』の社長の息子なんだ。絶対言うなよ。」
真斗はそう言うと、インターホンを押した。
『はい?あら、坊ちゃん。』
インターホンのスピーカーから、そんな声が聞こえた。
「春海さん、門を開けて。」
真斗がそう言うと、門が自動的に開いた。
「す、すごい。」
朝美と優美子が声をそろえて言った。真斗はそんな二人の反応をみて笑いながら、門の中に入っていった。優美子と朝美もその後ろに続く。
「お帰りなさいませ、お嬢様方、浅野様、坊ちゃん。」
真斗の家に入るなり、春海がそう言った。
「あ、お邪魔します。美壁君と同じ学年の季遊崎 優美子です。」
「同じく、天王寺 朝美です。」
そう言って、女子は春海に会釈した。玲は手を挙げて、
「春海さん、久しぶり。真斗が熱出したんで、おくりに来た。」
玲がそう言うと、春海は驚いた顔をして、真斗の額に触れた。
「まぁ、本当。早く部屋に連れて行ってください。」
春海はそう言って、玲と一緒に真斗を部屋に連れて行った。
「あの、春海さん。キッチンはどこですか?」
優美子がそう言うと、春海は振り返って、
「右の突き当たりにあります。」
と言うと、二階に上がった。優美子はすぐにキッチンに言って、氷と水を用意した。そして、いつも持参しているスポーツタオルを、その氷水につけた。そして、二階に上がった。
「優美子、こっち。」
先に二階に上がっていた朝美がそう言った。朝美がいるほうに優美子は行って、真斗の部屋に入った。
「あの、氷水とタオルを持ってきました。」
「あら、ありがとうございます。でも、氷のある場所、よく分かりましたね。」
「私の家の冷蔵庫と同じですから。」
優美子はそう言うと、氷水にひたしたタオルを絞った。そして、春海にわたした。
「ありがとう、季遊崎。春海さん、下がって。」
「かしこまりました。」
春美がそう言って、部屋から出ると、真斗はため息をついた。
「ありがとうな、季遊崎。」
真斗はそう言って、ため息をついた。
「あ、真斗。これ。」
そう言って、玲が参考書を真斗に渡した。
「かしてくれてありがとうな。」
玲がそう言うと、真斗はうなずいて笑った。
「俺もここはいるからさ。なんか分からないことがあったら言えよ。」
真斗はそう言って、ベッドの隣にある机の上に参考書をおいた。
「どこに入るの?」
「ん?あぁ、幸門【さちもん】大学。俺は経営学部。玲は文学部。」
優美子の質問に、真斗が答えた。すると、朝美がニコッと笑った。
「大学一緒だよ。私は音楽学部で、優美子は教育学部。」
朝美がそう言うと、四人で笑った。
「じゃあ、大学も一緒だな。でも、受かるかな。」
玲がそう言うと、真斗が笑った。
「心配するな。俺が教えてやる。」
真斗はそう言って、起き上がった。
「あ、玲。塾はまだいいのか?」
真斗が時計を見て言うと、玲も時計を見て、
「うわ、ヤバイ。じゃあ、また明日。」
そう言って、玲は部屋を出た。
「私も帰るね。優美子はどうする?」
「私?どうしよう。」
「ここにいろよ。まだ時間があればの話だけど。」
真斗がそう言うと、優美子は真斗を見てうなずいた。
「じゃあ、もうちょっとここにいるよ。」
優美子がそう言うと、朝美は笑って部屋を出た。