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追放された偽聖女、この低スペックで異世界サバイバルは即死案件です  作者: ペクチン21字


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第9話:どん底の蜘蛛の糸、あるいは新たなマテリアル

「ハァ、ハァ……。流石にここまで来れば、追っては来られない、はず……」

何本もの薄暗い路地をジグザグに駆け抜け、私は完全にスラムの深部へと足を踏み入れていた。

背後を振り返っても、あの金属的な鎧の擦れる音や、プロの追跡者特有の鋭い足音は聞こえない。どうやら、市場での「銅貨ばらまき作戦」による足止めは完全に功を奏したようだ。

しかし、一時の安全と引き換えに失ったものはあまりにも大きかった。

私は泥壁にぐったりと体重を預け、息を整えながら、手元に残った全財産を数え直した。

「……銀貨4枚と、銅貨が6枚」

じゃらりと虚しい音を立てる革袋。もやしビジネスが軌道に乗りかけ、せっかく貯まり始めていた軍資金の大部分を、あの数分間の逃走劇で失ってしまった。

さらに最悪なのは、私の生存戦略の核であった「もやし」の仕入れルートが、教会の買い占めによって完全に封鎖されたことだ。

生産拠点だった物置小屋も放棄せざるを得ず、私は文字通り、着の身着のままで再びこのスラムのどん底へと叩き落とされた。

「さて……どうする、私。もやしがダメなら、別の何かで打って出るしかないけど……」

フードを深く被り直し、じっと自分の右手の指先を見つめる。

私の能力は、対象の時間を進め、生命力を無理やり活性化させる「ポンコツ治癒術」。人間相手に使えば凄まじい倦怠感に襲われるが、植物の『発芽』レベルであれば、ほんの少しの消費で一瞬にして成長を促すことができる。

条件は、元手が安く手に入ること。そして、日光の届かないこのスラムの暗闇でも問題なく育つこと。

緑の豆に代わる、何か新しい素材はないか。

オタク特有の雑学データベースを脳内でフル回転させながら、私はさらにスラムの奥へと歩を進めた。

平民街に近いエリアとは違い、この深部は本当に酷い。道端にはゴミや排泄物が放置され、まともな食べ物はおろか、植物の影すら見当たらない――。

「……ん? 待って。植物はないけど……これなら、あるんじゃない?」

私の目が、ある湿った路地の隅、打ち捨てられた腐木と泥の境界線に釘付けになった。

そこには、光を嫌うようにしてひっそりと群生している、どす黒い「キノコ」の姿があった。

「――そうだ、キノコだわ……!」

脳内で、パズルのピースがカチリと音を立てて噛み合った。

キノコ栽培。これこそ、もやしに続く、いや、もやし以上にこのスラムという環境に適した最強のダークホースビジネスだ。

キノコは光合成を必要としないため、日光は一切不要。むしろ、このジメジメとしたスラムの暗がりこそが最高の栽培環境になる。

しかも、もやしのように「乾燥豆」という真っ当な市場の流通品に頼る必要がない。その辺に転がっている腐りかけた原木や、捨てられた藁、あるいは家畜の糞を混ぜた堆肥など、このスラムで「タダ同然で手に入るゴミ」をそのまま菌床にできるのだ。

「問題は、この世界の人たちがキノコを食べるかどうか、だけど……」

前世の記憶を掘り起こす。この国の平民たちは、森で採れる一部のキノコをスープの出汁や具材として珍重している。だが、毒キノコとの判別が難しいため、市場に出回る量は少なく、価格もやや高めだ。

もし私が、確実に安全で美味しい高級キノコを、このスラムの暗闇で大量生産できたら――?

「教会の買い占めが届かない『ゴミ』を原価にして、もやし以上の利益率を叩き出せる……!」

絶望のどん底から、一筋の蜘蛛の糸が見えた気がした。

あとは、栽培のベースとなる「優秀な食用キノコの胞子」をどうやって安全に手に入れるかだ。その辺に生えている野生のキノコは、流石に知識のない私では毒の有無が判別できない。

私は軍資金の入った革袋を握り締め、まずはスラムの住人たちが集まる、一軒の怪しげな酒場の扉へと向かった。

情報と、最初の『種菌』を仕入れるために。最弱のサバイバルは、ここから第2ステージへ突入す

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