2話 クリエイトブックの精霊
ゴブリンを倒したあと。
森の中には静寂が戻っていた。
「……マジで倒したのか」
自分でも信じられない。
俺は剣を見つめ、それから空中に浮かぶ本を見る。
クリエイトブック。
俺が書いたことが現実になる本。
「……とんでもない能力じゃないか」
そう呟いた瞬間。
本がふわりと光った。
「ん?」
ページが勝手にめくれていく。
パラ……パラ……
すると突然、ページの真ん中に光が集まった。
「え?」
その光はどんどん大きくなり――
ポンッ
小さな女の子が飛び出した。
「ふぅー!やっと出られた!」
「……は?」
空中に浮いているのは、小さな少女。
手のひらサイズ。
背中には透明な羽。
まるで妖精みたいだ。
少女は腕を組みながら俺を見た。
「あなたが新しい作者?」
「作者?」
「うん。この本の持ち主」
少女は、俺の目の前まで飛んでくる。
そしてじっと顔を覗き込んだ。
「ふーん……普通ね」
「いきなり失礼だな!」
俺が思わず言い返すと、少女は笑った。
「私はリリィ」
「クリエイトブックの精霊よ」
「精霊!?」
「そう。まあ簡単に言うと、この本の管理人みたいなものね」
リリィは空中でくるりと回った。
「あなたが“クリエイトブック”って唱えたから、この本が現れたの」
「そしてあなたが――」
リリィはニヤリと笑う。
「新しい作者ってわけ」
俺はまだ理解が追いつかない。
「新しいってことは……前にもいたのか?」
「いたわよ」
リリィはあっさり言った。
「ずーっと昔にね」
「その人がこの世界の物語をいっぱい作ったの」
「国とか、勇者とか、魔王とか」
「……」
それってつまり。
この世界の歴史は――
誰かが書いた物語?
「でもね」
リリィは肩をすくめた。
「その作者、いなくなっちゃったの」
「だからこの本は、新しい作者を待ってたのよ」
そしてリリィは俺を指差す。
「それがあなた」
「神谷ユウ」
「……なんで名前知ってるんだよ」
「本に書いてあるから」
リリィはクリエイトブックをポンポン叩いた。
俺は少し考えてから言う。
「つまり俺は、この世界で物語を書けるってことか」
「そういうこと」
「……」
しばらく沈黙。
そして俺は言った。
「じゃあさ」
「俺、戦うのは嫌なんだけど」
リリィは目を瞬く。
「は?」
「平和に暮らしたい」
「のんびり生活したい」
「スローライフってやつ」
「……」
リリィは数秒黙ったあと。
「作者のくせに地味ね」
「ほっとけ」
俺は近くの空き地を見る。
森の中の、少し開けた場所。
「でも、この本があるなら」
俺はペンを取り出した。
クリエイトブックのページを開く。
「まずは――」
カリカリカリ。
『この場所に、小さな木の家が建つ』
書いた瞬間。
ページが光る。
そして。
ゴゴゴゴ……
地面が揺れた。
木材が現れ。
柱が立ち。
屋根ができる。
数秒後。
そこには――
一軒の家が建っていた。
「……」
「……」
俺とリリィは同時に言う。
「「すご……」」
リリィは俺の肩にちょこんと座る。
「ねえ」
「なに?」
「これ、面白いかも」
「だろ?」
俺は家を見ながら笑った。
「ここから町を作る」
「町?」
「人も増やす」
「へえ」
「最終的には」
俺は空を見上げる。
「国を作る」
リリィはニヤリと笑った。
「いいじゃない」
「作者っぽくなってきたわね」
こうして。
売れない作家志望だった俺の――
異世界スローライフ創作生活が始まった。




