108 歓迎会
三人で町の食堂に入り、昼食を済ませる。
今、セラスト衣服店にやってきていた。生活するためにはどうしても何着かの着替えが必要で。
天井の高い木製の材質で囲まれた室内。服を着せたハンガーラックがいくつも並んでいる。
エヴリルとシノが手をつないでレディースを物色している。ずいぶんと楽しんでいるようで、キャッキャと声を上げてはしゃいでいた。おいおい、もう少しは静かにな。
女の買い物は長い。もう一時間も待っているってのに、まだ買う服を決めないんだからな。エヴリルは何度も試着をしているようだ。そのピンクの髪色の女が服を着たところを見て見てと言うので、俺は何度も眺めては感想述べた。
その全てがロリータ服である。
まあこいつは素が良いから何を着ても似合うよな。
と言うか、そろそろ買う物を選んでくれ。これからまだ布団など家具も買いにいかなきゃいけない。
カウンターの横で俺は待っていた。
本当長え。
……約三十分後。
やがて買い物カゴに三着の服とパジャマと下着のセットを入れた少女二人が歩いてくる。満足そうな笑みを唇の端に笑みをたたえている。シノも頬にエクボを浮かべており、嬉しそうな雰囲気が漂っていた。
よく見ると、シノの左目の下に泣きぼくろがある。それを発見して俺はちょっとテンションが上がった。可愛いポイント発見!
エヴリルとシノがカウンターの上に買い物カゴをどさっと置く。
「全部可愛い服にしたわ」
「そうなのか、ふ」
「何よ、その言葉尻の笑いは」
「いや、何でも無い」
「気になるわね」
店員が服をたたんで金額の計算を始める。
その一つ一つを見て俺はびっくりした。
「おいお前たちの服、全部ミニスカートじゃないか?」
「スカートよ? 何か悪いの?」
「スカートです」
シノが頬を染めて控えめに笑う。いやいやいや、お前たちは戦うんだから、もう少し機能性を重視した服があるだろうに。ジーンズとかさ。それを言うと、
「そんなダサいズボン着られないわ」
「可愛いのが良いです」
「いや、まあお前たちが良いのなら良いけどさ」
「ふふん、ありがたく思うことね。あたしたちという女がいることで、スティフと言う男のむさ苦しさが緩和されているんだからね」
「スティフ様、良かったですね」
「お前たちは金づるという点で嬉しいわ」
「シノ、この男は幼女趣味だから気をつけるのよ」
「幼女趣味ってなんですか?」
「変態のことよ」
「へ、変態!?」
シノの顔がびくっとして身じろぎする。恐る恐る俺を見上げた。不安そうに揺れている瞳。いやいやいや、
「子供好きと幼女趣味の間に隔たりが無いのであれば、世界の大半の人間が変態ということになるからな!」
「銀貨1枚と大銅貨4枚になります」
ちょうど良いところでおばさんの女性店員が合いの手を、じゃなくて値段の合計を告げる。案外安いんだな。結構な量があると思うんだが。
銭袋を取り出して、俺は支払いを済ませた。だけど、ああ、度重なる出費で銭袋がだいぶ軽くなっちまった。
エヴリルとシノは服をステータス画面にしまった。こいつらはほくほく顔である。本当、服を大事に着てくれよ。
その後、家具店に寄って二人分の布団と調度品、食器などを買う。装備屋にもまた行った。手頃な値段の木の杖をシノに買い与える。
最後、食材屋に寄って家に帰った。もちろんというか何というか、エヴリルが所望した魚を買ってやった。赤身魚と白身魚の両方である。ありがたく思うが良い。
今日は二人の歓迎会を兼ねてちり鍋にすることにしよう。美味しく作らないといけないな。他にもハツナ草のおひたしと刺身を作ることにする。三角のショートケーキも三つ買った。
アパートに戻ってくる。昨日まで倉庫となっていた部屋にエヴリルとシノを案内してやった。エヴリルが嬉しそうにはしゃいで走り回っている。女たちには部屋に調度品を並べる役目を言い渡した。こいつらの配置センスに期待である。
さて、ここからは本気だ。
キッチンで料理を始める。とりあえずご飯を炊く。
包丁で魚の鱗を除去。はらわたと骨を取って、食べやすい大きさに切る。エビの殻をむいて背わたを取る。白菜をざく切り、長ネギをななめ切り。キノコも買ってきていた。ちなみにこの町に豆腐はない。
水と昆布を入れた鍋を火のついた焜炉にかける。沸騰直前に昆布をはらった。煮えにくい材料から鍋に入れていく。煮えたところで火を止めて俺特性の味噌を溶かして入れた。これを入れると凄くコクが出るんだよな。塩をふって味を調整。スープを味見してみた。マジ美味い。やべえ俺は天才か? ふはは。
バギルという名の赤身魚を刺身にしていく。これ値段が高いんだけど、とろけるような味わいがする。同時にハツナ草をちり鍋とは別の鍋で煮た。
さて、そろそろ完成である。窓から外を見ると、夕日が落ちていくところだった。ああ、綺麗なもんだな。今日も一日が終わった。お疲れさん俺。
買ってきてあった椅子をステータス画面から取り出し、テーブルに設置する。シノの分である。
ふと、奥の部屋で悲鳴が上がった。
「い、嫌ですぅぅぅぅ」
「あれっ、出ないの!? 何でだろ、こんなにおっきなオッパイなのに」
「おい、どうした?」
キッチンを歩き、二人の部屋の扉を空ける。そこでぶったまげた。体を拭いて着替えたようで、エヴリルがピンク色のパジャマに身をつつんでいる。シノはまだ下着姿だった。そしてピンクパジャマの少女がシノの大きな胸に口をつけて一生懸命吸っている。馬鹿かお前! 笑わせんじゃねー。
俺は静かに叱った。
「エヴリル、やめろ」
「何でよ! 母乳が出ると思うのよね」
「おいエヴリル。もう一度言うぞ、やめろ」
「な、何よっ。真剣に怒っちゃって、大人げなくない?」
「はうあうあうあう……」
シノは両手のひらを顔に当てて恥ずかしがっている。俺はため息をついた。こいつら、部屋離そうかな。とは言え2ルームしか無い。男の俺と寝かせるのは色々と問題があった。おもに俺が過ごしにくいという点で。
「二人とも。メシが出来たから、キッチンに来るように」
「はーい」
「は、はい」
扉を閉めて台所へと戻る。ハツナ草を水でしぼって食べやすい大きさに切った。サマス節をかけて酸味のある甘塩っぱい調味料をかける。よしよし、あの二人にはちゃんと野菜も食わせないとな。
料理とケーキをテーブルに並べ終える頃には三人が着席していた。エヴリルが「いただきます」を言ってフォークを持つ。ケーキを割って口に運んだ。満面の笑顔で左手のひらを頬に当てる。ふにゃっと目尻を緩めた。
「うーんっ」
これだからガキは可愛い。
「私も食べて良いでしょうか?」
「ああ、いいぞ。どんどん食え、鍋はいっぱいあるからな」
フォークでバキルの刺身を俺は突き刺す。薬味入りのソースにつけて口の中へ。ああ、とろけるような味わいだ。まろやかである。
「では、いただきます」
シノがフォークでハツナ草のおひたしを口に運んだ。そして目をパチクリさせる。
こいつは今まで卵の中にいたせいで、メシを食う機会が無かったんだよな。どんな料理を食べても新鮮な味わいがするはずである。というかどうして言語を喋れるんだろうな。それを聞くとシノは首をかしげた。
「喋れると変ですか?」
「あたしたちは魔力で自分の思いを言葉に変換できるのよ」
エヴリルが答えてくれた。ううむ、不思議である。
その女がちり鍋のスープをじゅるじゅるとすする。そしてキュートな八重歯を浮かべた。大口を開けて笑みをたたえている。こいつはすぐ顔に出る。
「スティフって、料理だけは上手なのよね」
「スティフ様、お野菜が美味しいです!」
「だけって何だ? まあ、これでも元プロだからな」
「シノ、その、様って言うのやめない?」
「え? スティフ様の様ですか?」
「うん。こいつはスティフで良いわ」
「で、でも~」
「でもじゃないわ。こいつはスティフなの。良い?」
シノが上目遣いで俺を見る。確かにな、様付けで呼ばれるのは背中がくすぐったい。呼び捨てで呼んでくれれば俺としても嬉しかった。シノはメイドじゃないんだから。
「そうだな」
「では! スティフにします」
「そうよ。ちなみにシノは精霊族みたいだけれど、どんなスキルを覚えているの?」
「え? スキル、って何ですかぁ?」
まずそこから説明しなきゃいけないのか。
エヴリルが料理を楽しみながら、シノにステータス画面の説明をしていく。俺は立ち上がり、部屋の隅から安いワインの酒瓶を取ってきた。コップについで晩酌を始める。
よっしゃあ、今日は飲むぜ。
「ふーん、シノはアクアヒールと水弾を覚えているわね」
「どんなスキルですか?」
「スキル欄を読みなさいよ。ほら、書いてあるじゃない」
「あ、はい」
「呪文はちゃんと暗記しなきゃダメよ」
「は、はい!」
何か話し合っている。楽しいな。女の子二人が家に来てくれて、雰囲気がずいぶんと華やかになっていた。さっきのエヴリルの言葉がまさにである。
今日は良い夢が見られそうだ。




