107 シノ
魔獣ギルド。
そこは赤茶色のレンガ張りの建物だった。結構でかい。三角屋根のてっぺんには小さな赤いドラゴンの像が乗っかっている。その見た目ははっきり言ってダサい。あのちっちゃな竜の像、意味なくね? デザインしたの誰だよ本当。センスを疑うわ。
エヴリルと俺は玄関から入って行った。中はガラーンとしていた。あんまり人気が無い。まあこれは仕方無いことなんだろうな。だって、ビーストテイマーなんて職業は50ほどあるジョブの中の一つだからだ。つまり冒険者の中でも50人に一人しか需要が無いっていうこと。
それなのにギルドがあるんだから、ビーストテイマーは優遇されているというか何というか。まあ優遇というよりも、卵を保管して育ててテイマーに引き渡すという点で必要性が高いんだろうな。
エヴリルはどうしてか顔をしかめている。あんまり乗り気じゃないようだ。
「仲間なんて必要無いよ。従者はあたし一人で良くない?」
「お前、さっきキングスライムに押しつぶされておいて良く言うよな」
「あれは油断したのよ!」
「これからも油断することがあるだろうな」
「何よ……これじゃ独占できないじゃない」
「何だって?」
「何でも無い!」
ピンク色の髪の女の子は下唇を突き出してふてくされている。一体何が不満なんだ? 仲間が増えるって言ったら、普通に考えて嬉しいだろうに。よく分かんね、これが乙女心って奴だろうか? 世界三大謎の一つである。知らんけど。
灰色コンクリートの床を歩き、カウンターに近寄る。利発そうなメガネをかけた受付係の女性に話しかけた。
「こんにちは」
「はい、こんにちは!」
「あの、俺はビーストテイマーなんだが、魔獣が一人欲しいんだけど」
「あ! それなら今、ちょうど一人生まれそうなんです。引き取って行かれますか?」
「生まれそう? マジっすか。いや、実は俺は……」
魔法使いジョブの魔獣が欲しい旨を俺は話して聞かせた。エヴリルは前衛火力なので、できれば後衛火力が必要なところ。バランスを考えれば普通そうだ。回復魔法も使えれば一番良い。ホイ○でもケア○でも良いからさ。
メガネをかけた賢そうな顔の女性は笑顔で両手のひらを合わせる。
「それなら大丈夫です! これから生まれてくる卵からは魔法使いの波動が出ているということなので、可能性は高いかと」
「波動? まあ、それなら良いんだけれど」
「では、こっちに来てください」
「あ、ああ」
女性受付係に案内されて、タマゴ孵化所に入る。そこには鳥の巣のような木の枝やワラで出来た地面の上に、タンスぐらいのサイズの大きな緑色の卵が乗っかっていた。
それにしてもデカいな。ひび割れてきており、今まさに中の生命体が外に出ようとしている。おいおい生々しいな。エイリアンが出て来たりしてな。うはは。
室内には男性役員が一人いて、タマゴを見張っていた。両腕を胸に組んでいる。入って来た三人を見ると、嬉しそうに頬をつり上げた。
「おい、生まれるぞ!」
「本当ですか?」
メガネの女性受付係は目尻を緩めて、タマゴを観察した。エヴリルが物怖じせずに近づいて、タマゴの腹に右手のひらをぺたんと置く。
「卵が暖かいわ!」
「おい、エヴリルお前、触っちゃダメだろ」
「すごい、スティフ、すごいわ! 振動しているの!」
「おいおい」
喜色満面のエヴリルである。全く、さきほどの不機嫌はどこへやらだ。女心と秋の空。
その場にいる四人とも興奮していた。生命の誕生に立ち会える機会など中々ない。鮮烈な気持ちが胸に宿る。
ピキンッ。
卵に一気にヒビが入ったかと思うと、大きく割れた。硬そうな殼の中にいたのは、やけに胸の大きなエヴリルと同じぐらいの背丈の少女。エメラルドグリーンの長い髪と双眸。雪のように白い肌。たれ目であり、鼻と唇はちょこんと小さい。控えめ美人だ。
裸なのでちょっと15禁的な雰囲気が周囲に漂う。というかエロいな。誕生した女の子に対して褒め言葉な意味で!
「生まれた!」
「生まれましたね!」
男女の従業員の二人がカゴに準備されてあったバスタオルを持って、女の子のヌメッとした体を拭いてあげた。翡翠色の髪の少女はきょどったような声を上げる。
「ワワワワワッ」
エヴリルがこちらを向いて素敵な笑顔を浮かべた。両手のひらをグーに握っており掲げている。
「すごい! すごいわっ、スティフ、生まれたわ!」
「ああ、そうだな」
「すごーい!」
「ふふふ」
両腕を胸に組んで俺は緑髪の少女を眺めた。従業員の女性が下着に服を着せてあげている。靴も履かせるようだ。白いワンピースが良く似合っていた。エヴリルに勝るとも劣らない美少女である。そしてただ一点だけ言えば大差で勝利していた。胸のサイズである。
エヴリルはまな板だからな。
誕生した女の子は魔法を使えるようであった。それは俺の希望と合致していて、快く引き取ることにした。
そこからは手続きである。小面倒くさい書面に住所やら名前やらを書いて、サインと捺印する。一石二鳥なのでエヴリルとの魔獣契約書も取り交わした。
エヴリルは顔を赤らめて両手を腰に当てる。
「貴方の従者になってやるんだから、光栄に思いなさいよね。ふんっ」
「お前こそ、俺の従者になれて良かったな」
「今日はお魚が食べたいわ。昨日はお肉だったから」
「魚の目玉料理を作ってやる」
「そ、そんなー!」
黒い翼に尻尾の女の子が両手のひらを頭に当ててガビーンな表現する。見た目的には育ち盛りだよな。というかこいつ何才なんだろうな? まあ、聞く必要は無いだろう。何才だろうとお前は俺の魔獣だ。そこは不変である。
手続きをする際、引き取る女の子に名前をつける必要があった。名前……名前ねえ、名前。翡翠色の髪に尋ねる。
「なあ、お前は俺のまじゅ、家族になる訳なんだが、自分の名前を決められるか?」
「お名前ですか? では! ミミズで」
「いや、ミミズはまずいな。他のにしてくれるか?」
「では! カマキリとお呼びください」
「カマキリも却下だ!」
こいつネーミングセンス無ーのな。というか思いつく名前が俺の故郷の虫と同じ名前ってどういうことよ。せめてアゲハチョウのアゲハならまだ及第点をあげられる所なんだが。
エヴリルが割って入った。白いワンピースの肩にポンと手を置く。
「貴方は、シノ!」
「シノ? ですか?」
「うん! 良い響きだと思わない?」
「シノ、シノ、シノ、はい! 私はシノです」
「オッケー! 決まりね!」
赤黒ロリータ服がシノの長い髪をくしゃくしゃとかき回す。シノは笑顔が得意なようでくすぐったそうに笑った。控えめな雰囲気をかもしており、家庭的な感じ。だけどお前の仕事はダンジョンモンスター退治なんだよな。強ければいいのだが。
精霊族ということだった。属性は水である。
ちなみに、シノを引き取る際の値段は銀貨五枚であった。思ったよりも安い。彼女とも魔獣契約を取り交わし、そして俺たちはビーストギルドを出た。
とりあえず昼食時なので三人で大衆食堂へと行く。ああ、金が飛んでいく。俺の財布、持つかなあ。心配である。
明日はモンスターの魔石を剥ぎ取るぐらいに頑張らなきゃいけないよな。




