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106 キングスライム

 スライムたちがくっついて合体して行く。



 溶けて混ざり合い、そいつらは一つの大きなモンスターを形作りやがった。おい、マジかよ。これってアレだよな、キングスライムってやつ。



 のっぺりとしたふてぶてしい面構え。口の端が良い感じにつり上がっていてこちらを嘲るように笑っている。ように見える。ちょっとムカ。



「ぼにょーんっ!」



 恐ろしいのか気怠げなんだかよく分からん声を響かせている。というかこいつボスなんだよな? だとしたらずいぶんとふざけたボスもいたもんだ。微笑みながら人間に襲いかかるキングスライムってマジねーわ。



「おい、エヴリル、倒せるか?」


「任せなさいよ! こんなキングスライム、あたしの剣で一撃なんだから」



 ピンク色の髪が走り出した。黒い柄のショートソードを両手に構え。巨大な青いスライム状に向けて上段斬りを繰り出す。だけど弾力にはじきかえされた。



 ポニョンッ。



 おいエヴリル。剣の刃が通らねーぞ。啖呵切って飛び出したくせに格好悪いな。いやでもお前が頼みの綱なんだから何とかしてくれ! 負けたら俺は脱兎のごとく後方に全力疾走するしかねーんだからな。マジでさ。



「くっ、このっ、どうして弾き返されるのよ!」



 黒い翼に尻尾の女が水色の肌を剣で何度も叩く。



 ポニョンッ、ボニョンッ、ボンッ!



「ムカッ! 貴方ねえ、体が硬すぎなのよ! ふざけるんじゃないわ!」


「ポニョポニョッ」


「いま笑ったわね! 私を笑うな!」



 ボンッ、ボニョッ、ボンッ。



 やべっ、エヴリルの剣が全然効いてない。こりゃあ逃げるしかねーか? というかダンジョン地下一階にして詰むってどういうことよ。死穴あなどることなかれ。ああやばい、逃走するしか無いような気がしてきた。ど、どうしよう。



 ちっ、長居して彼女が大怪我でもしたらそれこそだ。こういう時は一瞬の判断が生死を分ける。



「エヴリル、逃げるぞ!」


「ま、待ちなさいよ! こんなデカブツ、あたしが倒してやるんだから。くそう、前はこんなボスいなかったのに!」



 ボニョンッ、ボンッ、ボンッ。



 赤黒のロリータ服はキングスライムを斬り続けるのだが、一向に成果が上がる様子はなくて。キングスライム、こいつどうしたら良いんだ? 魔法使いの魔法で切り抜けるパターンだろうか? それともエヴリルのSTRを増強してまた戻ってくればいいのか? うん! 分かんね。



 キングスライムがついに反撃に身を乗り出した。その場で大きくジャンプする。



「ボンヨーンッ!」


「キャアアアアッ!」



 ボーンッ。



 巨大な水色スライム状生物に押しつぶされるエヴリルたん。さようなら、お前はちょっと可愛い少女だったよ。だけど死ぬなんて情けないな。死んだ者は二度と生き返ることはない。それが森羅万象(しんらばんしょう)()である。と言うわけで、あばよ!



 俺は後ろを振り向いて逃げ出した。いや、正確に言えば逃げだそうとした。だけど悲しいかな、背後にもう一匹、同じキングスライムがいたんですよ。マジっすか? 俺たち、いつの間にか挟み撃ちにされてるじゃん。



 くそう、こうなったらやってやる。俺のムチをくらえってんだ! これでもこの一年間、必死に腕立て伏せをしてなけなしのSTR(腕力)を鍛えたんだからな。



 逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。そうだ、逃げちゃダメだ。そうですよね、シン○様。



「これでも、くらえー!(マジン○ーZのパイロット風)」



 ボニョンッ。



 はい! 弾き返されました! 俺のムチはキングスライムに効かなかったようです。おかげさまでマジピンチって奴。逃げ道は無いっすね。はい、俺の人生詰みました。マジぴえん。



 一陣の風が吹いた。



「――鳳凰剣舞(ほうおうけんぶ)


今宵(こよい)は花見酒。王子様、愚女(ぐじょ)と踊っていただけますか?」



 ……呪文詠唱か? しかもエヴリルの声だ!



 瞬間だった。じめじめとした通路に三つの炎の斬撃が吹き荒れる。二体のキングスライムの体をそれらがぶった切って破壊した。



「「ぼりゅーんっ!」」



 地下一階のボス二体が情けない断末魔を上げる。水色の肉塊と化したスライム状の欠片が通路に転がった。エヴリルが歩いてきてしかめっ面をしている。口のへの字に曲げてキュートな八重歯を覗かせた。左手を腰にびしっと当てる。



「言ったでしょ! こんな奴ら、あたしの剣技にかかれば一撃の余裕なんだから!」


「お、おお、おう、お前。どうした?」


「どうしたもこうしたもなーい! あいつに一回踏まれたせいで、服が汚れちゃったじゃないの! ぷんぷんっ」


「そ、そうか。お前、強かったんだな」



 おそるおそる手を伸ばしてそのピンク色の髪を撫でてやる。エヴリルはふにゃっと目尻をゆるめて笑顔を浮かべた。その顔はヒナゲシのように可愛い。



「えへへ、あたしは強いんだから」


「あ、ああ。そうみたいだな。だけど、とりあえず今日のところは帰るぞ?」


「何でよ! まだ地下一階じゃない。どんどん下へ行くわよ!」


「お前、だ、大丈夫か?」


「大丈夫も何も、大丈夫だよ」



 俺は表情が強ばって仕方無かった。だけどまあ、何とか死線をくぐり抜けることができたようだ。ああ、神様マジサンクス。っていうかエヴリル、お前、最初っからその技出せよな。えっと、鳳凰剣舞って言ったっけ?



「じゃ、じゃあ、あと一階だけ潜ってみるか?」


「当たり前じゃない! 行くわよ、スティフ!」


「お、おう!」



 そして俺たちは通路の先へと歩いて行く。階段を見つけて下ったのだった。



 ちなみに次の階に出てくるモンスターはブラッキーというコウモリのモンスターであり、あまり強く無い。エヴリルが次々に追いかけて倒してくれた。



 ああこいつマジ強えわ。だけどこれ以上先に進むんならもう一人ぐらい戦力を確保した方が良いのは間違い無い。今の状況、お前が無力化されたら終わりだからな。という訳で帰宅する俺たちであった。



 ちなみにお前は俺の魔獣決定な。絶対逃がさねーぞ。



 進行度、地下二階。



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