104 装備屋
朝食後、バルクレイツの装備屋に来ていた。
もちろんこれからダンジョンに行くのである。エヴリルは丸腰なので、戦うための武器と防具が必要であった。
主従関係はまだ交わしていない。だからエヴリルの顔には、なんで? と書かれてあった。武器を買ってくれようとしている意図が分からないのだろう。こいつ馬鹿なの? と思っているかもしれない。失礼な。
俺だって、契約書も無しにエヴリルを従えたと思っている訳じゃない。ただ、彼女を従者にするのであればダンジョンに潜って実際戦わせてみる必要があった。
モンスターと戦った際、実質的に機能するのか。つまり、強いかどうかを調べる必要がある。強かったとしてもびびって逃げ出すようなか弱い心臓でも困る。
そんな訳で武器を買い与えるのだった。のだから、まあありがたく思ってくれ。武器はマジで高価な代物であり、お前のかつての全財産(銅貨三枚)じゃ矢の一本も買えやしないんだからな。
俺はその直方体の室内を歩き回って装備を物色していた。どこぞの騎士団員が戦争につけていくようなプレートメイルまで売っている。こんなの重すぎてさすがに着られない。
というか着たら町民に笑われるだろうな。「こんにちは、お昼は戦争ですか?」なんてジョークが飛んできたりしてな。
いくつもの剣が刺さってある円形の箱の前で、ピンク髪の小学せ、魔人は瞳を光らせていた。一つ一つ剣を持って、刃を見つめる目つきは細まっている。やけに剣の似合う少女であった。
近づいて、その様子を俺は観察する。
「エヴリル、お前は剣を使うのか?」
「そうよ。あたしは近接火力なの! ちなみに属性は火よ」
「ふーん、剣術は習ったことあるのか?」
「剣術ぅ? 習ったこと無いわねぇ。でも、我流で充分だもんっ」
「そうか。じゃあ、まあ好きな剣を一本だけ選んでくれ」
「どうして買ってくれるの? あたしは貴方の従者じゃないのに」
魔獣ではなく従者という言葉を使うところからして、魔獣という言葉が好きでは無いようだ。理由は分からんけど。まあそんなことはどうでも良い。
「うん? お前の強さを確かめようと思ってな」
「あたしから立ち上るオーラで分からないっていうの?」
「全く分からんな」
「これだから田舎もんは困るわね。失礼しちゃうわ」
「育ちは関係なくないか?」
「ありありよ」
エヴリルは柄の黒いショートソードを選んだようだ。それを両手に持つ。
まあ、彼女の身長145セロメルぐらいであるからして、ロングソードは扱えないか。俺は失礼なことに笑いがこみ上げそうになってそれを飲み込む。
「貴方、いま、もの凄く失礼なこと考えなかったかしら?」
「は? 何も?」
「……邪悪な気配を感じたんですけど」
「邪悪も何も、俺は清廉潔白だ」
「あたしをチビだと思ったでしょ。後でひどいわよ」
「大丈夫だ。女の子はチビの方が可愛いからな」
「今度は悪寒がしたわっ」
彼女が両手で肩を抱きしめて、ぶるぶると震える仕草をする。俺のことをちょっと気味悪がっていた。あれ、俺なんか変なこと言ったか?
「身の危険を感じるわ」
「お前、安心しろ。俺は子どもが大好きなだけだ」
「ひ、ひいっ! ついに本音を薄情したわね! この幼女趣味!」
「幼女趣味も何も、子どもを見ていると不思議と和むんだよな。心がさ」
「……はぁー、何かパパが出来た気分」
「それよりお前、防具は良いのか? 盾とかさ」
「要らない。重いもの。剣だけで充分よ」
「そりゃあそうだよな、女の子だし」
「大体、私には翼があるから、特注の防具でも無いと着られないわ。盾も要らない」
「なるほどな」
俺たちは装備屋のカウンターに行った。笑顔が素敵なお兄さんから黒のショートソードを買う。金貨二枚と銀貨数枚の値段がした。マジ高えなおい。分かっちゃいたけどさ。
「それじゃあ行こうか」
「これ、プレゼントしてくれるの?」
赤と黒の重ね着ロリータ服が剣の鞘を両手に、頬を赤らめて見上げる。スキップの足取りでありご機嫌な様子だ。
俺は人差し指を立てた。誰が初対面の人間に贈り物をするか。
「くれるんじゃない。剣は仕事道具だ」
「仕事をすればくれるの?」
「仕事の出来映え次第だな」
「ふーん。よーし!」
エヴリルは勇敢そうに意気込む。自信に満ちた様子だ。その様子は頼もしいのだけれども、実際に戦闘を見るまでは気を抜けない。
というか一緒に仕事をしてくれるんだなお前。というセリフは言わんでおこう。機嫌を損ねないようにしないとな。これから仕事なのだから。
俺たちは装備屋を出て、死穴と呼ばれるダンジョンの入り口へと向かって歩いた。
死穴なんて呼ばれているけれど、ダンジョンは町の人々にとっての収入源である。魔石や魔鉱石、美食(モンスターの肉)、名実ともに認められる、を求める冒険者たちにとっては夢の舞台だ。




